こてんこてん蔵庫2
(→蔵庫1(文法用語・用言) 蔵庫3(助詞) 蔵庫4(敬語) 蔵庫5(問題集) )
【き】 ***************************************************************************
<意味>過去。特に、登場人物や話し手が実際に体験した過去を表す。
<訳し方>「〜た」(例・かく語りき。→このように語った。)
<接続>活用語の連用形に続いて用いられる。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分が活用語の連用形)
<活用>下記の通り。連用形と命令形はない。特殊な変化をする。
未然形→せ・・・・・(例・世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし)
連用形→○
終止形→き・・・・・(例・ほとりに松もありき。)
連体形→し・・・・・(例・昔ありし家はまれなり。)
已然形→しか・・・(例・かくおびただしく振ることはしばしにて止みにしかども・・・)
命令形→○
<判別上の問題>未然形と連体形は他の語との区別に注意が必要。
詳細は【「し」の判別】【「せ」の判別】を参照。
【けり】 **************************************************************************
<意味>@過去。主に地の文で用いられる。
A詠嘆。主に和歌や会話文で使われ、詠み手や話し手の感嘆を表す。
<訳し方>@「〜た」 (例・かかる例ありけり。→このような例があった。)
A「〜だなあ」(例・千代経たる松にはあれど古への声の寒さは変はらざりけり
→千年もの長い歳月を経た松だが心に染み入るような松風の音
は昔と変わらないものだなあ)
<接続>活用語の連用形に続いて用いられる。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分が活用語の連用形)
<活用>下記の通り。ラ行変格動詞の各活用形の頭に「け」をつけたものと考えればよい。
但し、連用形と命令形はない。なお、未然形は上代のみに「けらく」「けらず」の
形に限って用いられ、平安時代以後は終止・連体・已然形のみ活用した。
未然形→けら・・・・・(例・世間の苦しきものにありけらく恋に堪へずて死ぬべく思へば)
連用形→○
終止形→けり・・・・・(例・いかがはせんと惑ひけり。)
連体形→ける・・・・・(例・埋みけるを人の見置きて、御所へ参りたる間に盗めるなりけり。)
已然形→けれ・・・・・(例・息もつまりければ、打ち割らんとすれど、たやすく割れず、)
命令形→○
<判別上の問題>連体形と已然形は他の語との区別に注意が必要。
詳細は【「ける」の判別】【「けれ」の判別】を参照。
【つ】 ****************************************************************************
<意味>@完了。動作がたった今終ってしまった状態を表す。
A強意。後続の助動詞の意味をより強める働きをする。
B並立。二つの動作が並行していることを表す。鎌倉時代以後の用法。
<訳し方>@「〜てしまった」(例・あやまちしつ。→あやまちを犯してしまった。)
A「きっと〜」 (例・盗みもしつべきことなり。
→きっと盗みもするにちがいないのである。)
B「〜たり〜たり」(例・僧都、乗つては降りつ、降りては乗つつ、
→俊寛僧都は船に乗っては降りたり、降りては乗ったりして、)
@は他にも「〜てしまう」「〜た」と訳した場合が文意が通ることも少なくない。
Aも同様に「必ず〜」「絶対に〜」「今にも〜」と訳す場合がある。
いずれにしても、状況・場面に応じて適した訳し方を選択する必要がある。
<接続>活用語の連用形に続いて用いられる。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分が活用語の連用形)
<活用>下記の通り。タ行下二段動詞の活用語尾と全く同じ。
未然形→て・・・・・(例・とまれかうまれ、疾く破りてむ。)
連用形→て・・・・・(例・この枝折りてしかば、さらに心もとなし。)
終止形→つ・・・・・(例・いづ方へか行きつらん。)
連体形→つる・・・ (例・今見れば、かうこそ燃えけれと心得つるなり。)
已然形→つれ・・・(例・すずろに飲ませつれば、うるはしき人も忽ちに狂人となりて・・・)
命令形→てよ・・・ (例・国王の仰せ言を背かば、はや殺し給ひてよかし。)
<判別上の問題>未然形・連用形は他の語との区別に注意が必要。詳細は【「て」の判別】を参照。
【ぬ】 ****************************************************************************
<意味>@完了。動作がたった今終ってしまった状態を表す。
A強意。後続の助動詞の意味をより強める働きをする。
B並立。二つの動作が並行していることを表す。鎌倉時代以後の用法。
<訳し方>@「〜てしまった」(例・日照りて曇りぬ。→日が照るかと思うと、曇ってしまった。)
A「きっと〜」 (例・黒き雲にはかに出で来ぬ。風吹きぬべし。
→黒い雲が急に出てきてしまった。きっと風が吹くに違いない。)
B「〜たり〜たり」(例・泣きぬ笑ひぬぞし給ひける。→泣いたり笑ったりなさった。)
@は他にも「〜てしまう」「〜た」と訳した場合が文意が通ることも少なくない。
Aも同様に「必ず〜」「絶対に〜」「今にも〜」と訳す場合がある。
いずれにしても、状況・場面に応じて適した訳し方を選択する必要がある。
<接続>活用語の連用形に続いて用いられる。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分が活用語の連用形)
<活用>下記の通り。ナ行変格動詞の活用語尾と全く同じ。
未然形→な・・・・・(例・用ありて行きたりとも、そのこと果てなば疾く帰るべし。)
連用形→に・・・・・(例・空は墨をすりたるやうにて、日も暮れにけり。)
終止形→ぬ・・・・・(例・果ては、大きなる枝、心なく折り取りぬ。)
連体形→ぬる・・・ (例・その形だになくなりぬるぞ悲しき。)
已然形→ぬれ・・・(例・そのほど過ぎぬれば、かたちを恥づる心もなく、)
命令形→ね・・・・ (例・住吉の神の導き給ふままに、はや舟出してこの浦を去りね。)
<判別上の問題>下記の活用形は他の語との区別に注意が必要。詳細は下記の各項目
を参照。
未然形→【「な」の判別】【「なむ」の判別】
連用形→【「に」の判別】
終止形→【「ぬ」の判別】
命令形→【「ね」の判別】
【たり】<存続・完了> *************************************************************
<意味>@存続。動作が今なお継続して行われていることを表す。
A完了。動作がたった今終ったことを表す。
<訳し方>@「〜ている」 (例・久しくとどまりたる例なし。→長く同じ姿でとどまっている例はない。)
A「〜てしまった」 (例・公卿の家十六焼けたり。→公卿の家でさえ16軒も焼けてしまった。)
多くは存続で使われ、完了で用いられることは少ない。Aは他にも「〜てしまう」「〜た」
と訳した場合が文意が通ることもあるので、状況や場面に応じて適する訳を選択する必
要がある。
<接続>活用語の連用形に続いて用いられる。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分が活用語の連用形)
<活用>下記の通り。ラ行変格動詞の活用語尾の上に「た」を付け足したものである。
未然形→たら・・・(例・大きなる器に水を入れて細き穴をあけたらんに、)
連用形→たり・・・(例・家に預けたりつる人の心も荒れたるなりけり。)
終止形→たり・・・(例・家の犬、つねに慣れたり。)
連体形→たる・・・(例・寺、社などに忍びて籠りたるもをかし。)
已然形→たれ・・・(例・塵を煙の如く吹き立てたれば、すべて目も見えず。)
命令形→たれ・・・(例・なほ、後ろやすくを思ほしたれ。)
<判別上の問題>全ての活用形で他の語との区別が必要。詳細は
【「たら」の判別】【「たり」の判別】【「たる」の判別】【「たれ」の判別】
を参照。
【り】 ****************************************************************************
<意味>@存続。動作が今なお継続して行われていることを表す。
A完了。動作がたった今終ったことを表す。
<訳し方>@「〜ている」 (例・同じ所に泊れり。→同じ場所にとどまっている。)
A「〜てしまった」 (例・多くの人の嘆きをなせり。
→多くの人々に嘆きの種をつくってしまった。)
多くは存続で使われ、完了で用いられることは少ない。Aは他にも「〜てしまう」「〜た」
と訳した場合が文意が通ることもあるので、状況や場面に応じて適する訳を選択する必
要がある。
<接続>サ行変格動詞の未然形、四段活用動詞の已然形に続く場合に限って用いられる。
他の活用種類の動詞や形容詞・形容動詞・助動詞からは接続しない。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分が四段活用動詞の已然形)
<活用>下記の通り。ラ行変格動詞の活用語尾と全く同じである。
未然形→ら・・・(例・生けらんほどは、武に誇るべからず。)
連用形→り・・・(例・予、物の心を知れりしより、四十余りの春秋を送れる間に・・・)
終止形→り・・・(例・あるいは、露落ちて花残れり。)
連体形→る・・・(例・仏の教へ給へることあり。)
已然形→れ・・・(例・物に襲はるる心地して驚き給へれば、火も消えにけり。)
命令形→れ・・・(例・忘れ貝寄せ来て置けれ。)
<判別上の問題>連体形・已然形は他の語との区別に注意が必要。
詳細は【「る」の判別】【「れ」の判別】を参照。
【ず】 ***************************************************************************
<意味>@打ち消し。命令形以外はすべて打ち消し。
A禁止。命令形に限り禁止の意味になる。
<訳し方>@「〜ない」 (例・日悪しければ、船出ださず。→天候が悪いので船を出さない。)
A「〜な」 (例・心の師とはなるとも、心を師とせざれ。
→心の師とはなっても、心を師とするな。)
<接続>活用語の未然形に続いて用いられる。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分が活用語の未然形)
<活用>下記の通り。3系統ある。
A・ナ行変格パターン・・・未然形・連用形は上代のみの用法である。
未然形→な・・・・(例・宇治間山朝風寒し旅にして衣かすべき妹もあらなくに)
連用形→に・・・・(例・昨日今日君に逢はずて為すすべのたどきを知らに哭のみしそ泣く)
終止形→○
連体形→ぬ・・・・(例・夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし。)
已然形→ね・・・・(例・風浪やまねば、なほ同じ所にあり。)
命令形→○
B・不変パターン
未然形→ず・・・・(例・かかる折だにもその恩を報じ申さずば、何をもつてか報い申さん。)
連用形→ず・・・・(例・ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。)
終止形→ず・・・・(例・十二日。雨降らず。)
連体形→○
已然形→○
命令形→○
C・ラ行変格パターン・・・ラ変動詞の上に「ざ」をつけた形と覚えておく。これは原則として
助動詞につなげる場合に使われる。(例文中の緑文字の部分が助動詞)
未然形→ざら・・・(例・折にふれば何かはあはれならざらん。)
連用形→ざり・・・(例・などて乗り添ひて行かざりつらん。)
終止形→ざり・・・(例・若しやとて承りけれと゛、さもあらざり。)
連体形→ざる・・・(例・死を恐れざるにはあらず。)
已然形→ざれ・・・(例・鳥にあらざれば、その心を知らず。)
命令形→ざれ・・・(例・心の師とはなるとも、心を師とせざれ。)
※なお、終止形の用例はほとんどないので、文法の参考書には「○」となっている場合が多い。
<判別上の問題>Aのナ行変格パターンは他と混同しやすいので要注意。詳細は
【「な」の判別】【「に」の判別】【「ぬ」判別】【「ね」の判別】を参照。
<「ずは」の形について>
打消の助動詞の「ず」に助詞の「は」がついた形があるが、これには次の2種類がある
ので現代語訳をする際には要注意である。
★未然形「ず」に接続助詞のついた形→順接の仮定条件(接続助詞「ば」が清音化したもの)
例1・海にます神の助けにかからずは潮の八百会にさすらへなまし
(海に鎮座まします住吉明神や竜神のお助けにすがらなかったならば、きっと八方から
潮が集まる深い海に漂っていたことだろう。)
例2・この皮衣は火に焼かむに、焼けずはこそまことならめ。
(この皮の衣を焼いてみようと思うが、もし焼けなかったならば本物であろう。)
例3・坊にもようせずはこの皇子の居給ふべきなめり。
(皇太子にもひょっとしたらこの第2皇子がおなりになることになるかもしれない)
例4・返事せずはおぼつかなかりなむ(返事をしなかったらきっと不安であろう。)
例5・庵おほきしでのたをさはなほたのむわが住む里に声し絶えずは
(庵…(中略)…私との交渉が絶えなかったら)
これらはいずれも「ずは」の部分を「なかったら」と現代語訳し、仮定条件を表している。
この「ず」を連用形、「は」を係助詞とする説が通説とされているが、次の理由で「ず」は未
然形で「は」は接続助詞「ば」の清音化したものと考える方が妥当である。
1・「は」は省略すると文そのものが成立しなくなる。
2・「は」を係助詞「も」に置き換えることができない。
3・「は」を「ば」に置き換えると仮定条件が成立する。
4・助動詞「まし」で結ぶ文ないし和歌で仮定条件をつくる(例1)
5・係助詞「こそ」よりも「は」が前に置かれる。(例2)
6・倒置法が用いられた和歌の末句で条件部分を構成する。(例5)
7・元来仮定条件は未然形に接続助詞「ば」を伴った形で表すものであり、連用形に
係助詞を伴った形ではない。
★連用形「ず」に係助詞のついた形―→強調
例6・死なずはありとも、限りと思ふなり。
(死なないで生き延びたとしても、これが最後だと思うのだ)
例7・かやうに憎からずは聞えかはせど、さすがに言ふかひならずは見え奉りてやみなむと
思ふなりけり。
(このように憎らしい女だと思われない程度にお頼りはするが、かといって、全くつまら
ない女だと思われて終わりたくないと思うのであった。)
例8・女君はいと恥ずかしう、なかなかなるすまひにもあるかななど、人知れずは思すことな
きにしもあらぬに、
(人知れずお悩みになるわけでもないのに)
これらは「ずは」の部分を「なかったら」とは現代語訳していないので仮定条件ではない。
この「は」に関しては次の特徴があり、例1〜5の「は」とは本質的に異なる。
1・「なかったら」とは現代語訳せず、仮定条件を表さない。
2・「は」を省略し「ず」だけでも文が成立する。
3・「は」を係助詞「も」に置き換えることができる。(文意は変わるが文自体は成立する)
4・「は」を接続助詞「ば」に置き換えると文意が成り立たない。
5・「ず」が連用形なので「は」を挟んで後続の語が用言となる。
6・「ずはあり」と続く文の場合「ざり」に置き換えることができる(例5)
両者の「ずは」が同一の和歌に使われた例が『伊勢物語』第17段にある。
例9・今日来ずは明日は雪とぞ降りなまし消えずはありとも花と見ましや
(今日私が訪れなかったら、明日は雪のように花が散っているだろう。たとえ消えないで
残っていたとしてもそれを花と見ることができようか。)
初句の「来ずは」は仮定条件。すなわち未然形に接続助詞「は」のついた形で第3句にある
結論「降りなまし」の条件句を構成している。第4句の「消えずは」は強調で、これは連用形に
係助詞「は」のついた形。第4句全体を「消えざりとも」と置き換えても歌意が変わらない。
【ごとし】 *************************************************************************
<意味>@比況。話題にしているものが他の何かと同じである、またはよく似ているという意
味である。
A例示。話題にしている事物が後に述べる内容の典型的な例であることを具体的
に示すこと。
<訳し方>@「〜のようだ」 (例・ただ春の夜の夢のごとし。
→それは春の夜に見るはかない夢のようだ。)
A「〜のような」 (例・楊貴妃ごときは、あまり時めきすぎて悲しきことあり。
→楊貴妃のような人はあまりにも寵愛されすぎて、悲
しいことがあった。)
<接続>活用語の連体形、及び助詞「が」「の」に続いて用いられる。
(「活用」の例文中にある青文字の部分に注意。)
<活用>形容詞ク活用の活用語尾の頭に「ごと」をつけたものと考える。
但し、通常の形容詞とは異なり、いわゆる基本活用のうち、連用形・終止形・連体
形しか活用しない。
未然形→ごとく・・・(例・傳奕がごとくは、生たりし時仏法を信ぜず。)※1
連用形→ごとく・・・(例・つひに本意のごとくあひにけり。)
終止形→ごとし・・・(例・塵灰立ちのぼりて、盛りなる煙のごとし。)
連体形→ごとき・・・(例・和歌・管弦・往生要集ごときの抄物を入れたり。)
已然形→○
命令形→○
※1 「ごとし」の未然形を認めず、上の例文に出した「ごとく」を連用形、後続の「は」を係
助詞とする説が通説となっているが、文意が仮定条件になる場合は未然形に接続
助詞「ば」がついたものでなければならず、本稿では「ごとし」の未然形「ごとく」の存
在を認め、これに続く「は」は接続助詞「ば」が清音となったものと考える立場を取る。
詳細は【仮定条件】 【ば】<接続助詞>の項を参照。
【む】【むず】 **********************************************************************
<意味>@推量。不確かなことを推測する表現。原則として主語が3人称の場合に用いる。
A意志。話し手の意志や希望を表す。原則として主語が1人称の場合に用いる。
B勧誘・希望。相手に物を勧めたり、自分の希望を表現する。原則として主語が
2人称の場合に用いる。
C適当。主語が1人称以外の場合に広く用いる。
D仮定。まだ実現していないことを、実現したものとして想定する表現。
E婉曲。明言せず遠まわしに表現したりそれとなく仄めかすこと。特に訳出しない
こともある。
<訳し方>@「〜だろう」 (例・怪しく、何事ならん。→変だ。どういうことだろうか。)
A「〜よう」 (例・はやく往なむ。→早く出発しよう。)
B「〜てほしい」(例・命長くとこそ思ひ念ぜめ。
→長生きして若宮の成人するのを待とうと思って今の寂しさを
我慢してほしい。)
C「〜よいだろう」(例・植ゑずともありなん。→植えなくてもよいだろう。)
D「〜たら」 (例・心あらむ友もがな。
→物の情趣を理解できる友がいてくれたらなあ。)
E「〜ような」 (例・恋しからむ折々、取り出でて見給へ。
→恋しく思うようなときは取り出してご覧下さい。)
<接続>【む】【むず】とも、活用語の未然形に続いて用いられる。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分が活用語の未然形)
<活用>
【む】→マ行四段活用動詞の活用語尾と同じ。但し連用形・命令形はない。また未然形は
上代までの用法で、平安時代以後は終止形・連体形・已然形のみ活用した。
未然形→ま・・・・・(例・ひさかたの天見るごとく仰ぎ見し皇子の御門の荒れまく惜しも)
連用形→○
終止形→む・・・・・(例・つらくや思はん。)
連体形→む・・・・・(例・しばしは見む心もなし。)
已然形→め・・・・・(例・一夜の夢の心地こそせめ。)
命令形→○
【むず】→サ行変格動詞の活用語尾の頭に「む」をつけたものと考える。
但し、終止形・連体形・已然形しか活用しない。
未然形→○
連用形→○
終止形→むず・・・・・(例・かのもとの国より迎へに人々まうで来むず。)
連体形→むずる・・・(例・義仲は討ち死にをせんずるなり。)
已然形→むずれ・・・(例・入道殿に先立ち奉らむずれば、御辺に奉るなり。)
命令形→○
<注意>音読の際は「む」はすべて「ん」と発音する。また、鎌倉時代以後の作品では表記
も「ん」となる。
【じ】 ***************************************************************************
<意味>@打ち消しの推量。原則として主語が3人称の場合に用いる。
A打消しの意志。拒否する心情を表す。原則として主語が1人称の場合に用いる。
B不適当。原則として主語が2人称の場合に用いる。
<訳し方>@「〜ないだろう」 (例・法師ばかり羨ましからぬはあらじ。
→僧侶ほど羨ましくない職業はないだろう。)
A「〜まい」 (例・まろあれば、さやうのものには脅されじ。
→私がいる以上、そんなものには脅されまい。)
B「〜のはよくない」(例・かくあやしき物、参るやうあらじ。
→こんな粗末な食べ物をさしあげるのは良くない。)
<接続>活用語の未然形に続いて用いられる。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分が活用語の未然形)
<活用>終止形・連体形・已然形のみで、全く変化しない。大部分は終止形で使われる。
未然形→○
連用形→○
終止形→じ・・・・・(例・誉むとも聞き入れじ。)
連体形→じ・・・・・(例・南北二京に、これほどの学生あらじものを。)
已然形→じ・・・・・(例・人はなぞ訪はで過ぐらむ風にこそ知られじと思ふ宿の桜を)
命令形→○
<特記事項>「じ」は「む」の打ち消しversionとして扱い、セットで理解すると良い。
なお、「じ」より強い意味をもつものが「まじ」である。
【べし】 **************************************************************************
<意味>@推量。不確かなことを推測する表現。
原則として主語が3人称の場合に用いる。
A意志。話しての意志や希望を表す。
原則として主語が1人称の場合に用いる。
B適当。「そうするのが良い」という話し手の見解を表す。
主語が1人称以外の場合に用いる。
C当然。「そうするのが当然だ」という話し手の見解を表す。
主語が1人称以外の場合に用いる。
D可能。ある動作が実現できることを表す。
主語の人称に関わらず用いる。
E義務。相手に対してある行為を強く要求する表現。
主語が1人称以外の場合に用いる。
<訳し方>@「〜だろう」 (例・地獄に堕つべし。→地獄に落ちるだろう。)
A「〜よう」 (例・この一矢に定むべしと思へ。
→この1本の矢だけで必ず的に当てようと思え。)
B「〜のがよい」(例・家の造りやうは夏をむねとすべし。
→家のつくりは夏に適したものにするのがよい。)
C「〜はずだ」 (例・祝ふべき日などはあさましかりぬべし。
→その人をお祝いするはずの日だったら、他人はあきれ返る
に違いない。)
D「〜できる」 (例・右近も動くべきさまにもあらねば、
→右近も動くことができそうな様子ではないので、)
E「〜べきだ」 (例・下部に酒飲ます事は心すべきことなり。
→身分の低い者に酒を飲ませるのは注意すべきことである。)
<接続>活用語の終止形に続いて用いられる。但し、ラ変型活用語に限り、連体形に続い
て用いられる。(「活用」に示した例文のうち青文字の部分に注意)
<活用>通常の形容詞と同様に、基本活用と補助活用の2系統がある。
補助活用は助動詞につなげる場合に用いるという点も、通常の形容詞と同じである。
A・形容詞基本活用パターン
未然形→べく・・・・・(例・詠みつべくは、はや言へかし。)※1
連用形→べく・・・・・(例・頭さし出づべくもあらぬ空の乱れに、いでたち参る人もなし。)
終止形→べし・・・・・(例・いみじく思し嘆くことあるべし。)
連体形→べき・・・・・(例・船に乗るべきところへ渡る。)
已然形→べけれ・・・(例・便なしと思ふべけれど、)
命令形→○
B・形容詞補助活用パターン
未然形→べから・・・・・(例・羽なければ、空をも飛ぶべからず。)
連用形→べかり・・・・・(例・恐れの中に恐るべかりけるは、ただ地震なりけり
とこそ覚えしか。)
終止形→○
連体形→べかる・・・・・(例・別納の方にぞ、曹司などして人住むべかめる。)※2
已然形→○
命令形→○
<注意>
※1 Aの未然形については、その存在を認めず、上記の例文に出した「べく」を連用形、
後続の「は」を係助詞とする説が通説となっているが、文意が仮定条件になる場合は
未然形に接続助詞「ば」がついたものでなければならず、本稿では「べし」の未然形
「べく」の存在を認め、これに続く「は」は接続助詞「ば」が清音となったものと考える
立場を取る。詳細は【仮定条件】 【ば】<接続助詞>の項を参照。
※2 Bの連体形は、上記の例文に示したように、後続の語が助動詞「めり」「らし」
「なり」(伝聞・推定)となる場合は、「る」が省かれて「べか」と表記されるので注意。
<特記事項>「べし」は「む」と共通の意味のものが多いが、同じ推量や意志でも、「べし」の
方がより強い意味になる。また、「べし」の打ち消しversionが「まじ」である。
この関係をおさえておきたい。
【まじ】 **************************************************************************
<意味>@打ち消しの推量。不確かなことを否定して推測する表現。
原則として主語が3人称の場合に用いる。
A打ち消しの意志。話し手の拒否する心情を表す。
原則として主語が1人称の場合に用いる。
B不適当。ある行為に対して「好ましくない」という話し手の見解を表す。
主語が1人称以外の場合に用いる。
C打ち消しの当然。「そうなるはずがない」という話し手の見解を表す。
主語が1人称以外の場合に用いる。
D不可能。ある動作が実行できないことを表す。
主語の人称に関わらず用いる。
E禁止。相手に対してある行為を強く止める表現。
主語が1人称以外の場合に用いる。
<訳し方>@「〜ないだろう」(例・冬枯れのけしきこそ秋にはをさをさ劣るまじけれ。
→草木の枯れた冬の風情は秋よりも劣らないだろう。)
A「〜まい」 (例・ただ今は見るまじとて入りぬ。
→「今は(手紙を)見るまい」と言って奥へ入ってしまった。)
B「〜ない方がよい」(例・妻といふものこそ、男の持つまじきものなれ。
→妻というものを男は持たない方がよいのである。)
C「〜はずがない」 (例・けふの見参はあるまじかりつるものを。
→今日の面会はあるはずがないのに。)
D「〜できそうにない」(例・我も世にえあるまじきなめり。
→私もこの世に生きることができそうにないようだ)
E「〜てはならない」 (例・糂汰瓶一つも持つまじきことなり。
→糠味噌の瓶一つも持ってはならない。)
<接続>活用語の終止形に続いて用いられる。
但し、ラ変型活用語の場合は連体形に続いて用いられる。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分に注意)
<活用>通常の形容詞と同様に、基本活用と補助活用の2系統がある。
補助活用は助動詞につなげる場合に用いるという点も、通常の形容詞と同じである。
A・形容詞基本活用パターン
未然形→まじく・・・・・(例・え抱き給ふまじくは、局の人を呼び給へ。)※1
連用形→まじく・・・・・(例・それなん、また、え生くまじく侍るめる。)
終止形→まじ・・・・・・(例・唐の物は、薬の外は、なくとも事欠くまじ。)
連体形→まじき・・・・・(例・いとあるまじき事と思ひ離れにし。)
已然形→まじけれ・・・(例・えとどむまじければ、たださし仰ぎて泣き居り。)
命令形→○
B・形容詞補助活用パターン
未然形→まじから・・・(例・及ぶまじからむ際をだに、めでたしと思はんを、
死ぬばかり思ひかかれかし。)
連用形→まじかり・・・(例・多かる中にも、えなむ思ひ定むまじかりける。)
終止形→○
連体形→まじかる・・・(例・参り来て見出し立てんとするを、寄せ給ふまじかなり。)※2
已然形→○
命令形→○
<注意>
※1 Aの未然形については、その存在を認めず、上記の例文に出した「まじく」を連用形、
後続の「は」を係助詞とする説が通説となっているが、文意が仮定条件になる場合は
未然形に接続助詞「ば」がついたものでなければならず、本稿では「まじ」の未然形
「まじく」の存在を認め、これに続く「は」は接続助詞「ば」が清音となったものと考える
立場を取る。詳細は【仮定条件】 【ば】<接続助詞>の項を参照。
※2 Bの連体形は、、上記の例文に示したように、後続の語が助動詞「めり」「らし」
「なり」(伝聞・推定)となる場合は、「る」が省かれて「まじか」と表記されるので注意。
<特記事項>「まじ」は「じ」と共通の意味を持つものが多いが、同じ打消しの推量や打ち消し
の意志でも「まじ」の方がより強い意味になる。
なお「まじ」の肯定versionが「べし」である。この関係をおさえておきたい。
【らむ】 **************************************************************************
<意味>@現在推量。目の前で見てはいないが、今頃はこうだろうと推し量る表現。
A現在の原因推量。今起きているできごとの原因を推し量る表現。
<訳し方>@「〜ているだろう」(例・夜は、明け方になり侍りぬらん。
→今頃はもう夜も明け方になっているだろう。)
A「〜のだろう」 (例・知りたる事も、なほ定かにと思ひてや問ふらむ。
→わかっていることでも、もっと知りたいと思って問うのだろうか。)
<接続>活用語の終止形に続いて用いられる。但し、ラ変型活用語の場合は連体形に続いて
用いられる。(「活用」に示した例文のうち青文字の部分に注意)
<活用>【む】の各活用形の頭に「ら」をつけたものと考えればよい。
但し、終止形・連体形・已然形しか活用しない。
未然形→○
連用形→○
終止形→らむ・・・・・(例・ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ)
連体形→らむ・・・・・(例・さる者ありとは鎌倉殿までもしろしめされたるらむぞ。)
已然形→らめ・・・・・(例・それはさこそ思すらめども・・・中略・・・人の心劣れりとは
思ひ侍らず。)
命令形→○
<判別上の問題>すべての形で他の語との区別に注意が必要。
詳細は【「らむ」の判別】【「らめ」の判別】を参照。
<特記事項>「らむ」は「らん」と発音する。鎌倉時代以後は「らん」と表記される。「む」「らむ」
「けむ」はいずれも推量の助動詞であるが、それぞれ、未来推量・現在推量・
過去推量で時制が異なる点に注目。
【けむ】 **************************************************************************
<意味>@過去推量。目の前で見てはいなかったが、当時はこうだっただろうと推し量る表現。
A過去の原因推量。既に起きたできごとの原因を推し量る表現。
<訳し方>@「〜ただろう」 (例・夜中も過ぎにけんかし。→真夜中も過ぎてしまっただろう。)
A「〜たのだろう」 (例・参りたる人ごとに山へ登りしは、何事かありけん。
→参拝している人がみんな山へ登ったのは、山に何があっ
たのだろうか。)
<接続>活用語の連用形に続いて用いられる。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分が連用形。)
<活用>【む】の各活用形の頭に「け」をつけたものと考えればよい。但し、終止形・連体形・
已然形しか活用しない。
未然形→○
連用形→○
終止形→けむ・・・・・(例・かかる目見むとは思はざりけむ)
連体形→けむ・・・・・(例・医師のもとにさし入りて、向かひゐたりけんありさま、)
已然形→けめ・・・・・(例・さこそ異様なりけめ。)
命令形→○
<特記事項>「けむ」は「けん」と発音する。鎌倉時代以後は「けん」と表記される。「む」「らむ」
「けむ」はいずれも推量の助動詞であるが、それぞれ、未来推量、現在推量、
過去推量で時制が異なる点に注目。
【めり】 **************************************************************************
<意味>@推量。(下記の<特記事項>を参照)
A婉曲。断言せず、それとなく仄めかす表現。
<訳し方>@「〜ようだ」 (例・今は限りにこそは物し給ふめれ。
「〜に見える」 →もうこれが最期でいらっしゃるようだ。)
A「〜ようだ」(例・「もののあはれは秋こそまされ」と人ごとに言ふめれど・・・
→物の情趣は秋が最も深く感じられる」とみんな言うようだが、)
<接続>活用語の終止形に続いて用いられる。但し、ラ変型活用語の場合は連体形に続い
て用いられる。この場合連体形活用語尾の「る」が省かれたものになる。※1
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分に注意)
<活用>ラ行変格動詞の活用語尾の頭に「め」をつけたものと考えればよい。
但し、未然形・命令形はない。
未然形→○
連用形→めり・・・(例・つれなくのみもてなして、御覧ぜられ奉り給ふめりし。)
終止形→めり・・・(例・契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋も往ぬめり。)
連体形→める・・・(例・酔ひたる人ぞ、過ぎにし憂さをも思ひ出でて泣くめる。)
已然形→めれ・・・(例・この世に生まれては、願はしかるべき事こそ多かめれ。)
命令形→○
※1已然形の例文中にある「多か」とは、連体形「多かる」の「る」が省かれた形。このような
短縮形はラ変型活用語から助動詞「なり」(伝聞・推定)「めり」「らし」に続く場合に限って
生じる。また発音上は省かれた「る」の部分が「ん」となる。
例1・この頃となりてはただ事にも侍らざめり。
(本来の形は「ず」の連体形で「ざる」)
例2・今ひときは心浮き立つものは春のけしきにこそあめれ。
(本来の形は「あり」の連体形で「ある」)
例3・すずろなる死にをすべかめるかな。
(本来の形は「べし」の連体形で「べかる」)
<特記事項>一般的に「めり」は「推量の助動詞」と言われるが、話し手の視覚・聴覚に基
づく判断から推量する表現であることを知っておきたい。
したがって同じ推量の助動詞でも、【む】【べし】とは用法が違う点に注意
しなければならない。
【なり】<伝聞・推定> *************************************************************
<意味>@伝聞。人から伝え聞いたことを表す。
A推定。(下記の<特記事項>を参照)
<訳し方>@「〜とかいう」 (例・男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。
「〜だそうだ」 →男の人が書くとかいう日記というものを、女の私も書こうと
思って書くのである。)
A「〜らしい」 (例・奥山に猫またといふものありて、人を食ふなる。
「〜ようだ」 →奥山に猫またという動物がいて、人を食べるらしい。)
<接続>活用語の終止形に続いて用いられる。但し、ラ変型活用語の場合は連体形に続い
て用いられる。この場合連体形活用語尾の「る」が省かれたものになる。※1
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分に注意)
<活用>ラ行変格動詞の活用語尾の頭に「な」をつけたものと考えればよい。
但し、未然形・命令形がない。また連用形の用例もごくわずかである。
未然形→○
連用形→なり・・・(例・いとど憂ふなりつる雪かきたれいみじう降りけり。)
終止形→なり・・・(例・笛をいとをかしく吹きすまして過ぎぬなり。)
連体形→なる・・・(例・朝にさる色とかや、文にも作りたなる。)
已然形→なれ・・・(例・世の憂き時は見えぬ山路をこそは尋ぬなれ。)
命令形→○
※1連体形の例文中にある「た」とは、連体形「たる」の「る」が省かれた形。このような
短縮形はラ変型活用語から助動詞「なり」(伝聞・推定)「めり」「らし」に続く場合に
限って生じる。また発音上は省かれた「る」の部分が「ん」となる。
例1・さては、扇のにはあらで、くらげのななり。
(本来の形は断定の助動詞「なり」の連体形で「なる」)
例2・駿河の国にあなる山の頂に持てつくべきよし仰せ給ふ。
(本来の形は「あり」の連体形で「ある」)
例3・。あなかま、みな聞きて侍り。尚侍になるべかなり。
(本来の形は「べし」の連体形で「べかる」)
<判別上の問題>全ての活用形で他の語との区別が必要。詳細は
【「なり」の判別】【「なる」の判別】【「なれ」の判別】を参照。
<特記事項>推定とは推量よりも確信の程度が強く、それなりの根拠がある場合に用いる
表現である。「なり」が推定の意味で使われる場合は、話し手が聴覚から得た
ものを根拠に、物事を推し量っていることを知っておきたい。
【まし】 **************************************************************************
<意味>@反実仮想。現実とは反対の事態を想定し、その場合に起こりうる結果を推量する表現。
A躊躇する意志。ためらいや迷う気持ちを含んだ意志を表す。
<訳し方>@「もし〜たら〜だろう」(例・鏡に色形あらましかば、映らざらまし。
→もし鏡に色や形があったら、鏡には何も映らないだろう。)
A「〜うかしら」 (例・これに何を書かまし。→これに何を書こうかしら。)
<接続>活用語の未然形に続いて用いられる。
<活用>独特の活用をする。連用形・命令形がない。また未然形の「ませ」は上代に限った
用法で、平安時代以後は「ましか」が用いられた。
未然形→ましか・・ (例・鏡に色・形あらましかば、映らざらまし)
ませ・・・ (例・出でて行く道知らませばあらかじめ妹をとどめむ関も置かましを)
連用形→○
終止形→まし・・・ (例・しやせまし、せずやあらましと思ふ事は、おふやうはせぬが良きなり。)
連体形→まし・・・ (例・なほ、これより深き山を求めてや、跡絶えなまし。)
已然形→ましか・・(例・やがと失せぬる人にてこそあらましか。)
命令形→○
<特記事項>反実仮想で用いられる場合は、原則としてその文中(和歌も含む)に仮定条件
(→活用語の未然形に接続助詞「ば」を伴った形)の構文があり、文末を「まし」で結ぶ。
(例・世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし)
この例では「せ」が過去の助動詞「き」の未然形である。
したがって、「もしこの世に桜がなかったら」と訳す。
【らし】 **************************************************************************
<意味>推定。確かな根拠に基づいて客観的に推しはかる表現。
<訳し方>「〜らしい」(例・春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山
→春が過ぎて夏がやってきたらしい。
夏になると白い衣を干すと言われる天の香具山)
<接続>活用語の終止形に続いて用いられる。但し、ラ変型活用語の場合は連体形に続
いて用いられる。この場合連体形活用語尾の「る」が省かれたものになる。※1
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分に注意)
<活用>
未然形→○
連用形→○
終止形→らし・・・ (例・吉野山峰の白雪いかならし。)
連体形→らし・・・ (例・この川にもみぢ葉流る奥山の雪げの水ぞ今まさるらし)
らしき・・・(例・古への然なれこそ空蝉も妻を争ふらしき)
已然形→らし・・・ (例・秋の夜は露こそことに寒からし草叢ごとに虫の侘ぶれば)
命令形→○
※上の例文中にある「な」は断定の助動詞「なり」の連体形「なる」、「寒か」は形容詞ク
活用「寒し」の連体形「寒かる」で、いずれも「る」が省かれた形である。このような短縮
形はラ変型活用語から助動詞「なり」(伝聞・推定)「めり」「らし」に続く場合に限って生
じる。また発音上は省かれた「る」の部分が「ん」となる。
例1・例の腹ふくるるわざならし。
(本来の形は断定の助動詞「なり」の連体形で「なる」)
例2・わが旅は久しくあらしこの吾が着る妹が衣の垢づく見れば
(本来の形は「あり」の連体形で「ある」)
例3・忍びて心交はせる人ぞありけらし。
(本来の形は「けり」の連体形で「ける」)
<特記事項>連体形「らしき」は上代に限る用法である。
上の例文では係助詞「こそ」の結びとして連体形になっている。
(上代では係助詞「こそ」の結びは形容詞に限り連体形であった。)
平安時代以後は終止形・連体形・已然形とも語形変化がない。
また、後2者は係助詞を受けての用法に限られ、
すべて文末(和歌の場合は句末)に使われる。
【なり】<断定・存在> *************************************************************
<意味>@断定。話し手が「こうだ」と決め付ける表現。
A存在。物がそこに置いてある、人がそこにいる状態を表す。
<訳し方>@「〜である」 (例・暑きころ、わろき住まひは堪へ難き事なり。
「〜だ」 →暑い季節に、住むのに不適当な住宅は我慢できないものである。)
A「〜にいる」 (例・京なる医師のがり率て行きける、
「〜にある」 →京都にいる医者のところへ連れて行った)
上記のうちAの用法になる場合は、方向・場所・入れ物を表す名詞の後に使われる。
用例の大半は「なり」が連体形となって後続の名詞につながる。
例1・この西なる家には何人の住むぞ。問ひ聞きたりや。(「西」が方角を表す)
例2・富士の山はこの国なり。(「国」が場所を表す)
例3・硯なる文を見つけて「あはれ」と言ふ。(「硯」とは硯箱で入れ物を表す)
<接続>活用語の連体形、及び体言・助詞・副詞に続いて用いられる。※1
なお、形容詞・形容詞型活用語、及び打消の助動詞「ず」の場合は基本活用の
連体形から接続する。※2
(「活用」の例文中にある青文字の部分に注意)
<活用>形容動詞ナリ活用の活用語尾と全く同じである。但し、命令形の用例は非常に少ない。
未然形→なら・・・(例・例ならぬ事にて、御前近くもえ参らぬつつましさに、
長押にもえ登らず。)
連用形→なり・・・(例・限りなう心を尽くし聞こゆる人に、いとよう似奉れる
が、まもらるるなりけり。)
に・・・・(例・春暮れてのち夏になり、夏果てて秋の来るにはあらず。)
終止形→なり・・・(例・世には心得ぬ事の多きなり。)
連体形→なる・・・(例・ただ物をのみ見んとするなるべし。)
已然形→なれ・・・(例・去る者は日々に疎しと言へる事なれば・・・)
命令形→なれ・・・(例・さてもとは問はれぬ今はまたつらし夢なれとこそ言ひしものから)
※1 助詞・副詞から接続する例として次のようなものがある。
例1・命の終ふる大事、今ここに来れりと、確かに知らざればなり。
(確定条件を表す接続助詞「ば」から接続)
例2・止まん人は止み、修せん人は修せよとなり。
(引用を表す格助詞「と」から接続)
例3・笙は調べおほせて持ちたれば、ただ吹くばかりなり。
(限定の意味を表す副助詞「ばかり」から接続)
例4・さなめりとて憂くて開けさせねば、例の家と思しき所へものしたり。
(指示を表す副詞「さ」から接続)
例5・一生の間もしかなり。
(指示を表す副詞「然」から接続)
※2 終止形形の例文中にある「多き」とは、形容詞ク活用「多し」の基本活用の連体形。
このような基本活用からの接続は形容詞及び形容詞型活用の助動詞・打消の助動
詞「ず」から断定の助動詞「なり」続く場合に限って生じる(例1〜例3)。また、断定の
助動詞「なり」が補助活用から接続する場合でも連体形の「る」が省かれる、いわゆ
る短縮形にはならない。(例4・例5)それに対して伝聞・推定の助動詞「なり」の場合
は補助活用の短縮形から接続する。(例6〜例9)
例1・しやせまし、せずやあらましと思うことは、おほやうはせぬは良きなり。
(ク活用「良し」の基本活用の連体形)
例2・能ある人は無能になるべきなり。
(助動詞「べし」の基本活用の連体形)
例3・世の人数もさのみ多からぬにこそ。
(助動詞「ず」の基本活用の連体形)
例4・道を正しくせばその化遠く流れん事を知らざるなり。
(助動詞「ず」の補助活用の連体形)
例5・およそ「珍しき鳥、怪しき獣、国に育はず」とこそ、文にも侍るなれ。
(ラ行変格活用動詞「侍り」の連体形)
例6・いと良かなり。
(ク活用「良し」の補助活用の連体短縮形)
例7・宮へ渡らせ給ふべかなるを、そのさきに聞え置かむとてなむ。
(助動詞「べし」の補助活用の連体短縮形)
例8・海賊は夜歩きせざなり。
(助動詞「ず」の補助活用の連体短縮形)
例9・心恥ずかしき人住むなるところにこそあなれ。
(ラ行変格活用動詞「あり」の連体短縮形)
<判別上の問題>全ての活用形で他の語との区別が必要。詳細は
【「なら」の判別】【「なり」の判別】【「なる」の判別】【「なれ」の判別】
【「に」の判別】 を参照。
【たり】<断定> ******************************************************************
<意味>断定。ただし、登場人物の資格を表す用法である。
「なり」のように話し手の判断に基づく断定とは異なる。
<訳し方>「〜である」 (例・国香より正盛に至るまで六代は諸国の受領たりしかども、
「〜だ」 →国香から正盛までの六代は諸国の守であったが、)
<接続>体言に続いて用いられる。(「活用」の例文中にある青文字の部分が体言。)
<活用>形容動詞タリ活用の活用語尾と全く同じである。
但し、命令形の用例はまだ発見されていない。
未然形→たら・・・(例・下として上に逆ふること、あに人臣の礼たらむや。)
連用形→たり・・・(例・然るに忠盛朝臣いまだ備前守たりし時、)
と・・・・(例・晋の王倹、大臣として、家に蓮を植ゑて愛せし時の楽なり。)
終止形→たり・・・(例・国郡半ば過ぎて一門の所領となり、田園の悉く一家の進止たり。)
連体形→たる・・・(例・人の奴たるものは、賞罰甚だしく、恩顧厚きを先とす。)
已然形→たれ・・・(例・大王はいま天下に君たれども、南に強楚の敵あり。)
命令形→たれ
<判別上の問題>全ての活用形で他の語との区別が必要。詳細は
【「たら」の判別】【「たり」の判別】【「たる」の判別】【「たれ」の判別】を参照。
【まほし】 ************************************************************************
<意味>希望。話し手が「こうあってほしい」と望んでいる心情を表す。
<訳し方>「〜たい」 (例・花の陰にはなほ休らはまほしきにや、
→美しい花の下ではやはり休息したいのだろうか、)
<接続>活用語の未然形に続いて用いられる。
(「活用」の例文中にある青文字の部分が活用語の未然形。)
<活用>形容詞シク活用の活用語尾の頭に「まほ」をつけたものと考える。
通常の形容詞と同様に、基本活用と補助活用の2系統がある。
補助活用は助動詞につなげる場合に用いるという点も、通常の形容詞と同じである。
A・形容詞基本活用パターン
未然形→まほしく・・・(例・もしまことに聞こしめし果てまほしくは、駄一疋を賜はせよ。)※1
連用形→まほしく・・・(例・「湯桁はいくつ」と、問はまほしく思せど、)
終止形→まほし・・・・(例・いかなる人なりけん、尋ね聞かまほし。)
連体形→まほしき・・・(例・少しの事にも先達はあらまほしき事なり。)
已然形→まほしけれ・(例・愛敬ありて言葉多からぬこそ、飽かず向かはまほしけれ。)
命令形→○
B・形容詞補助活用パターン
未然形→まほしから・・・(例・うたて近く聞かまほしからず。)
連用形→まほしかり・・・(例・御気色も見まほしかりけり。)
終止形→○
連体形→まほしかる・・・(例・女にたやすからず思はれんこそ、あらまほしかるべきわざなれ。)
已然形→○
命令形→○
※1 Aの未然形については、その存在を認めず、上記の例文に出した「まほしく」を連用
形、後続の「は」を係助詞とする説が通説となっているが、文意が仮定条件になる場
合は未然形に接続助詞「ば」がついたものでなければならず、本稿では「まほし」の未
然形「まほしく」の存在を認め、これに続く「は」は接続助詞「ば」が清音となったものと
考える立場を取る。詳細は【仮定条件】 【ば】<接続助詞>の項を参照。
<特記事項>希望の意味を表す助動詞は、平安時代までは「まほし」だけが用いられた。
「たし」が使われ始めたのは鎌倉時代からで、逆に、室町時代以降は「まほし」
が用いられなくなり、「たし」だけが使われるようになった。
【たし】 **************************************************************************
<意味>希望。話し手が「こうあってほしい」と望んでいる心情を表す。
<訳し方>「〜たい」 (例・言ひたきままに語りなして、
→言いたい放題に話を作りこしらえて語り、)
<接続>活用語の連用形に続いて用いられる。
(「活用」の例文中にある青文字の部分が活用語の連用形。)
<活用>形容詞ク活用の活用語尾の頭に「た」をつけたものと考える。
通常の形容詞と同様に、基本活用と補助活用の2系統がある。
後者は助動詞につなげる場合に用いる点も形容詞と同じである。
ただし、Bの連体形の用例は発見できていない。
A・形容詞基本活用パターン
未然形→たく・・・(例・琴のことの音聞きたくは、北の国の上に松を植ゑよ。)※1
連用形→たく・・・(例・いよいよ良くしたく覚えて嗜みけるほどに、)
終止形→たし・・・(例・花は折りたし。梢は高し。)
連体形→たき・・・(例・家にありたき木は、松・桜。)
已然形→たけれ・(例・敵に逢ふてこそ死にたけれ。)
命令形→○
B・形容詞補助活用パターン
未然形→たから・・・(例・悪所に落ちては死にたからず。)
連用形→たかり・・・(例・近う参って見参にも入りたかりつれども、)
終止形→○
連体形→たかる
已然形→○
命令形→○
※1 Aの未然形については、その存在を認めず、上記の例文に出した「たく」を連用形、
後続の「は」を係助詞とする説が通説となっているが、文意が仮定条件になる場合は
未然形に接続助詞「ば」がついたものでなければならず、本稿では「たし」の未然形
「たく」の存在を認め、これに続く「は」は接続助詞「ば」が清音となったものと考える
立場を取る。詳細は【仮定条件】 【ば】<接続助詞>の項を参照。
<特記事項>希望の意味を表す助動詞は、平安時代までは「まほし」だけが用いられた。
「たし」が使われ始めたのは鎌倉時代からで、逆に、室町時代以降は「まほし」
が用いられなくなり、「たし」だけが使われるようになった。
【る】 ****************************************************************************
<意味>@受身。ある動作を他から受けることを表す。
A自発。ある動作が自然に、無意識に行われることを表す。
B可能。ある動作が実行できることを表す。
C尊敬。ある動作をする人に対して尊敬の意を表す。
<訳し方>@「〜れる」 (例・ものに襲はるる心地して・・・
→物の怪に襲われるような気持ちがして・・・)
A「自然と〜れる」(例・子ゆえにこそ、万のあはれは思ひ知らるれ。
→子どもを持ってこそ、何事にも物の情趣が自然と理解さ
れるものです。)
B「〜できる」 (例・冬はいかなる所にも住まる。
→冬はどんな所でも住むことができる。)
C「お〜になる」(例・わぬしの問はれんほどのこと、何事なりとも答え申さんや。
→あなたがお尋ねになるようなことは、どんなことでもお答え
できないことがあろうか。)
<接続>四段活用・ラ行変格活用・ナ行変格活用動詞の未然形に続いて用いられる。
同じ受身・自発・尊敬・可能の助動詞【らる】とは、接続上で分担している。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分が未然形)
<活用>ラ行下二段活用動詞の活用語尾と全く同じである。
なお、命令形は受身・尊敬に限って用いられ、自発・可能にはない。
未然形→れ・・・ (例・見てけりとだに知られむと思ひて書きつく。)
連用形→れ・・・ (例・ここにいと怪しう、物に襲はれたる人の悩ましげなるを・・・)
終止形→る・・・ (例・屈しにける心のほど、思ひ知らる。)
連体形→るる・・(例・いかに思さるるにか。)
已然形→るれ・・(例・吾妻人こそ、言ひつることは頼まるれ。)
命令形→れよ・・(例・戦はまた親も討たれよ、子も討たれよ。)
<判別上の問題>未然形・連用形・終止形は他の語との区別に注意が必要。
詳細は【「る」の判別】【「れ」の判別】を参照。
【らる】 **************************************************************************
<意味>@受身。ある動作を他から受けることを表す。
A自発。ある動作が自然に、無意識に行われることを表す。
B可能。ある動作が実行できることを表す。
C尊敬。ある動作をする人に対して尊敬の意を表す。
<訳し方>@「〜られる」 (例・とかく助けられ給ひてなむ、二條の院へ帰り給ひける。
→いろいろと支えられなさって、二條の院にお帰りなさった。)
A「自然と〜られる」(例・かへりみのみせられて・・・
→自然と振り返らずにはいられなくて・・・)
B「〜できる」 (例・弓矢して射られじ。→弓矢でも射ることはできないだろう。)
C「お〜になる」(例・縁を結ばしむるわざをなんせられける。
→成仏できるように仏縁を結ばせようとお尋ねになる。)
<接続>上下の一段・二段活用、及び、カ行変格活用・サ行変格活用動詞の未然形に続い
て用いられる。同じ受身・自発・尊敬・可の助動詞【る】とは接続上で分担している。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分に注目)
<活用>ラ行下二段活用動詞の各活用語尾の上に「ら」をつけたものである。
なお、命令形は受身・尊敬に限って用いられ、自発・可能にはない。
未然形→られ・・・(例・今様の事どもの、珍しきを言ひ広め、もてなすこそ、また承けられね。)
連用形→られ・・・(例・大井の土民に仰せて、水車を作らせられけり。)
終止形→らる・・・(例・住み慣れしふるさと、限りなく思ひ出でらる。)
連体形→らるる・・(例・心劣りせらるるは本性見えんこそ、口惜しかるべけれ。)
已然形→らるれ・・(例・つれづれなるままに、恋しう思ひ出でらるれば・・・)
命令形→られよ・・(例・験あらん僧たち、祈り試みられよ。)
【す】 ****************************************************************************
<意味>@使役。他の者にある動作をさせることを表す。
A尊敬。ある動作をする人に対して尊敬の意を表す。
<訳し方>@「〜せる」 (例・酒を勧めて強ひ飲ませたるを興とする事、いかなる故とも心得ず。
→酒を勧めて無理やり飲ませるのをおもしろがるのは、
どういうわけなのか理解できない。)
A「お〜になる」(例・殿は何にかならせ給ひぬる。
→ご主人は除目で何におなりになったのですか。)
<接続>四段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用動詞の未然形に続いて用いられる。
同じ使役・尊敬の助動詞【さす】とは、接続上の分担がある。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分に注目)
<活用>サ行下二段活用動詞の各活用語尾と全く同じである。
なお、尊敬の用法は連用形に限って用いられる。
未然形→せ・・・・(例・今宵、「かかること」と、声高に物も言はせず。)
連用形→せ・・・・(例・杖をつかせて、京なる医師のがり率て行きける・・・)
終止形→す・・・・(例・あはせて二千人の人を、竹取が家に遣はす。)
連体形→する・・・(例・人の書かする仏もおはしけり。)
已然形→すれ・・・(例・親のあはすれども、聞かでなむありける。)
命令形→せよ・・・(例・かれに物食はせよ。)
<特記事項>尊敬の用法の場合は単独では用いられず、尊敬の意を持つ補助動詞
「給ふ」「おはします」などを伴って用いられ、非常に高い敬意を表した。
(例・夜は明け方になり侍りぬらん。はや、帰らせ給ひなん。)
<判別上の問題>連用形以外は他の語との区別に注意が必要である。詳細は
【「せ」の判別】【「す」の判別】【「する」の判別】【「すれ」の判別】
【「せよ」の判別】を参照。
【さす】 **************************************************************************
<意味>@使役。他の者にある動作をさせることを表す。
A尊敬。ある動作をする人に対して尊敬の意を表す。
<訳し方>@「〜させる」 (例・月の人詣で来ば、捕へさせむ。
→月の都の人がやって来たなら、捕まえさせよう。)
A「お〜になる」(例・君すでに都を出でさせ給ひぬ。
→天皇も既に都をお出になってしまわれた。)
<接続>上下の一段・二段活用、及び、カ行変格活用・サ行変格活用動詞の未然形に続
いて用いられる。同じ使役・尊敬の助動詞【す】とは、接続上で分担している。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分に注目)
<活用>サ行下二段活用動詞の各活用語尾の上に「さ」をつけたものである。
なお、尊敬の用法は連用形に限って用いられる。
未然形→させ・・・・(例・さなめりと思ふに、憂くて開けさせねば・・・)
連用形→させ・・・・(例・さるは、便りごとに物も絶えず得させたり。)
終止形→さす・・・・(例・名を三室戸斎部の秋田を呼びてつけさす。)
連体形→さする・・ (例・よろづにをごづり、祈りをさへして教へ聞こえさするに・・・)
已然形→さすれ・・(例・山々に人をやりて求めさすれど、さらになし。)
命令形→させよ・・ (例・出で給ひぬべくは、車寄せさせよ。)
<特記事項>尊敬の用法の場合は単独では用いられず、尊敬の意を持つ補助動詞「給ふ」
「おはします」などを伴って用いられ、非常に高い敬意を表した。
(例・悩ましげに見えさせ給ふ。)
【しむ】 **************************************************************************
<意味>@使役。他の者にある動作をさせることを表す。
A尊敬。ある動作をする人に対して尊敬の意を表す。
<訳し方>@「〜せる」 (例・何によりてか目を喜ばしむる。
→何をして目を楽しませようとするのだろうか。)
A「お〜になる」(例・公も行幸せしめ給ふ。→天皇も行幸にお出かけになる。)
<接続>活用語の未然形に続いて用いられる。
(「活用」に示した例文のうち青文字の部分が未然形)
<活用>マ行下二段活用動詞の各活用語尾の上に「し」をつけたものである。
なお、尊敬の用法は連用形に限って用いられる。
未然形→しめ・・・・(例・我負けて人を喜ばしめむと思はば、さらに遊びの興なかるべし。)
連用形→しめ・・・・(例・この幣の散る方に御船すみやかに漕がしめ給へ。)
終止形→しむ・・・・(例・堂塔を破り、仏経を焼かしむ。)
連体形→しむる・・ (例・愚かなる人の目を喜ばしむる楽しみ、またあじきなし。)
已然形→しむれ・・ (例・皆取り出だして食はしむれば、・・・よく取りて食ひてけり。)
命令形→しめよ・・ (例・その笛の音を聞かしめよ。)
<特記事項>尊敬の用法の場合は単独では用いられず、尊敬の意を持つ補助動詞「給ふ」
「おはします」などを伴って用いられることが多く、非常に高い敬意を表した。
(例・御前に詠み申さしめ給へ。)
【「し」の判別】 ********************************************************************
@サ行変格活用「す」の連用形
例・男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続。
3・後続は連用形接続の助動詞や助詞、読点となる。
4・自立語なので文節の先頭に来る。つまり「し」の直前で文節に区切ることができる。
(但し、「心す」「読経す」のような複合形の場合を除く)
A過去の助動詞「き」の連体形
例・この家にて生まれし女児のもろともに帰らねば、いかがは悲しき。
<判別のポイント>
1・活用語の連用形からしか接続しない。
2・形容詞の場合は補助活用の連用形から接続。
3・後続の言葉は体言(→名詞)、助詞、ないしは係助詞を受けて句点となる。
4・付属語なので「し」の直前では文節に区切れない。
B間投助詞・副助詞
例1・急ぎしもせぬほどに月出でぬ。
例2・飛鳥川の淵瀬、常ならぬ世にしあれば・・・
<判別のポイント>
1・体言、あるいは活用語の連用形から名詞に転じた語から接続する。
2・取り除いても文意は変化しない。
3・付属語なので「し」の直前では文節に区切れない。
【「せ」の判別】 ********************************************************************
@サ行変格活用「す」の未然形
例1・暁まで門たたく音もせず。
例2・多かる中に寺をも住持せらるるは・・・
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・後続の語は未然形接続の助動詞や助詞である。
4・自立語なので文節の先頭に来る。つまり「せ」の直前で文節に区切ることができる。
但し、「心す」「読経す」のような複合形の場合(→例2)を除く
5・「する」という意味に訳せる。
A過去の助動詞「き」の未然形
例・世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
<判別のポイント>
1・活用語の連用形からしか接続しない。
2・形容詞の場合は補助活用の連用形から接続する。
3・後続の語は助詞「ば」に限られ、現在の事実とは逆のことを仮定する表現となる。
したがって「もし〜たならば」と訳すことになる。
4・付属語なので「せ」の直前では文節に区切れない。
B使役・尊敬の助動詞「す」の未然形・連用形
例1・大井の土民に仰せて、水車を作らせられけり。
例2・夜更けぬさきに帰らせおはしませ。
<判別のポイント>
1・活用語の未然形からしか接続しない。
2・尊敬の場合は連用形に限られ、後続の語は敬意を表す補助動詞となる。(例2)
3・後続の語は未然形接続の付属語、あるいは連用形接続の付属語や補助動詞である。
4・付属語なので「せ」の直前では文節に区切れない。
5・使役の場合は「〜せる」、尊敬の場合は「お〜になる」と訳せる。
【「ける」の判別】 ******************************************************************
@過去の助動詞「けり」の連体形
例・飼ひける犬の、暗けれど、主を知りて飛びつきたりけるとぞ。
<判別のポイント>
1・活用語の連用形からしか接続しない。
2・形容詞の場合は補助活用の連用形から接続する。
3・過去なら「〜た」、詠嘆なら「〜だなあ」と訳せる。
4・付属語なので「ける」の直前では文節に区切れない。
Aカ行四段活用動詞の已然形活用語尾+完了・存続の助動詞「り」の連体形
例・良き人は、ひとへに好けるさまにも見えず、興ずるさまも等閑なり。
<判別のポイント>
1・「ける」の直前は動詞の語幹になる。
2・「る」の部分は「〜ている」という意味に訳せる。
※これは単語に区切ると「好け」+「る」になる。したがって、「ける」の直前では単語に
区切れない。
Bカ行下一段活用「蹴る」の終止形・連体形
例1・さと寄りて一足ずつける。
例2・二丈ばかりける人もありしなり。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・「蹴る」という意味に訳せる。
4・自立語なので文節の先頭に来る。つまり「ける」の直前で文節に区切ることができる。
【「けれ」の判別】 ******************************************************************
@過去の助動詞「けり」の已然形
例・さてこそ粟津の戦はなかりけれ。
<判別のポイント>
1・活用語の連用形からしか接続しない。
2・形容詞の場合は補助活用の連用形から接続する。
3・過去なら「〜た」、詠嘆なら「〜だなあ」と訳せる。
4・付属語なので「ける」の直前では文節に区切れない。
Aカ行四段活用動詞の已然形活用語尾+完了・存続の助動詞「り」の已然形
例・咲かざりし花も咲けれど・・・
<判別のポイント>
1・「けれ」の直前は動詞の語幹になる。
2・「れ」の部分は「〜ている」という意味に訳せる。
※これは単語に区切ると「咲け」+「れ」になる。したがって、「けれ」の直前では単語に
区切れない。
Aク活用形容詞の已然形活用語尾
例・命長ければ、恥多し。
<判別のポイント>
1・「けれ」の直前は形容詞の語幹になる。
※これは単語に区切ると「長けれ」で一語になる。したがって、「けれ」の直前では単語
に区切れない。
B助動詞「たし」「べし」の已然形の一部
例・敵にあうてこそ死にたけれ、悪所に落ちては死にたからず。
例・長くとも四十に足らぬほどにて死なんこそ、めやすかるべけれ。
<判別のポイント>
1・「けれ」の直前の1文字がその字で始まる助動詞の一部である。
※これは単語に区切ると「たけれ」「べけれ」で一語になる。したがって、「けれ」の直前
では単語に区切れない。
Cシク活用形容詞の已然形活用語尾の一部
例・世は定めなきこそいみじけれ。
<判別のポイント>
1・「けれ」の直前は形容詞の終止形になる。
※これは単語に区切ると「いみじけれ」で一語になる。したがって、「けれ」の直前では
単語に区切れない。形容詞の終止形から過去の助動詞「けり」は接続しない点に注意。
D助動詞「まほし」「まじ」の已然形の一部
例1・愛敬ありて言葉多からぬこそ、飽かず向かはまほしけれ。
例2・冬枯れのけしきこそ、秋にはをさをさ劣るまじけれ。
<判別のポイント>
1・「けれ」の直前は助動詞の終止形になる。
※これは単語に区切ると「まほしけれ」「まじけれ」で一語になる。
したがって、「けれ」の直前では単語に区切れない。助動詞の終止形から過去の助動詞
「けり」は接続しない点に注意。
Eカ行下一段活用「蹴る」の已然形
例・円子川ければぞ波は上がりける。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・「蹴る」という意味に訳せる。
4・自立語なので文節の先頭に来る。つまり「ける」の直前で文節に区切ることができる。
【「て」の判別】 ********************************************************************
@接続助詞
例・極楽寺・高良などを拝みて、かばかりと心得て帰りにけり。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・非活用語の場合は、副詞・格助詞「と」から接続する。
3・後続の語は用言か、読点を挟んで自立語となる。
A完了の助動詞「つ」の未然形・連用形
例1・翁の申さん事は聞き給ひてんや。
例2・多くの人殺してける心ぞかし。
<判別のポイント>
1・活用語の連用形からしか接続しない。
2・形容詞の場合は補助活用の連用形から接続する。
3・後続の語は助動詞「む」「むず」「まし」「き」「けり」に限られる。
【「な」の判別】 ********************************************************************
@完了・強意の助動詞「ぬ」の未然形
例・し出ださんを待ちて寝ざらむも、わろかりなむ。
<判別のポイント>
1・活用語の連用形から接続する。
2・形容詞の場合は補助活用の連用形から接続する。
3・後続の語は未然形接続の助詞か、助動詞「む」「まし」に限られる。
4・過去なら「〜てしまう」、強意なら「きっと〜」と訳せる。
A打ち消しの助動詞「ず」の未然形
例・たれと知るべきにもあらなくに、われ一人苦しうかたはらいたし。
<判別のポイント>
1・活用語の未然形から接続する。
2・後続の語は接尾語「く」に限られる。
3・「〜ない」と訳せる。
4・平安時代以前に成立した作品にしか見られない。
B断定の助動詞「なり」の連体短縮形
例・子になり給ふべき人なめり。
<判別のポイント>
1・活用語の連体形・あるいは体言から接続する。
2・後続の語は助動詞「めり」「らし」「なり」(伝聞・推定)に限られる。
3・「〜である」と訳せる。
4・発音するときは「なん」となる。
※これは断定の助動詞「なり」の連体形「なる」の「る」が発音上「ん」に変化し、
表記上は省かれた結果「な」という形になったものである。
C副詞
例・あが君生き出で給へ。いといみじき目、な見せ給ひそ。
<判別のポイント>
1・自立語なので「な」の直前で文節に区切ることができる。
2・終助詞「そ」が文末にあって、これと呼応して禁止の意味を表す。
3・「〜するな」「〜してくれるな」と訳せる。
D終助詞
例1・さらに心より外に漏らすな。
例2・筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに
<判別のポイント>
1・動詞・助動詞の終止形から接続する。
2・ラ行変格活用語の場合は連体形から接続する。
3・文末に用いられるため、後続の語は助詞「と」以外は句点となる。
4・和歌の場合は「な」の直後で句切れとなる。
5・禁止の意味(例1)か、詠嘆の意味(例2)のいずれかである。
6・禁止の場合は「〜するな」、詠嘆なら「〜だなあ」と訳せる。
【「なむ」の判別】 ******************************************************************
※「む」が「ん」と表記されて、「なん」と書かれている場合もある。
@完了・強意の助動詞「ぬ」の未然形+推量の助動詞「む」の終止形・連体形
例・散りなむ後ぞ恋しかるべき。
<判別のポイント>
1・活用語の連用形から接続する。
2・形容詞の場合は補助活用の連用形から接続する。
3・後続の語は体言・連体形接続の付属語・助詞「と」・句点のいずれかである。
4・「きっと〜」「必ず〜」と訳し、「む」の意味をより強調する働きがある。
A係助詞
例・その竹の中にもと光る竹なむ一筋ありける。
<判別のポイント>
1・その文の末尾は活用語の連体形になる。
2・「なむ」を取り除いても文の意味は変わらない。
3・後続の語は読点、あるいは自立語である。
B終助詞
例・惟光、疾く参らなんと思す。
<判別のポイント>
1・活用語の未然形から接続する。
2・後続の語は句点、あるいは助詞「と」である。
3・「〜してほしい」と希望の意味を表す。
【「ぬ」の判別】 ********************************************************************
@完了の助動詞「ぬ」の終止形
例・果ては大きなる枝、心なく折り取りぬ。
<判別のポイント>
1・活用語の連用形から接続する。
2・後続の語は終止形接続の付属語、あるいは句点である。
3・「〜てしまう」と訳せる。
4・付属語なので「ぬ」の直前では文節に区切れない。
A打ち消しの助動詞「ず」の連体形
例1・さしたる事なくて人のがり行くは、良からぬ事なり。
例2・日数の速く過ぐるほどぞ、物にも似ぬ。
<判別のポイント>
1・活用語の未然形から接続する。
2・後続の語は体言、あるいは連体形接続の助詞である。
3・「〜ない」と訳せる。
4・「ぬ」の後が句点で後続の語がない場合(例2)は係り結びである。
この場合は前に係助詞「ぞ」「なむ」「や」「か」がある。
5・付属語なので「ぬ」の直前では文節に区切れない。
Bナ行下二段活用動詞「寝」の終止形
例・大納言殿「今更にな大殿籠りおはしましそ」とて、ぬべきものとも思いたらぬを・・・。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・後続の語は終止形接続の付属語、あるいは句点である。
4・自立語なので文節の先頭に来る。つまり「ぬ」の直前で文節に区切ることができる。
【「ね」の判別】 ********************************************************************
@完了の助動詞「ぬ」の命令形
例・まづ、この院を出でおはしましね。
<判別のポイント>
1・活用語の連用形から接続する。
2・後続の語は句点、あるいは助詞「と」である。
3・「〜てしまえ」と訳せる。
4・付属語なので「ね」の直前では文節に区切れない。
A打ち消しの助動詞「ず」の已然形
例1・返しせねば、情けなし。
例2・今様の事どもの珍しきを言ひ広め、もてなすこそ、また承けられね。
<判別のポイント>
1・活用語の未然形から接続する。
2・後続の語は已然形接続の助詞である。
3・「〜ない」と訳せる。
4・「ね」の後が句点で後続の語がない場合(例2)は係り結びである。
この場合は前に係助詞「こそ」がある。
5・付属語なので「ね」の直前では文節に区切れない。
Bナ行下二段活用動詞「寝」の未然形・連用形
例・恐ろしくて寝もねられず。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・後続の語は未然形あるいは連用形接続の付属語である。
4・自立語なので文節の先頭に来る。つまり「ね」の直前で文節に区切ることができる。
【「に」の判別】 ********************************************************************
@完了の助動詞「ぬ」の連用形
例・この枝、かの枝散りにけり。今は見所なし。
<判別のポイント>
1・活用語の連用形から接続する。
2・後続の語は連用形接続の助動詞に限られる。
3・「〜てしまう」と訳せる。
A打ち消しの助動詞「ず」の連用形
例・言へば得に言はねば胸に騒がれて心ひとつに嘆くころかな
<判別のポイント>
1・直前の語が「飽か」「知ら」「かて」「得」に限られる。
2・後続の語は助動詞以外の品詞である。
3・「〜ない」と訳せる。
4・平安時代以前に成立した作品にしか見られない。
B断定・存在の助動詞「なり」の連用形
例・年月経てもつゆ忘るるにはあらねど、去るものは日々に疎しと言へる事なれば・・・。
<判別のポイント>
1・活用語の連体形、あるいは体言から接続する。
2・後続の語は助詞、あるいは動詞「あり」「侍り」に限られる。
3・「〜で」、または「〜である」と訳せる。
C副詞の一部
例・もとの住みかに帰りてぞ、さらに悲しき事は多かるべき。
<判別のポイント>
1・「に」が他のどの形にも活用しない。
2・後続の用言(但し、直後ではない場合もある)を修飾する。
※これは「さらに」で一語の副詞である。したがって「に」を単語に区切ることはできない。
Dナリ活用形容動詞の連用形活用語尾
例・静かに思へば、万に過ぎにしかたの恋しさのみぞせんかたなき。
<判別のポイント>
1・「に」の直前は形容動詞の語幹になる。
2・「に」がナリ活用の各活用形に活用する。
3・後続の語は用言・助詞、または読点を挟んで文節が続く。
※これは「静かに」で一語の形容動詞である。したがって「に」を単語に区切ることはできない。
E格助詞
例1・今は昔、比叡の山に児ありけり。
例2・桂川、月の明きにぞ渡る。
<判別のポイント>
1・活用語の連体形、あるいは体言から接続する。
2・連体形から接続した場合(例2)、「に」の直前に体言を補って訳すことができる。
3・現代語と同様にそのまま「〜に」と訳せることが多い。
※例2の文は「月の明るい時に渡る」という意味で、「時」という体言を補って訳せる。
F接続助詞
例1・あまり憎きに、その法師をばまづ斬れ。
例2・十月晦日なるに、紅葉散らで盛りなり。
例3・命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。
<判別のポイント>
1・活用語の連体形からしか接続しない。
2・連体形の直後、つまり「に」の直前に体言を補って訳すことができない。
3・後続の語は読点を挟んで文節が続く。
4・後続の文節に対して順接(例1)・逆接(例2)・単純接続(例3)のいずれかの働きをする。
5・順接の場合は「〜ので」、逆接なら「〜のに」、単純接続なら「〜と」と訳せる。
【「たら」の判別】【「たり」の判別】【「たる」の判別】【「たれ」の判別】**********************
@存続・完了の助動詞「たり」の各活用形
例1・大きなる器に水を入れて、細き穴をあけたらんに・・・
例2・用ありて行きたりとも、その事果てなば疾く帰るべし。
例3・参りたる人ごとに山へ登りしは、何事かありけん。
例4・奥なる屋にて酒飲み物食ひ、囲碁・双六など遊びて、桟敷には人を置きたれば・・・
<判別のポイント>
1・活用語の連用形から接続する。
2・存続なら「〜ている」、完了なら「〜てしまう」と訳せる。
A断定・存在の助動詞「たり」の各活用形
例1・下として上に逆ふること、あに人臣の礼たらむや。
例2・国香より正盛に至るまで六代は諸国の受領たりしかども・・・
例3・人の奴たるものは、賞罰甚だしく、恩顧厚きを先とす。
例4・大王は今天下に君たれども、南に強楚の敵あり。
<判別のポイント>
1・体言から接続する。
2・断定なら「〜である」、存在なら「〜にある」と訳せる。
Bタリ活用の形容動詞の各活用語尾
例1・北には青山峨々として松吹く風索々たり。
例2・垂水山、鶉浜などいふ峨々たる嶮難をしのぎ・・・
<判別のポイント>
1・直前はタリ活用の形容動詞の語幹で、しかも漢語である。
2・直前の語幹に「と」をつけても意味の通じる単語になる。
※これは「索々たり」「峨々たる」で一語の形容動詞である。
したがって「たり」「たる」を単語に区切ることはできない。
【「る」の判別】 ********************************************************************
@存続・完了の助動詞「り」の連体形
例・万に、その道知れる者は、やんごとなきものなり。
<判別のポイント>
1・サ行変格活用動詞の未然形、または四段活用動詞の已然形に限り接続する。
2・後続の語は体言・連体形接続の付属語、または読点である。
3・存続なら「〜ている」、完了なら「〜てしまう」と訳せる。
A受身・自発・可能の助動詞「る」の終止形
例・冬はいかなる所にも住まる。
<判別のポイント>
1・四段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用動詞の未然形から接続する。
2・受身なら「〜れる」、自発なら「自然に〜れる」、可能なら「〜できる」と訳せる。
3・後続の語は句点、あるいは終止形接続の付属語である。
※「る」には尊敬の意味もあるが、終止形の用例はない。
B上二段活用・下二段活用活用動詞の連体形活用語尾
例1・かたちを恥づる心もなく、人に出で交らん事を思ひ・・・
例2・死を恐れざるにはあらず、死の近きことを忘るるなり。
<判別のポイント>
1・「る」の直前は動詞の終止形になる。
2・後続の語は体言・連体形接続の付属語、または読点である。
※これは「恥づる」「忘るる」で一語であり、「る」で単語に区切ることはできない。
助動詞の「る」は終止形からは接続しないので注意したい。
【「れ」の判別】 ********************************************************************
@存続・完了の助動詞「り」の已然形・命令形
例1・事を知り、世を知れれば、願はず、走らず。
例2・忘れ貝寄せ来て置けれ。
<判別のポイント>
1・サ行変格活用動詞の未然形、または四段活用動詞の已然形からしか接続しない。
2・後続の語は已然形接続の助詞(例1)、あるいは句点(例2)である。
3・存続なら「〜ている」、完了なら「〜てしまう」と訳せる。
A受身・尊敬・自発・可能の助動詞「る」の未然形・連用形
例1・しばし奏でて後、抜かんとするに、大方抜かれず。
例2・我がため面目あるやうに言はれぬる虚言は、人いたく抗はず。
<判別のポイント>
1・四段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用動詞の未然形からしか接続しない。
2・受身なら「〜れる」、尊敬なら「お〜になる」、自発なら「自然に〜れる」、可能なら
「〜できる」と訳せる。
3・後続の語は未然形(例1)・連用形接続(例2)の付属語である。
B上二段活用・下二段活用活用動詞の已然形活用語尾
例1・走り出づれば、地割れ裂く。
<判別のポイント>
1・「れ」の直前は動詞の終止形になる。
2・後続の語は已然形接続の付属語である。
※これは「恥づる」「走り出づ」で一語であり、「れ」で単語に区切ることはできない。
助動詞の「れ」は終止形からは接続しないので注意したい。
【「らむ」の判別】 ******************************************************************
@現在推量の助動詞「らむ」の終止形・連体形
例・親しき者、老いたる母など、枕上に寄りゐて泣き悲しめども、聞くらんとも覚えず。
<判別のポイント>
1・活用語の終止形から接続する。
2・ラ行変格活用語の場合は連体形から接続する。
3・「〜ているだろう」と訳せる。
A存続・完了の助動詞「り」の未然形+推量の助動詞「む」の終止形・連体形
例・後は誰にと志す物あらば、生けらんうちにぞ譲るべき。
<判別のポイント>
1・サ行変格活用動詞の未然形、または四段活用動詞の已然形からしか接続しない。
2・「ら」が存続なら「〜ている」、完了なら「〜てしまう」と訳せる。
3・「む」は婉曲で特に訳さない場合が多い。
Bラ行四段活用動詞・ラ行変格活用動詞の未然形活用語尾+推量の助動詞「む」の終
止形・連体形
例1・打ち割らんとすれど、たやすく割れず。
例2・心あらん友もがな。
<判別のポイント>
1・「らん」の直前の語はラ行四段動詞、またはラ行変格活用動詞の語幹になる。
※これは単語に区切ると例1は「打ち割ら」+「ん」、例2は「あら」+「ん」になる。
この種のものは、他にも「む」(「ん」も同じ)に接続する用言や助動詞に多いので注意
したい。
例1・女は髪のめでたからんこそ、目立つべかめれ。
例2・たとえ耳鼻こそ切れ失すとも、命ばかりはなどか生きざらん。
※例1はク活用の形容詞「めでたし」の未然形「めでたから」に助動詞「ん」、
例2は助動詞「ず」の未然形「ざら」に助動詞「ん」が接続したものであり、「らん」が一語
ではない。
【「らめ」の判別】 ******************************************************************
@現在推量の助動詞「らむ」の已然形
例・それはさこそ思すらめども、己は都に久しく住みて、馴れて見侍るに、人の心劣れりと
は思ひ侍らず。
<判別のポイント>
1・活用語の終止形から接続する。
2・ラ行変格活用語の場合は連体形から接続する。
3・「〜ているだろう」と訳せる。
Aラ行四段活用動詞・ラ行変格活用動詞の未然形活用語尾+推量の助動詞「む」の已然形
例1・かかりとて、都に帰らむ事も、まだ世に許されもなくては、人笑はれなる事こそまさらめ。
例2・思ひ出でて偲ぶ人あらんほどこそあらめ、そもまたほどなく失せて、聞き伝ふばかりの
末々は、あはれとやは思ふ。
<判別のポイント>
1・「らめ」の直前はラ行四段活用、またはラ行変格活用動詞の語幹である。
※これは単語に区切ると例1は「まさら」+「め」、例2は「あら」+「め」になる。
この種のものは、他にも「む」(「ん」も同じ)に接続する用言や助動詞に多いので注意
したい。
例1・老い衰へ給へるさまを見奉らざらむこそ恋しからめ。
例2・品・かたちこそ生まれつきたらめ、心はなどか、賢きより賢きにも移さば移らざらん。
※例1はシク活用の形容詞「恋し」の未然形「恋しから」に助動詞「む」、
例2は助動詞「たり」の未然形「たら」に助動詞「む」が接続したものであり、「らめ」が一
語ではない。
【「なら」の判別】 ******************************************************************
@断定・存在の助動詞「なり」の未然形
例・山ならねども、これらにも猫の経上がりて、猫またになりて、人とる事はあなるものを。
<判別のポイント>
1・活用語の連体形、あるいは体言から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連体形から接続する。
3・断定なら「〜である」、存在なら「〜にある」と訳せる。
4・付属語なので「なら」の直前では文節に区切れない。
Aラ行四段活用動詞「なる」の未然形
例・古京はすでに荒れて、新都はいまだならず。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・「〜になる」と訳せる。
4・自立語なので文節の先頭に来る。つまり、「なら」の直前で文節に区切れる。
Bナリ活用の形容動詞の未然形活用語尾
例・風烈しく吹きて、静かならざりし夜・・・
<判別のポイント>
1・「なら」の直前はナリ活用の形容動詞の語幹になる。
2・直前の語幹に「に」をつけても意味の通じる単語になる。
※これは「静かなら」で一語の形容動詞である。したがって「なら」を単語に区切ること
はできない。
【「なり」の判別】 ******************************************************************
@断定・存在の助動詞「なり」の連用形・終止形
例1・御所へ参りたる間に盗めるなりけり。
例2・世には心得ぬ事の多きなり。
例3・つかの間も忘るまじきなり。
例4・幣には御心の行かねば、御船も行かぬなり。
例5・道を正しくせば、その化遠く流れん事を知らざるなり。
<判別のポイント>
1・活用語の連体形、あるいは体言から接続する。(例1)
2・形容詞の場合は基本活用の連体形から接続する。(例2)
3・形容詞型活用の助動詞の場合は基本活用の連体形から接続する(例3)
4・助動詞「ず」の場合は連体形「ざる」「ぬ」のいずれからも接続する。(例4)(例5)
5・後続の語は句読点か、連用形・終止形接続の付属語である。
6・断定なら「〜である」、存在なら「〜にある」と訳せる。
7・付属語なので「なり」の直前では文節に区切れない。
A伝聞・推定の助動詞「なり」の連用形・終止形
例1・火あやふしと言ふ言ふ、預かりが曹司の方に往ぬなり。
例2・人の国にかかる習ひあなり。
例3・いと良かなり。
例4・参り来て見出し立てんとするを、寄せ給ふまじかなり。
例5・海賊は夜歩きせざなり。
<判別のポイント>
1・活用語の終止形から接続する。(例1)
2・ラ行変格型活用語の場合は連体形から接続する。(例2)
3・形容詞の場合は補助活用の連体形から接続する。(例3)
4・形容詞型活用の助動詞の場合は補助活用の連体形の短縮形から接続する(例4)
5・助動詞「ず」の場合は連体形「ざる」の短縮形から接続する。(例5)
6・後続の語は句読点か、連用形・終止形接続の付属語である。
7・伝聞なら「〜とかいう」、推定なら「〜らしい」と訳せる。
8・付属語なので「なり」の直前では文節に区切れない。
※例2の「なり」の直前にある「あ」とは、ラ行変格動詞「あり」の連体形「ある」の短縮形。
詳細は【用言の短縮形】を参照。
Bラ行四段活用動詞の「なる」の連用形
例1・古き墳はすかれて田となりぬ。
例2・海のほとりにとまれる人も遠くなりぬ。
例3・船の人も見えずなりぬ。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。(例2)
3・助動詞「ず」の場合は連用形「ず」から接続する。(例3)
4・後続の語は用言・連用形接続の助詞、あるいは読点を挟んで文節に続く。
5・「〜になる」と訳せる。
6・自立語なので文節の先頭に来る。つまり、「なり」の直前で文節に区切れる。
Cナリ活用の形容動詞の連用形・終止形活用語尾
例・忍びたるけはひ、いとものあはれなり。
<判別のポイント>
1・「なり」の直前はナリ活用の形容動詞の語幹になる。
2・直前の語幹に「に」をつけても意味の通じる単語になる。
3・後続の語は句読点、あるいは連用形・終止形接続の付属語である。
※これは「ものあはれなり」で一語の形容動詞である。
したがって「なり」を単語に区切ることはできない。
【「なる」の判別】 ******************************************************************
@断定・存在の助動詞「なり」の連体形
例・傍らなる足鼎を取りて、頭に被きたれば・・・
<判別のポイント>
1・活用語の連体形、あるいは体言から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連体形から接続する。
3・後続の語は体言・読点、あるいは連体形接続の付属語である。
4・断定なら「〜である」、存在なら「〜にある」と訳せる。
5・付属語なので「なる」の直前では文節に区切れない。
A伝聞・推定の助動詞「なり」の連体形
例1・男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。
例2・駿河国にあなる山の頂に持てつくべきよし仰せ給ふ。
<判別のポイント>
1・活用語の終止形から接続する。(例1)
2・ラ行変格活用語の場合は連体形の短縮形から接続する。(例2)
3・形容詞の場合は補助活用の連体形から接続する。
4・後続の語は体言・読点、あるいは連体形接続の付属語である。
5・伝聞なら「〜とかいう」、推定なら「〜らしい」と訳せる。
6・付属語なので「なる」の直前では文節に区切れない。
Bラ行四段活用動詞の「なる」の終止形・連体形
例・あるいは大家滅びて、小家となる。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・後続の語は句読点・体言、または終止形・連体形接続の付属語である。
4・「〜になる」と訳せる。
5・自立語なので文節の先頭に来る。つまり、「なる」の直前で文節に区切れる。
Cラ行下二段活用動詞の「なる」の終止形
例・人はまだ見馴ると言ふべきほどにもあらず。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・後続の語は句点、あるいは終止形接続の付属語である。
4・自立語なので文節の先頭に来る。つまり、「なる」の直前で文節に区切れる。
Dナリ活用の形容動詞の連体形活用語尾
例・人の心は愚かなるものかな。
<判別のポイント>
1・「なる」の直前はナリ活用の形容動詞の語幹になる。
2・直前の語幹に「に」をつけても意味の通じる単語になる。
3・後続の語は体言・読点、あるいは連体形接続の付属語である。
※これは「愚かなる」で一語の形容動詞である。
したがって「なる」を単語に区切ることはできない。
【「なれ」の判別】 ******************************************************************
@断定・存在の助動詞「なり」の已然形・命令形
例・今は亡き人なれば、かばかりの事も忘れ難し。
<判別のポイント>
1・活用語の連体形、あるいは体言から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連体形から接続する。
3・後続の語は句点、または已然形接続の助詞である。
4・断定なら「〜である」、存在なら「〜にある」と訳せる。
5・付属語なので「なれ」の直前では文節に区切れない。
A伝聞・推定の助動詞「なり」の已然形
例・かかるとみの事には、誦経などこそはすなれ。
<判別のポイント>
1・活用語の終止形から接続する。
2・ラ行変格活用語の場合は連体形から接続する。
3・形容詞の場合は補助活用の連体形から接続する。
4・後続の語は句点、または已然形接続の付属語である。
5・伝聞なら「〜とかいう」、推定なら「〜らしい」と訳せる。
6・付属語なので「なれ」の直前では文節に区切れない。
Bラ行四段活用動詞の「なる」の已然形・命令形
例・日高くなれど、起き上がり給はねば・・・
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・後続の語は句点、または已然形接続の付属語である。
4・「〜になる」と訳せる。
5・自立語なので文節の先頭に来る。つまり、「なれ」の直前で文節に区切れる。
Bラ行下二段活用動詞の「なる」の未然形・連用形
例・家の犬、常になれたり。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・後続の語は未然形・連用形接続の付属語、あるいは読点を挟んで文節に続く。
4・自立語なので文節の先頭に来る。つまり、「なれ」の直前で文節に区切れる。
Cナリ活用の形容動詞の已然形・命令形活用語尾
例・有明の月さやかなれども、隈なくはあらぬに・・・
<判別のポイント>
1・「なれ」の直前はナリ活用の形容動詞の語幹になる。
2・直前の語幹に「に」をつけても意味の通じる単語になる。
3・後続の語は句点、または已然形接続の助詞である。
※これは「ものあはれなり」で一語の形容動詞である。
したがって「なり」を単語に区切ることはできない。
【「す」の判別】 ********************************************************************
@サ行変格活用動詞「す」の終止形
例・音に聞きし猫また、あやまたず足もとへふと寄り来て、やがて掻きつくままに、
首のほどを食はんとす。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・「〜する」と訳せる。
4・自立語なので文節の先頭に来る。したがって、「す」の直前で文節に区切る
ことができる。
5・「心す」「御覧ず」などの複合型の場合は、直前が語幹になる。
A使役の助動詞「す」の終止形
例・少将・命婦などにも聞かすな。
<判別のポイント>
1・四段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用動詞の未然形に限り接続する。
2・「〜せる」と訳せる。
3・付属語なので「す」の直前では文節に区切れない。
※使役の助動詞「す」には尊敬の意味もあるが、尊敬の用法は連用形に限られ
るため、上記の例は使役である。
【「する」の判別】 ******************************************************************
@サ行変格活用動詞「す」の連体形
例・しばし奏でて後、抜かんとするに、大方抜かれず。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・「〜する」と訳せる。
4・自立語なので文節の先頭に来る。したがって、「する」直前で文節に区切る
ことができる。
5・「心す」「御覧ず」などの複合型の場合は、直前が語幹になる。
A使役の助動詞「す」の連体形
例・下部に酒飲ますることは心すべきことなり。
<判別のポイント>
1・四段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用動詞の未然形に限り接続する。
2・「〜せる」と訳せる。
3・付属語なので「する」の直前では文節に区切れない。
※使役の助動詞「す」には尊敬の意味もあるが、尊敬の用法は連用形に限られる
ため、上記の例は使役である。
【「すれ」の判別】 ******************************************************************
@サ行変格活用動詞「す」の已然形
例・打ち割らんとすれど、たやすく割れず。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・「〜する」と訳せる。
4・自立語なので文節の先頭に来る。したがって
「すれ」の直前で文節に区切ることができる。
5・「心す」「御覧ず」などの複合型の場合は、直前が語幹になる。
A使役の助動詞「す」の已然形
例・親のあはすれども、聞かでなむありける。
<判別のポイント>
1・四段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用動詞の未然形に限り接続する。
2・「〜せる」と訳せる。
3・付属語なので「すれ」の直前では文節に区切れない。
※使役の助動詞「す」には尊敬の意味もあるが、尊敬の用法は連用形に限られる
ため、上記の例は使役である。
【「せよ」の判別】 ******************************************************************
@サ行変格活用動詞「す」の命令形
例1・天下の人の品高きやと問はむ例にもせよかし。
例2・しばらくおいて愛せよ。
<判別のポイント>
1・活用語の場合は連用形から接続する。
2・形容詞の場合は基本活用の連用形から接続する。
3・「〜する」と訳せる。
4・自立語なので文節の先頭に来る。したがって、「せよ」直前で文節に区切ることができる。
5・「心す」「御覧ず」などの複合型の場合は、直前が語幹になる。(例2)
A使役の助動詞「す」の命令形
例・かれに物食はせよ。
<判別のポイント>
1・四段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用動詞の未然形に限り接続する。
2・「〜せる」と訳せる。
3・付属語なので「せよ」の直前では文節に区切れない。
※使役の助動詞「す」には尊敬の意味もあるが、尊敬の用法は連用形に限られるため、
上記の例は使役である。
【ラ変型活用語】 ******************************************************************
下記の活用語が該当する。これらの活用語から終止形接続の助動詞に接続する際は連体
形から接続する点に注意したい。
@ラ行変格活用動詞
例・なほ物思すことあるべし。(※終止形「あり」からは接続しない)
A形容詞(補助活用)
例・もとの住みかに帰りてぞ、さらに悲しき事は多かるべき。
(※終止形「多し」からは接続しない)
B形容動詞
Cラ行変格活用に準じた活用をする助動詞
(a)過去・詠嘆「けり」
(b)存続・完了「たり」「り」
(c)婉曲・推量「めり」
(d)伝聞・推定「なり」
(e)断定・存在「なり」「たり」
例・さる者ありとは、鎌倉殿までもしろしめされたるらんぞ。
(※終止形「たり」からは接続しない)
D形容詞型活用をする助動詞の補助活用
(a)推量「べし」
(b)打消推量「まじ」
(c)希望「まほし」「たし」
例・もし出で給ひぬべくやと思ひて詣で来つれど、帰りては罪得べかめり。
(※終止形「べし」からは接続しない。なお「べか」は「べし」の連体形「べかる」の短縮形)
E打ち消しの助動詞「ず」の補助活用
例・海賊は夜歩きせざなり。
(※終止形「ず」からは接続しない。なお「ざ」は「ず」の連体形「ざる」の短縮形)
【用言の短縮形】 *****************************************************************
下記の用言は連体形に短縮形が存在する。短縮形が用いられるのは、これらの用言から
「らし」「めり」「なり」(伝聞・推定)に接続するときである。
@ラ行変格活用動詞
例・今ひときは心も浮き立つものは、春の気色にこそあめれ。
(元の形は「あり」の連体形「ある」)
A形容詞
例・いでや、この世に生まれては、願はしかるべき事こそ多かめれ。
(元の形は「多し」の連体形「多かる」)
【助動詞の短縮形】 ***************************************************************
下記の助動詞は、いずれも連体形に短縮形が存在する。短縮形が用いられるのはこれら
の助動詞から「らし」「めり」「なり」(伝聞・推定)に接続するときである。
@過去・詠嘆「けり」
例・春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山
(元の形は「けり」の連体形「ける」)
A存続・完了「たり」
例・守の館より、呼びに文もて来たなり。
(元の形は「たり」の連体形「たる」)
B打ち消し「ず」
例・この頃となりては、ただ事にも侍らざめり。
(元の形は「ず」の連体形「ざる」)
C断定・存在「なり」
例・子になり給ふべき人なめり。
(元の形は「なり」の連体形「なる」)
D推量「べし」
例・すずろなる死にをすべかめるかな。
(元の形は「べし」の連体形「べかる」)
E打消推量「まじ」
例・仏の御しるべは暗きに入りてもさらに違ふまじかなるものを。
(元の形は「まじ」の連体形「まじかる」)