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【 文 】 ************************************************************************

      書き始めから句点(「。」)までの一続きをさす。作者の叙述や登場人物の心情
     など、何らかの意味内容を表現する。

      例1・今は昔、比叡の山に児ありけり。
         (今ではもう昔の話だが、比叡山延暦寺に少年がいた。)

      文は通常、いくつかの単語から成り立つが、例2に示すように一語の場合もある。

      例2・げに。
         (なるほど。)

【 文節 】 **********************************************************************

      文を意味上判断できる最小単位に区切ったものをいう。

     (例)今は昔、比叡の山に児ありけり。
        →今は/昔、/比叡の/山に/児/ありけり。

      この例で解説すると、たとえば「今」と「は」で区切るとどうなるか?「今」の意味は
     英語の”now”だからわかるけど、「は」の意味が「は」だけ取り出した時にわからな
     くなってしまう。これが「意味上判断できる最小単位」という意味である。

       もう1例、現代の文で考えてみよう。

     (例)きのうぼくは東京ディズニーランドへ行った。
        →きのう/ぼくは/東京ディズニーランドへ/行った。

      これが正解になるわけだが、ポイントは区切ったところに「ね」が入るということだ。
     幼児がしゃべるように読んでみよう。
        →きのうね/ぼくはね/東京ディズニーランドへね/行った。

    関連項目・・・ 単語 自立語 付属語

【 単語 】 **********************************************************************

      言葉を構成する上の最小単位。英語の場合は、原則として単語と単語の間に空
     間があるから文を見た瞬間にわかるが、日本語の場合は意識しないとわからない。

      (例)今は昔、比叡の山に児ありけり。
         →今/は/昔、/比叡/の/山/に/児/あり/けり。

      個々の単語はすべて文法上の働きから「動詞」「名詞」など、必ず何らかの品詞
      に属している。

    関連項目・・・ 単語 自立語 付属語 品詞

【 自立語 】 ********************************************************************

      単語のうち単独で一文節を構成することのできるものを言う。言い換えると、その
     一語だけを取り出しても意味がわかる語、ということだ。

      【単語】の項であげた例をもとに解説すると、

          今/は/昔、/比叡/の/山/に/児/あり/けり。

      このなかで、「今」「昔」「比叡」(これは地名)「山」「児」「あり」(漢字では「有り」)の
     6語は、単独に取り出しても意味内容がわかるから自立語になる。
      逆に、「は」「の」「に」「けり」は、文からそれだけを取り出してしまうと、何を意味する
     単語かわからなくなってしまう。こういう語を付属語という。

      文を文節に区切ったとき、自立語は単独で一文節を構成できるが、付属語は何らか
     の自立語の後にくっつかなければ文節を構成できない。

    関連項目・・・ 単語 付属語 品詞

【 付属語 】 ********************************************************************

      単語のうち単独で一文節を構成することができないものを言う。言い換えると、元
     の文からその一語だけを取り出してしまうと、意味内容がわからなくなってしまう語、
     ということだ。

      【単語】の項であげた例をもとに解説すると、

           今/は/昔、/比叡/の/山/に/児/あり/けり。

      このなかで、「今」「昔」「比叡」(これは地名)「山」「児」「あり」(漢字では「有り」)の
     6語は、単独に取り出しても意味内容がわかる。しかし、逆に「は」「の」「に」「けり」は、
     文からそれだけを取り出してしまうと、何を意味する単語かわからなくなってしまう。
     こういう語を付属語といい、自立語とは対になる語だ。

      すべての単語はその語のもつ文法上の性質から、必ず何らかの品詞に属するが、
     助詞と助動詞は付属語であり、それ以外の品詞が自立語であるということも覚えて
     おこう。

      文を文節に区切ったとき、自立語は単独で一文節を構成できるが、付属語は、必
     ず何らかの自立語の後にくっつかなければ文節を構成できない。

    関連項目・・・ 単語 付属語 品詞

【 品詞 】 **********************************************************************

      単語を文法上の性質に従って分類したもの。次の10品詞に分類できる。

     動詞・形容詞・形容動詞・副詞・連体詞・接続詞・感動詞・名詞・代名詞・助詞・助動詞

【 動詞 】 **********************************************************************

      動作・存在を表す。自立語で述語になる。形容詞・形容動詞とともに活用するので、
     用言である。

       例1・蟻の如くに集まりて、東西に急ぎ、南北に走る
         (人は、蟻のように群れ集まっては、東や西に急いで行ったり、あるいは南や
         北に向かって走ったりしている。)

      例2・老いたるあり、若きあり
         (年をとった人もいるし、若い人もいる。)

     例1の「集まり」「急ぎ」「走る」はいずれも動作を表している。
     例2は存在を表している。

      動詞の活用パターンは下記の9種類である。

          四段活用・・・・・「書く」「言ふ」など多数ある。
          上一段活用・・・「着る」「見る」など15語のみ。
          上二段活用・・・「尽く」「落つ」など多数ある。
          下一段活用・・・「蹴る」一語のみ。
          下二段活用・・・「受く」「求む」など多数ある。
          カ行変格活用・・・「来」と、その複合語(「出で来」など)のみ。
          サ行変格活用・・・「す」と、その複合語(「興ず」など)のみ。
          ナ行変格活用・・・「死ぬ」「往ぬ」2語のみ。
          ラ行変格活用・・・「あり」「居り」「侍り」「いますかり」4語のみ。

      活用語尾の属する行はア行からワ行まで、五十音の全ての行にまたがるため、
     文法書や古語辞典には「○行×段活用」もしくは「○行変格活用」と表示される。

     例1・行く→カ行四段活用 
     例2・心す→サ行変格活用

      動詞の終止形(その語で一文を言い終える場合の形)は原則として例1にあるよ
     うに五十音図にある各行の「ウ」の音となる。但し、ラ行変格活用の場合は例2に
     示すように「り」終わる。

      例1・一度は恨み、一度は喜ぶ。→「ぶ」はバ行の「ウ」の音
      例2・古き歌の詞書に「枯れたる葵にさして遣はしける」とも侍り

【形容詞】 ***********************************************************************

      ものの状態や性質を表す。自立語で文の述語になる。動詞・形容動詞とともに
     活用するので、用言である。

      例1・天井の高きは、冬寒く、灯暗し
         (天井の高い部屋は冬は寒く、夜は照明が暗い。)

      例2・良き人は怪しき事を語らず。
         (身分・教養のある人は妙なことを語ったりはしない。)

     例1の「高き」「寒く」「暗し」は、ものの状態を表している。
     例2の「良き」「怪しき」は、ものの性質を表している。

      形容詞の終止形(その語で一文を言い終える場合の形)は、原則として例1に
     あるように「し」で終わる。 但し、一部の語は例2に示すように「じ」で終わる。

      例1・山吹の清げに、藤のおぼつかなきさましたる、すべて思ひ捨てがたきこと
         多し

      例2・その、死に臨める事、軍の陣に進めるに同じ

      「長い」「短い」「優しい」「美しい」など、現代語の形容詞は「い」で終わる。
     一部の例外はあるが、「い」で言い切る語は形容詞と考えてよい。

      例1・「長」→古語では「長
      例2・「優しい→古語では「優

      形容詞の活用パターンは、ク活用・シク活用の2種類である。動詞とは異なり、
     「ア行」「カ行」といった「行」は関係ない。

【形容動詞】 *********************************************************************

      ものの状態や性質を表す。自立語で文の述語になる。動詞・形容動詞とともに
     活用するので用言である。

      例1・静かに思へば、万に過ぎにしかたの恋しさのみぞ、せんかたなき。
        (心静かに思いにふけると、何事も過ぎ去った時代に対する懐かしさだけは、
        何とも抑えられないものである。)

      例2・殊にかたくななる人ぞ「この枝かの枝散りにけり。今は見所なし。」などは
         言ふめる。
        (特に物の情趣を理解しない人は「この枝もあの枝も花が散ってしまった。
        もう今となっては見る価値がない。」などと言うようである。)

      形容動詞の終止形(その語で一文を言い終える場合の形)は、原則として例1に
     あるように「なり」で終わる。但し、一部の語は例2に示すように「たり」で終わる。

      例1・蚊遣火ふすぶるも、あはれなり
         (蚊を追いやるための火を焚いているのも、趣深いものだ。)

      例2・吾が生すでにさだたり
         (自分の生命はもう道につまづいて進めないような状態だ。)

      「静かだ」「華やかだ」「愚かだ」など、現代語の形容動詞は「だ」で終わる。一部の
     例外はあるが、「だ」で言い切る語は形容動詞と考えてよい。

      例1・「静か」→古語では「静かなり」
      例2・「愚か」→古語では「愚かなり」

      形容動詞の活用パターンは、ナリ活用・タリ活用の2種類である。動詞とは異なり、
     「ア行」「カ行」といった「行」は関係ない。

【副詞】 *************************************************************************

      用言(動詞・形容詞・形容動詞)を修飾する語。自立語で活用がない。

       例・御果物、御酒など、良きやうなるけはひしてさし出されたる、いと良し。
         (お果物やお酒などを上品な声で差し出しなさるのは、とても良い。)

      この例では「良し」を修飾し、その内容を特定している。

      副詞は意味上、3種類に分類できる。

      @状態を表す副詞・・・動作・作用がどのような状態でなされるかを表す。
                    時間的関係を表すもの(例1)、様子を表すもの(例2)、
                    指示する働きをするもの(例3)とに分けられる。

       例1・やがてかけ籠らましかば、口惜しからまし。
          (訪問客を送り出すとすぐに、妻戸を閉めて掛け金をかけて部屋の中に
           引き籠ってしまったら、残念なことであろう。)

       例2・希有にして助かりたるさまにて、這ふ這ふ家に入りにけり。
          (かろうじて助かったという有様で、這いずりながら家に入ってしまった。)

       例3・ばかりの人の、無下にこそ心弱き気色を人の国にて見え給ひけれ。
          (それほどの人がひどく気弱な姿を外国でお見せになったものだなぁ。)

      A程度を表す副詞・・・動作・作用・状態・性質の程度を表す。

       例・世の人あひ逢ふ時、暫くも黙止することなし。必ず言葉あり。
         (世間の人は、お互いに顔をあわせると、わずかな間でも黙っていることが
         ない。きっと言葉が出てくる。)

      B陳述の副詞・・・一定の語句とセットになって使われることで、述語の叙述方
                 法を限定する働きをもつもの。

       例・道知れる人は、さらに信も起こさず。
         (その専門の道に明るい人は、全く信仰する気も起こさない。)

       陳述の副詞には意味別に9種類ある。詳細は【陳述の副詞】の項を参照。

【連体詞】 ***********************************************************************

      体言(名詞・代名詞)を修飾する語。自立語で活用がない。

       例・さる物を我も知らず。
         (そのような物は私も知らない。)

      この例では「物」を修飾し、その物を中身を特定している。

      連体詞は他の品詞から転じて成立したものばかりで、その転成方法は次の3種
     類である。

      @動詞の連体形

       例・ある人、清水へ参りけるに・・・
         (ある人が清水観音へ参詣したときに・・・)

      A動詞+助動詞の連体形

       例・往んじ安元三年四月廿八日かとよ。
         (去る安元3年4月28日のことであっただろうか。)

       ※もともとはナ行変格活用動詞「往ぬ」の連用形撥音便に過去の意を表す助動
        詞「き」の連体形(連濁)がついた形。

      B副詞+動詞の連体形

       例・かかる病もあるにこそありけれ。
         (このような病気も存在するのであった。)

       ※もともとは副詞「かく」にラ行変格活用動詞「あり」がついた形。

      C副詞+動詞+助動詞の連体形

       例・さしたる事なくて人のがり行くは、良からぬ事なり。
         (たいした用事もなく他人のもとへ訪問するのは、良くないことである。)

       ※もともとは「さ」が副詞、「し」がサ行変格活用動詞「す」の連用形、「たる」が
        存続の意を表す助動詞「たり」の連体形である。

【接続詞】 ***********************************************************************

      文と文、あるいは文節と文節とをつなげ、そこで意味を持たせる語。自立語で活
     用がなく、修飾語にもならない。

      例・犬は守り防くつとめ人にまさりたれば、必ずあるべし。されど、家ごとにあるも
        のなれば、殊更に求め飼はずともありなん。
       (犬は家を守ったり盗人を防ぐ役目が人よりも優れているから、必ず飼うのがよ
        い。しかし、どの家でも飼われているから、わざわざ探して飼わなくてもよいだ
        ろう。)

      この例では、「犬を飼うのがよい。」という一文と、「わざわざ探して飼わなくてもよ
     い。」という一文とを、「しかし」という意味をもたせてつないでいる。

      接続詞は意味上、9つに分類することができる。
     このうち、@Aは条件接続、B〜Fは対等接続に該当する。

      @順接・・・前述の内容と順当な関係で後続の内容につなげること。
             下記の語例の他、「かくて」「かかれば」「しかれば」「ゆゑに」「しかして」
            が、これに該当する。

       例・片田舎よりさし出でたる人こそ、万の道に心得たるよしのさし答へはすれ。
         されば
、世に恥づかしきかたもあれど、自らもいみじと思へる気色、かたくな
         なり。
        (田舎から都に出たばかりの人は、何事でもよくわかっている様子の返答をす
         る。だから、聞いているこちらが恥ずかしさを感じることもあるが、その当人
         も『自分は偉い』と思っている様子は見苦しい。)

      A逆接・・・前述の内容とは矛盾する関係で後続の内容につなげること。
             下記の語例の他、「されど」「さりとて」「さるは」「しかるに」「しかるを」
            が、これに該当する。

       例・人の心すなほならねば、偽りなきにしもあらず。されども、自づから正直の
         人、などかなからん。
        (人の心は素直ではないから偽善もないわけではない。しかし、稀には根か
         ら心の正直な人がどうしていないことがあろうか。いや、いるはずだ。)

      B並列・・・複数の事柄を対等な関係で並べること。
            下記の語例の他、「また」「かつ」「ならびに」が、これに該当する。

       例・余りに深く信を起こして、なほ煩はしく虚言を心得添ふる人あり。また、何と
         しても思はで、心をつけぬ人あり。
         (あまりにも嘘を深く信じて、そのうえにうるさいほど嘘とわかって付け足す人
         がいる。また、嘘を聞いても何とも思わず、無関心な人もいる。)

      C添加・・・ある事柄に別の事柄を付け加えること。
            下記の語例の他、「および」「しかして」が、これに該当する。

       例・ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
        (川の流れは絶えることがなく、そのうえ、その水は元の水ではない。)

      D選択・・・並列された事柄のうちのいずれか一方であることを表す。
            下記の語例の他、「あるは」「もしくは」「また」「はた」「はたまた」が、こ
            れに該当する。
       
       例・枝の長さ七尺、或は六尺、返し刀五分に切る。  
         (枝の長さは七尺、もしくは六尺で、切り口は返し刀で五分の長さに切る。)

      E例示・・・前述の内容について、例を挙げて具体的に述べること。

       例・たとへば、碁を打つ人、一手も徒にせず、人に先立ちて小を捨て大につく
         が如し。
         (たとえば、碁を打つ人が一手も無駄にせず、相手に先んじて利益の小さい
         石を捨て、利益の大きな石を生かして勝負するようなものだ。)

      F説明・・・前述の内容を言い換えて、より詳細に述べること。

       例・みさごは荒磯に居る。すなはち、人を恐るるが故なり。
         (みさごは荒い磯に住みついている。それはつまり、人を怖がっているため
         である。)

      G転換・・・前述の内容から、話題を転換すること。
            下記の語例の他、「そもそも」「さるほどに」が、これに該当する。

       例・さて、このほどの事ども細やかに聞え給ふに、夜深き鳥も鳴きぬ。
         (さて、このごろのことなどを詳しくお話申し上げているうちに、夜が更けて、
         夜中の一番鳥も鳴いてしまった。)

      H例外・・・前述の内容に対する例外を示すこと。

       例・飢えず、寒からず、風雨に侵されずして、閑かに過ぐすを楽しびとす。
         ただし
、人みな病あり。病に冒されぬれば、その愁へ忍び難し。
         (衣食住に不自由せず、静かに日々を過ごすことを、人間の楽しみとする。
         ただし、人間はみんな病気にかかることがある。病にかかると、その苦しみ
         は耐えがたい。)

【感動詞】 ***********************************************************************

      感動・呼びかけ・応答など、作者や登場人物の心情を表す語。
     自立語で活用がなく、修飾語にもならない。

      例1・あな、わびし。
         (ああ、つらい。)

      例2・いざ、かぐや姫。きたなき所にいかでか久しくおはせむ。
         (さあ、かぐや姫よ。穢れた場所になぜいつまでもいらっしゃるのか。)

      例3・無期の後に「えい。」といらへたりければ、
         (ずっと後になってから「はい。」と返事したので・・・)

      例1は感動、例2は呼びかけ、例3は応答である。

【名詞】 ************************************************************************

      事物の名称を表す語。物の実体を表すので、体言である。自立語で活用がなく、
     文の主語になる。名詞はその性質上、次の4つに分類することができる。

      @普通名詞・・・同じ種類の事物全体に用いられる一般的な名詞。

       例・ありたき事は、まことしき作文和歌管弦
        (男として身につけたい教養は、本格的な経書学問漢詩を作ること・和歌
        
を詠むこと・管弦楽を演奏すること。)

      A固有名詞・・・人名・地名など、特定の事物に限って用いられる名詞。

       例・丹波出雲といふ所あり。
        (丹波の国に出雲という場所がある。)

      B数名詞・・・数字に単位がついた形で構成されるもの。

       例・良き友、三つあり。一つには物くるる友。二つには医師。三つには智恵ある
         友。
         (良い友人の条件は3つある。第1に、物をくれる友人。第2には医者。第3
         には智恵がある友人。)

      C形式名詞・・・実質的な意味をもつ事物ではなく、連体修飾語を受けて外見上
                だけ名詞としての働きをするもの。

       例・子といふもの、なくてありなん。
         (子どもというものは、持たないでいるのが良いであろう。)

【代名詞】 ***********************************************************************

      人物や事物を指し示すために用いる語。体言。名詞と同様に、自立語で活用が
     なく、文の主語になる。代名詞は大きく2つに分類できる。

      A・人称代名詞

       @自称・・・一人称。自分側の人を表す。
             自称の人称代名詞は「わ」「われ」「おの」「おのれ」「まろ」「あ」「あれ」
             の7語である。

       例・こそ山だちよ。
         (このが山賊だ。)

       A対称・・・二人称。相手側の人を表す。
              対称の人称代名詞は「なんぢ」「きみ」「な」「なれ」「いまし」「それ」の
             6語である。

       例・それはさこそ思すらめども・・・、
         (あなたはそのようにお思いになっているだろうが・・・)

       B他称・・・三人称。この場にいない人を表す。
              他称の人称代名詞は「か」「かれ」の2語である。

       例・誰そかれと我をな問ひそ九月の露に濡れつつ君待つ我を
         (「誰ですか、あの人は。」と、私を指して言わないで。九月の露に濡れながら
         待つ私を。)

       C不定称・・・名前のわからない人を表す。
               不定称の人称代名詞は「た」「たれ」「なにがし」「それがし」の4語
               である。

       例・筑紫になにがしの押領使などいふやうなる者のありけるが・・・
         (筑紫の国になんとかという押領使などという役職の人がいたが・・・)

      B・指示代名詞

      @〜Cの区分けのそれぞれに、指示する対象別に3種類に分けられる。「  」内
     の指示代名詞のうち、赤文字は事物、緑文字は場所、青文字は方向をさす語であ
     る。また、@ABは作者や登場人物からの物理的な距離だけでなく、心理的な距
     離感をも表している。

       @近称・・・作者・登場人物から近い場所を表す。
              近称の指示代名詞は「」「これ」「ここ」「こなた」「こち」の5語である。

       例・資朝卿、これを見て「年の寄りたるに候ふ。」と申されけり。
        (資朝卿はこれを見て「年をとっているのでございます。」と申し上げられた。)

       A中称・・・作者・登場人物から中距離の場所を表す。
              中称の指示代名詞は「」「それ」「そこ」「そなた」「そち」の5語であ
              る。

       例・の根のありければ、「きりくひの僧正」と言ひけり。
         (の伐った木の根がまだ残っていたので、人々は「きりくいの僧正」とあだ
         名をつけた。)

       B遠称・・・作者・登場人物から遠い場所を表す。
              遠称の指示代名詞は「」「あれ」「」「かれ」「あしこ」「かしこ
             「あなた」「かなた」「あち」の9語である。

       例・この名然るべからずとて、の木を伐られにけり。
         (このあだ名はとんでもないだと言って、の木を伐っておしまいになった。)

       C不定称・・・作者・登場人物が認識していない場所をさす。
               不定称の指示代名詞は「なに」「いづれ」「いづこ」「いづく
               「いづち」「いづかた」の6語である。

       例・いづくへ行きつるぞ。
         (どこへ行ったのか。)

【助動詞】 **********************************************************************

      付属語で活用があり、主として直前の自立語にさまざまな意味を添える働きを
     する語。

      例・五条内裏には妖物ありけり
        (五条大宮の皇居には化け物がい。)

      この例では、化け物の存在に「けり」という助動詞を使うことで、過去の意を添え
     ている。

      助動詞は、奈良時代に限って用いられたものを除いて、全部で28語ある。
      (蔵庫2 の冒頭 【き】から【しむ】 までを参照。)

      各助動詞は、どの品詞やどの活用形から接続するかが全て決まっており、接続
     別に下記の表のように分類できる。

未然形から接続する語







基本形










  


使

使











意 味




まほしく









未然形













連用形









終止形



















連体形

















れ  
已然形









よ 
命令形



























活用の形態
その他から接続する語




基本形










意 味




未然形








連用形




終止形




連体形


已然形


命令形





活用の形態
連用形から接続する語




基本形













過去/詠嘆

意 味


たく





未然形






連用形







終止形









連体形








か  
已然形



命令形




















活用の形態
終止形から接続する語






基本形























意 味



まじく


べく
未然形










連用形







終止形












連体形









已然形
命令形













活用の形態

    ※「その他から接続する助動詞」については次の通りである。

     「なり」 →活用語の連体形・体言
     「り」   →サ行変格活用動詞の未然形・四段活用動詞の已然形
     「たり」 →体言
     「ごとし」→体言

    ※「意味」の欄に「他」とあるものは、記載されているもの以外にも数々の意味で使わ
     れていることを示す。詳細は個々の助動詞の項を参照。

【助詞】 ************************************************************************

      付属語で活用がなく、主として直前の自立語にさまざまな意味を添えたり、その
     語と他の語との関係を示す語。助詞はその性質上、次の6つに分類することがで
     きる。なお、個々の助詞については、蔵庫3 の該当項目を参照。

      @格助詞・・・体言や活用語の連体形の直後に使われ、その語と文中の他の語
              との関係を示す働きをする。

       例・良き細工は、少し鈍き刀使ふいふ。妙観刀はいたく立たず。
         (「うまい細工師は、少し切れ味の悪い刀使う」いう。妙観使う刀はあ
         まり切れない。)

       ※格助詞は「」「」「」「」「」「」「から」「して」「にて」「より」の10語で
        ある。

      A接続助詞・・・活用語の直後に使われ、接続詞のように、前の内容と後の内容
                とをつなぐ働きをする。

       例・衰えたる末の世とはいへ、なほ、九重の神さびたる有様こそ、世つかず、
         めでたきものなれ。
         (今は衰えてしまった末世というけれども、やはり皇居の神々しい有様は、世
         俗の風潮に染まらず、素晴らしいものである。)

       ※接続助詞は「」「」「」「」「して」「」「とも」「」「ども」「」「」「ながら
        「つつ」「ものを」「ものの」「ものから」「ものゆゑ」の17語である。

      B副助詞・・・各種の自立語の直後に使われ、副詞のように意味を添えて、後続
              の用言にかかる働きをする。

       例・人の上にて見たるだに、心憂し。
         (酔っ払いの醜態は、他人事として見ているのでさえ、不愉快なものだ。)

       ※副助詞は「だに」「すら」「さへ」「のみ」「ばかり」「など」「まで」「」の8語である。

      C係助詞・・・各種の自立語の直後に使われ、その語に意味を添えて、後続の用
              言にかかる文末の叙述に影響を及ぼす働きをする。

       例・子孫おはせぬよく侍る。
         (子孫がいらっしゃらないの、結構なことです。)

       ※係助詞は「」「」「」「なむ」「」「」「やは」「かは」「こそ」の9語である。

      D終助詞・・・文末に使われて、何らかの意味を添えて文を終わらせる働きをもつ。

       例・人の心は愚かなるものかな
         (人間の心というものは、何とも愚かなものだなぁ。)

       ※終助詞は「なむ」「ばや」「てしか」「にしか」「もがな」「」「」「かな」「かし」「
        「」「」「」の13語である。

      E間投助詞・・・文節の切れ目に使われ、語調を整えたり、何らかの意味を添える
                働きをする。

       例・助けよ、猫またよ
         (助けてくれー!猫まただぁー!

       ※間投助詞は「」「」の2語である。

【用言】 *************************************************************************

      自立語で文の述語になるもの。「活する葉」という意味で「用言」と言われる。
     用言に該当するのは動詞・形容詞・形容動詞の3つである。

【体言】 *************************************************************************

      自立語で文の主語になるもの。「実を表す葉」という意味で「体言」と言われる。
     体言に該当するのは名詞・代名詞の2つである。

【活用】 *************************************************************************

      後に続く単語によってその単語が語形変化すること。

      (例)「行く」という単語は後に続く単語によって現代語では次のように変化する。

          後に「ない」が続くとき→行かない
          後に「ます」が続くとき→行きます
          後に「とき」が続くとき→行くとき
          後に「ば」が続くとき→行け
          後に「う」が続くとき→行こ

      活用する品詞は用言(動詞・形容詞・形容動詞)と助動詞である。

      活用は古典文法では次の6種類ある。

     未然形・・・「らざる」。その動作がまだ実行されていない時に使う。
             助動詞や助詞などが後に続くことが多い。

     連用形・・・「言になる」。用言の他、過去や完了の助動詞などが後に続くこと
             が多い。最も使用頻度が高い。

     終止形・・・文字通り、その活用語で文を終える形。但し、助動詞が後に続くときもある
             ので注意したい。

     連体形・・・「言になる」。名詞につなげるときに使うわけだが、実際には名詞
             の他、助詞や助動詞が後に続くことも多い。

     已然形・・・「」。その動作が実行された時に使う。
             完了・存続の助動詞「り」の他、助詞が後に続く。

     命令形・・・命令して文を終えるときに使う形。

【語幹】 *************************************************************************

      活用語において、どの活用形になっても変化しない部分。

      (例)「行く」という単語の活用を見ると、古語では次のように変化する。

         未然形→(例・山にず。)
         連用形→(例・山にけり。)
         終止形→(例・山に。)
         連体形→(例・山に人いと多し。)
         已然形→(例・山にば心静かならず。)
         命令形→(例・山に。)

      この場合、どの活用形でも漢字の「登」(赤文字の部分)は共通しているが、送り仮名
     にあたる青文字の部分は「ら」「り」「る」「れ」と変化している。
      この共通している部分を語幹といい、活用形によって変化する部分を活用語尾という。

【活用語尾】 *********************************************************************

      活用語で活用形によって変化する部分。語幹と対になる部分。
     詳細は【語幹】の項を参照。そこで例示した単語の青文字の部分が活用語尾である。

【四段活用】 *********************************************************************

      動詞の中で活用語尾がアの音・イの音・ウの音・エの音の四段にわたって活用するもの。

      (例)「行く」という単語の活用を見ると、古語では次のように変化する。

         未然形→・・・(例・山にず。)
         連用形→・・・例・山にけり。)
         終止形→・・・(例・山に。)
         連体形→・・・(例・山に人いと多し。)
         已然形→・・・(例・山にば心静かならず。)
         命令形→・・・(例・山に。)

      これをまとめると次のようになる。

         語  幹→
         未然形→
         連用形→
         終止形→
         連体形→
         已然形→
         命令形→

      この変化のパターンは次のように覚えておけばよい。

        未然形・・・その行のの音
        連用形・・・その行のの音
        終止形・・・その行のの音
        連体形・・・その行のの音
        已然形・・・その行のの音
        命令形・・・その行のの音

      四段活用動詞は動詞の中で最も多いが、ア行・ナ行・ワ行・ザ行には存在しない。

     














  走 る   読 む 遊 ぶ 言 ふ     勝 つ   殺 す 急 ぐ 歩 く   例語
            語幹
            未然形
            連用形
            終止形
            連体形
            已然形
            命令形


【上一段活用】 *******************************************************************

      動詞の中で活用語尾がイの音一段だけに活用するもの。

      (例)「見る」という単語の活用を見ると、古語では次のように変化する。

         未然形→・・・・・(例・花をず。)
         連用形→・・・・・(例・花をけり。)
         終止形→見る・・・(例・花を見る。)
         連体形→見る・・・(例・花を見る人いと多し。)
         已然形→見れ・・・(例・花を見れば心静かならず。)
         命令形→見よ・・・(例・花を見よ。)

      これをまとめると次のようになる。

         語  幹・・・()→語幹と活用語尾の区別がない
         未然形・・・
         連用形・・・
         終止形・・・みる
         連体形・・・みる
         已然形・・・みれ
         命令形・・・みよ

      この変化のパターンは次のように覚えておけばよい。

        未然形・・・その行のの音
        連用形・・・その行のの音
        終止形・・・その行のの音+「
        連体形・・・その行のの音+「
        已然形・・・その行のの音+「
        命令形・・・その行のの音+「

      上一段活用は次の15語しかないので覚えておきたい。

       カ行→着る
       ナ行→似る
       ハ行→干る
       マ行→見る・試みる・顧みる・鑑みる・惟みる
       ヤ行→射る・鋳る
       ワ行→居る・率る・率ゐる・用ゐる

     














居 る   射 る 見 る   干 る 似 る           着 る    例語
(居)   (射) (見)   (干) (似)           (着)    語幹
                 未然形
                 連用形
ゐ る   い る み る   ひ る に る           き る    終止形
ゐ る   い る み る   ひ る に る           き る    連体形
ゐ れ   い れ み れ   ひ れ に れ           き れ    已然形
ゐ よ   い よ み よ   ひ よ に よ           き よ    命令形


【下一段活用】 *******************************************************************

      動詞の中で活用語尾がエの音一段だけに活用するもの。

      (例)「蹴る」という単語の活用を見ると、古語では次のように変化する。

         未然形→・・・・・(例・鞠をず。)
         連用形→・・・・・(例・鞠をたり。)
         終止形→蹴る・・・(例・鞠を蹴る。)
         連体形→蹴る・・・(例・鞠を蹴る人いと多し。)
         已然形→蹴れ・・・(例・鞠を蹴れば心静かならず。)
         命令形→蹴よ・・・(例・鞠を蹴よ。)

      これをまとめると次のようになる。

         語  幹・・・()→語幹と活用語尾の区別がない
         未然形・・・
         連用形・・・
         終止形・・・ける
         連体形・・・ける
         已然形・・・けれ
         命令形・・・けよ

      この変化のパターンは、カ行上一段活用の活用語尾にある「き」を「け」に読み替える
     と覚えておけばよい。

      下一段活用動詞は「蹴る」一語しかないので覚えておこう。

【上二段活用】 *******************************************************************

      動詞の中で活用語尾がイの音・ウの音の二段にわたって活用するもの。

      (例)現代語の「過ぎる」に相当する古語は「過ぐ」であるが、
         この単語の活用を見ると、古語では次のように変化する。

         未然形→・・・・・(例・いまだず。)
         連用形→・・・・・(例・年月早くけり。)
         終止形→・・・・・(例・年月早く。)
         連体形→ぐる・・・例・年月ぐるは悲し。)
         已然形→ぐれ・・・(例・早くぐれば良し。)
         命令形→ぎよ・・・(例・早くぎよ。)

      これをまとめると次のようになる。

         語  幹・・・
         未然形・・・
         連用形・・・
         終止形・・・
         連体形・・・ぐる
         已然形・・・ぐれ
         命令形・・・ぎよ

      この変化のパターンは次のように覚えておけばよい。

        未然形・・・その行のの音
        連用形・・・その行のの音
        終止形・・・その行のの音
        連体形・・・その行のの音+「
        已然形・・・その行のの音+「
        命令形・・・その行のの音+「

      なお、上二段活用動詞はア行・サ行・ザ行・ナ行・ワ行には存在しない。

     














下 る   悔 ゆ 恨 む 滅 ぶ 生 ふ   恥 づ 落 つ     過 ぐ 生 く    例語
           語幹
          未然形
          連用形
          終止形
る る   ゆ る む る ぶ る ふ る   づ る つ る     ぐ る く る   連体形
る れ   ゆ れ む れ ぶ れ ふ れ   づ れ つ れ     ぐ れ く れ   已然形
り よ   い よ み よ び よ ひ よ   ぢ よ ち よ     ぎ よ き よ   命令形


【下二段活用】 *******************************************************************

      動詞の中で活用語尾がウの音・エの音の二段にわたって活用するもの。

      (例)現代語の「捨てる」に相当する古語は「捨つ」であるが、
         この単語の活用を見ると、次のように変化する。

         未然形→・・・・・(例・山にず。)
         連用形→・・・・・(例・山にけり。)
         終止形→・・・・・(例・山に。)
         連体形→つる・・・(例・山につる人いと多し。)
         已然形→つれ・・・(例・山につれば心静かならず。)
         命令形→てよ・・・(例・山にてよ。)

      これをまとめると次のようになる。

         語  幹・・・
         未然形・・・
         連用形・・・
         終止形・・・
         連体形・・・つる
         已然形・・・つれ
         命令形・・・てよ

      この変化のパターンは次のように覚えておけばよい。

        未然形・・・その行のの音
        連用形・・・その行のの音
        終止形・・・その行のの音
        連体形・・・その行のの音+「
        已然形・・・その行のの音+「
        命令形・・・その行のの音+「

      下二段活用動詞は全ての行に存在する。また、ア行に活用する動詞は下二段活用
     だけで「得」「心得」の二語しか
ないことも知っておきたい。

     














植 る 恐 る 覚 ゆ 眺 む 比 ぶ 教 ふ 重 ぬ 詣 づ 捨 つ 混 ず 任 す 逃 ぐ 受 く 例語
(得) 語幹
未然形
連用形
終止形
う る る る ゆ る む る ぶ る ふ る ぬ る づ る つ る ず る す る ぐ る く る う る 連体形
う れ る れ ゆ れ む れ ぶ れ ふ れ ぬ れ づ れ つ れ ず れ す れ ぐ れ く れ う れ 已然形
ゑ よ れ よ え よ め よ べ よ へ よ ね よ で よ て よ ぜ よ せ よ げ よ け よ え よ 命令形


【カ行変格活用】 ******************************************************************

      (例)現代語の「来る」に相当する古語は「来」であるが、
          この単語の活用を見ると、次のように変化する。

          未然形→・・・・・(例・山にず。)
          連用形→・・・・・(例・山ににけり。)
          終止形→・・・・・(例・山に。)
          連体形→くる・・・(例・山に来る人いと多し。)
          已然形→くれ・・・(例・山に来れば心静かならず。)
          命令形→こよ・・・(例・山に来よ。)

      これをまとめると次のようになる。

          語  幹・・・()→語幹と活用語尾の区別がない
          未然形・・・
          連用形・・・
          終止形・・・
          連体形・・・くる
          已然形・・・くれ
          命令形・・・こよ

      この変化のパターンは、未然形は「こ」、命令形は未然形+「よ」、他はカ行上二段
     活用と同じ
と覚えておけば良い。

       カ行変格活用は「来」とその複合語だけなので覚えておこう。

【サ行変格活用】 *****************************************************************

      (例)現代語の「する」に相当する古語は「す」であるが、
          この単語の活用を見ると、次のように変化する。

          未然形→・・・・・(例・鳥の鳴く声ず。)
          連用形→・・・・・(例・鳥の鳴く声けり。)
          終止形→・・・・・(例・鳥の鳴く声。)
          連体形→する・・・(例・鳥の鳴く声する日多し。)
          已然形→すれ・・・(例・鳥のなく声すれば心静かならず。)
          命令形→せよ・・・(例・早くせよ。)

      これをまとめると次のようになる。

          語  幹・・・()→語幹と活用語尾の区別がない
          未然形・・・
          連用形・・・
          終止形・・・
          連体形・・・する
          已然形・・・すれ
          命令形・・・せよ

      この変化のパターンは、連用形は「し」、連用形以外はサ行下二段活用と同じと覚
     えておけばよい。

      サ行変格活用は「す」とその複合語だけなので覚えておこう。
     なお、後者の中には「御覧ず」のように語尾がザ行になるものもあるが、便宜上これ
     らもサ行変格活用
という。(ザ行変格活用とは言わない)

【ナ行変格活用】 *****************************************************************

      (例)「死ぬ」という単語の活用を見ると、古語では次のように変化する。

          未然形→・・・・・(例・いまだず。)
          連用形→・・・・・(例・冬にけり。)
          終止形→・・・・・(例・冬に。)
          連体形→ぬる・・・(例・冬にぬる人いと多し。)
          已然形→ぬれ・・・(例・冬にぬれば悲し。)
          命令形→・・・・・(例・早く。)

     これをまとめると次のようになる。

          語  幹・・・
          未然形・・・
          連用形・・・
          終止形・・・
          連体形・・・ぬる
          已然形・・・ぬれ
          命令形・・・

     この変化のパターンは連体形・已然形はナ行下に段活用動詞と同じ、その他はナ行
    四段活用動詞と同じ
と覚えておけばよい。(ただし、ナ行に四段活用動詞は存在しない)

     ナ行変格活用動詞は「死ぬ」「往ぬ」の二語だけなので覚えておこう。
  
【ラ行変格活用】 ******************************************************************

      (例)「有り」という単語の活用を見ると、古語では次のように変化する。

          未然形→・・・(例・鳥の鳴かぬ日はず。)
          連用形→・・・(例・鳥の鳴かぬ日もけり。)
          終止形→・・・(例・鳥の鳴かぬ日も。)
          連体形→・・・(例・山に木はいと大きなり。)
          已然形→・・・(例・鳥の鳴く日もば、鳴かぬ日もあり。)
          命令形→・・・(例・山に。)

      これをまとめると次のようになる。

          語  幹・・・
          未然形・・・
          連用形・・・
          終止形・・・
          連体形・・・
          已然形・・・
          命令形・・・

      この変化のパターンは終止形は「り」、その他はラ行四段活用と同じと覚えておけば
     よい。

      ラ行変格活用動詞は、「あり」「居り」「侍り」「いまそかり」の四語だけなので覚えて
     おこう。

【五十音図】 *********************************************************************

      下表のようにすべて仮名は必ずいずれかの行に所属し、いずれかの音に該当する。
     特に動詞の活用種類・活用形を判断する場合は、活用語尾がどの行のどの音の仮名か
     
を五十音図から判断する。

     














 
アの音
イの音
ウの音
エの音
オの音


      この表からわかるのは、「い」「え」はア行の他にヤ行にもあること、「う」はア行の他
     にワ行にもあること、ワ行は「い」「え」ではなく、「ゐ」「ゑ」であることに注意したい。

【ア行の動詞】 *******************************************************************

      全動詞のうち、 「得」「心得」の二語しかない。いずれも下二段活用である。

      (例1)まれまれたる食ひ物をも、かれに譲るによりてなり。
      (例2)世には心得ぬ事の多きなり。

      したがって、これ以外の動詞で活用語尾に「」や「」があった場合は、全てヤ行
     の動詞、「」があった場合はワ行の動詞と判断する。

      (例1)ある人、弓をる。→「射る」はヤ行上一段活用
      (例2)今日も見ず。→「見え」はヤ行下二段活用
      (例3)夏植る営みのみありて、→「植うる」はワ行下二段活用 

【動詞の活用種類の判別方法】 *****************************************************

      動詞の活用種類の判別基準は、その動詞に「」あるいは「ない」をつける。
     この場合は現代語で考えたほうがよい。そうすると、「ず」あるいは「ない」の直前にあ
     る仮名
(青文字の部分)は次の4種類の音に分かれる。

      @ 「ず」の直前のかながアの音になるもの。
       (例1)連休中どこにも行に寝ていた。
       (例2)最近の人は本を読ない

      A 「ず」の直前のかながイの音になるもの。
       (例1)あの店なら階段を下に行ける。
       (例2)ホームの端から線路に落ないように注意して歩く。

      B 「ず」の直前のかながエの音になるもの。
       (例1)友達は試験も受に帰った。
       (例2)免許の取りたては運転に慣ないから危ない

      C 「ず」の直前のかながオの音になるもの。
       (例)待ち合わせの時間が過ぎても彼はない

      【注意】 なお、サ行変格活用の場合は「」をつけるとエの音になるが、「ない」を
           つけるとイの音になるので注意したい。
       (例1)事件現場で何もにただ見ていた。
       (例2)事件現場で何もないでただ見ていた。

      ここで、判別の基準は次の通りである。

      アの音→原則として四段活用 
            (例外)ナ行変格活用・ラ行変格活用・下一段活用

      イの音→原則として上二段活用
            (例外)上一段活用・サ行変格活用(「ない」をつけた場合)

      エの音→原則として下二段活用
            (例外)サ行変格活用(「ず」をつけた場合)

      オの音→カ行変格活用

      例外にあたる語句は語数が限られているので覚えておけばよい。
      (それぞれの活用種類の項目を参照)

【ク活用】 ************************************************************************

      形容詞の活用種類の一種。
     現代語の「長い」という単語は、古語では「長し」で次のように変化する。

         未然形→・・・・・(例・日は、暑かるべし)※1
               から・・・(例・命はからず)

         連用形→・・・・・(例・花房咲きたる藤の花の松にかかりたる。)
               かり・・・(例・いとかりけり。)

         終止形→・・・・・(例・帯に短し襷に。)

         連体形→・・・・・(例・霞立つ春日を)
               かる・・・(例・髪かるべし。)

         已然形→けれ・・・(例・命ければ恥多し。)

         命令形→かれ・・・(例・かれと思へど甲斐なし。)

      これをまとめると次のようになる。

         語  幹→
         未然形→ /から
         連用形→く /かり
         終止形→
         連体形→き /かる
         已然形→けれ
         命令形→  /かれ

      この変化のパターンは次のように覚えておけばよい。

      基本活用→く  ・く  ・し  ・き ・けれ・○
      補助活用→から・かり・○ ・かる・○ ・かれ

      補助活用はもともと連用形活用語尾「」にラ変動詞「あり」がついて音が「かり」と
     なったもので、カリ活用とも言われる。
      この補助活用は助動詞につなげる場合に使われる。したがって同じ活用形でも後
     続の語によって基本活用と補助活用とを使い分ける。

      連用形(例1)寒くなる・・・・・動詞「なる」につなげる場合
           (例2)寒かりけり・・・助動詞「けり」につなげる場合

      連体形(例3)良き人・・・・・・体言「人」につなげる場合
           (例4)良かるべし・・ 助動詞「べし」につなげる場合

      ただし「多し」は終止形に「多かり」が使われる点に注意したい。

      「遠い」「寒い」のように現代語で「〜い」で終わる語はク活用の形容詞である。
      ただし「大きい」は古語では「大きなり」でナリ活用の形容動詞である。

   ※1 形容詞の基本活用に未然形を認めず、本活用「〜く」に助詞「は」のついた形は
     連用形に係助詞「は」のついたものと考える説が通説とされているが、本稿では順
     接の仮定条件に現代語訳ができる場合は、これを未然形とし「は」は接続助詞と考
     える。詳細は【仮定条件】 【ば】<接続助詞>の項を参照。

【シク活用】 **********************************************************************

      形容詞の活用種類の一種。
     現代語の「嬉しい」という単語は、古語では「嬉し」で次のように変化する。

         未然形→しく・・・・・(例・しくは、ものも言はざるべきにあらず。)※1
               しから・・・(例・しからむ心地もせず)

         連用形→しく・・・・・(例・しく思ひけり。)
               しかり・・・(例・勝ちていとしかりけり。)

         終止形→・・・・・(例・京に入り立ちて。)

         連体形→しき・・・・・(例・しきこと限りなし)
               しかる・・・(例・しかるべし。)

         已然形→しけれ・・・(例・しけれど笑はず。)

         命令形→しかれ

      これをまとめると次のようになる。

         語  幹→
         未然形→しく /しから
         連用形→しく /しかり
         終止形→
         連体形→しき /しかる
         已然形→しけれ
         命令形→    /しかれ

      この変化のパターンは次のように覚えておけばよい。

      基本活用→しく  ・しく  ・し  ・しき  ・ しけれ・○
      補助活用→しから・しかり・○  ・しかる ・○   ・しかれ

      基本活用と補助活用についてはク活用と同じである。
      (詳しくは【ク活用】を参照)

      「悲しい」「美しい」などのように現代語で「〜しい」で終わる語はシク活用と判断する。
      また、「いみじ」「同じ」など語尾が「じ」で終わるものもシク活用の形容詞である。

   ※1 形容詞の基本活用に未然形を認めず、基本活用「〜しく」に助詞「は」のついた形
      は連用形に係助詞「は」のついたものと考える説が通説とされているが、本稿では
      順接の仮定条件に現代語訳ができる場合は、これを未然形とし「は」は接続助詞
      と考える。詳細は【仮定条件】【ば】<接続助詞>の項を参照。

【ナリ活用】 **********************************************************************

      形容動詞の活用種類の一種。
     現代語の「静かだ」という単語は、古語では「静かなり」で次のように変化する。

         未然形→静かなら・・・(例・波いまだ静かならず)

         連用形→静かなり・・(例・波いと静かなりけり。)
               静か・・・(例・波いと静かなりぬ。)

         終止形→静かなり・・・・・(例・波いと静かなり。)

         連体形→静かなる・・・・・(例・波静かなる日に漕ぎ出づ)

         已然形→静かなれ・・・(例・命静かなれば漕ぎ出づ。)
         
         命令形→静かなれ

      これをまとめると次のようになる。

         語  幹→静か
         未然形→なら
         連用形→なり/に
         終止形→なり
         連体形→なる   
         已然形→なれ
         命令形→なれ

      この変化のパターンは、ラ行変格活用動詞の活用語尾の頭に「な」をつける。
     このほか連用形のみ「に」が加わると覚えておけばよい。

      なお、連用形は2つあるが、これは後続の語が助動詞の場合は「なり」が、それ以
     外の場合は、「に」が使われる。

      (例1)あはれなりけり。・・・助動詞「けり」につなげる場合
      (例2)あはれに思ふ。・・・・動詞「思ふ」につなげる場合

【タリ活用】 **********************************************************************

      形容動詞の活用種類の一種。「堂々」「微々」などのように同じ漢字を二つ重ねた
     ものが語幹となった形容動詞はタリ活用となる。
      タリ活用は平家物語などの軍記物語で多く用いられる。

      例えば「堂々たり」は、次のように変化する。(例文省略)

         未然形→堂々たら
         連用形→堂々たり堂々
         終止形→堂々たり
         連体形→堂々たる
         已然形→堂々たれ
         命令形→堂々たれ

      これをまとめると次のようになる。

         語  幹→堂々
         未然形→たら
         連用形→たり
         終止形→たり
         連体形→たる
         已然形→たれ
         命令形→たれ

      この変化のパターンは
      ラ行変格活用動詞の活用語尾の頭に「た」をつける。
      このほか連用形のみ「と」が加わると覚えておけばよい。

      なお、連用形は2つあるが、これは後続の語が助動詞の場合は「たり」が、それ以
     外の場合は「と」が使われる。

      (例1)堂々たりけり。・・・助動詞「けり」につなげる場合
      (例2)堂々と歩く。・・・・動詞「歩く」につなげる場合

【正格活用】 *********************************************************************

      動詞の活用種類のなかで大部分の動詞が該当する活用パターンをいう。
     変格活用の対義語。これには四段活用上一段活用上二段活用下一段活用
     下二段活用の5種類がある。

【変格活用】 *********************************************************************

      動詞の活用種類のなかで特殊な活用するものをいう。
     「正格活用」の対義語。変格活用は次の表にあるように、カ行・サ行・ナ行・ラ行に存
     在する。

     














  あ り         死 ぬ           例語
                (す)   (来)   語幹
                    未然形
                    連用形
                    終止形
          ぬ る       す る   く る   連体形
          ぬ れ       す れ   く れ   已然形
                せ  よ   こ よ   命令形

【和歌】 *************************************************************************

 広義には、音数が定まった詩の総称。具体的には5音・7音を基本にした歌。

 5音+7音+5音の合計17音からなる俳句や、5音+7音が長々と繰り返される長歌も
和歌の一種に分類できるが、狭義には、5音+7音+5音+7音+7音の合計31音から
なる歌を和歌と言う。

※本稿では特に断り書きがない限り、狭義に解釈して31音からなる歌を和歌とする。

和歌の構成は次のようになっている。

 最初の5音を初句、次の7音を第2句、以下、順に第3句・第4句・第5句という。
このうち、初句から第3句までの全体を上の句(「かみのく」と読む)といい、第4句・第5句
の2つをあわせて下の句(「しものく」と読む)という。

【枕詞】 *************************************************************************

 和歌の修辞法の1つで、ある特定の語句を引き出すために用いられる修飾語。
通常5±1音で、第一句で使われる(一部は第3句に入る)。枕詞の発生は歴史的に古い
ため、枕詞そのものには意味不明のものが多い。このため、現代語訳の際は特に訳さな
いことがほとんどである。

例・ひさかたの のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ
  (陽光がのどかな春の日なのに、なぜ落ち着いた心もなく、桜の花はどんどん散ってい
  くのだろうか)

赤文字の「ひさかたの」が枕詞。青文字の「光」が枕詞から引き出される語句。( )内は現
代語訳だが、枕詞である「ひさかたの」は何も訳されていない。
  
枕詞と、それに引き出される語句との関係は、次のように一定している。
矢印の左側が枕詞で( )内はそのふりがな、矢印の右側が枕詞に引き出される語句であ
る。なお、赤字の語句は用言なので各活用形に活用されて詠まれるので注意したい。

茜さす  (あかねさす)→紫・日
秋津島  (あきつしま)→大和
あしひきの        →山・峰
飛鳥川  (あすかがは)→明日
梓弓   (あづさゆみ)→引く張る・春・音・末
天ざかる (あまざかる)→ひな
新玉の  (あらたまの)→年
青丹吉  (あをによし)→奈良
石の上  (いそのかみ)→降る古る旧る・布留
空蝉の  (うつせみの)→世・人・命・常
大君の  (おほきみの)→三笠山
大船の  (おほふねの)→たのむ
神風の  (かみかぜの)→伊勢・五十鈴川
唐衣   (からごろも)→着る
草枕   (くさまくら) →旅
呉竹の  (くれたけの)→節・世・夜・伏す
さねさし         →相模
敷島の  (しきしまの)→大和
白妙の  (しろたへの)→衣・袖・雪
高照らす (たかてらす)→日・日の御子
たまきはる        →内・現・命・幾代
垂乳根の (たらちねの)→母
千早振る (ちはやぶる)→神・わが大君・宇治
夏草の  (なつくさの)→深し
ぬば玉の (ぬばたまの)→夜・闇
久方の  (ひさかたの)→光・月・天・空・雲・都
真草刈る (まくさかる)→荒野
紫の    (むらさきの)→雲・藤・匂ふ
百敷の  (ももしきの)→大宮・人・うち
武士の  (もののふの)→八十・宇治・石瀬・射る
八雲立つ (やくもたつ)→出雲
やすみしし       →わが大君
夕月夜  (ゆうづくよ)→をぐら・暁・闇
若草の  (わかくさの)→妻

枕詞は次のいずれかにより成立していることが多い。

@意味上からのつながり
  例・梓弓の「弓」から、「引く」「張る」といった弓に関する動作につながる。

A比喩上からのつながり
  例・白妙の「白」から、同じ色彩である「雪」「雲」につながる。

B音韻上からのつながり
  例・飛鳥川の「あす」から、同じ音になる「明日」につながる。

C実際の景色から連想されるもの
  例・八雲立つが「雲がもくもくと出る光景」になり「出雲」につながる。

【序詞】 *************************************************************************

和歌の修辞法の1つ。序詞のもつ働きは枕詞と同じであるが、次の3点が枕詞とは異なる。

 @音数が不定。一般的に7音以上とされている。
 A序詞から引き出される語句も特定されていない。
 B序詞には具体的な意味がある。したがって、きちっと現代語訳しないと和歌全体の解釈
  ができない。

序詞は次のいずれかにより成立していることが多い。なお、例に挙げた和歌中の赤文字
序詞、青文字が序詞によって引き出されている語句である。

1・比喩上からのつながり

例・長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れてけさは 物をこそ思へ
  (末永く私のことを愛してくださるかどうか、あなたのお心の内まではわからないので、昨
   夜寝て乱れた私の黒髪のように心を取り乱して今朝は物思いをしています。)

 髪は乱れるものなので、「黒髪の」という語で自分の心を取り乱している様子をたとえてい
る。なお、序詞にある「の」は比喩を表す格助詞。

2・音韻上からのつながり

例・かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
  (「こんなにあなたを恋しています」と打ち明けることもできないので、伊吹山のさしも草で
   はないが
、私がそれほどまでにあなたを恋しているとはご存じないでしょうね。私の心の
   中で燃えているあなたへの思いを)

 さしも草とは蓬の異名だが、この語から同じ音韻となる第4句の「さしも」へつなげている。
なお、序詞の直後にある「さしも」とは、副詞の「さ」に強調の意味を持つ副助詞「しも」がつい
たもの。

3・掛詞によるつながり

例・難波江の 芦のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋わたるべき
  (難波の入り江に生えている芦の切り株の一節ではないけれども、そのように短いあなた
   との仮寝の一夜を過ごしたために、私はこれからもずっと身を尽くしてあなたを恋い慕い
   続けることになるのでしょうか)

 「かりね」には「刈り根→切り株」と「仮寝」とが掛けられている。ここでは「芦の刈り根」と「あ
なたと仮寝した一夜」とが掛けてある。

【掛詞】 *************************************************************************

 和歌の修辞法の1つ。一つの単語に二つ以上の意味を掛けあわせて表現する技法。これ
は日本語のもつ同音異義語の性質を利用したものである。二つの意味を掛け合わせること
で、その歌がもつ情景にふくらみをもたせる働きがある。なお、漢字で表記すると意味が特
定されるため、掛詞になった単語は必ずひらがなで表記される。例に挙げた和歌の赤文字
の語句が掛詞である。

例・大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立
  (大江山を越えて野を通って行く道が京の都からは非常に遠いので、まだ、母のいる
   天橋立を踏んだこともなく、母からの手紙も見ていない。)

この和歌に使われている掛詞は次の2つである。

  いく ・・・「行く」と「生」とが掛けられている。後者は京都府福知山市にある地名「生野」か
       らきている。
  ふみ・・・「踏み」と「文」とが掛けられている。「文」は手紙の意。

掛詞が使われている場合は、両方の意味を解釈して現代語訳する必要がある。

【縁語】 *************************************************************************

 和歌の修辞法の1つ。ある単語と、意味上、関連性の深い語句をさす。和歌の場合、意
識的に、一首の中に関連する語句をいくつも盛り込んで詠む場合がある。縁語は表現に
おもしろみや豊かさをもたらす効果がある。例に示した和歌にある青文字の単語が、いず
れも赤文字の単語の縁語となる。

例・玉の緒絶えなば絶えながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする
  (私のよ。絶えてしまうのなら、いっそのこと絶えてしまえ!このまま生き長らえてい
   ると、あの人への恋心が募ってしまい、その恋心を他人に知られないように耐え忍ぶ
   心が弱ってしまうから。)

「玉の緒」とは「魂をつなぎとめる緒」のことから、命を意味する。命は「絶える」こともあれば
「長らえる」こともあるし「弱る」こともあるので、青文字で示した単語が「玉の緒」に関連性の
深い語句ということで、縁語となる。

【句切れ】 ***********************************************************************

 和歌において、一首の途中で意味上区切れること。句切れる場合は、現代語訳文も一旦
そこで切れることが多い。第4句までの和歌中に、活用語の終止形・命令形、もしくは係り
結びによる連体形・已然形、さらには終助詞があれば、そこで句切れとなる。句切れは和歌
のどの部分にあるかによって、次の5種類に分けられる。

@初句切れ・・・第1句末に句切れがあるものをいう。

 例・契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは
   (約束しましたよね。お互いに袖の涙をしぼりながら、あの末の松山を波が越すことの
    ないように、私たちの仲も決して変わることがないようにと。)

 第1句にある「契り」はラ行四段活用動詞の連用形、「き」は過去の助動詞の終止形、「な」
は詠嘆の終助詞。したがって、ここで歌の意味が一旦区切れる。

A二句切れ・・・第2句末に句切れがあるものをいう。

 例・世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる
   (この世の中というものは、逃れることのできる道はないのだなぁ。逃れようと思って深
    く入ってきたこの山奥にも、鹿が私と同じような気持ちで悲しそうに鳴いていることだ
    よ。)

 第2句にある「こそ」は係助詞。「なけれ」はク活用の形容詞だが、係助詞の結びになるた
め、已然形。「こそ」がなければ終止形となる部分なので、ここで歌の意味が一旦区切れる。

B三句切れ・・・第3句末に句切れがあるものをいう。

 例・ 恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
   (恋をしているという私の評判は早くも立ってしまったことだなぁ。誰にも知られぬように
    恋を始めたばかりだったのに。)

 第3句にある「立ち」はタ行四段活用動詞の連用形、「に」は完了の助動詞の連用形、
「けり」は詠嘆の助動詞の終止形。 したがって、ここで歌の意味が一旦区切れる。

C四句切れ・・・第4句末に句切れがあるものをいう。

 例・わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ あまの釣舟
   (「広々とした海にある多くの島々に向かって、今、私は漕ぎ出した」と
    都にいるあの人に告げてくれ。漁夫の釣り船よ。)

 第4句にある「告げよ」はガ行下二段活用動詞の命令形。
 したがってここで、歌の意味が一旦区切れる。

D句切れなし・・・歌中に句切れがないものをいう。

 例・嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る
   (あなたのおいでがないのを嘆きながら一人で寝る夜の、夜明けまでの間がどれほど
    長く感じられることか、あなたはお分かりでしょうか。)

※なお、句切れはいつも1箇所とは限らない。句切れが複数存在する和歌もある。

 例・人もをし 人も恨めし あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身は
   (あるときは、人がいとおしく思われるまたあるときは、人が恨めしく思われる。この
    世を不満に思うためにいろいろと物思いをする、この私の身は。)

 第1句末の「をし」、第2句末の「恨めし」は、いずれもシク活用の形容詞の終止形。
したがって、この2箇所で歌の意味が一旦区切れる。

【本歌取り】 **********************************************************************

 新たに歌を作る際に、既に詠まれた和歌の一部を引用すること。元の歌のもつイメージ
を損なわずに、元の歌に詠まれた情景に新たに作った歌の情景を加えて、歌の境地に奥
深さ・豊かさをもたらす効果がある。時代が後になればなるほど、歌の数が増えるので、
特に『新古今和歌集』以後は本歌取りの歌も多く見られるようになった。

例・み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて ふるさと寒く 衣打つなり
  (吉野の山から秋風が吹き、夜も更けてくると、古都であったこの吉野の里はますます寒
  くなり、その寒さに震えて衣を打つ音が聞えてくることだ。)

この歌は小倉百人一首にも納められているが、これは赤文字の部分が下記の歌と重なって
おり、本歌取りした作品である。

元歌・み吉野の 山の白雪 積もるらし ふるさと寒く なりまさるなり
    (今頃、吉野の山にはきっと白雪が降り積もっていることだろう。この古都奈良の里は
    ますます寒くなっている。)

元の歌では、古都奈良の冬の寒さを根拠に、雪が降り積もっているであろう吉野の情景を
想像している。新たに作った歌では、季節を晩秋に改めて、夜がふけた時刻に吉野の山か
ら吹きおろしてくる風で寒さを感じる人々の情景を詠んでいる。

【折句】 *************************************************************************

 和歌・俳句の修辞法の1つ。歌を作る際に、ある物の名称を各句の初め一文字ずつに入
れて詠むこと。

例・から衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞ思ふ
  (慣れ親しんだ私の妻が京の都にいるので、こんな遠い場所まではるばる来てしまった
旅路が悲しく思われることだ)

この歌の各句の冒頭の文字は次のようになる。

 第1句・・・ら衣
 第2句・・・つつなれにし
 第3句・・・ましあれば
 第4句・・・るばるきぬる
 第5句・・・びをしぞ思ふ

 つまり、「かきつはた」→「かきつばた」となり、(第4句の「は」は濁音も同じとみなす)植物
の名称である「かきつばた」(湿地帯に自生するアヤメ科の多年草)という5文字を各句の最
初の一文字ずつ入れて詠んだ歌ということになる。
 ちなみに、この歌は『伊勢物語』第9段「東下り」の中に登場する。旅の道中、沢のほとりに
かきつばたがたいへん美しく咲いているのを見た場面で、ある人の「かきつばたといふ五文
字を句の上に据ゑて、旅の心を詠め」という注文に応じて、即興で詠んだ歌であった。

【体言止め】 *********************************************************************

 文や和歌の修辞法の1つ。ふつう、文や和歌は述語で終るものであるが、表現を完結せず
に敢えて体言で終らせることを、体言止めという。その体言に対する叙述や感情を封印する
ことで、表現に余情をもたせる効果がある。和歌においては、特に『新古今和歌集』に多く用
いられた。

例1・さびしさに 宿を立ち出でて ながむれば いづこも同じ 秋の夕暮れ
   (あまりの寂しさに、我が家を出てあたりを見渡してみると、どこもかしこも同じだなぁ。
    この秋の夕暮れは


第5句は体言「夕暮れ」で終っている。正確には「夕暮れなるかな」となるべきところ、表現を
省略している。

例2・わたの原 こぎ出でて見れば ひさかたの 雲居にまがふ 沖つ白波
   (大海原に船を漕ぎ出して周りを眺めてみると、白い雲と見間違えるような沖の白波だ

第5句は体言「沖つ白波」で終っている。眼前に広がる光景は「白い雲と見間違えるような沖
の白波が立っている」状態のはずだからだから、本来なら述語「立つ」があるべきところだが、
それを敢えて述べずに歌を締めくくっている。

【切れ字】 ***********************************************************************

俳諧・連歌の句中で、その句の意味を一旦切る働きをする語句をいう。切れ字を置くことで、
詠嘆を表現したり、句に余情をもたせる効果がある。連歌・俳諧の発句においては、完結・
独立した意味をもたせるために用いられ、切れ字を含んで詠むきまりになった。なお、切れ
字に該当するものは、主に次の6種類である。

@動詞の命令形

例・野を横に馬牽き向けよほととぎす
  (夏草の茂った広野を馬で進むと横から鳴き声がする。馬士よ、その声の方向へ馬の
   首を向けてくれ。ほととぎすが鳴いている)

A形容詞の終止形

例・五月雨をあつめて早し最上川
  (折から降った五月雨の水を集めて、川は豊かに水が漲り、その流れはすさまじい。さ
   すがに急流な最上川であることよ)

B詠嘆の助動詞「けり」

例・行く春を近江の人と惜しみけり
  (古人も愛惜したこの琵琶湖のほとりの過ぎ行く春を、親しい近江の人々と惜しみあっ
   たことだなぁ

C終助詞「かな」

例・野ざらしを心に風のしむ身かな
  (旅先で行き倒れになり、骸骨を野辺にさらすわが身を覚悟し、病弱な私は今、長い旅
   に出発した。すると、秋の冷たい風が身にこたえることだなぁ

D間投助詞「や」

例・荒海佐渡に横たふ天の河
  (北の海は波が荒いことだなぁ。その海に佐渡の島が黒々と浮かび、その島に向かっ
   て天の川が滝のように降り注いでいる)

E述語の省かれた副詞

例・猿を聞く人捨て子に秋の風いかに
  (猿の泣き叫ぶ声を聞いて、詩人たちは、秋風に捨て子の泣く声をどのように聞くのだ
   ろうか)

【倒置法】 ***********************************************************************

 文・和歌における修辞法の1つ。日本語の場合、普通、文や和歌は述語で終るものであ
るが、敢えて目的語・主語を述語の後に置き、本来の語順とは違う形で叙述することがあ
る。この修辞法を倒置法といい、倒置された語句を強調する効果がある。現代文でもよく
使われるので、まずその例を示す。

例1・無断で欠勤するような人ではないよ。あいつは。

 これは主語と述語が倒置されている。本来の語順は「あいつは無断で欠勤するような人
ではないよ」である。

例2・僕は買ったことがない。宝石なんか。

 これは目的語と述語が倒置されている。本来の語順は「僕は宝石なんか買ったことがな
い」である。

例3・私は酒の味がわからない。酒を飲んだことがないから。

 これは理由説明の文節と述語が倒置されている。本来の語順は「私は酒を飲んだことが
ないから、酒の味がわからない」である。

古文でも同様に倒置法が用いられている。例4は散文、例5は和歌である。

例4・知らず、生まれ死ぬる人、何方より来たりて、何方へか去る。
   (私にはわからない。生まれては死んでいく人々が、どこからやって来て、どこへ去っ
    て行くのかを)

 例2と同様に目的語と述語が倒置されている。本来の語順は「生まれ死ぬる人、何方よ
り来たりて、何方へか去るを知らず」である。

例5・淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に 幾夜寝ざめぬ 須磨の関守
   (淡路島から渡って来る千鳥の哀れな鳴き声に、幾夜、睡眠中に目をさましたことか、
   
須磨の関守である私は)

 第4句と第5句が倒置されている。本来の語順は「須磨の関守は幾夜寝ざめぬ」である。
それを主語を倒置させて四句切れにすることで、第5句、須磨の関守に仮託した作者の孤
独な旅寝の憂いを強調する効果を出している。

【挿入句】 ***********************************************************************

 文中・和歌中に、文の構成とは遊離して、叙述とは別の内容の語句を挟み込むこと。挿
入句となる内容は、主に作者の推量表現や、呼びかけ・応答である。

例1・世に語り伝ふる事、まことはあいなきにや、多くはみな虚言なり。
   (世間で語り伝えられていることは、本当の話ではおもしろくないのであろうか、大部
    分はみんな嘘の話である)

 ※「まことはあいなきにや」が作者の推量表現で、挿入句。叙述したいことがらは「世に語
  り伝ふる事、多くはみな虚言なり」(世間で語り伝えられていることの大部分は、みんな
  嘘の話である)である。

例2・憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものを
   (私の恋心に対して冷淡だったあの人の気持ちが、私に向けられるようにと初瀬観音
    にお祈りしたのだが、初瀬の山おろしよ、お前のように冷淡さがますます激しくなって
    くれとは祈らなかったのになぁ・・・)

 ※「初瀬の山おろしよ」が作者の呼びかけの言葉で、挿入句。叙述したいことがらは「憂か
  りける人をはげしかれとは祈らぬものを」(私の恋心に対して冷淡だったあの人が、ます
  ます冷淡になってくれとは祈らなかったのに・・・)である。「初瀬の山おろし」という具体的
  な語句を挿入することで、いくら祈っても叶わぬ恋の苦悩が重みを増し、句に余情を持た
  せている。

【係り結び】 *********************************************************************

 一文を活用語で言い終える場合、通常は終止形となり、会話文・手紙文で他人に命令す
る場合に限り、命令形となるのが原則である。但し、文中に特定の係助詞が使われた場合
は例外で、文末の活用語はそれに呼応した活用形で結ぶきまりになっている。このきまり
を係り結びの法則といい、下記のように定められている。

A・係助詞「」「なむ」「」「」がある場合→文末の活用語を連体形で結ぶ。

 例1・子孫おはせぬよく侍る
 例2・もののあはれも知らずなりゆくなんあさましき
 例3・蓑・笠ある。貸したまへ。
 例4・その教へ始め候ひける、第一の仏は、いかなる仏に候ひける

B・複合の係助詞「やは」「かは」がある場合→文末の活用語を連体形で結ぶ。
 
 例5・位高く、やむごとなきをしも、すぐれたる人とやは言ふべき
 例6・住み果てぬ世に醜き姿を待ち得て、何かは

 ※「やは」は係助詞「や」に係助詞「は」がついた語、「かは」は係助詞「や」に係助詞「は」
  がついた語である。
したがって、係助詞「や」「か」が使われた文と同様に、文末の活用
  語は連体形で結ぶ。

C・もともと係助詞「」が含まれている語が使われた場合→文末の活用語を連体形で結
 ぶ。

 例7・己れと枯るるだにこそあるを、名残なくいかが取り捨つべき
 
 ※「いかが」は、もともと副詞「いかに」に係助詞「か」がついた語である。したがって、係
  助詞「」が使われた文と同様に、文末の活用語は連体形で結ぶ。

D・係助詞「こそ」がある場合→文末の活用語を已然形で結ぶ。

 例8・子持ちてこそ親の志は思ひ知らるなれ

E・係り結びの法則の例外

 下記@〜Bに該当する場合は、文末の活用語が特定の活用形で結ばれない。しかし、
現代語訳の際は、係り結びを受ける述語が省略された場合でも、省かれた内容を考えて
現代語訳する必要がある。

 @係り結びの消去・・・係助詞を受ける活用語で文が終らず、接続助詞を伴って後続の
              文節に続く場合。

  例9・たとえ耳鼻こそ切れ失すとも、命ばかりはなどか生きざらん。

  ※本来なら係助詞「こそ」の結びは「切れ失すれ」となるべきところ、接続助詞「とも」を
   挟んで後続の文節につながってしまったため、結びが流れた形である。

 A係り結びの省略・・・係助詞を受ける活用語がわかりきった語の場合は、結びの活用
              語が省かれて、述部自体が存在しない形となる。

  例10・ぼろぼろといふもの、昔はなかりけるに

  ※係助詞「や」の後に「あらむ」が省かれている。現代語訳は「ぼろぼろというものは、
   昔はなかったのであろうか」となる。

  例11・難波潟 短き芦の ふしの間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや
  
  ※和歌でも、係助詞が使われ、しかも、その結びが省略されることがある。第5句の現
   代語訳は「過ごしてしまえとおっしゃるつもりでしょうか」で、青文字の部分が省略され
   た内容である。

 B挿入句の場合・・・作者の感想や推量表現などが文中に挿入された文で、係助詞がそ
             の挿入句内に使われている場合、結びの活用語が省かれる。
 
 例12・「しかじかのことは、あなかしこ、跡のため忌むなることぞ」など言へるこそ、かばか
りのなかに何かはと、人の心はうたて覚ゆれ。

 ※「かばかりのなかに何かは」は作者の感想を述べた部分で、上の文中では挿入句とし
  ての働きをしている。係助詞「かは」の後に「言ふべき」が省かれている。現代語訳は省
  かれた部分も含めて訳す必要があるため、「こんな悲しみの中でどうしてそんな心ない
  ことを言うのだろうか
」となる。

【陳述の副詞】 *******************************************************************

 「副詞の呼応」ともいう。ある副詞が一定の語句とセットになって使われることで、述語の
叙述方法が限定される現象をいう。陳述の副詞には、述語に特定の意味を持たせる働き
がある。意味別には、次の9種類に分けられる。

@打消の意を表すもの

 副    詞【あへて・いさ・いまだ・え・必ずしも・さながら・さらに・絶えて・つゆ・をさをさ】
 呼応する語【形容詞「なし」/助動詞」「」「まじ」/助詞」】

 例1・古京はすでに荒れて、新都はいまだ成ら
    (古い都はもう荒れ果てて、新しい都はまだ完成していない。)

 例2・かぐや姫を戦ひ止めなりぬること、こまごまと奏す。
   (月の都の人と戦って、かぐや姫の昇天を止めることができなかった事情を、帝に詳し
    く申し上げる。)

 例3・山々に人をやりつつ求めさすれど、さらになし
    (山々に人を送って鷹を捜させるが、鷹が全く見つからない。)

 例4・世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
    (世の中に全く桜がなかったならば、春を過ごす人の心はのんびりとしたものだろうに)

 例5・年月経ても、つゆ忘るるにはあらど・・・
    (年月が経過しても、少しも忘れるわけではないけれども・・・)

A打消推量の意を表すもの

 副    詞【よも】
 呼応する語【助動詞」「まじ」】

 例・「よもあら」など言ふも詮なければ・・・
   (「まさかそんなことはないだろう」と否定しても仕方がないので・・・)

B疑問・反語の意を表すもの

 副    詞【あに・いかが・いかに・いかで・言はむや・なぞ・なでふ・など・などか・何・なんぞ・まさに】
 呼応する語【活用語の連体形/助動詞べし」/助詞」「」】

 例1・酒宴ことさめて、いかがはせと惑ひけり。
    (宴会の興もすっかりさめて、みんな『どうしたらよいだろう』と、途方に暮れてしまった。)

 例2・いかにもののあはれもなから
    (どんなに物の情趣がないことだろうか。)

 例3・いかで月を見ではあら
    (どうして月を見ないでいられようか。)

 例4・こは、なでふのたまふぞ。
    (これは、いったい何ということをおっしゃるのだ。)

 例5・この勢あらば、などか最後の軍せざるべき
   (これだけの勢力があるのなら、どうして最後の戦いをしないでいられよう。)

 例6・まさに許さむ
    (そんなことをどうして許せましょう。)

C禁止の意を表すもの

 副    詞【な・ゆめ・ゆめゆめ】
 呼応する語【形容詞「なし」/助動詞」/助詞」「」「」】

 例1・月見給ひ
    (月を御覧になる。)

 例2・ここは気色ある所なめり。ゆめ寝ぬ
    (ここは怪しげな気配がする場所のようだ。決して寝る。)

D推量の意を表すもの

 副    詞【あるいは・いかばかり・おそらく・けだし・さだめて・むべ】
 呼応する語【助動詞」「べし」「らむ」「けむ」】

 例1・この児、さだめて驚かさんずらんと、待ち居たるに・・・
    (この子は『きっと誰かが起こしてくれるだろう』と思って、寝たふりをして待っていたと
    ころ・・・)

 例2・吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしと言ふらむ
    (風が吹くとすぐに秋の草木が萎れてしまうので、なるほど、山から吹き降ろす風のこ
    とを「嵐」と言うのであろう

E仮定の意を表すもの

 副    詞【たとひ・もし・よし・よしや】
 呼応する語【助詞とも」「」】

 例1・たとひ耳鼻こそ切れ失すとも、命ばかりはなどか生きざらん。
    (仮に耳と鼻が切れてなくなったとしても、命だけはどうして助からないことがあろうか。)

 例2・もし人手にかから、自害をせんずれば・・・
    (もし敵の手に捕まったら、自殺をしようと思うので・・・)

 ※例2のように助詞「ば」が使われる場合は、直前の活用語が未然形となり、仮定条件となる。

F希望の意を表すもの

 副    詞【いかでか・いつしか・願はくは】
 呼応する語【活用語の命令形/助動詞」「」/助詞なむ」「ばや」】

 例1・世の中に物語といふもののあんなるを、いかでばや。 
    (この世には物語というものがあるそうだが、どうにかしてそれを読んでみたいものだ。)

 例2・いつしか梅咲かなむ
    (早く梅が咲いてほしい。)

 ※例2の「なむ」は活用語の未然形に続いて使われ、希望の意を表す終助詞である。係助詞
  ではない点に注意。

G当然の意を表すもの

 副    詞【すべからく・まさに】
 呼応する語【助動詞べし」】

 例・徳をつかんと思はば、すべからく、先づその心遣ひを修行すべし
   (富を得ようと思うのなら、当然、まずその心がけを勉強しなければならない。)

H比況の意を表すもの

 副    詞【あたかも】
 呼応する語【助動詞ごとし」】

 例・あたかも四条五条の橋のごとし
   (まるで四条五条の橋のようだ。)

【単純接続】 *********************************************************************

 接続形態の一種。接続詞・接続助詞を挟んだ前後の内容に何の条件関係もなく、ただ単
に時間的な順序にしたがって並べられた接続形態をいう。

A・現代文の場合

例1・テレビを見る。そして、買い物に行く。
例2・・テレビを見、買い物に行く。

 例1は「そして」という接続詞を用いて、例2は「て」という接続助詞を用いて、それぞれ前
後の文・事柄をつないでいる。いずれも「テレビを見る」という行為の後に「買い物に行く」と
いう行為があることを表している。

B・古文の場合

例3・節を隔ててよごとに黄金ある竹を見つくること重なりぬ。かくて、翁、やうやう豊かにな
   りゆく。
  (節と節との間ごとに黄金の入った竹を見つけることが度重なった。こうして、翁は次第
   に豊かになっていった。)

例4・人の来たり、のどかに物語し帰りぬる、いと良し。
   (人が訪れ、のんびりとお話をし帰ってしまうのは、とても良いものだ。 )

 例3は「かくて」という接続詞を用いて、「黄金の入った竹を見つける」という行為の後に「豊
かになる」という現象が生じたことを表している。
 例4は「て」という接続助詞を用いて、「人が訪れる」→「お話をする」→「帰る」という順で事
柄が進行していることを表している。

【条件接続】 *********************************************************************

 接続形態の一種。接続詞・接続助詞を挟んで、前の事柄が後の事柄の前提条件であるこ
とを示す接続形態をいう。

A・現代文の場合

例1・雨が降っている。だから、今日の試合を明日に延期する。
例2・雨が降っているから、今日の試合を明日に延期する。

 例1は「だから」という接続詞を用いて、例2は「から」という接続助詞を用いて、それぞれ前
後の文・事柄をつないでいる。いずれも、「試合の延期」という決断の前提が「雨が降っている」
という現象にあることを表している。

B・古文の場合

例3・わが身は次にして、人をいたはしく思ふ間に、まれまれ得たる食ひ物をも、かれに譲る
   によりてなり。されば、親子ある者は定まれる事にて、親ぞ先立ちける。
  (自分のことは二の次にして相手を大切に思うので、たまに得た食べ物でさえ、その人に
   譲るのである。だから、親と子がいる場合は、もう決まりきっている事で、親が先に死ん
   だ。)

例4・塵を煙の如く吹き立てたれ、すべて目も見えず。
   (塵をまるで煙のように吹き上げているので、全く目が見えない。 )

 例3は「されば」という接続詞を用いて、「親が先立つ」という結果の前提が「食べ物を人に
譲る」という事実にあることを表している。例4は「ば」という接続助詞を用いて、「目が見えな
い」という状況の前提が「塵がすごい勢いで吹き上げる」という現象にあることを表している。

【順接】 *************************************************************************

 「順態接続」の略称。条件接続の一種。接続詞・接続助詞を境に、前述の内容と順当な
関係で後述の事柄につなげること。接続詞で2つの文の関係を明示する方法と、接続助詞
を用いて2つの事柄をつなげて一文にする方法とがある。

A・現代文の場合

例1・朝から雨が降っている。だから、本日の体育祭は中止します。
例2・朝から雨が降っているので、本日の体育祭は中止します。

例1は「だから」という接続詞を用いて、2つの文の関係を示している。
例2は「ので」という接続助詞を用いて、前後の事柄をつないでいる。

※ 「雨天→体育祭の中止」という結論は、順当な(理屈にあう・納得できる)考え方であるの
 で、こういう接続方法を「順接」という。逆に「雨天→体育祭決行」だと世間の常識からして
 「なぜ雨なのに中止にしないのか」という非難を浴びることが予想され、多くの人が納得で
 きる結論ではないと推断されるので、逆接で文を作ることになる。

B・古文の場合

例3・一銭軽しといへども、これを重ぬれば貧しき人を富める人となす。されば、商人の一
   銭を惜しむ心切なり。
   (一銭はわずかな金額だというが、これを積み重ねれば、貧乏人をお金持ちにする。
    だから
、商人が一銭を大切にする心情は切実なものである。)

例4・跡問ふわざも絶えぬれ、いづれの人と名をだに知らず。
   (死後の法事も途絶えてしまうので、墓の中に眠っている人がどこの誰なのか、名前を
   知る者さえいなくなってしまう。 )

例3は「されば」という接続詞を用いて、2つの文の関係を示している。
例4は「ば」という接続助詞を用いて、前後の事柄をつないでいる。

【逆接】 *************************************************************************

 「逆態接続」の略称。条件接続の一種。接続詞・接続助詞を境に、前述の内容とは矛盾
する関係で後述の事柄につなげること。接続詞で2つの文の関係を明示する方法と、接続
助詞を用いて2つの事柄をつなげて一文にする方法とがある。

A・現代文の場合

例1・朝から雨が降っている。しかし、本日の体育祭は予定通り決行します。
例2・朝から雨が降っているけれども、本日の体育祭は予定通り決行します。

例1は「しかし」という接続詞を用いて、2つの文の関係を示している。
例2は「けれども」という接続助詞を用いて、前後の事柄をつないでいる。

※ 「雨天→体育祭の決行」という結論は、「雨なのになぜ中止にしないのか」という非難を
 浴びることが予想され、多くの人が納得できる結論ではないと推断される。こういう不当
 な(理屈に合わない・納得できない)結論を導く場合は、逆接で作文することになる。
  逆に「雨天→体育祭決行」なら、常識的・合理的な理屈なので、順接で文を作ることにな
 る。

B・古文の場合

例3・これを世の人安からず憂へあへる、実に理にもすぎたり。されど、とかく言ふかひな
   くて、帝より始め奉りて、大臣・公卿みな悉く移ろひ給ひぬ。
  (今回の遷都を世間の人々が不安に思って心配しあったのは、ほんとうにもっともなこ
   とであった。しかし、あれこれ言っても無駄で、天皇を始めとして、大臣・公卿は全員
   すっかりお移りになってしまった。)

例4・百薬の長とは言へ、万の病は酒よりこそ起これ。
   (「酒は百薬の長」とは言うけれど、全ての病は酒がもとで生じている。)

例3は「されど」という接続詞を用いて、2つの文の関係を示している。
例4は「ど」という接続助詞を用いて、前後の事柄をつないでいる。

【仮定条件】 *********************************************************************

 その事柄が起こってはいないが、起こった場合を想定して述べる表現。仮定条件には意
味上、順接・逆説の2種類がある。

@順接・・・活用語の未然形に接続助詞「ば」がついた形である。

例1・後は誰にと志す物あらば、生けらんうちにぞ譲るべき。
  (『自分の死後はこの人にやろう』と心に決めている品物があるのならば、生きている間
  に譲っておくのが良い。)

※「あらば」は、ラ行変格活用動詞「あり」の未然形に接続助詞「ば」がついた形。これに対
 して、活用語の已然形に接続助詞「ば」をつける形は確定条件であり、現代語訳も異なる
 ので注意。

例2・この皮衣は火に焼かむに、焼けずはこそまことならめ。
   (この皮の衣を焼いてみようと思うが、もし焼けなかったならば、本物であろう。)
 「ずは」は打消の助動詞「ず」の未然形に接続助詞「ば」の清音化したものがついた形。
 「ずは」を打消の助動詞「ず」の連用形に係助詞「は」のついた形とし、打消の助動詞の未
 然形「ず」を認めない学説が通説となっているが、本稿では現代語訳で仮定条件となる場
 合は未然形に接続助詞のついた形とし、連用形「ず」に係助詞「は」がついた形とは区別し
 て考える。これは形容詞、及び形容詞型の活用をする助動詞に「は」がついた形でも同様
 である。その理由は次の3点である。

 1・助詞相互の語順の相違がある。
   ☆連用形+係助詞「こそ」+係助詞「は」→→ありこそ/なくこそ
   ★未然形+接続助詞「は」+係助詞「こそ」→あらこそ/なくこそ
   ★已然形+接続助詞「は」+係助詞「こそ」→あれこそ/なけれこそ
   つまり、係助詞と接続助詞とでは接続助詞が先に来る語順となる。
   それは確定条件の場合を見てもわかる。

 2・意味上に明らかな相違がある。
   未然形+接続助詞「は」=順接仮定条件
    例1・今日来明日は雪とぞ降りなまし消えずはありとも花と見ましや
       (今日私が来なかったら、明日は雪のように散ってしまうだろう)
   連用形+係助詞「は」  =強調
    例2・今日来ずは明日は雪とぞ降りなまし消えありとも花と見ましや
       (たとえ消えないで残っていたとしても花と見ることができようか。)

 3・省略、及び他の係助詞に置換することの可否
  連用形+係助詞「は」の場合は、「は」を省略しても文は成立する。
    例1・心苦しくあれど、見ざらましかば口惜しからまし。
    例2・心苦しくあれど、見ざらましかば口惜しからまし。
  また、係助詞「は」を係助詞「も」に置き換えても文は成立する。
    例3・さすがに言ふかひなら見え奉りてやみなむと思ふなりけり。
    例4・さすがに言ふかひなら見え奉りてやみなむと思ふなりけり。
  これに対し未然形+接続助詞「は」の場合は、
  「は」を省略することも他の係助詞に置換することも不可能である。
    例5・坊にもようせ、この皇子の居給ふべきなめり。
     (皇太子にもひょっとしたらこの第2皇子がおなりになることになるかもしれない。)
    例6・坊にもようせ、この皇子の居給ふべきなめり。
       ・・・仮定条件が成立しないので×。
    例7・坊にもようせ、この皇子の居給ふべきなめり。
       ・・・・仮定条件が成立しないので×。

 なお、未然形「ず」+接続助詞「は」については、「ずば」となったものや「ずんば」となった
ものもある。
  例1 雉も鳴か撃たれまい。
     (雉も、もし鳴かなかったら撃たれることはないだろう)
  例2 虎穴に入らずん虎児を得ず。
     (虎の住む穴に入らなかったら、虎の子を手に入れることはできない) 

A逆接・・・接続助詞「と」「とも」が使われる。

例1・嵐のみ 吹くめる宿に 花薄 穂に出でたり かひやなからむ
   (嵐ばかり吹くような家で花薄が穂を出したとしても、何の甲斐もないように、ずっとあ
   なたに冷たくされ続けている私があなたに「来てください」と申しあげても、何の甲斐も
   ないのではないでしょうか。)

例2・用ありて行きたりとも、その事果てなば、疾く帰るべし。
   (たとえ用事があって訪問したとしても、その用事が済んだらすぐに帰るのが良い。)

【確定条件】 *********************************************************************

 ある事柄が既に起こったことを前提に述べる表現。確定条件には意味上、順接・逆接の
2種類がある。

@順接・・・活用語の已然形に接続助詞「ば」がついた形、及び、接続助詞「に」「て」「を」
       「して」が使われる。順接の確定条件には、意味別にさらに細かく次の3つに分
       けられる。

(A)恒常条件 →前述した事柄が起こると、必ず、後述する事柄が起こることを表す。

例1・筆を取れば物書かれ、楽器を取れば音を立てんと思ふ。
   (人は、筆を手に取ると自然と何か書くようになり、楽器を手に取ると何か音を奏でよう
   と思うものである。)

(B)偶発条件 →前述した事柄が起きた後、偶然、後述する事柄が起こることを表す。

例2.宇治の里人を召して、こしらへさせられければ、思ふやうに廻りて、水を汲み入るるこ
   とめでたかりけり。
   (宇治の里の住民をお呼び寄せになって水車を作らせなさったところ、思い通りに水車
    が回転して、水を汲み上げて池に入れる様子が素晴らしかった。)

(C)原因・理由→前述した事柄が後述する事柄の原因・理由を表す。

例3・人の心はすなほならねば、偽りなきにしもあらず。
   (人間の心は素直ではないから、偽善もないわけではない。)

※例1は、人は筆や楽器を手に取ると、必ず何か書いたり音を出すので、恒常条件である。
  例2は、宇治の里人に水車を作らせたとき、偶然うまく水車ができたので、偶発条件である。
  例3は、偽善がある理由が素直ではないという事柄によるものなので、原因・理由を表す。

A逆接・・・接続助詞「が」「に」「を」「ど」「も」「ども」「ながら」「ものの」「ものを」「ものから」
      「ものゆゑ」が使われる。逆接の確定条件には、意味別にさらに細かく次の2つ
       に分けられる。

(A)恒常条件 →前述した事柄が起こると、必ず、それに反する内容で後述する事柄が起
           こることを表す。

例1・憂へ忘るといへ、酔ひたる人ぞ過ぎにし憂さをも思ひ出でて泣くめる。
   (「酒を飲めば悲しみを忘れる」とは言うけれども、酔った人に限って、過ぎ去った日の
   つらさを思い出しては泣くようだ。)

(B)偶発条件 →前述した事柄が起きた後、偶然、それに反する内容で後述する事柄が起
           こることを表す。

例2・木の葉をかきのけたれ、つやつや物も見えず。
   (木の葉を取り除いてみたけれど、埋めておいた物が全く見つからない。)

※例1は、酒を飲んで酔うと、必ずつらかった過去を思い出して泣くというわけで、恒常条件
 である。
  例2は、木の葉を取り除いた、その時には埋めた物が見つからなかったので、偶発条件
 である。

【音便】 *************************************************************************

A・動詞の音便

 @イ音便→カ行・ガ行・サ行四段活用の連用形活用語尾が「い」に変化する。

  例1・土肥・梶原、五十騎ばかりで続いたり。
     (本来の形は「続き」)
  例2・沖なる舟に目をかけ、海へざつと打ち入り、五六段ばかり泳いだるを・・・
     (本来の形は「泳ぎ」)
  例3・馬に打ち乗り、甲の緒を締め、西を指いてぞ歩ませ給ふ。
     (本来の形は「指し」)

 Aウ音便→ハ行・バ行・マ行四段活用の連用形活用語尾が「う」に変化する。

  例1・中一町ばかりより互いにそれと見知って、主従駒を早めて寄り合うたり。
     (本来の形は「合ひ」)
  例2・河原太郎、弟の次郎を呼うで、言ひけるは・・・
     (本来の形は「呼び」)
  例3・大般若を七日読うで・・・
     (本来の形は「読み」)

 B撥音便→ハ行・バ行・マ行四段活用、及びナ行変格活用の連用形活用語尾が「ん」に
        変化する。ラ行変格活用の連体形活用語尾が「ん」に変化する。

  例1・今井四郎兼平、鞭・鎧を合はせて追つつき・・・
     (本来の形は「追ひ」)
  例2・牛は飛んで出づれば、木曾は車の中にて仰向きに倒れぬ。
     (本来の形は「飛び」)
  例3・「大勢の中にてこそ討ち死にをもせめ」とて、真先にぞ進んだる。
     (本来の形は「進み」)
  例4・死んだる人の生き返り・・・
     (本来の形は「死に」)
  例5・世の中に物語といふ物のあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ・・・
     (本来の形は「ある」)

 C促音便→タ行・ハ行・ラ行四段活用、及びラ行変格活用の連用形活用語尾が「つ」に
        変化する。

  例1・大名は我と手を下ろさねども、家人の高名をもつて名誉とす。
     (本来の形は「もち」)
  例2・ややあつて、鎧・直垂を取つて、頸を包まんとしけるに・・・
     (本来の形は「あり」「取り」)

 ※促音便は現代語では「っ」と小さく表記されるが、古語では「っ」は文字として存在しな
  かったので、「つ」と表記された。但し、音読の際は「っ」と同様に扱う。

B・形容詞の音便

 @イ音便→連体形活用語尾「き」「しき」が、「い」「しい」に変化する。

  例1・さては互いによい敵。
     (本来の形は「よき」)
  例2・家内富貴して、楽しい事なのめならず。
     (本来の形は「楽しき」)

 Aウ音便→未然形活用語尾「く」「しく」が、「う」「しう」に変化する。※1

  例1・まめやかなるやうにてあるも、いと思ふやうなれど、このたびさへなうは、いと辛う
     もあるべきかな。
     (本来の形は「なく」)
  例2・ 同じうは、なれ仕うまつらばや。
     (本来の形は「同じく」)

 ※1 この音便は後続の語が接続助詞「ば」、すなわち仮定条件を表す場合に限られる。
    なお、この場合接続助詞「ば」は清音化して「は」となる。形容詞の基本活用に未然
    形を認めず、上記の用例は連用形に係助詞「は」のついた形とみなす学説が通説に
    なっているが、それは次に示す用例であって単なる強調を表す用法に過ぎない。

    例3・昔、男、異しうはあらぬ女を思ひけり。
       (本来の形は連用形「異しく」+係助詞「は」

    仮定条件はあくまでも未然形に接続助詞「ば」のついた形と考えるべきで、例3の用
   例は例1・例2とは本質的に異なるものである。詳細は【仮定条件】 【ば】<接続助詞>
   の項を参照。

 Bウ音便→連用形活用語尾「く」「しく」が、「う」「しう」に変化する。

  例1・日来は何とも覚えぬ鎧が、今日は重うなつたるぞや。
     (本来の形は「重く」)
  例2・某が郎等の手にかけて討ち奉りたりなんど申されん事こそ、口惜しう候へ。
     (本来の形は「口惜しく」)

 C撥音便→連体形活用語尾「かる」「しかる」が「かん」「しかん」に変化する。これは後続
        の語が助動詞「めり」・「らし」、及び伝聞・推定の「なり」の場合に限られる。
        例2のように撥音便「ん」が表記されない場合もあるが、音読の際は「ん」も発
        音する。

  例1・男女数多かんめる。
     (本来の形は「多かる」)
  例2・造麻呂が家は、山もと近かなり。
     (本来の形は「近かる」)

C・形容動詞の音便

 @撥音便→連体形活用語尾「なる」「たる」が「なん」「たん」に変化する。これは後続の語
        が助動詞「めり」・「らし」、及び伝聞・推定の「なり」の場合に限られる。撥音便
        「ん」が表記されない場合もあるが、音読の際は「ん」も発音する。

  例1・吉野山峰の白雪いかならし麓の里も降らぬ日はなし
     (本来の形は「いかなる」)

D・助動詞の音便

 @イ音便→「べし」「まじ」の連体形末尾の音が「き」から「い」に変化する。

  例1・今ゆくすゑは、あべいやうもなし。
     (本来の形は「べき」)
  例2・存ずる旨があれば、名乗るまじいぞ。
     (本来の形は「まじき」)
 
 Aウ音便→「べし」「まじ」の未然形末尾の音が「く」から「う」に変化する。※2

  例1・わが後生の思ひ叶ふべうは、まづこの人の世におはしぬべき便りを見せ給へ。
     (本来の形は「べく」)
  例2・人目見苦しうあるまじうは、見えむかひもしぬべく
     (本来の形は「まじく」)

 ※2 この音便は後続の語が接続助詞「ば」、すなわち仮定条件を表す場合に限られる。
    なお、この場合接続助詞「ば」は清音化して「は」となる。形容詞型活用をする助動詞
    の基本活用に未然形を認めず、上記の用例は連用形に係助詞「は」のついた形とみ
    なす学説が通説になっているが、それは単なる強調を表す用法に過ぎず、厳然と区
    別する必要がある。詳細は本項Bに記した「形容詞の音便」の※1を参照。

 Bウ音便→「べし」「まじ」「たし」「まほし」の連用形末尾の音が「く」から「う」に変化する。
        「む」「むず」が「う」「うず」に変化する。

  例1・兼平も勢田にて如何にもなるべう候ひつれども・・・
     (本来の形は「べく」)
  例2・それをば君も知ろし召さるまじう候ふ。
     (本来の形は「まじく」)
  例3・かぐや姫を見まほしうて物も食はず思ひつつ・・・
     (本来の形は「まほしく」)
  例4・あはれ、良から敵がな。
     (本来の形は「」)
  例5・名乗らずとも、頸を取つて人に問へ。見知らうずる
     (本来の形は「むずる」)

 C撥音便→ラ変型活用をする助動詞の連体形の末尾「る」が「ん」に変化する。これは、
        後続の語が助動詞「めり」・「らし」、及び伝聞・推定の「なり」の場合に限られ
        る。例2のように撥音便「ん」が表記されない場合もあるが、音読の際は「ん」
        も発音する。

 例1・何事をか奏すべかんなるぞ。
    (本来の形は「べかる」)
 例2・春過ぎて夏来にらし白妙の衣ほすてふ天の香具山
    (本来の形は「ける」)
 例3・子になり給ふべき人めり。
    (本来の形は「なる」)

【連濁】 *************************************************************************

 音便化された活用語の影響を受けて、その直後にくる語の最初の清音が濁音になる現象。

例1・あなたが見ても結構です。
例2・あなたが書いても結構です。
例3・あなたが支払っても結構です。
例4・あなたが読んでも結構です。

 例1は音便化されていない動詞の直後、例2はイ音便の直後、例3は促音便の直後、例4
は撥音便の直後に、それぞれ助詞「ても」が使われている。このうち例4の文に限り、「ても」
が「でも」になっている。これは「読んても」では発音しにくいので、本来は清音である「て」が
濁音に変化している。このように、前の語の音便に連動して濁音に化す現象なので、「連濁」
という。古語で連濁化する語は、主に、助動詞「けり」「たり」と接続助詞「て」である。なお、促
音便の場合は連濁は生じない。

例1・沖なる舟に目をかけ、海へざつと打ち入り、五六段ばかり泳いだるを・・・
   (本来の形は「たる」。「泳い」は「泳ぎ」のイ音便)

例2・河原太郎、弟の次郎を呼う、言ひけるは・・・
   (本来の形は「」。「呼う」は「呼び」のウ音便)

例3・「大勢の中にてこそ討ち死にをもせめ」とて、真先にぞ進んだる
   (本来の形は「たる」。「進ん」は「進み」の撥音便)

 完了の意を表す助動詞「つ」に過去の意を表す助動詞「けり」が接続する場合は、「てけり」
が通常の形であるが、軍記物語では「て」が「てん」に変化し、この影響を受けて「けり」が連
濁となる。

例4・首ねぢ切つて捨ててんげり
   (本来の形は「けり」。なお、「てん」はもともと助動詞「つ」の連用形「て」)

【歴史的仮名遣い】 ***************************************************************

 現在使用している日本語の仮名遣い(→現代仮名遣い)の対義語で、平安時代中期の
仮名の使い方を基準にした古い仮名遣いをさす。仮名遣いとその発音に関しては、次の7
つのきまりがある。

1・五十音すべてが存在する。

 現代の仮名はヤ行の「い」「え」、ワ行の「ゐ」「う」「ゑ」が存在しない。また、「を」は、文字
としては存在するものの、助詞以外の単語では用いられない。歴史的仮名遣いでは、これ
らの仮名も語頭・語中に関わらず使用されるので、古語辞典を引く場合や、動詞の活用を
判断する際には注意が必要である。但し、音読する際は現代語と同様に「ゐ」を「い」、「ゑ」
を「え」、「を」を「お」と発音する。

 例1・田舎→なか、知恵→ち、男→とこ
    (「なか」「ち」「とこ」では辞書に掲載されていない)

 例2・射る→ヤ行上一段動詞、植う→ワ行下二段動詞
    (「射」の漢字のふりがなは「い」だが、ア行には活用しない。
     「植」の送り仮名「う」はワ行の「う」であり、これもア行には活用しない。)

2・「じ」と「ぢ」、及び、「ず」と「づ」が使い分けられている。

 現代仮名遣いで「ぢ」「づ」が使われるのは、もともと「ち」「つ」と読む単語がある特定の
単語と複合した際に濁音になる場合に限られるが、(例・「近い」+「つく」→近づく)歴史的
仮名遣いでは「ぢ」「づ」が普通に語頭・語中に使われる。但し、音読する際は現代語と同
様に、「ぢ」を「じ」、「づ」を「ず」と発音する。

 例1・地獄→ごく、陣→ん、図→、厨子→
    (「ごく」「ん」「」「し」では辞書に掲載されていない)

 例2・氏→う、道場→だうゃう、絆→きな、沈む→し
    (「う」「だうゃう」「きな」「しむ」では辞書に掲載されていない)

3・語中に用いられたハ行の仮名、及び助詞「は」「へ」はすべてワ行の音で発音する。
 但し、助動詞「まほし」と、複合語になったために語中にハ行の仮名が入った場合は、
 例外となる。

 例1・   →発音は「か」※ふりがなは「か
 例2・何か→発音は「なにか
 例3・朝 →発音は「あさ」(「朝」と「日」とが複合したため、「ひ」はそのまま発音する)

4・助動詞「む」「むず」「らむ」「けむ」・助詞「なむ」に含まれている「む」は「ん」と発音する。

 例1・恋しから   →こいしから
 例2・ありけむ     →ありけん
 例3・驚かさむずらむ→おどろかさんずらん
 例4・これなむ都鳥 →これなんみやこどり

5・次の2つの母音が重なる場合は長音で発音する。

 A・「あう」は「おー」と発音する。(例・坂  →おーさか)※ふりがなは「あふさか」
 B・「いう」は「ゆー」と発音する。(例・ふ  →ゆー
 C・「えう」は「よー」と発音する。(例・なし →よーなし)※ふりがなは「えうなし」

6・子音+2つの母音となる場合は、子音に5で示した長音がついた音になる。

 例1・いたう  →いとー
 例2・美しうて→美しゅー
 例3・今日  →きょー   ※ふりがなは「けふ

7・促音「っ」は文字として存在しないため、「つ」と表記される。但し、音読の際は現代語と
 同様に「っ」と発音する。

 例・つひに、木曾殿の首をば取つてんげり。→青文字の部分は「取って

【文の種類】 *********************************************************************

文は構造上で3つ、意味上で4つに分類することができる。

A・構造上の分類

@単文・・・一文中に主部・述部が一組しかない文。

 例・八重桜は異様のものなり
   (八重桜は風変わりなものだ。)

 ※主部が赤文字の部分、述部が青文字の部分。以下、ABの例文でも同じ。
   上の例文ではそれぞれ一つずつあり、主部・述部が一組しかない文である。

A複文・・・一文の一部に主部・述部のある句が存在し、それが文全体において、主語・述
       語・修飾語のいずれかになっている文。

 例・虫のつきたるもむつかし
   (毛虫がついている桜も気味が悪い。)

 ※一見すると@と同様に主部・述部が一組しかないように見えるが、この例文の赤文字の
  部分は文全体では主部の役割を果たすが、赤文字内に限っては「虫の」が主部、「つき
  たる」が述部になっている。


B重文・・・一文中に主部・述部が二組以上、並立する関係で存在する文。

 例・古京はすでに荒れて新都はいまだ成らず
   (古い都は既に荒れ果てており新しい都はまだ完成していない。)
 
 ※@は主部・述部が一組しかないのに対し、この例文では、赤文字・青文字の語句が2つ
  ずつあり、二組が並立して存在することになる。

B・意味上の分類

@平叙文・・・筆者・登場人物の判断・推量・意志・希望・感想や、事物の状況・性質を述べ
        る文。
 
 例1・何事も、古き世のみぞ慕はしき
    (どんなことも、昔の時代が格別に慕わしく思われる。)

 例2・若き時は血気内に余り、心物に動きて情欲多し
    (若い時は血気盛んで、心は物事に触れて動揺しやすく、男女間の情愛も熱しやい。)

 ※例1は筆者の感想を、例2では若い人にありがちな性質を述べている。

A疑問文・・・筆者・登場人物の疑問・反語を表す文。

 例1・御子はおはす
    (お子様はいらっしゃいますか?)

 例2・近き火などに逃ぐる人は、「しばし」とやは言ふ。
    (近所の火事で逃げる人は、「しばらく待ってみよう」などと言うだろうか。いや、言うは
    ずがない。


 ※例1は疑問、例2は反語である。疑問の場合は「〜か」だけで良いが、
  反語の場合は「〜だろうか。いや、〜ではない。」という現代語訳になる。

B命令文・・・筆者・登場人物の命令・禁止を表す文。

 例・あやまちす。心して降りよ
   (怪我をする。注意して降りろ。)

 ※前半の「あやまちすな。」が禁止、後半の「心して降りよ。」が命令である。
    

C感嘆文・・・筆者・登場人物の感動・呼びかけを表す文。
 
 例1・あはれ、紅葉を焼かん人もがな
    (ああ、この紅葉を焚く人がいてくれると良いのになあ。)

 例2・いざ、かいもちひせむ。
    (さあ、ぼたもちを食べよう。)

 ※例1が感動、例2が呼びかけである。

【文節の種類】 *******************************************************************

文節は、意味上次の4つに分類できる。

@主語・・・動作をした事物、ある状態にある事物を表す。主語を含む文節・連文節を主部
      という。

 例1・夜の間に死ぬ。
    (夜のうちに牛が死んだ。)

 例2・さて、冬枯れのけしきこそ、秋にはをさをさ劣るまじけれ。
    (さて、草木が冬枯れする様子は、秋よりもほとんど劣らないだろう。)

 ※例1は「牛」一語なので主語、例2は「けしき」が主語だが、修飾語句や付属語も含めて
  連文節になっているため、主部となる。

A述語・・・主語の状態や動作を表す。述語を含む文節・連文節を述部という。

 例1・夜の間に牛死ぬ
    (夜のうちに牛が死んだ。)

 例2・さて、冬枯れのけしきこそ、秋にはをさをさ劣るまじけれ
    (さて、草木が冬枯れする様子は、秋よりもほとんど劣らないだろう。)

 ※例1は「死ぬ」一語なので述語、例2は「劣るまじけれ」が述語だが、
   修飾語句や付属語も含めて連文節になっているため、述部となる。

B修飾語・・・後続の文節にかかり、その文節中にある語句の内容を特定する働きをもつ
        語句。修飾語を含む文節・連文節を修飾部という。

 例・秋の月は、限りなくめでたきものなり。
   (秋の月は、このうえなく素晴らしいものである。)

 ※赤文字の部分は下記Cの例文中にある赤文字の語を修飾している。つまり、どんな
  「月」かといえば「秋の」月であり、どのように「めでたき」なのかと言うと、「限りなく」で
  ある。このように内容を特定する働きを「修飾」という。

C被修飾語・・・前出の文節にある修飾語を受けて、その内容を特定される語句。
          被修飾語を含む文節・連文節を被修飾部という。

 例・秋の月は、限りなくめでたきものなり。
   (秋の月は、このうえなく素晴らしいものである。)

 ※「月」の直前に「秋の」、「めでたき」の直前には「限りなく」があり、それぞれ、

   これらに「月」「めでたき」が修飾されている関係にある。

D独立語・・・@〜Cのいずれにも該当せず、文中で他の文節とは関わりを持たない語句。
        接続詞・感動詞がこれに該当する。

 例1・されば、人、死を憎まば、生を愛すべし。
    (だから、人は死ぬことを憎むのならば、命を大切にしなければならない。)

 例2・あな、わびしと思ひて、今一度起こせかしと思ひ寝に聞けば・・・
   (『ああ、つらい』と思って、『もう一度起してくれよ』と思いながら寝て聞いていると・・・)

 ※例1が接続詞。例2が感動詞を使用した例文である。いずれも、他の文節との関わりを
  持たないため、独立した文節となっている。

E補語・・・直前の文節と結びついて、それに意味を添える働きをする語。

 例・まことにさにこそ候ひけれ。もつとも愚かに候ふ
   (本当にそのとおりでございますね。私たちこそ愚かでございます。)

 ※後半の一文は「もつとも愚かなり」だけで意味は通じる。「候ふ」は必要不可欠な語では
  なく、直前の文節を意味上補助する関係にある。

【連用修飾】 *********************************************************************

 用言、または用言が含まれる文節・連文節を修飾すること。連用修飾の働きをする語句
は、副詞・活用語の連用形・体言に格助詞「に」「へ」「を」がついた形である。

例・つれづれなるままに、日暮らし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとをそこはか
  となく
書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。
 (何もすることがなく退屈なままに、一日中硯に向かって、心の中に浮かんでは消えて
  ゆくとりとめのないことをこれといった目的もなく書きつけてみると、不思議なほど我な
  がら気違いじみたように熱中してしまうものだ。)

 ※この例文の青文字の部分は連用修飾の働きをしている。個々の「修飾−被修飾」関係
  は次のようになっている。
  
  「日暮らし」「硯に」       →動詞「向かひ」
  「心に」              →動詞「うつりゆく」
  「よしなしごとを」「そこはかとなく」→動詞「書きつくれ」
  「あやしう」            →形容詞「ものぐるほしけれ」

 「日暮らし」は副詞、「硯に」「心に」「よしなしごとを」はいずれも体言+助詞の形、「そこは
かとなく」「あやしう」は形容詞の連用形である。 

【連体修飾】 *********************************************************************

 体言・または体言が含まれる文節・連文節を修飾すること。連体修飾の働きをする語句
は、連体詞・活用語の連体形・体言に格助詞「の」「が」がついた形である。

例・鎌倉の海に鰹と言ふ魚は、かの境ひには双なきものにて、このごろもてなすものなり。
   (鎌倉の海で鰹という魚は、あの地方ではまたとない物として、最近もてはやすもので
   ある。)

 ※この例文の赤文字の部分が連体修飾の働きをしている。個々の「修飾−被修飾」関
  係は次のようになっている。

  「鎌倉の」 →名詞「海」
  「鰹と言ふ」→名詞「魚」
  「かの」   →名詞「境」
  「双なき」 →名詞「もの」

 「鎌倉の」は名詞+助詞の形、「鰹と言ふ」は引用文+助詞「と」+動詞の連体形、「双な
き」は形容詞の連体形である。意外とわかりにくいのは「かの」だ。これは代名詞「か」+助
詞「の」で構成されている。「この」「その」「あの」も同じく「代名詞+助詞」である。これらは
現代語文法では連体詞になるので、特に注意したい。

【付録1・今もなお残る古典文法】 ****************************************************

 言葉は生き物である。中学校・高校の国語においては、江戸時代以前の作品を「古文」
とし、明治時代以後の作品を「現代文」と区分けしているが、明治元年を境に古典文法か
ら現代語文法へと、がらっと変わったわけではない。明治元年から約140年、戦後60年
を経過した現代においても、なお古典文法が使われた表現は、日常の会話にも、活字に
も、まだかなり残っている。そんな例を紹介し、古典文法の考察をしておく。

動詞の用例

1・異議あり

 会議などで使われる言葉だが、「あり」はラ行変格活用動詞の終止形。現代語でラ行変格
活用は存在せず、現代語ならラ行五段活用動詞「ある」となる。他のラ変動詞「居り」「侍り」
「いまそかり」が消えた中、「あり」だけが古語のまま使われている。 この用例は他にも、柔
道の判定用語で「技あり!」、交信で「応答あり!」、また連用形で「ありし日の思い出を語
る。」などの形で使われている。

2・内閣は総辞職すべきだ。

 「す」はサ行変格活用動詞の終止形、「べき」は当然の意をもつ助動詞「べし」の連体形で、
いずれも古語。現代語のサ行変格活用動詞の終止形は「する」である。また、「べし」に相当
する言葉は「なければならない」なので、現代語なら「内閣は総辞職しなければならない。」
となる。

3・○○選手、ついに力尽く

 よくスポーツ紙で登場する見出しだ。「尽く」はカ行上二段活用動詞だが、現代語に上二段
活用は存在しない。したがって「尽く」は現代語では上一段活用動詞で「尽きる」になるはず
だが、これだけが古語のまま残っている。

4・求む!アルバイト

 「求む」はマ行下二段活用動詞だが、現代語に下二段活用動詞は存在しない。したがって
「求む」は「求める」になるはずだが、「求む」は古語のまま残っている。他にも下二段動詞で
恐るべき実態!」という用例も残っている。

5・線分ABの長さを求めよ

 よく数学の出題で見られる問題文である。古語では上下の一段・二段活用動詞の命令形
は末尾に「よ」がつくが、現代語では「授業に出ろ」「問題文をよく見ろ」「テストを受けろ」とい
う具合に、命令形活用語尾の末尾は「ろ」になる。したがって「線分ABの長さを求めろ。」で
良いはずだが、なぜかそういう問題文は見られない。

   (塾長コメント:最近の教科書では、「〜求めなさい。」という表現に変わってきています!)

6・生きとし生けるものはみんな生老病死がある。

 現代語では上一段活用で「生きる」だが、古語では上二段活用でもあり、四段活用でもあ
った。「生ける」はその四段活用の已然形に、存続の意を表す助動詞「り」の連体形がつい
た形で、現代語なら「生きている」となる。

形容詞の用例

1・全くけしからん奴だ。

 現代では「道義・礼儀に外れている」という意味で使われる語であるが、品詞分解すると、
「けしから」がシク活用の形容詞「怪し」の未然形補助活用、「ん」が打消の意を表す助動詞
「ず」の連体形「ぬ」が撥音便化されたものである。(推量の助動詞「む」の撥音便ではない
点に注意。)いずれも古典文法の活用のまま残っている。

2・このような例は少なからず見られる。

 「少なから」はク活用の形容詞「少なし」の未然形補助活用で、
 「ず」が打消の意を表す助動詞の連用形である。どちらも古語にしかない用法で、
 そのまま現代でも使われている稀少な用例だ。

3・若かりし頃、彼は音楽家をめざしていた。

 「若かり」はク活用の形容詞「若し」の連用形補助活用で、「し」が過去の意を表す助動詞
の連体形である。どちらも古語にしかない用法で、そのまま現代でも使われている稀少な
用例だ。

4・熱き闘いの日々はまだ続く。

 「熱き」はク活用の形容詞の連体形。現代語では終止形・連体形とも「熱い」だが、この連
体形だけは「提出なき場合」「良き理解者」など、かなり残されている。シク活用も同様に「
しき
運命」「悪しき風習」など、こちらも少なくない。

5・仕事の効率を優先するのも良し悪しだ。

 「良し」はク活用の形容詞、「悪し」はシク活用の形容詞で、いずれも終止形。現代語なら
「良い」「悪い」である。この類は他にも「事故多し!」「道幅狭し!」 「異常なし」など、古語
の終止形のまま使われている。

6・遅かれ早かれ、真実を知る時が来るだろう。

 「遅かれ」「早かれ」ともク活用の形容詞の命令形(但し、相手に命令する意味はない)で
ある。しかし、現代語の形容詞に命令形は存在しない。「あいつのために良かれと思ってし
たことだ。」という表現も、「遅かれ早かれ」と同様に、古語のまま残された用例である。

形容動詞の用例

1・初出場ながら堂々たる態度だった。

 タリ活用の形容動詞の連体形がそのまま現代でも使われている例。ちなみに、現代の形
容動詞にタリ活用は存在しない。この類は他にも「微々たる差だ。」「確たる証拠もない。」
「○○はその最たるものだ。」など、数例が残っている。

2・夏休みは大いに遊び、大いに学ぼう。

 これは、ナリ活用の形容動詞「大きなり」の連用形「大きに」がイ音便化されたものである。
現代語は「大きい」という形容詞になっており、形容動詞としては存在しない。なお、関西地
方で使われる方言に「おおきに」があるが、これはとりもなおさず、ナリ活用の形容動詞「大
きなり」の連用形がそのまま使われたものである。


助動詞の用例

1・収賄で逮捕とは、政治家としてあるまじき行為だ。

 「まじき」は禁止の意の助動詞「まじ」の連体形。「あるまじき」という形に限って、助動詞
「まじ」が現代でも使われている。現代語では「あってはならない」となる。
 
2・悩め受験生に朗報です。

 直前の「悩め」は四段活用動詞の已然形、「る」は存続の意を表す助動詞「り」の連体形
で、今もなおセットで現代に残っている。現代語なら「悩んでいる受験生に朗報です。」とな
る。この類は他にも「迷え子羊」「心を病め若者」などがあるが、残念ながら用例は少
ない。なお、紛らわしいものとしては、「取れる」「住める」「歩ける」などの「る」がある。しか
し、これらは五段活用動詞から可能の意を表す下一段活用に転じた動詞の活用語尾であ
り、「悩める」の「る」とは本質的に違う語である。
 
3・はじめに合理化ありという考えではだめだ。

 「き」は過去の意を表す助動詞。終止形「き」は、ラ行変格活用動詞「あり」の連用形に続
いて使われた「ありき」という形に限って、現代でも使われている。

4・あり日の思い出にひたる。

 「し」は過去の意を表す助動詞「き」の連体形。現代語ならば「過ぎた日の思い出にひた
る。」となる。他にも「若かり頃」「華やかかり時」など特定の用言の後に限って、現代
でも使われている。

5・これより先、立ち入るべからず。

 「べから」は義務の意を表す助動詞「べし」の未然形。この助動詞は「べから」と「べき」に
限って、現代でもそのまま使われている。但し前者は打消の意を表す助動詞「ず」とセット
で使われ、禁止の表現だけが残っている。

6・なんと特別価格19800円なり

 これは断定の意を表す助動詞「なり」である。現代では値段を言う場合に限って使われる
ことが多いが、珠算では頻繁に使われる。

7・見知ら人に声をかけられたら、すぐに逃げよう。

 「ぬ」は打消の意を表す助動詞「ず」の連体形である。「ず」の用例は他の助動詞以上に
多く、「事件に巻き込まれに済んでよかった。」(連用形)「警報機が作動せ。」(終止
形)「負け気が強い。」「知られざる秘境」(いずれも連体形)「すぐに行かばならない。」
(已然形)など、現代でも各活用形にわたって見られる。

8・師匠をしてさすがだと言わしめた作品だ。

 「しめ」は使役の意を表す助動詞「しむ」の連用形。「〜しめた」という表現に限って、現代
でも残っている。現代語なら「師匠にさすがだと言わせた作品だ。」となる。

9・売りたし買いたし

 よく雑誌の中古品売買コーナー欄などに見かける言葉である。「たし」は希望を表す助動
詞で、現代語なら「たい」になる。他の活用形は、連体形「たき」の用例がわずかに残って
いる。

10・彼に負けとがんばった。

 「じ」は打消意志の意を表す助動詞の終止形。現代語なら「彼に負けまいとがんばった。」
となる。「負けじ」「させじ」という表現に限って、現代にも残っている。

助詞の用例

1・『愛あらば IT’S ALL RIGHT』

 モーニング娘。20枚目のシングル曲のタイトルだが、「あらば」は未然形に接続助詞「ば」
がついた形で仮定条件。現代語ならば第5活用形が仮定形になるので、「愛あれば・・・」
で良いのだが、プロデュースを担当されたつんく♂さんは、あえて古典文法の仮定条件に
した。

2・知る人知るラーメン店だ。
 
 「ぞ」は係助詞だが、現代語には係助詞そのものが存在しない。「今から行くぞ!」という
表現で使われる助詞「ぞ」は終助詞であり、上の例とは異なる。係助詞には他にも「なむ」
「や」「か」「こそ」などがあるが、現代でも強調の意味で使われているのは「ぞ」と「こそ」だ
けで、いずれも副助詞に分類されている。「これぞ芸術だ。」「これこそ芸術だ。」という表現
がその例だが、文末の活用形は終止形のままであり、係り結びの法則は消滅している。

3・いくら電鉄会社の社長といえども、列車ダイヤを決める権限まではない。

 「ども」は逆接の確定条件を表す接続助詞だが、現代語なら「ても」「でも」を使う。したが
って、「いくら電鉄会社の社長といっても・・・」または、「いくら電鉄会社の社長でも・・・」と
なる。「いえども」という表現の場合、「ども」の前にある「いえ」は已然形だが、現代語の文
法は第5活用形は仮定形であり、已然形は存在しない。

【付録2・已然形と仮定形】 *********************************************************

 用言・助動詞の活用形は古語・現代語とも6種類あるが、その中身は下記に示すように、
第5活用形が異なっている。

        <古典文法><現代語文法>
第1活用形    未然形      未然形
第2活用形   連用形      連用形
第3活用形   終止形      終止形
第4活用形   連体形      連体形
第5活用形   已然形      仮定形
第6活用形   命令形      命令形

 この違いが実際の表現手法に現れるのは「仮定条件」の文法である。現代語文法と古
典文法とでは、下記のように異なっている。

A・現代語文法

第5活用形が仮定形であるので、これに接続助詞「ば」をつけて表す。

例1・今から走れば、学校には遅刻しないだろう。
例2・もし寒ければ、上着を着て参加しても良い。 
例3・海が穏やかならば、出航してもだいじょうぶだろう。
例4・みんなから言われれば、彼も少しは考え直すだろう。

※例1は動詞、例2は形容詞、例3は形容動詞、例4は助動詞の用例である。

B・古典文法

 第5活用形は已然形(すでに動作がなされた場合の形)なので、これに接続助詞「ば」を
つけると確定条件になってしまう。したがって仮定の表現は第1活用形の未然形(まだ動
作がなされていない場合の形)に接続助詞「ば」をつけて表す。但し、形容動詞の未然形
に「ば」がついた仮定条件の用例はない。

例1・心に懸かる事あらば、その馬を馳すべからず。
   (気がかりなことがあるならば、乗ってその馬を走らせてはならない。)

例2・切りぬべき人なくば、給べ。
   (きちんと切って料理できる人がいないのならば、その鯉を私に下さい。)
         
例3・古くよりこの地を占めたる物ならば、さうなく掘り捨てられ難し。
   (昔からこの地を住みかとしているものであるならば、無造作に塚を掘って蛇を捨てる
   のは難しい。)

※例1は動詞、例2は形容詞、例3は助動詞の用例である。