いくつかの特殊な三角形について、その内接円の半径や傍接円の半径を求めてみよう。
(1) AB=2、BC=、CA=1の直角三角形ABCの場合
![]() |
内接円の半径を r とおくと、 (1+r)+r=![]() r=( ![]() 傍接円の半径を R とおくと、 R/( ![]() ここで、tan75°=2+ ![]() ![]() ![]() よって、 R=( ![]() |
(2) 1辺の長さが2の正三角形ABCの場合
![]() |
内接円の半径を r とおくと、3r =![]() ![]() ( r =tan30°から、r=1/ ![]() 傍接円の半径を R とおくと、 R=tan60°= ![]() |
上記(1)(2)において、傍接円の半径 R は何れも正接の三角比を用いたが、次の公式
を用いてもよい。(→ 参考:「三角形の面積の公式」)
△ABC において、BC=a、CA=b、AB=c とし、s=(a+b+c)/2 とする。
このとき、傍接円の半径 R は、
R=(s−b)(s−c)/r ( r は内接円の半径)
で与えられる。
この公式を用いれば、
(1)は、 s=(3+)/2 より、R=(s−1)(s−2)/r=(
+1)/2
(2)は、 s=3 より、R=(s−2)(s−2)/r=
と求められる。
この公式を用いて、新たな深淵に立ち入ろうと思う。まずは、その準備である。
AB=2、BC=、CA=1の直角三角形ABCにおいて、∠Aの2等分線を考え、辺BC
との交点をDとおく。
このとき、
CD=1/ 、BD=
−1/
=2/
、AD=2/
であることは明らかだろう。
△ABD、△ADCの内接円 I1、I2 の半径をそれぞれ r1、r2 とおく。
△ABD=(1/2)・2・(2/)・(1/2)=1/
△ADC=(1/2)・(1/)・1=1/(2
)
なので、 (1/2)・(2+2/+2/
)・r1=1/
より、 r1=2−
(1/2)・(1+2/+1/
)・r2=1/(2
) より、 r2=1/(3+
)
また、△ABD、△ADCの傍接円の半径をそれぞれ R1、R2 とおく。
△ABDにおいて、 s1=(2+2/+2/
)/2=(3+2
)/3 より、
R1=(s1−2/)(s1−2)/r1=1/
同様に、△ADCにおいて、 s2=(1/+1+2/
)/2=(1+
)/2 より、
R2=(s2−1)(s2−2/)/r2=(
−1)/2
ここで、
r1/R1=(2−)・
=2
−3
r2/R2=1/(3+)・2/(
−1)=1/
が成り立つ。
よって、 (r1/R1)(r2/R2)=2− である。
ところで、 r/R=(−1)/2・2/(
+1)=2−
であるので、
(r1/R1)(r2/R2)=r/R
が成り立つ。
(コメント) これは、美しい関係式ですね!(2)でも成り立つかどうか確かめてみよう。
1辺の長さが2の正三角形ABCにおいて、∠Aの2等分線を考え、辺BCとの交点をDとお
く。
このとき、 BD=CD=1 、AD= であることは明らかだろう。
△ABD、△ADCの内接円 I1、I2 の半径をそれぞれ r1、r2 とおく。
△ABD=△ADC=(1/2)・1・=
/2 なので、
(1/2)・(2+1+)・r1=
/2 より、 r1=1/(
+1) 、r2=1/(
+1)
また、△ABD、△ADCの傍接円の半径をそれぞれ R1、R2 とおく。
△ABDにおいて、 s1=(2+1+)/2=(3+
)/2 より、
R1=(s1−)(s1−2)/r1=(3−
)/2 、R2=(3−
)/2
ここで、 r1/R1=1/(+1)・2/(3−
)=1/
、r2/R2=1/
が成り立つ。
よって、 (r1/R1)(r2/R2)=1/3 である。
ところで、 r/R=1/・1/
=1/3 であるので、
(r1/R1)(r2/R2)=r/R
が成り立つ。
(コメント) やはり、この場合も (r1/R1)(r2/R2)=r/R が成り立ちましたね!
今度は、3等分の場合も成り立つかどうか確認してみよう。
1辺の長さが2の正三角形ABCにおいて、∠Aの3等分線を考え、辺BCとの交点をD、E
とおく。
このとき、 BD=DE=EC=2/3 で、余弦定理より、
AD2=22+(2/3)2−2・2・(2/3)・(1/2)=28/9
よって、AD=2/3 である。また、AE=2
/3 である。
△ABD、△ADE、△AEC の内接円 I1、I2、I3 の半径をそれぞれ r1、r2、r3 とおく。
△ABD=△AEC=(1/2)・2・(2/3)・(/2)=1/
なので、
(1/2)・(2+2/3+2/3)・r1=1/
より、r1=
/(4+
)、r3=
/(4+
)
△ADE=(1/2)・(2/3)・=1/
なので、
(1/2)・(2/3+2/3+2
/3)・r2=1/
より、 r2=
/(2
+1)
また、△ABD、△ADE、△AEC の傍接円の半径をそれぞれ R1、R2、R3 とおく。
△ABDにおいて、 s1=(2+2/3+2/3)/2=(4+
)/3 より、
R1=(s1−2/3)(s1−2)/r1=(
−2)/
、R3=(
−2)/
△ADEにおいて、 s2=(2/3+2/3+2
/3)/2=(2
+1)/3 より、
R2=(s2−2/3)(s2−2
/3)/r2=(2
+1)/(9
)
ここで、
r1/R1=/(4+
)・
/(
−2)=3/(2
−1) 、r3/R3=3/(2
−1)
r2/R2=/(2
+1)・9
/(2
+1)=27/(2
+1)2
が成り立つ。よって、
(r1/R1)(r2/R2)(r3/R3)=3/(2−1)・27/(2
+1)2・3/(2
−1)=1/3
である。
ところで、 r/R=1/・1/
=1/3 であるので、
(r1/R1)(r2/R2)(r3/R3)=r/R
が成り立つ。
上記においては特別な三角形、特別な場合について見てきたが、実は、これまでの性質
は、一般の△ABCにおいても成り立つようだ。すなわち、
頂角Aを通る n−1個の線分AD1、AD2、・・・、ADn-1により、初めの三角形は
n 個の三角形△ABD1、△AD1D2、・・・、△ADn-1Cに分割される。
これらの三角形の内接円の半径、傍接円の半径をそれぞれ r1、r2、・・・、rn 及び
R1、R2、・・・、Rn とおき、△ABCの内接円の半径、傍接円の半径をそれぞれ r 、R
とおくとき、 (r1/R1)(r2/R2)・・・(rn/Rn)=r/R が成り立つ。
証明のために、いくつか準備をしよう。
△ABC において、BC=a、CA=b、AB=c とし、2s=a+b+c により、s を定める。
![]() |
△ABC の内心を I 、半径を r とし、I から各 辺に下ろした垂線の足をそれぞれ P、Q、T と する。 △ABC=sr である。 また、△ABC の傍接円の中心をO、半径をR とする。 1つの頂点から引いた接線の長さは等しいか ら、BP+CQ+AT=s が成り立つ。 |
このとき、BP=s−CQ−AT=s−CQ−AQ=s−CA=s−b
CQ=s−BP−AT=s−BT−AT=s−AB=s−c である。
面積について、 △ABC=△OAB+△OCA−△OBC=(b+c−a)R/2=(s−a)R
なので、 r/R=(s−a)/s が成り立つ。
また、△BPI において、
tan(B/2)=r/(s−b)=/(s(s−b))=√[(s−a)(s−c)/(s(s−b))]
tan(C/2)=r/(s−c)=/(s(s−c))=√[(s−a)(s−b)/(s(s−c))]
なので、 tan(B/2)tan(C/2)=(s−a)/s=r/R が成り立つ。
さて、準備が出来たので、証明に入ろう。証明は、数学的帰納法による。
(証明) n=1 のときは、自明である。
n=2 のとき、BC上の分点をDとおくと、
(r1/R1)(r2/R2)
=tan(B/2)tan(∠ADB/2)tan(∠ADC/2)tan(C/2)
=tan(B/2)tan(∠ADB/2)cot(∠ADB/2)tan(C/2)
=tan(B/2)tan(C/2)
=r/R
なので、命題は、n=2のとき、成り立つ。
n−1個の三角形に対して、命題が成り立つと仮定する。
△ABD2 の内接円、傍接円の半径をそれぞれ r12、R12 とすると、
(r1/R1)(r2/R2)=r12/R12
である。帰納法の仮定から、 (r12/R12)(r3/R3)・・・(rn/Rn)=r/R が成り立つ。
よって、 (r1/R1)(r2/R2)(r3/R3)・・・(rn/Rn)=r/R が成り立ち、n個の三角形につい
てもなりたつことが示された。
以上から、全ての自然数 n に対して、
(r1/R1)(r2/R2)(r3/R3)・・・(rn/Rn)=r/R
が成り立つ。 (証終)
(追記) 令和4年1月23日付け
△ABC において、BC=a、CA=b、AB=c とし、2s=a+b+c により、s を定める。
![]() |
△ABC の内心を I 、半径を r とすると、 △ABC=sr である。 また、△ABD、△ADCの内心をそれぞれ I1、I2 とし、その半径をそれぞれ r1、r2 と おく。 また、△ABCの底辺BCに頂点Aより下ろ した垂線の長さを h とおく。 |
このとき、 1−2r/h=(1−2r1/h)(1−2r2/h) が成り立つ。
(証明) I、I2 より辺BCに下ろした垂線の足をH、H2 とすると、C、I2、I は同一直線上にあ
るので、
r2/CH2=r/CH すなわち、 CH2=(r2/r)CH が成り立つ。
ここで、 CH=s−c なので、 CH2=(r2/r)(s−c) となる。
このとき、
△ABD=(1/2)AB・r1+(1/2)BD・r1+(1/2)(CD−CH2)・r1+(1/2)(AC−CH2)・r1
=(1/2)(AB+BC+CA)・r1−CH2・r1=sr1−(r1r2/r)(s−c)=r1(s−(r2/r)(s−c))
同様にして、
I、I1 より辺BCに下ろした垂線の足をH、H1 とすると、B、I1、I は同一直線上にあるので、
r1/BH1=r/BH すなわち、 BH1=(r1/r)BH が成り立つ。
ここで、 BH=s−b なので、 BH1=(r1/r)(s−b) となる。
このとき、
△ADC=(1/2)AC・r2+(1/2)CD・r2+(1/2)(BD−BH1)・r2+(1/2)(AB−BH1)・r2
=(1/2)(AB+BC+CA)・r2−BH1・r2=sr2−(r1r2/r)(s−b)=r2(s−(r1/r)(s−b))
以上から、
△ABC=△ABD+△ADC=r1(s−(r2/r)(s−c))+r2(s−(r1/r)(s−b))
=(r1+r2)s−(r1r2/r)(2s−b−c)=(r1+r2)s−(r1r2/r)a
△ABC=sr なので、 r=(r1+r2)−(r1r2/sr)a で、 sr=ah/2 より、
r=(r1+r2)−2r1r2/h
となる。したがって、
1−2r/h=1−2(r1+r2)/h+4r1r2/h2=(1−2r1/h)(1−2r2/h)
が成り立つ。 (証終)
このことを一般化して、辺BCを分割して内接円の半径を、r1、r2、・・・、rn とするとき、
1−2r/h=(1−2r1/h)(1−2r2/h)・・・(1−2rn/h)
が成り立つことも明らかだろう。
ここで、 r/R=(s−a)/s 、 sr=ah/2 から、
r/R=1−a/s=1−a・(2r/ah)=1−2r/h すなわち、 r/R=1−2r/h
が成り立つので、先の結果と合わせれば、証明は合点がいくだろう。
また、 R/r=s/(s−a)=1+a/(s−a)=1+Ra/(sr)=1+2Ra/(ah)=1+2R/h
すなわち、 R/r=1+2R/h が成り立つ。
したがって、
1+2R/h=(1+2R1/h)(1+2R2/h)・・・(1+2Rn/h)
が成り立つことも明らかだろう。
さて、△ABCの外接円の半径をLとおくと、
(r+R)/(2L)=cosB+cosC
が成り立つ。実際に、
(r+R)/(2L)=(S/s+S/(s−a))/(2L)
=S(2s−a)/{s(s−a)}×2S/(abc)
=2(s−b)(s−c)(b+c)/(abc)
=(c+a−b)(a+b−c)(b+c)/(2abc)
={a2−(b−c)2}(b+c)/(2abc)
=(a2b+a2c−b3−b2c+2b2c+2bc2−bc2−c3)/(2abc)
={b(c2+a2−b2)+c(a2+b2−c2)}/(2abc)
=(c2+a2−b2)/(2ca)+(a2+b2−c2)}/(2ab)
=cosB+cosC
△ABCの辺BC上に点Dをとる。△ABD、△ADBの内接円の半径をそれぞれ r1、r2 と
おく。
△ABD、△ADBの傍接円の半径をそれぞれ R1、R2 とおき、△ABD、△ADBの外接円
の半径をそれぞれ L1、L2 とおく。
このとき、上記の公式から、
(r1+R1)/(2L1)=cosB+cos∠ADB
(r2+R2)/(2L2)=cos∠ADC+cosC
が言える。ここで、cos∠ADC=cos(π−∠ADB)=−cos∠ADB なので、
(r1+R1)/(2L1)+(r2+R2)/(2L2)=cosB+cosC
すなわち、 (r1+R1)/(2L1)+(r2+R2)/(2L2)=(r+R)/(2L) が成り立つ。
同様にして、
(r1+R1)/(2L1)+(r2+R2)/(2L2)+・・・+(rn+Rn)/(2Ln)=(r+R)/(2L)
が成り立つことが分かる。
(追記) 令和4年1月27日付け
傍接円に関係する話題をもう一つ取り上げよう。
∠PBQとその内部の点Mと数 s が与えられている。点Mを通る直線を引き、PB、QBと
交わる点をそれぞれA、Cとおくと、△ABCが作られる。
このとき、AB+BC+CA=2s となるように、△ABCが作れることを示したい。
(手順) 直線PB上に、BT=s となる点Tをとり、TにおけるPBの垂線と∠PBQの2等分線
との交点をOとする。Oを中心とし、OTを半径とする円を描き、Mを通る接線を引けば
よい。
実際に、円Oと直線AC、QBとの接点をそれぞれN、T’とおくと、
2BT=BT+BT’=(BA+AN)+(BC+CN)=AB+BC+CA
より、 AB+BC+CA=2s が成り立つ。
(→ 参考:「傍接円の話題」、「周の長さ2pの三角形」)
(追記) 令和4年1月29日付け
上記では、暗黙の了解で、△ABCの∠Aに対する傍接円の半径をRとしてきたが、これか
らは、RAと記すことにしよう。
このとき、今までの結果から、 r/RA=(s−a)/s である。
ここで、△ABC において、BC=a、CA=b、AB=c とし、s=(a+b+c)/2 である。
同様にして、 r/RB=(s−b)/s 、r/RC=(s−c)/s が成り立つ。
このとき、 1/RA+1/RB+1/RC=1/r が成り立つ。
実際に、
r/RA+r/RB+r/RC=(s−a)/s+(s−b)/s+(s−c)/s=(3s−a−b−c)/s=1
より、 1/RA+1/RB+1/RC=1/r が成り立つ。
また、 r/RA=(s−a)/s より、 RA=S/(s−a) が成り立つ。
同様にして、 RB=S/(s−b) 、RC=S/(s−c) が成り立つ
このとき、 rRARBRC=S2 が成り立つ。
実際に、RARBRC=S3/(s−a)(s−b)(s−c)=S3/(S2/s)=s・S=(1/r)S2 より、
rRARBRC=S2 が成り立つ。
よって、 1/RA+1/RB+1/RC=1/r の両辺に、r2RARBRC を掛ければ、
r2(RARB+RBRC+RCRA)=rRARBRC である。
すなわち、 r2(RARB+RBRC+RCRA)=S2 が成り立つ。
(追記) 令和4年1月30日付け
今までは、内接円や傍接円、外接円の半径について興味ある性質を調べてきたが、今度
は角の大きさについて調べていこうと思う。
上図において、 ∠CAB+(180°−∠T’CB)+(180°−∠TBC)=180°なので、
∠CAB=∠T’CB+∠TBC−180°
が成り立つ。
また、 ∠BOC=180°−(∠T’CB+∠TBC)/2=90°−(1/2)∠CAB より、
∠BOC=90°−(1/2)∠CAB
が成り立つ。
また、 ∠ABC=∠T’CB−∠CAB である。
ところで、 ∠AOC=(1/2)∠T’CB−(1/2)∠CAB なので、
∠ABC=2∠AOC
が成り立つ。
ここで、次の問題を考えてみよう。
問題 上図において、∠ACB=58°のとき、∠AOBの大きさを求めよ。
(解) ∠ACB=∠TBC−∠CAB で、 ∠AOB=(1/2)∠TBC−(1/2)∠CAB
より、 ∠ACB=2∠AOB が成り立つので、 ∠AOB=58°÷2=29° (終)
(コメント) △ABCの∠Aに対する傍接円の中心をOとすると、
∠BOC=(∠B+∠C)/2
という性質は面白いですね!
∠BOC=90°−(1/2)∠CAB より、
2∠BOC=180°−∠CAB=∠ABC+∠ACB
からも、明らかですね。
(追記) 令和4年2月13日付け
△ABCにおいて、重心はG、内心はI、外心はO、垂心はHが慣例で用いられる。これらは
一つの三角形に対して、一つしか存在しない。それに対して、傍接円の中心(傍心)は、一つ
の三角形に対して、三つ存在するという、三角形の五心の中では異端児である。そういう訳
で、傍心を表す記号として、所謂余り物の「J」が用いられる場合が多い。
傍心に関する次の問題を考えてみよう。
問題 △ABCにおいて、∠A、∠B、∠Cに対する傍心を、それぞれJA、JB、JCとおく。
このとき、 △JABC∽△JAJBJC であることを証明せよ。
(解) △JABCと△JAJBJCにおいて、まず、∠BJACは共通
また、三角形の外角の和は360°なので、
2●+2○+2×=360°より、 ●+○+×=180° 即ち、 ●=180°−○−×
これは、 ∠JABC=∠JAJBJC が成り立つことを示す。
よって、2角相等により、 △JABC∽△JAJBJC である。 (終)
(コメント) △ABCとその傍心JA、JB、JC について、∠JABC=∠JAJBJC という美
しい関係があることに感動しました!
(追記) 令和4年2月2日付け
角の大きさに関する問題が余りないので、長さの計算に戻って、次の問題を考えてみよう。
問題 ∠A=60°である△ABCの底辺BC上に半円Oが内接しており、その接点をP、Qと
おく。∠Aの2等分線は中心Oを通るものとする。弧PQ上に点Rをとり、点Rで半円Oに接
する接線を引き、AB、ACとの交点をそれぞれD、Eとおく。
AD=8、AE=3のとき、半円0の半径を求めよ。
(解) 題意に従い作図すると、
DE2=82+32−2・8・3cos60°=73−24=49 より、 DE=7
よって、 s=(8+3+7)/2=9 より、 AP=9
従って、半円Oの半径は、 9tan30°=3 となる。 (終)
(追記) 令和4年2月5日付け
令和4年1月29日付けで示した公式: 1/RA+1/RB+1/RC=1/r を正三角形に
適用すれば、
3/R=1/r すなわち、 R=3r
の成り立つことが分かる。
例 1辺の長さ2の正三角形ABCにおいて、R= は自明なので、r=R/3=1/
も
容易だろう。
(追記) 令和4年2月7日付け
△ABCの傍接円において、頂点と接点を結ぶ線分の長さが三角形の周の長さの半分と
いう性質を知っていれば簡単に解ける問題が中学校入試に出題されている。
問題 下図において、傍接円の半径 r を求めよ。(久留米大附設中学)
(解) 三平方の定理より、 AC=2 なので、 2s=10+2
より、 s=5+
傍接円の性質より、 BQ=4+r=s なので、 r=1+ (終)
上記では、直角三角形という特別な場合であったが、一般の場合も同様である。
問題 下図において、傍接円の半径 r を求めよ。
(解) 上図より、s=9 なので、傍接円の性質より、 CQ=1
また、 ∠ACB=60°なので、 r=tan60°= (終)
(追記) 令和4年3月9日付け
上記の計算では、内接円・外接円・傍接円の半径やそれらに関する角の大きさについての
諸性質を見てきた。今度は、三角形の頂点から三角形の5心(内心・外心・傍心・垂心・重心)
までの距離を求めることを考えよう。
次の問題が、静岡大学(2014)で出題されている。若干、改題しました。
問題 AB=7、BC=8、CA=5の△ABCにおいて、∠Aに対する傍接円の中心をJとお
くとき、AJの長さを求めよ。
![]() |
余弦定理から、 cosC=(82+52−72)/(2・8・5)=1/2 より、 C=60°なので、△ABCは特別な三角形である。 この場合は、60°の特性を利用すれば、次のように解く ことが出来る。 |
(解) s=(8+5+7)/2=10 、△ABC=(1/2)8・5・sin60°=10 より、
△ABCの内接円の半径 r =10/10=
よって、△ABCの傍接円の半径 R =(s−b)(s−c)/r =5・3/=5
![]() |
よって、 HJ=R=5![]() CJ=10 となる。 △CAJにおいて、余弦定理を用いて、 AJ2=52+102−2・5・10cos120°=175 よって、 AJ=5 ![]() |
上記の(解)では、60°の特性に随分助けられた感が否めないが、一般的には、どう解
けばいいのだろうか?これが、次の課題である。
(別解) 点Jより、直線ABに垂線を下ろし、その交点をHとする。このとき、AH=s=10
![]() |
よって、 AH=(10/7)AB AJ=k((1/7)AB+(1/5)AC) (k は定数) より、 JH=((10−k)/7)AB−(k/5)AC JH⊥AB から、 JH・AB=0 なので、 JH・AB=(10−k)/7)・49−(k/5)AB・AC ここで、AB・AC=7・5・(49+25−64)/70=5 なので、 JH・AB=70−7k−k=70−8k=0 よって、 k=70/8 となる。 |
このとき、 AJ=(5/4)AB+(7/4)AC と書けることが分かった。
これを利用すれば、
AJ2=(25/16)・49+(35/8)・5+(49/16)・25=175 より、 AJ=5 (終)
上記の計算を一般化するのは容易だろう。
点Jより、直線ABに垂線を下ろし、その交点をHとする。このとき、AH=s である。
![]() |
よって、 AH=(s/c)AB AJ=k(bAB+cAC)/(b+c) (k は定数) より、 JH=(s/c−kb/(b+c))AB−(kc/(b+c))AC JH⊥AB から、 JH・AB=0 なので、 JH・AB =(s/c−kb/(b+c))c2−(kc/(b+c))(b2+c2−a2)/2 なので、 JH・AB=0 から、 k(2bc+b2+c2−a2)=2s(b+c) |
よって、 k(a+b+c)(b+c−a)=(a+b+c)(b+c)
すなわち、 k=(b+c)/(b+c−a) となる。
このとき、 AJ=(bAB+cAC)/(b+c−a) と書けることが分かった。
この式は、△ABCの頂点Aを始点とする∠Aに関する傍心の位置ベクトルが求められたこ
とを意味するもので、当初の目標の一つを得ることができた。
ただ、上記の計算は若干遠回りになっている感が否めない。次のように、内積を使わずに
も証明できる。
(証明) 内角の2等分線の性質から、 BD : DC=c : b なので、
AD=(bAB+cAC)/(b+c)
また、∠Bの外角の2等分線の性質から、AJ : JD=c : ac/(b+c)=b+c : a なので、
AJ={(b+c)/(b+c−a)}AD=(bAB+cAC)/(b+c−a) (証終)
傍心Jについて、次の性質が成り立つことが知られている。
BC=a、CA=b、AB=c の△ABCにおいて、外心をO、∠Aに対する傍接円の中
心をJとおく。また、∠Cの2等分線と辺ABの交点をE、∠Bの2等分線と辺CAの交
点をF とおく。
このとき、 OJ⊥EF が成り立つ。
(証明)![]() |
外心Oを位置ベクトルの原点とし、A(a)、B(b)、C(c) とする。このとき、 AE=(b/(a+b))AB 、AF=(c/(c+a))AC なので、 EF=(c/(c+a))AC−(b/(a+b))AB また、 AJ=(bAB+cAC)/(b+c−a) なので、 OJ=a+(bAB+cAC)/(b+c−a) ここで、 AB・AC=(b2+c2−a2)/2 なので、 |
OJ・EF
={a+(bAB+cAC)/(b+c−a)}・{(c/(c+a))AC−(b/(a+b))AB}
=(c/(c+a))a・AC−(b/(a+b))a・AB
+b2c2(b−c)/{(b+c−a)(a+b)(c+a)}
+bc(b−c)(b2+c2−a2)/{2(b+c−a)(a+b)(a+c)}
=(c/(c+a))a・AC−(b/(a+b))a・AB+bc(b−c)(a+b+c)/{2(a+b)(c+a)}
ここで、AC、ABの中点をそれぞれM、Nとおく。
a=OM+MA と分解すると、OM⊥AC より、 a・AC=MA・AC=−(1/2)b2
同様にして、 a・AB=−(1/2)c2 が成り立つ。
したがって、
OJ・EF
=−(1/2)b2c/(c+a)+(1/2)bc2/(a+b)+bc(b−c)(a+b+c)/{2(a+b)(c+a)}
={−b2c(a+b)+bc2(c+a)+bc(b−c)(a+b+c)}/{2(a+b)(c+a)}
=0
以上から、 OJ⊥EF が成り立つ。 (証終)
(コメント) しばらくの間、a・AC、a・AB の処理をどうしたものかと思案していましたが、当
HPの掲示板「出会いの泉」のDD++さんからのコメント(No.16 3/29 19:18)で解
決策をご教示いただいて、無事証明を完結することが出来ました。DD++さんに感
謝いたします。
(追記) 令和4年3月30日付け
上記の計算から、 AJ=(bAB+cAC)/(b+c−a) と書けることが分かった。この式
より、頂点Aと傍心Jを結ぶ線分AJの長さを計算することは容易だろう。
実際に、
AJ2=(bAB+cAC)・(bAB+cAC)/(b+c−a)2=bc(a+b+c)/(b+c−a)
から、 AJ=√{bc(a+b+c)/(b+c−a)} である。
次に、△ABCの内心 I について、頂点Aと内心 I を結ぶ線分AI の長さを求めてみよう。
△ABC において、BC=a、CA=b、AB=c とおく。
角の二等分線の長さの公式から、 AD2=AB・AC−BD・DC であるので、
AD2=bc−(ca/(b+c))(ab/(b+c))=bc(a+b+c)(b+c−a)/(b+c)2
ここで、 BD=ca/(b+c) なので、 AI : ID=c : ca/(b+c)=b+c : a
よって、
AI=((b+c)/(a+b+c))√{bc(a+b+c)(b+c−a)}/(b+c)=√{bc(b+c−a)/(a+b+c)}
で与えられる。
(コメント) 2s=a+b+c により、s を定めると、
AJ=√{bc・s/(s−a}
であり、 AI=√{bc・(s−a)/s} なんですね!逆数っぽい雰囲気です...。
AI・AJ=bc などという性質に魅せられます!
(追記) 令和4年4月14日付け
さて、当初の目標「三角形の頂点から三角形の5心(内心・外心・傍心・垂心・重心)までの
距離を求める」という問題について検討を続けよう。
△ABCの外心をO、重心をG、垂心をHとおく。また、Rは△ABCの外接円の半径である。
BC=a、CA=b、AB=c とする。
AO=R=abc/(4S)=abc/(4)
=abc/√{(a+b+c)(b+c−a)(a−b+c)(a+b−c)}
#角の大きさも使ってよければ、もちろん、正弦定理から、 AO=R=a/sinA である。
また、AG=(AB+AC)/3 なので、
|AG|2=(|AB|2+2AB・AC+|AC|2)/9=(2b2+2c2−a2)/9
よって、 AG=√(2b2+2c2−a2)/3
(別解) 中線定理より、 b2+c2=2(AM2+a2/4) で、 AG=(2/3)AM から、
b2+c2=2((9/4)AG2+a2/4) が成り立つ。
よって、 2b2+2c2=9AG2+a2 より、 AG2=(2b2+2c2−a2)/9 が成り立つ。
以下で、∠Aは鋭角とする。
よく知られているように、 OH=OA+OB+OC と表せる。
実際に、AH・BC=(OB+OC)・(OC−OB)=|OC|2−|OB|2=R2−R2=0
から、 AH⊥BC である。同様にして、 BH⊥CA 、CH⊥AB から、Hは垂心である。
このとき、
|AH|2=(|OB|2+2OB・OC+|OC|2)=4R2−a2
ここで、 R=a/(2sinA) なので、 4R2=a2/(1−cos2A)
よって、 |AH|2=a2cos2A/(1−cos2A)
余弦定理より、 cosA=(b2+c2−a2)/(2bc) なので、上式に代入して、
|AH|2=a2(b2+c2−a2)2/{(a+b+c)(b+c−a)(a−b+c)(a+b−c)}
よって、 AH=a(b2+c2−a2)/√{(a+b+c)(b+c−a)(a−b+c)(a+b−c)}
AHの計算について、次のような別解が考えられる。
(別解) 直線AHと辺BCとの交点をE、直線BHと辺CAとの交点をFとおく。
このとき、 AH=AF/cos∠CAE=ABcosA/sin∠ACE=2RcosA である。
よって、
AH=a(b2+c2−a2)/(4S)
=a(b2+c2−a2)/√{(a+b+c)(b+c−a)(a−b+c)(a+b−c)}
(追記) 令和4年4月15日付け
△ABCの内接円の半径を r 、外接円の半径を R とおくとき、次の等式が成り立つ。
r =4Rsin(A/2)sin(B/2)sin(C/2)
実際に、S=abc/(4R)=r(a+b+c)/2 より、 2Rr(a+b+c)=abc
正弦定理より、 a=2RsinA 、b=2RsinB 、c=2RsinC なので、
4R2r(sinA+sinB+sinC)=8R3sinAsinBsinC
すなわち、 r(sinA+sinB+sinC)=2RsinAsinBsinC
ここで、倍角の公式と和積の公式を用いて、
r(2sin((A+B)/2)cos((A−B)/2)+2sin((A+B)/2)cos((A+B)/2))
=16Rsin(A/2)sin(B/2)sin(C/2)cos(A/2)cos(B/2)cos(C/2)
すなわち、
4rsin((A+B)/2)cos(A/2)cos(B/2)
=16Rsin(A/2)sin(B/2)sin(C/2)cos(A/2)cos(B/2)cos(C/2)
より、
4rcos(A/2)cos(B/2)cos(C/2)
=16Rsin(A/2)sin(B/2)sin(C/2)cos(A/2)cos(B/2)cos(C/2)
なので、
r =4Rsin(A/2)sin(B/2)sin(C/2)
が成り立つ。
この公式については、次のような別証も考えられる。
![]() |
左図において、 r=AI・sin(A/2) また、△ABDにおいて、正弦定理より、AD/sin(B/2)=2R このとき、 r/R=AI・sin(A/2)/{AD/(2sin(B/2))} =2(AI/AD)sin(A/2)sin(B/2) |
ここで、 ∠AID=A/2+B/2=∠DAI なので、△DAIは、DA=DI の二等辺三角形
よって、 AI=2ADcos((A+B)/2)=2ADcos(π/2−C/2)=2ADsin(C/2) より、
AI/AD=2sin(C/2) なので、 r/R=4sin(A/2)sin(B/2)sin(C/2)
したがって、 r =4Rsin(A/2)sin(B/2)sin(C/2) が示された。
(追記) 令和5年1月31日付け
上記と同様の問題が、東北大学前期理系(2018)で出題されている。
第4問 △ABCの内接円の半径を r、外接円の半径をRとし、h=r/R とする。また、
∠A=2α、∠B=2β、∠C=2γ とおく。
(1) h=4sinαsinβsinγ となることを示せ。
(2) 直角三角形ABCにおいて、h≦−1 であることを示せ。また、等号成立を調べよ。
(3) 一般の△ABCにおいて、h≦1/2 であることを示せ。また、等号成立を調べよ。
(解)(1) BC=a、CA=b、AB=c とし、内心を I とおく。内接円と辺BCとの接点をDとお
くと、 r=BD・tanβ=CD・tanγ から、 a=r/tanβ+r/tanγ なので、
r=a・tanβtanγ/(tanβ+tanγ)
正弦定理より、 a=2Rsin2α なので、 r=4Rsinαcosα・tanβtanγ/(tanβtanγ)
よって、 h=4sinαcosα・tanβtanγ/(tanβ+tanγ)
ここで、 β+γ=π/2−α なので
tanβtanγ/(tanβ+tanγ)
=sinβsinγ/(sinβcosγ+cosβsinγ)
=sinβsinγ/sin(β+γ)
=sinβsinγ/cosα
よって、 h=4sinαcosα・sinβsinγ/cosα=4sinαsinβsinγ が成り立つ。
(2) 題意より、∠C=2γ=π/2 としても一般性は失われない。
このとき、 α+β=π/4 であることに注意して、
h=4sinαsinβsinγ
=2sinαsinβ
=(cos(α−β)−cos(α+β))
=(cos(α−β)−1/
)
ここで、0<α、β<π/4 より、 −π/4<α−β<π/4 なので、
1/<cos(α−β)≦1 となり、 h≦
(1−1/
)=
−1 である。
等号成立は、 cos(α−β)=1 すなわち、 α−β=0 のときで、
α+β=π/4 より、 α=β=π/8 なので、 2α=2β=π/4
以上から、直角2等辺三角形のとき、等号成立である。
(3) α+β+γ=π/2 に注意して、積和の公式より、
h=4sinαsinβsinγ
=2(cos(α−β)−cos(α+β))sinγ
=2(cos(α−β)−cos(π/2−γ))sinγ
=2(cos(α−β)−sinγ)sinγ
=−2sin2γ+2cos(α−β)sinγ
=−2{sinγ−(1/2)cos(α−β)}2+(1/2)cos2(α−β)
ここで、 −π/2<α−β<π/2 より、 0<cos(α−β)≦1 すなわち、
0<cos2(α−β)≦1 なので、 h≦1/2 であることが分かる。
等号成立は、 sinγ=(1/2)cos(α−β) かつ cos(α−β)=1 のとき。
よって、 sinγ=1/2 より、 γ=π/6 で、 α−β=0 から、 α=β=π/6
以上から、正三角形のとき、等号成立である。 (終)
以下、工事中!