シムソンの定理                        戻る 

 新学習指導要領になって一時ある程度の幅をきかせていた平面幾何が勢いをなくしつつ
ある。平面幾何によって、数学の面白さに開眼したという方も多いと思うのだが...。

 私自身も、中学時代に高校入試の勉強で平面幾何を統一的に学び、平面幾何の魅力に
取りつかれた一人である。

 当HPの別のページ「蝴蝶定理」で、いろいろな幾何の問題に触れる中で、大事な定理を
見逃していたことに気づかされた。

 中国では、4つの重要な定理として、次のものをあげているHPサイトが多い。

  メネラウスの定理 、チェバの定理 、トレミーの定理 、シムソンの定

 トレミーの定理を除いた他の定理は、共線・共点の定理で、作図題でも活躍することは
ご存じのことと思う。(→参考:基本の作図

 また、共線・共点の定理は、代数学的意味を有しており、その顕著な例が、デザルグの
定理であろう。

 このページでは、共線・共点の定理について、いろいろ整理したいと思う。

 まずは、シムソンの定理から始めよう。


シムソンの定理  (正しくは、ウォーレスの定理といわれるらしい!)

   △ABCの外接円周上の点Pから、BC、CA、

  AB に下ろした垂線の足を D、E、F とする。

   このとき、3点 D、E、F は1直線上にある。



   この直線のことを、シムソン線という。

   「1直線上にある」ということを、如何に示すか
  が証明のポイントだろう。

 平成22年4月20日付けで、HN「muturajcp」さんから下記の証明に対して、次のような
ご指摘を頂いた。

 「4点 P、F、A、E が同一円周上にあっても、この順序に並んでいる保証はなく、
 ∠PFE=∠PAE であるとは言えないのではないでしょうか?


 ご指摘はごもっともで恐縮です。ただ、△ABCが直角三角形とか鈍角三角形の場合、そ
して点Pの位置まで考慮するとなると証明する前に気が滅入ってしまいます。本質を見失っ
てしまいそうです。

 当HPの趣旨、教育的配慮から、以下では、上図の場合に限定して証明を行っている点
を是非ご理解ください。一つの場合について証明の方法が理解されれば、他の場合につい
ても同様に示されると考えます。

 これに対して、muturajcp さんから、

 「図に依存する証明は好ましくないし、図の場合に限定して証明を行う場合も、一般性を
 失わない事を示す必要があると思う。


とのご指摘を頂きました。(平成22年4月23日付け)

 以下は、muturajcp さんによる証明である。(一部文言等を修正させて頂きました。)

 (証明) 題意より、点Pが弧AB上にあるとしても一般性を失わない。

 このとき、四角形PBCA は、円に内接するので、 ∠PBC+∠PAC=180°

 ∠PBC=90°のとき、D(=B)、E(=A)、F が1直線上にあることは明らかである。

 ∠PBC>90°のときは、∠PAC(<90°)について論ずればよいので、∠PBC<90°

 と仮定しても一般性を失わない。

 このとき、 ∠PAC>90°であるので、点Eは辺CAの延長上にある。

 4点 P、F、A、E は、同一円周上にあるので、 ∠PFE=∠PAE

 また、 ∠PAE+∠PAC=180°なので、 ∠PAE=∠PBC

 ∠PBC<90°より、D、FはPBに対して同じ側にあり、四角形PBDFは円に内接するの

で、 ∠PBD+∠PFD=180°が成り立つ。

  よって、 ∠PFE+∠PFD=180°となり、3点 D、E、F は1直線上にある。 (証終)


(コメント) muturajcp さん、証明ありがとうございます。何とか一般的な証明になりました
      ね!FNさんも4月23日付けで指摘されていますが、

   Pが孤AB上にあり、∠PBC<90°のときを証明すれば十分

 ということがキーポイントのようです。

 以下の証明は、上記の議論を踏まえて簡略化したものである。

(証明) 4点 P、F、A、E は、同一円周上にあるので、 ∠PFE=∠PAE

 同様に、四角形PBCAは円に内接するので、 ∠PAE=∠PBD

 四角形PBDFは円に内接するので、 ∠PBD+∠PFD=180°

  よって、 ∠PFE+∠PFD=180°となり、3点 D、E、F は1直線上にある。 (証終)


 証明があまりにも鮮やかすぎて、じっくり味わう余裕がないほどである。脳裏に焼き付ける
ために下図を補充しておこう。
          

 シムソンの定理に対して、我が敬愛する安田 亨先生は、極座標を用いて代数的に証明
されている。( → 参考

 興味ある証明なので、少し整理しておくことにする。

 まず、次の2つの事実を活用する。

   線分 AB 上に点 C が存在するとき、
  直線 AB 上にない点 O により、

      △OAB=△OAC+△OCB

  すなわち、

   

  が成り立つ。

逆に、線分 AB と点 C があり、直線 AB 上にない点 O について、

       

が成り立つとき、点 C は、線分 AB 上に存在する。

(証明) △OAB=△OAC+△OCB より、

    (1/2)ab・sin(α+β)=(1/2)bc・sinα+(1/2)ca・sinβ

 が成り立つので、等式が成り立つことは明らかであろう。

  逆に、点 C が、線分 AB 上に存在しないと、△OAB=△OAC+△OCB が成り立

 たないので、等式が成り立てば、必然的に、点 C は、線分 AB 上に存在する。(証終)


 また、半径 r の円 O において、直径の端点 P を極座標の極、有向線分POを始線と
する。

 このとき、円 O 上の2点A、Bの座標は、

     A( 2r・cosα , α )
     B( 2r・cosβ , β )

 と書ける。

  このとき、点Pより直線ABに下ろした
 垂線の足Hの座標は、

   H( 2r・cosα・cosβ , α+β )

 と書ける。

(証明) 4角形 ABPQ は、円Oに内接するので、 ∠AQP=∠HBP が成り立つ。

  よって、 △HPB∽△APQ なので、 ∠BPH=α が成り立つ。

  このことから、明らかであろう。  (証終)


 以上により、極座標による、シムソンの定理の証明の準備ができた。

(証明) 点Pが△ABCの頂点のいずれかで
     あるときは定理は明らかに成り立つ
     ので、点Pは頂点に一致しないものと
     してよい。

  点Pを極、点Pより円の中心Oを通る有向
 線分を始線とする極座標を考える。

  円Oの半径を r とし、3点 A、B、C の座
 標をそれぞれ

  A( 2r・cosα , α )

  B( 2r・cosβ , β )

  C( 2r・cosγ , γ )

 とおく。

  

 このとき、E( 2r・cosα・cosγ , α+γ ) 、F( 2r・cosα・cosβ , α+β )

  D( 2r・cosβ・cosγ , β+γ )  が成り立つ。

 よって、

 

 したがって、線分DE上に点Fが存在し、3点 D、E、F は、同一直線上にある。  (証終)


(コメント) 確かに代数的には示されたが、平面幾何の性質を用いた証明の美しさにはか
      なわない。

 旧学習指導要領で何十年ぶりかで復活した複素数平面は、新学習指導要領で、あえな
く消えてしまった。複素数平面で幾何の問題を考えることは、一度体験すると、その美しさ
から病みつきになるくらいである。

 複素数を用いてシムソンの定理を証明するとどうなるか大いに興味のあるところである。

 過去の記憶を呼び戻すべく、私自身の勉強も兼ねて、証明を考えたいと思う。


 以下において、座標平面の原点を O とし、O と複素数 α で表される点を結ぶ線分を
Oα 、点A(z1)のことを、点 z1 と表すことにする。

 まず、直線の平行と垂直の条件を確認しておこう。

 2点 α、β を通る直線を L、2点 γ、δ を通る直線を M とする。このとき、

(平行条件)

  

(垂直条件)

  

(証明) 平行条件は、(α−β)/(γ−δ) の偏角が 0 または π 即ち、実数から明らか。

 垂直条件は、(α−β)/(γ−δ) の偏角が ±π/2 即ち、純虚数から明らか。  (証終)


 ある条件の下に、いくつかの直線の方程式を求めてみよう。

(1) 点 z1 を通り、Oα に垂直な直線の方程式は、

        

   上式の分母を払って整理すれば、

        (c は実数、α≠0)

   これは、Oα に垂直な直線の一般形を表す。

(証明) 2点 z 、z1 を通る直線と、2点 O、α を通る直線が垂直なので、垂直条件から明
     らか。後半も同様。  (証終)


(2) 点 z0 を通り、直線 に平行な直線の方程式は、

   

(証明) 直線の方程式に、 z0 を代入して、c が得られ、明らかであろう。  (証終)


(3) 点 z0 を通り、直線 に垂直な直線の方程式は、

   

(証明) 2点 z 、z0 を通る直線と、2点 O、α を通る直線が平行なので、平行条件から明
     らか。(証終)


(4) 2点 z0 、z1 を通る直線の方程式は、

  

(証明) 2点 z 、z0 を通る直線と、2点 z1 、z0 を通る直線が平行なので、平行条件から
     明らか。  (証終)


 これまで得られた直線の方程式を見て分かるように、とても美しいとは言えない形になっ
ている。それは、一般の平面で考えているからである。このページの当面の目標は、シム
ソンの定理を証明することであったが、そこには円が関わっている。

 半径 1 の円すなわち単位円の世界で幾何の問題を考えると、上記で得られた関係式
が、とても美しい関係式に生まれ変わることを上記のHPで学ぶことが出来た。

 以下で、円は単位円としても一般性を失うことはない。

単位円周上の2点 z0 、z1 を通る直線の方程式

      
 (証明) (4)において、

        

    を代入して整理すると、所要の式が得
    られる。(証終)

  ここで、特に、z1 → z0 とすれば、

 点 z0 における接線の方程式

    

 が得られる。


平行条件
  4点 α 、β 、γ 、δ は単位円周上にあるものとする。

 2点 α 、β を通る直線と、2点 γ 、δ を通る直線が平行であるとき、

    αβ − γδ = 0

が成り立つ。

(証明) 平行条件

    

において、

    

を代入して整理すると、所要の式が得られる。  (証終)


垂直条件  4点 α 、β 、γ 、δ は単位円周上にあるものとする。

 2点 α 、β を通る直線と、2点 γ 、δ を通る直線が垂直であるとき、

  αβ + γδ = 0

が成り立つ。

(証明) 垂直条件

  

において、

  

を代入して整理すると、所要の式が得られる。  (証終)


三角形の垂心

 △αβγ の外接円の中心を O とし、垂心

を z とすると、

   z=α+β+γ

が成り立つ。


(コメント) これは、座標幾何では決して得
      ることのない美しさである!   
    

(証明) 2点 α 、z を通る直線および2点 γ 、z
    を通る直線と円 O との交点をそれぞれ
     x 、 y とする。

  このとき、2点 α 、x を通る直線の方程式は

      

   また、2点 γ 、y を通る直線の方程式は

      

   である。

ここで、2点 α 、x を通る直線と2点 β 、γ を 

通る直線は垂直なので、垂直条件より、 αx + βγ = 0 が成り立つ。

 同様に、2点 γ 、y を通る直線と2点 α 、β を通る直線は垂直なので、垂直条件より、

 γy + αβ = 0 が成り立つ。これらを直線の方程式に代入して、

       、  

 このとき、   、  

なので、辺々引いて、 (α−γ)z=(α−γ)(α+β+γ) より、 z=α+β+γ (証終)


αより2点β、γを通る直線に下ろした垂線の足は、h=(α+β+γ−βγ/α)/2

(証明) 上図において、明らかに、 △γxh ≡ △γzh なので、 h は、2点 z 、 h を結ぶ

 線分の中点である。よって、中点の公式により、所要の式を得る。

 ただし、 αx+βγ=0 より、 x=−βγ/α であることに注意する。 (証終)


 さて、いよいよ複素数平面において、シムソンの定理を証明する準備が出来たようである。

(証明) 左図において、上記の公式から

    d = (p+β+γ−βγ/p)/2
    e = (p+α+γ−αγ/p)/2
    f = (p+α+β−αβ/p)/2

  と書ける。 ここで、

  垂心 z = α+β+γ で、2点 p 、z を結ぶ線分
 の中点 w は、w = (p+α+β+γ)/2 となる。

 このとき、 2pd = p(p+β+γ)−βγ

           = p(2w−α)−βγ 

  よって、 p( w − d ) = (pα+βγ)/2 が成り立つ。

同様に、 p( w − e ) = (pβ+αγ)/2 、p( w − f ) = (pγ+αβ)/2 が成り立つ。

 いま、 p( w − d ) = (pα+βγ)/2 と p( w − e ) = (pβ+αγ)/2 において、

4点 pα 、βγ 、pβ 、αγ は、単位円 O の周上の点で、平行条件

  pα × βγ − pβ × αγ = 0

が成り立ち、2点 pα 、βγ を結ぶ直線と2点 pβ 、αγ を結ぶ直線は平行となる。

 よって、その中点 (pα+βγ)/2 と (pβ+αγ)/2 は同一直線上にある。

同様にして、中点 (pβ+αγ)/2 と (pγ+αβ)/2 は同一直線上にある。

 以上から、3つの中点は同一直線上にあるので、p( w−d )、p( w−e )、p( w−f )

すなわち、 w − d 、 w − e 、 w − f も同一直線上にある。

 したがって、 4点 w 、d 、e 、 f は、同一直線上にある。

 すなわち、 3点 d 、e 、 f は、1直線上にある。 (証終)


(注意) 上記において、点 p と垂心 z の中点 w が、3点 d 、e 、 f と同一の直線上に
     あることも示された。このことを格好よく表現すれば、

  線分 pz は、点 p の△ABCに関するシムソン線によって2等分される

となる。 この事実は、シュタイナーの定理と言われるそうだ。

 以上において、シムソンの定理の証明を、3つの立場(平面幾何・極座標・複素数平面)
から眺めてきた。それぞれの特徴を十分に生かした証明で、とても面白い。


#複素数によるシムソンの定理の証明を整理したものを、「複素数の底力」に掲載しました。
 ご高覧いただければ幸いです。


 さて、シムソンの定理は逆も成り立つが、このことは他のHPサイトではあまり触れられて
いないように思う。

シムソンの定理の逆

  △ABCの外部にある点Pから BC、CA、AB

 に下ろした垂線の足を D、E、F とする。

 このとき、3点 D、E、F が同一直線上にあれ

 ば、点Pは、△ABCの外接円の周上にある。



  (証明) ∠BDP=∠BFP=90°より、四角形

      PBDFは円に内接する四角形である。

    よって、 ∠BPD=∠BFD
 3点D、E、F が1直線上より、

  ∠BFD=∠AFE

 ∠AEP=∠AFP=90°より、

 四角形PBDFは円に内接する 
四角形である。

 よって、 ∠AFE=∠APE

 ゆえに、 ∠BPD=∠APE
   

 直角三角形PDCにおいて、  ∠PCD+∠CPD=90°

 直角三角形PECにおいて、  ∠PCE+∠CPE=90°

 2式を辺々加えて、 ∠ACB+∠CPD+∠CPE=180°

 ここで、∠CPD+∠CPE=∠CPD+∠CPA+∠APE
                =∠CPD+∠CPA+∠BPD=∠APB

なので、 ∠ACB+∠APB=180°

 したがって、点Pは△ABCの外接円の周上の点である。  (証終)


 当HP読者のHN「まるこ」さんから、シムソンの定理の拡張について、ご投稿いただきまし
た。(令和6年1月23日付け)

 平面上の点 P、Q、R が同一直線上にないとき、それらを3頂点とする三角形の面積を
△PQR で表す。また、P、Q、R が同一直線上にあるときは、△PQR = 0 とする。

 A、B、C を平面上の3点とし、△ABC = 1 とする。この平面上の点 X が、△ABC の外接
円の周および内部を動く。ただし、△ABC の周上は除く。点 X から直線 BC、CA、AB にお
ろした垂線の足を L、M、N とするとき、0≦ △LMN ≦1/4 となることを示せ。また、等号が
成り立つのはどのようなときか。


 壊れた扉さんからのコメントです。(令和6年1月23日付け)

 等号が成り立つのはどのようなときか。

 「=0」の場合は、シムソンの定理より、点Xが円周上にある場合ですね。

「=1/4」の場合は、中点連結定理より、点L、M、N が各辺の中点の場合ですから、点Xが
外心の場合ですね。

 0≦ △LMN ≦1/4 となることを示せ。

 その後、つい、検索してしまいました。



 次は、メネラウスの定理について、まとめよう。

メネラウスの定理  (Menelaos 西暦98年頃?)

  △ABCの3辺 BC、CA、AB またはその延長線上に、三角形の頂点とは異なる

3点 P、Q、R がある。

 このとき、3点 P、Q、R が、1つの直線上に存在

するための必要十分条件は、


   

(証明) まず、必要条件であることを示す。

 △ABCの3頂点 A、B、C より直線上に垂線の足 A’、B’、C’ を下ろす。

 このとき、 BP : PC = BB’ : CC’

        CQ : QA = CC’ : AA’

        AR : RB = AA’ : BB’

 であるので、明らかに等式は成り立つ。

 次に、十分条件であることを示す。等式を満たす点Pが辺BCの延長上にあるとしても一

般性は失われない。いま、直線QRと直線BCの交点を、P’とする。このとき、

      

  よって、 BP/PC=BP’/P’C より、P、P’は、線

 分BCを同じ比に分けるので、P=P’ すなわち、3点

  P、Q、R は1直線上にある。  (証終)


(追記) 令和元年12月3日付け

 メネラウスの定理は、三角形に直線が交わる場合が一番馴染みがあるが、直線が三角
形と交わらない場合は、私自身もそうであるが、多分読者の方もあまり馴染みがない場面
ではないだろうか。

   3点 P、Q、R が、1つの直線上に存在

  するための必要十分条件は、


     

 証明は上記と同様である。


(覚え方) 今までメネラウスの定理というと、「世界一周」の合言葉で覚えてきたが、このよう
      に三角形と交わらない直線に対しては無力である。

 この場合は、白黒白黒白黒(もちろん、黒白黒白黒白も可)の順番で線分の比を書き出し
ていくとよいようだ。

  


メネラウスの定理の応用例1

 1辺の長さが8の正三角形ABCにおいて、辺BCの延長上にCD=2となる点Dをとる。辺
ABの中点MとDを結び、辺ACとの交点をNとする。このとき、線分ANの長さを求めよ。
                       (平成26年度神奈川県公立高校入試 数学 改題)

(解) 下図において、メネラウスの定理より、

    (AM/MB)・(BD/DC)・(CN/NA)=1 なので、

  (4/4)・(10/2)・(CN/NA)=1 より、 CN/NA=1/5

  したがって、 AN=8×(5/6)=20/3  (終)


 中学校では、メネラウスの定理は教えられていないと思うので、別解を考えてみた。

(別解) 下図のように、Mより辺BCと平行な線を引き、辺ACとの交点をPとおく。

 中点連結定理より、 △NCD∽△NPM なので、

  CN : NP=CD : PM=2 : 4=1 : 2

 したがって、 AN=AP+PN=4+4×2/3=20/3  (終)


メネラウスの定理の応用例2

 △ABCにおいて、∠Aの外角、∠B、∠Cの2等分線が辺BCの延長、辺CA、辺AB
と交わる点をそれぞれ P、Q、R とする。

このとき、

3点 P、Q、R は、1直線上にある。


(証明) 角の2等分線の性質から、  BP : PC = AB : AC 、CQ : QA = BC : AB

 AR : RB = CA : BC  であるので、明らかに等式

  

 が成り立つ。よって、メネラウスの定理より、3点 P、Q、R は、1直線上にある。 (証終)


メネラウスの定理の応用例3

 △ABCにおいて、AC=n・AB (n>1)とする。∠Aの2等分線Lが辺BCと交わる
点をDとし、CよりLに下ろした垂線の足をEとする。このとき、AD : DE を求めよ。

   

(解) 直線ABとCEの交点をFとおくと、△AFE≡△ACE なので、

   BF=AF−AB=AC−AB=(n−1)AB

  このとき、△AFEにおいて、メネラウスの定理より、(AD/DE)(EC/CF)(FB/BA)=1

 が成り立つので、 (AD/DE)(1/2)(n−1)=1 より、 AD/DE=2/(n−1)

 したがって、 AD : DE = 2 : n−1 である。  (終)


 通常幾何の証明には、ベクトル概念が有効だが、上記の証明の簡明さを考えたら、敢え
てベクトルを用いた別証をあげようという気力が湧かない。次の、チェバの定理もまた然り
である。


チェバの定理  (Ceva 1647〜1734)

  △ABCの3辺 BC、CA、AB またはその延長線上に、三角形の頂点とは異なる

3点 P、Q、R がある。3直線 AP、BQ、CR が、1点で交わるとき、

   

  が成り立つ。逆に、上記の等式が成り立てば、3直線

  AP、BQ、CR は1点で交わるか、又は、平行である。

    
    (ただし、3点の全てまたは1点のみが辺上にあるものとする。)


(証明) 前半は、 BP : PC = △OAB : △OCA

  CQ : QA = △OBC : △OAB    AR : RB = △OCA : △OBC

であるので、明らかに等式は成り立つ。

 後半は、等式を満たす点Pが辺BCの延長上にあるとしても一般性は失われない。

 直線BQと直線CRが交わるとき、その交点を O 、OA と BC の交点を、P’とする。

このとき、
      

  よって、 BP/PC=BP’/P’C より、P、P’は、線

 分BCを同じ比に分けるので、P=P’ すなわち、3直

  線 AP、BQ、CR は1点で交わる。

 直線BQと直線CRが平行であるとき、その交点を O 、OA と BC の交点を、P’とする。

このとき、 △ABQ∽△ARC なので、

    AB : AR = AQ : AC 

即ち、 RB : AR = CQ : AC より、

       

となり、
       

 よって、AP と BQ は平行となる。したがって、

 3直線 AP、BQ、CR は平行である。  (証終)



(コメント) メネラウスの定理、チェバの定理は平面幾何ではワンセットという認識がありま
      すが、歴史的には随分年代差があるのですね!驚きました...。


(追記) 令和元年12月5日付け

   

 メネラウスの定理同様に、チェバの定理においても、3直線の交点Oが三角形の内部にな
い場合も成立する。証明は上記と同様である。

(証明) QRとADの延長との交点をSとおくと、

  △ARQにおいて、チェバの定理より、

  (AB/BR)(RS/SQ)(QC/CA)=1

  これを三角形の面積比で表すと、

 (△ABS/△BRS)(△RSA/△SQA)(△QCS/△CAS)=1

すなわち、 (△RSA/△BRS)(△ABS/△CAS)(△QCS/△SQA)=1

 よって、 (AR/RB)(BP/PC)(CQ/QA)=1 より、

  (BP/PC)(CQ/QA)(AR/RB)=1   (証終)


チェバの定理の応用例

  △ABC の内接円が辺 BC 、CA 、AB と

 接する点をそれぞれ P 、Q 、R とする。

  このとき、3直線 AP 、BQ 、CR は、1点

 で交わる。


(証明) 円外の1点から引いた接線の長さは等しいので、

  BP=RB 、 CP=CQ 、 QA=AR

よって、このとき、

 

が成り立つので、チェバの定理により、3直線 AP 、BQ 、CR は、1点で交わる。  (証終)


(コメント) 三角形の内接円に、こんな性質があったとは今まで気がつきませんでした!


(追記) 令和5年6月19日付け

 チェバの定理というと、三角形に関する定理とずっと思っていたが、実は、円に関する定理
であることを再認識させられた。

弦に対するチェバの定理

 円周上の6点A、B、C、D、E、F をこの順に結ぶと、六角形ABCDEFが出来る。
このとき、対角線AD、BE、CFが1点で交わるための必要十分条件は、

 (AB/BC)・(CD/DE)・(EF/FA)=1

である。

  

(証明) 円の直径は1としても一般性を失うことはない。このとき、弧の長さ a に対して、そ

の弧に対する円周角をθとすると、 a : π=2θ : 2π から、 θ=a である。他も同様

である。△ACE において、3直線 AM、CN、EL が1点Pで交わる必要十分条件は、チェバ

の定理より、 (AL/LC)・(CM/ME)・(EN/NA)=1 である。このとき、

 (AEsin a/CEsin b)・(ACsin c/AEsin d)・(CEsin e/ACsin f)=1 より、

 (sin a/sin b)・(sin c/sin d)・(sin e/sin f)=1

正弦定理より、 sin a =AB 、sin b =BC 、sin c =CD 、sin d =DE

 sin e =EF、sin f =FA なので、 (AB/BC)・(CD/DE)・(EF/FA)=1  (証終)


(コメント) この定理は、覚えておくと役に立ちそう・・・。 チェバの定理と同様に、「世界一周」
      と覚えればいいかな。


 メネラウスの定理やチェバの定理を用いると、幾何の証明が鮮やかに示されることは上記
で若干堪能したが、さらに様々な定理の証明にも有効に活用される。

 まず、ニュートン線で有名なニュートンの定理を見てみよう。この定理は、2種類ある。

ニュートン(Newton)の定理(A)

   △ABC において、辺AB 、辺AC 上

 に、2点 D 、E をとる。線分BE と CD

 の交点を F とする。

  また、線分AF 、DE 、BC の中点を

 それぞれ P 、Q 、R とする。

  このとき、3点 P 、Q 、R は1直線上

 にある。
(証明)

 △ADC の3辺 AD、DC、CA の中点をそれ
ぞれ K、L、M とおく。

 このとき、中点連結定理により、

  2KP=DF 、2PM=FC 、2MR=AB
  2RL=BD 、2LQ=CE 、2QK=EA

が成り立つ。

 ここで、△ADC において、3点 E、F、B は
1直線上にあるので、メネラウスの定理より、

     

 よって、上記の関係式を代入して、

   

が成り立つ。

 メネラウスの定理により、△KLM において、3点 P、Q、R は1直線上にある。  (証終)


(コメント) △KLMに気がつくことは至難の技ですね!証明のエレガントさに感動しました。


 この定理をベクトルを用いて示すことは一見難しく思える。実際に、そうなのだが、怖いも
の見たさにちょっと覗いてみよう。

(ベクトルによる証明)

 左図で、 AD=2AE=2 とおくと、

   AF=mAD+nAE (m、n は実数)

とおける。明らかに、m≠1、n≠1 である。

 よって、 AP=m+n 、AQ

ところで、 nAEAF−mAD より、

  {n/(1−m)}AE

      =(AF−mAD)/(1−m)

 上式の左辺は直線AE上の点であることを表し、右辺は直線FD上の点であることを表す。

 よって、  AC={n/(1−m)}AE となる。

 同様にして、  AB={m/(1−n)}AD となる。

このとき、 AR=(ABAC)/2={m/(1−n)}+{n/(1−m)} なので、

   PRARAP={m/(1−n)}+{n/(1−m)}−(m+n

             ={mn/(1−n)}+{mn/(1−m)}

   PQAQAP=()−(m+n)=(1−m)+(1−n)

 よって、 (1−m)(1−n)PR=mnPQ となる。

 以上から、 3点 P、Q、R は1直線上にある。 (証終)

(コメント) 計算上は納得できても、メネラウスの定理の美しさには到底かないませんね!

ニュートン(Newton)の定理(B)

  円O に外接する四角形 ABCD において、

 対角線AC 、BD の中点をそれぞれ

 P 、Q とする。

  このとき、3点 P 、Q 、O は1直線上

 にある。


 この定理を平面幾何的に証明する場合、次の補題が本質的に利用される。

補 題

  辺ADと辺BCが平行でない四角形ABCD の内部の点P

 において、常に

     △PAB+△PCD が一定

 であるとき、点Pはある線分XY上の点である。


(証明) 直線 BC と AD の交点を E とし、線分BE上に、BC=FE となる点 F をとる。

同様に、線分AE上に、AD=GE となる点 G

をとる。このとき、△PAB+△PCD が一定な

ので、△PBC+△PAD も一定である。即ち、

 △PFE+△PGE が一定となる。△FEGは、

面積不変で △PFG が一定より、点P は FG に平行な線分 XY 上を動く。  (証終)


(定理の証明) 四角形ABCDが平行四辺形であるとき、3点 P、Q、O は一致するので、

命題は、明らかに成り立つ。

 そこで、四角形ABCDは平行四辺形でないものとする。辺ADと辺BCが平行でないとして

も一般性を失わない。便宜上、四角形ABCDの面積を、2S とおく。

 まず、 2△PAB+2△PCD=△ABC+△ACD=2S より、 

 △PAB+△PCD=S(=一定)

同様にして、 2△QAB+2△QCD=△ABC+△ACD=2S より、

 △QAB+△QCD=S(=一定)

また、円Oの半径を r とすると、

 △OAB+△OCD=(AB+CD)・r  、 △OBC+△ODA=(BC+AD)・r

で、円の接線の性質から、 AB+CD=BC+AD なので、

 △OAB+△OCD=S(=一定) となる。

したがって、補題により、3点 P、Q、O は同一直線上にある。  (証終)


(コメント) 最後の結論への導き方がとてもおしゃれですね!



       以下、工事中