自然対数の底eの体感
数学において、円周率 π とか自然対数の底 e は重要な定数である。円周率については、
最近の大学入試問題(東京大学理科系)でも見られた通り、円周の長さを内接(外接)する
正多角形の辺の長さの総和によって近似するという実験により、円周率というものを、実感
できる。
また、等間隔で無数の平行線が引いてある平面上に、同じ長さの針を落とすとき、その針
が平行線と交わる確率を求めるというBuffonの針の問題では、求める確率は、1/π であ
り、平行線と交わる針の本数を数えることにより、間接的ながら、やはり円周率というものが
実感できる。
これに対して、自然対数の底 e は、定義式による理解のみで、なかなか実感できる実験
というものはないと、私自身思っていた。
ところが、次のような実験があることを最近知った。この実験では、間接的ながら、自然対
数の底 e の値が体感できる。
1 から n までの自然数の書かれたカードが n 枚
ある。今そのカードをよく切って、左図のように番号
順に置いていく。
もし、
ak=k
となるような k が存在するとき、「出合い」が起こったといわれる。
このとき、出合いが起こらない確率はいくつになるであろうか?
この問題は、1708年モンモール(1678〜1719)が提出した「出合いの問題」といわれるもの
である。受験数学では、「手紙と封筒の問題」として認知されているかもしれない。
1740年ごろ、オイラー(1707〜1783)により、この問題は再発見され、解決された。
出合いが起こらない場合の数を F(n) とおく。この F(n) を実際に求めてみよう。
F(n) は、1,2,3,・・・,n の数を並び替えたとき、先頭から数えた順番と数が一致するも
のが1つもない並べ方(完全順列または攪乱順列)の数に等しい。
数 1 は、a1 以外のどれかである。
今、数 1 が、ak (2≦k≦n)であるとする。このとき、次の2つの場合が考えられる。
(1) 数 k が、a1 であるとき、残りの n−2 個の数の並べ方の数は、F(n−2) 通り
(2) 数 k が、a1 でないとき、1 以外の n−1 個の数の並べ方の数は、F(n−1) 通り
したがって、次のような漸化式が成り立つ。
F(n)=(n−1)(F(n−1)+F(n−2))
明らかに、F(1)=0、F(2)=1 である。
このとき、 F(n)−nF(n−1)=−(F(n−1)−(n−1)F(n−2))
なので、
F(n)−nF(n−1)=(F(2)−2F(1))(−1)n=(−1)n
よって、
と変形できるから
すなわち、
F(1)=0 なので、
となる。したがって、
( F(n) を求める別証明は、こちらを参照 → 「個数定理」 )
ところで、
なので、 | が成り立つ。 |
したがって、
が成り立つ。
以上から、出合いが起こらない確率は、カードの枚数 n の値を十分大きくすると、だんだん
と、自然対数の底 e の逆数 1/e に近づくことが分かる。
表計算ソフトExcelで、”=EXP(−1)”により計算すると、
1/e =0.367879441171442・・・
である。このことを念頭におき、いくつかの n の値について、理論値を計算してみよう。
|
左図の表から分かるよう に、数列 {F(n)/n!} の収 束は意外に速い。 n=10 で既に、小数第6 位までが一致しているもの と考えてよいだろう。 これは、 e≒2.71828 であることに相当する。 |
手計算でできる範囲に n の値を抑えて、n 枚のカードを並べていって、出合いのない並び
の場合だけをカウントし、それを試行回数で割り算すれば、確率 F(n)/n!の統計的確率が
得られる。その値が、自然対数の底 e の値に関係しているということに思いが馳せられれ
ば、この試みは成功としてよいだろう。
(参考文献:山本幸一 著 出合いの問題(数学100の問題より) (日本評論社)
藤崎真佐五 著 順列・組合せと確率(科学新興社))