蝴蝶定理
当HPの掲示板「出会いの泉」で、aaa 様より紹介されたHPを拝見したところ、とても興
味ある幾何の定理が紹介されていた。
円Oにおいて、弦ABを引き、その中点 をMとする。 さらに、Mを通る任意の2つの弦PQ、 RSを引く。 これらの弦の端点PとR、QとSを結び、 弦ABとの交点をそれぞれC、Dとする。 このとき、Mは、線分CDの中点となる。 |
この定理は、羽を開いた蝶を真上から描いたように見えるので、蝴蝶定理と言われる。
とても、美しい定理で、思わず感動してしまった。
aaa 様より紹介されたHPでは、証明が書かれていないようなので、証明を知りたいと
いう衝動にかられた。
この「蝴蝶定理」で検索すると、中国のものばかりがヒットした。(漢字ばかりに思わず閉口!)
また、「Butterfly Theorem」として検索をかけると、案の定、英語のHPサイトがヒットする。
何れも、日本語のサイトはあまり(ほとんど?)登録されていないようだ。
(かなり有名な定理なようで、30年ほど前に数学セミナーにも紹介されたそうである。(広島工業大学
大川研究室より情報提供) したがって、日本語のサイトもあると思うのだが、現在、aaa
様より紹介さ
れたHP以外見つけていない。)
なお、蝴蝶定理について、1815年に Horner’s method で有名な W.G.Horner が
一つの証明を与えたとのことである。
いろいろなHPサイトで行われている証明を参考に、少し整理したいと思う。
(証) 与えられた図において、線分ABの 垂直2等分線と円との交点を、E、F とする。 線分EFに関して点Pと対称な点を、P’ とする。 △MPCと△MP’Dについて考える。 対称性から、MP=MP’ ・・・ (1) ∠PMC=∠P’MD ・・・ (2) 円周角の定理より、 ∠MPC=∠MSD また、4点P、P’、S、Qが同一円周上に |
|
あるので、 ∠P’PQ+∠QSP’=180° が成り立つ。さらに線分PP’と線分ABは平行なので、 ∠P’MD=∠P’PQ より、 ∠P’MD+∠QSP’=180° すなわち、 ∠P’MD+∠DSP’=180° が成り立つ。 よって、4点M、D、S、P’は同一円周上にある。 このことから、円周角の定理により、 ∠MP’D=∠MSD したがって、 ∠MPC=∠MP’D ・・・ (3) (1)(2)(3)により、 △MPC≡△MP’D であるので、 MC=MD となる。(証終) |
上記の証明は、初等幾何的証明であるが、三角比を用いると、次のようにも証明する
ことが出来る。
(別証) AB=2k 、MC=m、MD=n と おく。 △MPCにおいて、正弦定理により、 △MRCにおいて、正弦定理により、 |
|
方べきの定理より、 AC×BC=PC×RC なので、上式を代入して、 が成り立つ。同様にして、 これより、 (k2−m2)/m2=(k2−n2)/n2 なので、 k2m2=k2n2 から m = n が成り立ち、 MC=MD となる。(証終) |
当初、冒頭の証明が最も初等的で分かりやすいと思ったが、その後の調査で、もっと簡
明な初等幾何的証明があるようだ。
(Shklyarsky による証明)
(証) 円の中心Oと点Mを結び、さらに、 点Oより弦PR、SQにそれぞれ垂 線の足E、Fを下ろす。E、Fはそれ ぞれの弦の中点である。 △MRP∽△MQS なので、 RP:RM=QS:QM すなわち、 RE:RM=QF:QM が成り立つ。 また、∠MRP=∠MQS なので、 △MRE∽△MQF となる。 よって、 ∠MER=∠MFQ |
|
ところで、∠OEC+OMC=180°なので、4点O,E,C,Mは同一円周上にある。 よって、 ∠MER=∠MOC で、また、同様にして、 ∠MFQ=∠MOD である。 このとき、 ∠MER=∠MFQ なので、 ∠MOC=∠MOD となる。 また、OMは共通なので、2つの直角三角形OMCとOMDにおいて、 △OMC≡△OMD となり、したがって、 MC=MD が成り立つ。(証終) |
また、Coxeter and Greitzerl によれば、次のような証明も考えられる。
(証) AB=2a 、MC=m 、MD=n とし、 2点C、Dより弦PQ、RSに垂線を下ろし、 その長さをそれぞれ c、d、e、f とする。 △MCX∽△MDW より、 m/n=c/f △MCZ∽△MDY より、 m/n=e/d △PCX∽△SDY より、 c/d=PC/SD △RCZ∽△QDW より、 e/f=RC/QD このとき、 (m/n)2=(c/d)(e/f) =(PC・RC)/(SD・DQ) また、方べきの定理より、 PC・RC=AC・BC=(a−m)(a+m) SD・DQ=AD・BD=(a+n)(a−n) が成り立つ。 |
|
よって、 m2(a+n)(a−n)=n2(a−m)(a+m) より、 m=n が成り立つ。(証終) |
さらに、メネラウスの定理を用いて証明する方法もある。あまりに技巧的なところに思わ
ず唸ってしまう。
(証) 円Oにおいて、弦ABを引き、その 中点をMとする。 また円外の1点Xより2つの割線XPR、 XSQを引き弦ABとの交点をそれぞれC、 Dとする。 さらに、2点PとQ、2点RとSを結び、弦 ABとの交点をそれぞれE、Fとする。 △XCDにおいて、メネラウスの定理よ り、次の2つの等式が成り立つ。 (CP/PX)・(XQ/QD)・(DF/FC)=1 (CR/RX)・(XS/SD)・(DE/EC)=1 2つの式を辺々かけて、 |
|
(CP・CR/PX・RX)・(XQ・XS/QD・SD)・(DE・DF/EC・FC)=1 ここで、方べきの定理より、 CP・CR=CA・CB 、 PX・RX=XQ・XS 、 QD・SD=DA・DB なので、 (CA・CB/DA・DB)・(DE・DF/EC・FC)=1 が成り立つ。 いま、ここで、E=F=M とすると、上式から、 (CA・CB/DA・DB)・(MD/MC)2=1 が成り立つ。 AB=2a 、MC=x 、MD=y とおくと、上式は、 (a−x)(a+x)y2=(a+y)(a−y)x2 となり、明らかに、 x=y が成り立つ。 したがって、 MC=MD が成り立つ。(証終) |
(コメント) この証明の面白いところは、上記証明中には明記していないが、EとFが限り
なくMに近づくという極限の状態で証明しているところだろう。従って、PRとQS
が平行になる場合の疑問にも耐えうるものと考える。
上記の証明で、「ここで、E=F=M とすると、」としたが、ME=MF=b であるよう
にはじめから設定しておくと、面白いことに、MC=MD が示される。(b=0 の場合が、
蝴蝶定理である。)
このことを示唆した人は、M.Klamkin(1965)で、蝴蝶定理の一般化を与えている
といえる。
円Oにおいて、弦ABを引き、その中点 をMとする。 さらに、弦AB上に、ME=MFとなる2 点E、Fをとる。 E、Fを通る任意の2つの弦PQ、RSを 引く。ただし、これらの弦は円内で交わる ものとする。 これらの弦の端点PとR、QとSを結び、 弦ABとの交点をそれぞれC、Dとする。 2つの弦PRとQSの延長は、円外の1 点Xで交わるものとする。 このとき、Mは、線分CDの中点となる。 |
(証) △XCDにおいて、メネラウスの定理より、次の2つの等式が成り立つ。
(CP/PX)・(XQ/QD)・(DF/FC)=1 、 (CR/RX)・(XS/SD)・(DE/EC)=1
2つの式を辺々かけて、
(CP・CR/PX・RX)・(XQ・XS/QD・SD)・(DE・DF/EC・FC)=1
ここで、方べきの定理より、
CP・CR=CA・CB 、 PX・RX=XQ・XS 、 QD・SD=DA・DB
なので、 (CA・CB/DA・DB)・(DE・DF/EC・FC)=1 が成り立つ。
いま、 AB=2a 、MC=x 、MD=y 、ME=MF=B とおくと、上式は、
(a−x)(a+x)/{(a+y)(a−y)}・(y+b)(y−b)/{(x−b)(x+b)}=1
よって、 (a2−x2)(y2−b2)=(a2−y2)(x2−b2) より、 (a2−b2)(x2−y2)=0
となり、明らかに、 x=y が成り立つ。 したがって、 MC=MD が成り立つ。(証終)
また、面積計算から示す方法も面白いと思う。
(証) 左図において、 △MPC/△MQD=MP・MC/MQ・MD △MQD/△MRC=MQ・DQ/MR・CR △MRC/△MSD=MR・MC/MS・MD △MSD/△MPC=MS・DS/MP・CP が成り立つ。 これらを辺々かけて、 MC2・DQ・DS/MD2・CR・CP=1 ここで、方べきの定理より、 DQ・DS=DA・DB、CR・CP=CA・CB が成り立つ。 これより、 MC=MD が成り立つことが 分かる。(証終) |
何となくこれまで、座標幾何による証明を避けてきた。多分計算が煩雑になるだろうとい
う理由からである。
このことについて、次のような証明が知られているようだ。
(証) 上図において、M( 0 , 0 )、OM=h、半径を r とすると、
円Oの方程式は、 x2+(y−h)2 = r2 となる。
いま、直線PQ、RSの方程式を、それぞれ y = nx 、y = mx とおく。
この2直線と円との交点P、Q、R、Sの座標を、それぞれ
( α1, β1 ) 、( α2 , β2 ) 、( α3 , β3 ) 、( α4 , β4)
とおく。 また、 C( c , 0 ) 、D( d , 0 ) とおく。
x2+(y−h)2 = r2 に、 y = nx を代入して整理すると、
(n2+1)x2−2nhx+h2−r2=0
解と係数の関係により、 α1+ α2 = 2nh/(n2+1) 、α1・α2 = (h2−r2)/(n2+1)
同様にして、 x2+(y−h)2 = r2 に、 y = mx を代入して整理すると、
(m2+1)x2−2mhx+h2−r2=0
解と係数の関係により、 α3 + α4 = 2mh/(m2+1) 、α3・α4 = (h2−r2)/(m2+1)
以上の4式より、 n・α1・α2/( α1 + α2 ) = m・α3・α4/( α3 + α4 )
すなわち、 (nα1−mα3)/(nα2−mα4)=−α1α3/α2α4 が成り立つ。
このとき、点Cについて、水色の三角形は相似なので、 α3−c : c−α1 = −mα3 : nα1
よって、 c = (n−m)α1α3/(nα1−mα3) である。
同様にして、点Dについて、水色の三角形は相似なので、
α4−d : d−α2 = mα4 : −nα2
よって、 d = (n−m)α2α4/(nα2−mα4) である。
このとき、 d/c = (α2α4/α1α3)(nα1−mα3)/(nα2−mα4) = −1 となり、
d = −c すなわち、 MC=MD が成り立つ。(証終)
(コメント) 単なる計算なのだが、目標に向かっての巧妙な仕掛けが散りばめられていて、
ワクワクしますね!
さて、M.Klamkin(1965)により与えられた一般の蝴蝶定理以外にも、次のような形に
一般化することもできる。
定理(Better Butterfly Theorem)
2つの同心円Oにおいて、弦ABを引き、
その中点を、Mとする。
さらに、Mを通る任意の2つの弦PP’Q’Q、
RR’S’Sを引く。
点P’とR、点PとR’、点SとQ’、点S’とQ
を結び弦ABとの交点をそれぞれC、D、E、
Fとする。
このとき、次の等式が成り立つ。
(注意) 2つの同心円が一つの円になるとき、2点CとD、2点EとFは一致し、蝴蝶定理の
結果を得ることができる。
この定理を証明するために、次の事実が有効に用いられる。
左図の△ABCにおいて、
が成り立つ。
この事実の証明は易しい。
△ABC=△ABD+△ACD なので、
(1/2)・x・y・sin (α+β)=(1/2)・x・z・sin
α + (1/2)・z・y・sin β
が成り立つ。この式より、所要の結果が得られる。
この事実を用いて、いよいよ定理の証明に入ろう。
(証) 与えられた図において、M1、M2 を定める。 △MP’R において、 sin(α+β)/MC =sinβ/MP’+sinα/MR 同様にして、 △MPR’ において、 sin(α+β)/MD =sinβ/MP+sinα/MR’ △MSQ’ において、 sin(α+β)/ME =sinβ/MQ’+sinα/MS |
|
△MS’Q において、 sin(α+β)/MF=sinβ/MQ+sinα/MS’ が成り立つ。 したがって、 sin(α+β)(1/MC+1/MD−1/ME−1/MF) =sinβ/MP’+sinα/MR+sinβ/MP+sinα/MR’ −sinβ/MQ’−sinα/MS−sinβ/MQ−sinα/MS’ =sinα(1/MR−1/MS)+sinα(1/MR’−1/MS’) +sinβ(1/MP−1/MQ)+sinβ(1/MP’−1/MQ’) ここで、方べきの定理より、 MP・MQ=MR・MS MP’・MQ’=MR’・MS’ が成り立ち、さらに、 MP−MQ=MP’−MQ’=2MM1=2OMsinα MS−MR=MS’−MR’=2MM2=2OMsinβ であるので、 sin(α+β)(1/MC+1/MD−1/ME−1/MF)=0 となる。 よって、 が成り立つ。(証終) |
(コメント) この証明では、三角比が用いられているが、もっと初等幾何的な証明はできな
いものだろうか?
蝴蝶定理の新たな拡張として、次のような事実が成り立つことを最近知ることが出来た。
北海道の高倉 亘 さんという方が、「初等幾何における抽象化と一般化」の中で、次の
性質について証明されている。
円Oにおいて、弦ABを引き、その中点をMとする。さらに、Mを通る2つの弦PQ、
RSを引く。ただし、直線PS、直線QRは、直線ABと交わるものとする。
その交点をC、Dとするとき、Mは、線分CDの中点となる。
証明については、少し文言等を整理して示したいと思う。
(証明) 下図のように、Oより、線分PS、QRに垂線OE、OFを下ろす。
直角三角形OMCと直角三角形OMDにおいて、両者が合同であることを示せばよい。
まず、∠OMC=∠OFC=90°より、4点O、M、F、C は同一円周上にある。
よって、 ∠MOC=∠MFQ である。
同様に、∠OMD=∠OED=90°より、4点O、M、D、E は同一円周上にある。
よって、 ∠MOD=∠MES である。
ここで、 △MPS∽△MRQ なので、 △MES∽△MFQ である。
よって、 ∠MFQ=∠MES なので、 ∠MOC=∠MOD が成り立つ。
OMは共通なので、 直角三角形OMC≡直角三角形OMD
したがって、 MC=MD となり、Mは線分CDの中点となる。(証終)
(コメント) 蝴蝶定理の新たな進展に感動しました。高倉さんに感謝いたします。
M.Klamkin(1965)による拡張と、北海道の高倉さんによる拡張をまとめて、次のよう
に、蝴蝶定理の新たな拡張を発見された方がおられる。(平成17年12月2日付け)
HPサイト:「数学教材の部屋」に、そのことが詳しく述べられている。
CABRI JAVA APPLETによる数学教材 : 「胡蝶定理とその応用」
上記のことを、当HPの統一した記号を用いると、次のようになるであろう。
円Oにおいて、弦ABを引き、その中点をMとする。さらに、弦AB上に ME=MF
と
なる2点E、Fをとり、2点E、Fを通る2つの弦PQ、RSを引く。ただし、直線PS、QR
は、直線ABと交わるものとする。その交点をC、Dとする。
このとき、次が成り立つ。
(1) Mは、線分CDの中点である。 (2) Mは、線分XYの中点である。
証明は、「胡蝶定理とその応用」をご覧下さい。
(コメント) (2)は、M.Klamkin(1965)による拡張と同じですが、(1)は、高倉さんのも
のを、より一般化したもので成り立つことに感動しました!証明も、対称な点を利
用したもので分かりやすかったです。「数学教材の部屋」様に感謝いたします。
以下、工事中