チェビシェフの多項式                         戻る

 当HPの「不等式に遊ぶ」において、チェビシェフの多項式が活躍した。
Tschebyscheff 1821〜1894))

 このページでは、この多項式についてのいろいろな性質を整理したいと思う。

 チェビシェフの多項式に関する問題は、大学入試問題にも多数出題されている。ちょうど
高校2年生から大学初年級にかけての解析学の一つの面白い話題なんだろうと思われる。

 以下で、n は自然数とする。

 n 倍角の余弦 cosnθ は、加法定理を用いると、cosθ の多項式になる

 このことはいくつかの実験をすれば簡単に予想される。

n=1 のとき、 cosθ=cosθ

n=2 のとき、 cosθ=cos2θ−sin2θ=cos2θ−(1−cos2θ)=2cos2θ−1

n=3 のとき、 cosθ=cos2θcosθ−sin2θsinθ
              =(2cos2θ−1)cosθ−2sin2θcosθ
              =2cos3θ−cosθ−2cosθ+2cos3θ
              =4cos3θ−3cosθ

n=4 のとき、 cosθ=2cos22θ−1
               =2(2cos2θ−1)2−1
               =8cos4θ−8cos2θ+1

n=5 のとき、
 cosθ=cos3θcos2θ−sin3θsin2θ
     =(4cos3θ−3cosθ)(2cos2θ−1)−(3sinθ−4sin3θ)・2sinθcosθ
     =8cos5θ−10cos3θ+3cosθ−2(3cosθ−4(1−cos2θ)cosθ)(1−cos2θ)
     =8cos5θ−10cos3θ+3cosθ−2(4cos3θ−cosθ)(1−cos2θ)
     =8cos5θ−10cos3θ+3cosθ−2(4cos3θ−4cos5θ−cosθ+cos3θ)
     =16cos5θ−20cos3θ+5cosθ

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 この流れで行くと、次の問題は容易に解決できるだろう。

問 題  cos(π/(2n)) は代数的数であることを示せ。

 (解) θ=π/(2n) とおくと、 nθ=π/2 である。

    このとき、 cosnθ は、cosθ の多項式で表せるので、

       cosnθ=a0cosθ+a1cosn-1θ+・・・+an-1cosθ+a=0

           (ただし、 a0、a1、・・・、an-1、a は、有理数)

    よって、cos(π/(2n)) は代数的数である。 (終)

(コメント) cos(π/4)、cos(π/8)、cos(π/10)、・・・ は代数的数!


(参考) 次のHPにおいて、n倍角の公式(2≦n≦20)が与えられている。その数に圧倒さ
    れます。


(補足) 平成19年8月26日付け

 慶應義塾大学理工学部の平成19年度入試問題に手頃な応用題が出題された。

(1) cos3θ=F(cosθ) を満たす3次式 F(x) と、cos4θ=G(cosθ) を満たす4次式
 G(x) を求めよ。

 また、多項式 H(x) で、 (x−1)H(x)=G(x)−F(x) を満たすものを求めよ。

(2) 0≦θ≦π であるとき、 H(cosθ)=0 であるためには、

  θ=cos(2π/7) 、cos(4π/7) 、cos(6π/7) 

 であることが必要十分であることを証明せよ。

(3) cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(6π/7) の値を求めよ。


 この問題では、cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(6π/7) の値を求めることが眼目と思
われる。(1)(2)の導入を用いて解くことを求めているのだろう。

 ここに、チェビシェフの多項式の深遠さを感じるところである。

(略解) (1)については、上記の計算から、

 F(x)=4x3−3x 、G(x)=8x4−8x2+1 である。

 よって、 G(x)−F(x)=8x4−4x3−8x2+3x+1 より、

 G(x)−F(x)=(x−1)(8x3+4x2−4x−1) なので、H(x)=8x3+4x2−4x−1

(2) H(cosθ)=0 とすると、 G(cosθ)−F(cosθ)=0 すなわち、 cos4θ=cos3θ

 このとき、 4θ=2nπ ± 3θ より、 θ=2nπ 、2nπ/7 (n は整数)

 0≦θ≦π を満たす θ は、θ= 0 、 2π/7 、 4π/7 、6π/7

 ここで、 θ= 0 のとき、 H(1)=7≠0 なので、θ= 0 は不適。

よって、 θ= 2π/7 、 4π/7 、 6π/7 が成り立つ。

 逆に、θ= 2π/7 、 4π/7 、 6π/7 が成り立つものとする。

 ここで、 例えば、 θ= 2π/7 とおくと、

 cos4θ=cos(8π/7)=cos(2π−6π/7)=cos(6π/7)=cos3θ

 が成り立つ。他の場合も同様である。

 よって、 G(cosθ)−F(cosθ)=0 が成り立つ。

 すなわち、 (cosθ−1)H(cosθ)=0  であるが、

 cosθ≠1 なので、 H(cosθ)=0  が成り立つ。

(3) (2)より、 cos(2π/7)、cos(4π/7)、cos(6π/7) は、

 3次方程式 8x3+4x2−4x−1=0 の異なる3つの解であるので、解と係数の関係から、

 cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(6π/7)=−4/8=−1/2 となる。 (終)


(追記) 平成21年3月31日付け

 上記では、cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(6π/7)=−1/2 であることを示したが、左
辺の複雑さに比べ、右辺の単純さに驚かれる方も多いだろう。

 これは、 cos(2π/7) 、cos(4π/7) 、cos(6π/7) が、3次方程式

 8x3+4x2−4x−1=0 の異なる3つの解であることが急所であった。同様にして、

 cos(2π/7)cos(4π/7)cos(6π/7)=1/8

 cos(2π/7)cos(4π/7)cos(8π/7)=1/8

となることも即答だろう。このように綺麗な値になる理由は、Galois理論からも説明される。


(追記) 平成21年4月1日付けで、S(H)さんより、次のような入試問題があることを伺った。

東京慈恵会医科大学(2008)

 cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(6π/7)=a
 cos(2π/7)cos(4π/7)cos(6π/7)=b

とする。 a 、 b の値を求めたい。以下の設問(1)、(2)、(3)に答えよ。

(1) 角θ(ラジアン)が cos3θ=cos4θ をみたすとき、解のひとつがcosθであるよう
 な4次の方程式を求めよ。

(2) θ=2π/7 のとき、cosθが解のひとつであるような3次の方程式を求めよ。

(3) 設問(2)の結果を用いて、a および b の値を求めよ。


 慶應義塾大学の1年後の出題ですが、問いかけが現役高校生向けに考えやすく工夫され
ていますね!

(解) (1) 倍角の公式より、 4cos3θ−3cosθ=2cos22θ−1

 右辺=2(2cos2θ−1)2−1=8cos4θ−8cos2θ+1 なので、

 8cos4θ−8cos2θ+1=4cos3θ−3cosθ

よって、 8cos4θ−4cos3θ−8cos2θ+3cosθ+1=0 より、

 求める4次方程式は、 8x4−4x3−8x2+3x+1=0

(2) (1) より、 (x−1)(8x3+4x2−4x−1)=0

 θ=2π/7 のとき、 cosθ≠1 である。

また、 cos3θ=cos(6π/7)=cos(π−π/7)=−cos(π/7)

 cos4θ=cos(8π/7)=cos(π+π/7)=−cos(π/7) より、 cos3θ=cos4θ

が成り立ち、cosθ は、3次方程式は、8x3+4x2−4x−1=0 の解となる。

(3) θ=2π/7、4π/7、6π/7 はすべて cos3θ=cos4θ をみたし、

 cos(2π/7)、cos(4π/7)、cos(6π/7) は相異なる3数で、1 とは異なる。

よって、3数は、(2) で得られた3次方程式の3つの解となる。解と係数の関係から、

 a=cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(6π/7)=−1/2

 b=cos(2π/7)cos(4π/7)cos(6π/7)=1/8   (終)


(追記) 平成19年9月29日付け

 cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(6π/7) の値を求めるだけの問題だったら、次のよう
に解いた方が早道だろう。

 複素数平面において、 方程式 Z7=1 の解は下図のように分布する。

  

 このとき、 1+z+z2+z3+z4+z5+z6=0 が成り立つ。

 ここで、 z と z6 、 z2 と z5 、 z3 と z4 は互いに共役な複素数なので、

 z + z6 = 2cos(2π/7)

 z2 + z5 = 2cos(4π/7)

 z3 + z4 = 2cos(6π/7)

よって、  1+2(cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(6π/7))=0 より、

 cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(6π/7)=−1/2


(コメント) 実数の世界でどんなに面倒な問題も、複素数の世界では平易な問題に生まれ変
    わってしまいますね!


(追記) 平成19年9月30日付け

 当HPがいつもお世話になっている Anonymous さんからの情報によると次のような別解
も考えられる。上記では共役複素数を用いたが、以下の解では、純粋に方程式を解くことに
より求められる。

 α=z+z2+z4 ( ただし、 z=exp(2πi/7) ) とおくと、

 α2=z2+z4+z8+2z3+2z6+2z5=z2+z4+z+2z3+2z6+2z5=z3+z6+z5−1

よって、 α2+α+1=z+z2+z3+z4+z5+z6=−1 なので、α は、

2次方程式 x2+x+2=0 の解となる。解の公式により、

 

 このことから、 複素数 α の実数部を比較して、

 cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(8π/7)=−1/2

となる。 ここで、 cos(8π/7)=cos(6π/7) なので、

 cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(6π/7)=−1/2

である。

 さらに、次のような斬新な解法も考えられるようだ。もしかしたら、こちらの解法の方が、より
発展性のある解法かもしれない。

 1+z+z2+z3+z4+z5+z6=0 において、 z≠0 なので、

 1/z3+1/z2+1/z+1+z+z2+z3=0

 (z+1/z)3−3(z+1/z)+(z+1/z)2−2+(z+1/z)+1=0

すなわち、 (z+1/z)3+(z+1/z)2−2(z+1/z)−1=0

よって、 β=z+1/z とおくと、 β3+β2−2β−1=0 となり、

 β は、3次方程式 x3+x2−2x−1=0 の解となる。

ところで、 β=z+1/z=2cos(2π/7) で、

 β2=(z+1/z)2=z2+1/z2+2 より、β2−2=z2+1/z2=2cos(4π/7)

さらに、 (β2−2)β=(z2+1/z2)(z+1/z)=z3+1/z3+z+1/z なので、

 β3−3β=z3+1/z3=2cos(6π/7)

このとき、 β+(β2−2)+(β3−3β)=β3+β2−2β−2=−1 なので、

 2cos(2π/7)+2cos(4π/7)+2cos(6π/7)=−1

すなわち、 cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(6π/7)=−1/2


(コメント) 同じ問題が、いろいろな視点から解かれて楽しいですね!それだけ慶應義塾大学
   の入試問題は深遠なる良問だったということでしょうか。


(追記) 平成24年7月13日付けで、当HPがいつもお世話になっているHN「よおすけ」さんが

 cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(6π/7)

について、別解を考えられた。

(解) 和を積になおす公式より、

 cos(2π/7)+cos(6π/7)=2cos((6π/7)+(2π/7))/2・cos((6π/7)-(2π/7))/2

=2cos(4π/7)cos(2π/7)

により、与式=2cos(4π/7)cos(2π/7)+cos(4π/7)=cos(4π/7){2cos(2π/7)+1}・・・☆

 cos(2π/7)=1-2sin2(π/7) より、2cos(2π/7)+1=3-4sin2(π/7) なので、

 ☆=cos(4π/7){3-4sin2(π/7)}・・・★

ここで、{}内の式に気がつくと、★の式は

★=cos(4π/7){(sin(π/7))(3-4sin2(π/7)}/sin(π/7)

 =cos(4π/7){3sin(π/7)-4sin3(π/7)}/sin(π/7)=cos(4π/7)sin(3π/7)/sin(π/7)・・・・・★★

 ここで、cos(4π/7)sin(3π/7)=(1/2){sin((4π/7)+(3π/7))-sin((4π/7)-(3π/7))}

  =(1/2){sinπ-sin(π/7)}=-(1/2)sin(π/7)

よって、★★=-(1/2)sin(π/7)/sin(π/7)=-1/2

以上から、cos(2π/7)+cos(4π/7)+cos(6π/7)=−1/2  (終)


 一般に、cosnθ を、加法定理を用いて展開した式において、cosθ=X として得られる
多項式を、チェビシェフの多項式という。通常、(X) で表される。

  すなわち、  cosnθ=T(cosθ) である。

 上記の計算から、

 T1(X)=X

 T2(X)=2X2−1

 T3(X)=4X3−3X

 T4(X)=8X4−8X2+1

 T5(X)=16X5−20X3+5X

であることが分かる。


 さて、上記の関数式を見て、T(X) は、n 次の多項式で、最高次の項の係数は、2n-1

であることが予想される。 このことを確認してみよう。

 ド・モアブルの公式により、i を虚数単位として、cos(nθ)+i・sin(nθ)=(cosθ+i・sinθ)

右辺に対して、2項定理を用いて展開すると、

 

となるので、両辺の実部を比較すれば、

 

となる。(上の式で、[x] は、ガウス記号である。)

 よって、この式において、cosθ=X とすると、T(X) は、n 次の多項式になることが分
かる。

 さらに、最高次の項の係数は、順列・組合せの理論(→ 参考:パスカルの三角形)から、

 024+・・・・・ =2n-1

である。

 また、定数項についても、次の事実が成り立つ。

 n≡0 (mod 4) のとき、 定数項=1

 n≡1 (mod 4) のとき、 定数項=0

 n≡2 (mod 4) のとき、 定数項=−1

 n≡3 (mod 4) のとき、 定数項=0

 証明は、上記の cos(nθ) の式から明らかであろう。

 チェビシェフの多項式を扱う場合の注意点は、cosθ=X と置いている関係から、

         −1 ≦ X ≦ 1

であることだろう。

 このとき、各自然数 n に対して、関数 T(X) のグラフを描くと、チェビシェフの多項式の
特徴が浮かび上がってくる。

      


      


  

 以上の5つのグラフから分かるように、何れも、値域は、 −1 ≦ Y ≦ 1 である。

もっとも、これは、cosnθ=T(cosθ) から明らかであろう。

 また、関数 T(X) のグラフを眺めていると、極大値と極小値が交互に現れている。この点

もチェビシェフの多項式の特徴なのだろう。

 さらに、−1 ≦ X ≦ 1 の範囲で、方程式 T(X)=0 は、異なる n 個の実数解を持
つことも分かる。

 実際に、方程式 T(X)=0 となる X=cosθ は、cos(nθ)=0 を満たす θ によって求
められる。この三角方程式の一般解は、

 nθ=kπ−(1/2)π  ( k は、整数)

なので、θ=(2k−1)π/2n  ( k は、整数) となる。

 cosθ は、偶関数であるので、相異なる cosθ の値を与えるものとしては、

k=1、2、3、・・・、n を代入して、

 θ1=π/2n 、θ2=3π/2n 、θ3=5π/2n 、・・・、θn=(2n−1)π/2n

の n 個存在する。これらが、方程式 T(X)=0 の実数解 X=cosθ を与える。

(コメント: 方程式 T(X)=0 が必ず異なる n 個の実数解を持つなんて、とても性質(性格?)がいいですね!

 ところで、 cosnθ において、cosθ=X としてチェビシェフの多項式が得られたが、

sinnθ についても同様のことはできないのであろうか?

 実は、多少美しさには欠けるが、同種の多項式はできるようだ。

 ド・モアブルの公式により、i を虚数単位として、

 cos(nθ)+i・sin(nθ)=(cosθ+i・sinθ)

右辺に対して、2項定理を用いて展開すると、

 

となるので、両辺の虚部を比較すれば、

 

となる。(上の式で、[x] は、ガウス記号である。)

 sin2θ=1−cos2θ なので、

 

 よって、
 

とおくと、sin(nθ)=S(cosθ)・sinθ を満たす多項式 S(X) が存在する。

 たとえば、 sin2θ=2cosθ・sinθ より、 S2(X)=2X

sin3θ=3sinθ−4sin3θ=(3−4sin2θ)・sinθ=(3−4(1−cos2θ))・sinθ
=(4cos2θ−1)・sinθ

より、 S3(X)=4X2−1

sin4θ=2sin2θcos2θ=4sinθcosθ(2cos2θ−1)=(8cos3θ−4cosθ)・sinθ

より、 S4(X)=8X3−4X

となる。 もちろん、 S1(X)=1 である。

  Mathematica においては、sin(n+1)θ=S(cosθ)・sinθ と定義されるらしい。

 S(X) の定義は、お世辞にも美しいとは言えないが、多項式 T(X) と S(X) には、
実は、深遠なる関係が成立する。

 T1(X)=X            S1(X)=1

 T2(X)=2X2−1        S2(X)=2X

 T3(X)=4X3−3X       S3(X)=4X2−1

 T4(X)=8X4−8X2+1    S4(X)=8X3−4X

 上記の計算結果から、
                  (T(X))’=n・S(X)

という関係式の成り立つことが予想される。(ここで、左辺の( )’は、導関数を表す。)

 もっとも、これは次の微分の計算から明らかであろう。

 cosnθ=T(cosθ) の両辺を、θ で微分すれば、

 −n・sinnθ=(T(cosθ))’・(−sinθ)

 ここで、 sinnθ=S(cosθ)・sinθ なので、

 (T(cosθ))’=n・S(cosθ) すなわち、多項式として、

  (T(X))’=n・S(X)

 が成り立つ。

 また、T(X)、S(X)は共に同じ漸化式  n+2−2・X・an+1+a=0

を満たすという事実も面白い。

 実際に、 (cosθ+i・sinθ)n+1=(cosθ+i・sinθ)・(cosθ+i・sinθ) において、

 cos(n+1)θ+i・sin(n+1)θ=(cosθ+i・sinθ)・(cosnθ+i・sinnθ)

なので、  Tn+1+i・Sn+1・sinθ=(cosθ+i・sinθ)・(T+i・S・sinθ)

 実部と虚部を比較して、

 Tn+1=T・cosθ−S・sin2θ=T・cosθ−S・(1−cos2θ)

=S・cos2θ+T・cosθ−S

すなわち、 n+1=S・X2+T・X−S

 また、 Sn+1=S・cosθ+T

すなわち、 n+1=S・X+T

が成り立つ。

 T=Sn+1−S・X を第1式に代入して、

  Sn+2−Sn+1・X=S・X2+(Sn+1−S・X)・X−S

これより、 Sn+2−2Sn+1・X+S=0  が成り立ち、S は、

漸化式 an+2−2・X・an+1+a=0 を満たすことが示された。

 同様に、

n+2−2Tn+1・X+T

=Sn+1・X2+(Sn+2−Sn+1・X)・X−Sn+1−2(Sn+2−Sn+1・X)・X+Sn+1−S・X

=−(Sn+2−2Sn+1・X+S)・X

=0

 よって、T も、漸化式 an+2−2X・an+1+a=0 を満たすことが示された。

(補足) 平成18年12月20日付け

 このページは、平成17年1月11日付けでアップされたが、今読み返してみると、計算の稚
拙さが目立つ。

 T(X) が、 漸化式 an+2−2・X・an+1+a=0 を満たすことを示すとき、上記のよう
に以前計算したが、次のように計算した方が簡単だろう。

 上記より  Sn+2−2Sn+1・X+S=0

よって、 Sn+3−2Sn+2・X+Sn+1=0

また、  XSn+2−2Sn+1・X2+XS=0 なので、2式を辺々引いて、

 (Sn+3−XSn+2)−2X(Sn+2−XSn+1)+Sn+1−XS=0

ここで、 T=Sn+1−XS なので、 Tn+2−2XTn+1+T=0

となり、 T も、漸化式 an+2−2X・an+1+a=0 を満たす。

(別解) Tn+2−2XTn+1+T=0 の両辺を微分しても簡単な計算から、

 n(Sn+2−2Sn+1・X+S)=0 すなわち Sn+2−2Sn+1・X+S=0

を示すことができる。

(コメント: 全く異なる多項式 T と S 同士が、全く同じ漸化式を満たすなんて不思議ですね!もちろん「不思
      議」とは、疑問の意味ではなくて感嘆の意味です...。ある方は「当然」と言われますが...!)



(追記) 平成20年8月14日付け

 上記では、T が漸化式 Tn+2−2XTn+1+T=0 を満たすことを示すのに、S を活用
するという情けない解法(ま〜成り行き上しょうがないと言えばしょうがないが...)になってい
るが、もちろん直接的に示すことも可能である。

n+2−2XTn+1+T=cos(n+2)θ−2cosθcos(n+1)θ+cosnθ

={cos(n+2)θ+cosnθ}−2cosθcos(n+1)θ

=2cos(n+1)θcosθ−2cosθcos(n+1)θ=0

 この漸化式を用いると、次の事実が容易に示される。

 全ての自然数 n に対して、 T は有理係数の n 次の多項式である

(証明)  T1(X)=X 、 T2(X)=2X2−1 より、明らかに命題は、n=1、n=2 のときに

 成り立つ。

n=k、n=k+1 (k≧1の任意の自然数)のとき、命題が成り立つと仮定する。 すなわち、

k+1 、T は、それぞれ有理係数の k+1次、k次の多項式である。

このとき、 Tk+2=2XTk+1−T より、 Tk+2 は、有理係数の k+2次の多項式となる。

 よって、命題は、n=k+2 のときも成り立つ。

したがって、全ての自然数 n に対して、T は有理係数の n 次の多項式である。 (証終)

 この結果を用いる例題としては、次の問題があげられる。

例 題     は無理数であることを示せ。

  ただし、 が無理数であることは既知とする。

(解)   T=ax+bxn-1+・・・+c (a、b、・・・、c は有理数) とおける。このとき、

  

 ここで、    が有理数であると仮定すると、右辺が有理数より

   は有理数となる。これは矛盾である。

 よって、    は無理数である。 (終)

(追記) 平成23年2月14日付け

 漸化式 an+2−2X・an+1+a=0 に関連して、次のような入試問題が出題された。

神戸大学 前期理系(2009)  t を実数として、数列 a1,a2,・・・ を

 a1=1 、a2=2t 、an+1=2t・a−an-1 (n≧2)

で定める。このとき、以下の問いに答えよ。

(1) t≧1 ならば、 0<a1<a2<a3<・・・ となることを示せ。

(2) t≦−1 ならば、 0<|a1|<|a2|<|a3|<・・・ となることを示せ。

(3) −1<t<1 ならば、t=cosθとなるθを用いて、

  a=sin(nθ)/sinθ (n≧1)

となることを示せ。


(解)(1) 任意の自然数 n に対して、 0<a<an+1 が成り立つことを数学的帰納法によ

 り示す。

 n=1 のとき、 a1=1>0 で、 a2−a1=2t−1≧1>0 より、

  0<a1<a2 が成り立つ。よって、n=1のとき、命題は成り立つ。

 n=k(k≧1) のとき、命題が成り立つと仮定する。すなわち、

 0<a<ak+1 が成り立つと仮定する。

 このとき、 ak+1>0 で、ak+2−ak+1=2t・ak+1−a−ak+1≧ak+1−a>0

 よって、 0<ak+1<ak+2 が成り立ち、n=k+1 のときも成り立つ。

 以上から、任意の自然数 n に対して、 0<a<an+1 が成り立つ。

(2) s=−t とおくと、 t≦−1 より、 s≧1 で、 a2=2t=−2s より、 −a2=2s

  an+1=2t・a−an-1=2s・(−a)−an-1

そこで、 数列 {b} を、 b=(−1)n-1 と定義すると、b1=a1=1 、b2=−a2=2s

で、 (−1)n-1n+1=2t・(−1)n-1−(−1)n-1n-1 (n≧2)

より、 −(−1)n+1=2t・(−1)n-1+(−1)n-2n-1

すなわち、 −bn+1=−2s・b+bn-1 より、bn+1=2s・b−bn-1 (n≧2)

このとき、(1)より、 0<b1<b2<b3<・・・ が成り立つ。

すなわち、 0<|b1|<|b2|<|b3|<・・・ が成り立つ。

|b|= |(−1)n-1|=|a| なので、0<|a1|<|a2|<|a3|<・・・

となる。

(3) a=sin(nθ)/sinθ (n≧1) を数学的帰納法により示す。

 n=1 のとき、 a1=1 、sin(nθ)/sinθ=1 で成り立つ。

 n=2 のとき、 a2=2t 、sin(nθ)/sinθ=2cosθ=2t で成り立つ。

 n=k−1、k(k≧2) のとき、命題が成り立つと仮定する。すなわち、

   ak-1=sin((k−1)θ)/sinθ 、a=sin(kθ)/sinθ

 このとき、

 ak+1=2t・a−ak-1=2cosθ・sin(kθ)/sinθ−sin((k−1)θ)/sinθ

 ={sin(k+1)θ+sin(k−1)θ}/sinθ−sin((k−1)θ)/sinθ=sin(k+1)θ/sinθ

となり、n=k+1のときも成り立つ。

 したがって、 a=sin(nθ)/sinθ (n≧1) が成り立つ。  (終)


(追記) 上記話題に関連して、当HPがいつもお世話になっているHN「K.S.」さんより、メ
     ールで頂いた。(平成25年8月17日付け)

 sin6θ/sinθ=32cos5θ−32cos3θ+6cosθ

 sin7θ/sinθ=64cos6θ−80cos4θ+24cos2θ−1

 sin8θ/sinθ=128cos7θ−192cos5θ+80cos3θ−8cosθ

であり、 sinkθ/sinθ=S(cosθ)とおくと、

   Sk+1(cosθ)=2cosθ・S(cosθ)−Sk-1(cosθ)

が成り立つ。因みに、 coskθ=T(cosθ) とおいても同じ漸化式が成り立つ。

 2n-2k2n-4k+・・・+2k=F(x) とおくと、 Fk+1(x)=2x・F(x)+Fk-1(x)

が成り立つことが予想される。ただし、形式的に xk と言い換える。


(コメント) T(X)、S(X)が共に同じ漸化式を満たすなんて感動しちゃいますね!
      K.S.さんに感謝します。


 さて、話を元に戻そう。

 チェビシェフの多項式 T(X) について、

   定義域は、 −1 ≦ X ≦ 1    値域は、  −1 ≦ Y ≦ 1

という著しい特徴があった。

 今度は、多項式関数の最大偏位とチェビシェフの多項式との関係を調べてみよう。

 ある区間において、関数 F(x) から作られる絶対値関数 |F(x)|の最大値を、この区
間における関数 F(x) の最大偏位という。

例 1

   左図のグラフから、

   関数 F(x) = 3x−1 ( 0 ≦ x ≦ 1 ) の最大偏位は、
  2 である。








例 2

   左図のグラフから、

   関数 F(x) = 2x2−1 ( −1 ≦ x ≦ 1 ) の最大偏位
  は、1 である。








 最大偏位の直感的イメージとして、「 x 軸から最も離れうる距離 」と考えればよい。

 例 2 の関数 F(x) は、チェビシェフの多項式 T2(X) そのものであるが、この関数は同
形の2次関数において、「最大偏位が最小である」という特徴ある性質を有する。

 いま、−1 ≦ x ≦ 1 において、2次関数 F(x) = 2x2+4ax+b を考え、最大偏位が
最小となるための a、b が満たすべき条件を求めてみよう。

 F(x) = 2x2+4ax+b = 2(x+a)2+b−2a2 より、軸の方程式は、x=−a である。

定義域 −1 ≦ x ≦ 1 に注意して、次の2つの場合を調べる。

(イ) −a≦ −1 または 1 ≦ −a すなわち、 a≦ −1 または 1 ≦ a のとき、

 F(−1) = 2m 、F(1) = 2n とおくと、最大偏位は、max(|2m|、|2n|) である。

そこで、 G(x) = F(x)−(m+n) とおくと、

  G(−1) = m−n 、G(1) = n−m より、 |G(−1)|=|G(1)|

なので、G(x) の最大偏位は、 |n−m| である。

 G(x) のグラフは、F(x) のグラフを平行移動させたものなので、

 F(x) の最大偏位は、 |n−m|以上である。

ここで、 F(−1) = 2m 、F(1) = 2n より、

 2−4a+b = 2m 、2+4a+b = 2n  なので、 n−m = 4a

 a≦ −1 または 1 ≦ a  すなわち、 |a|≧1 なので、 |n−m|≧4

よって、 F(x) の最大偏位は、4以上であることが分かった。

(ロ) −1 < −a < 1 すなわち、 −1 < a < 1 のとき、

 最大偏位を求めるために一般性を失うことなく、0 ≦ a < 1 で考えれば十分である。

このとき、関数 F(x) は、

 x=−a において最小で、最小値は、 b−2a2(=2m とおく。)

 x=1 において最大で、最大値は、2+4a+b(= 2n とおく。)

そこで、 G(x) = F(x)−(m+n) とおくと、

 G(−a) = m−n 、G(1) = n−m より、 |G(−a)|=|G(1)|

なので、G(x) の最大偏位は、 |n−m| である。

G(x) のグラフは、F(x) のグラフを平行移動させたものなので、

F(x) の最大偏位は、 |n−m|以上である。

ここで、 F(−a) = 2m 、F(1) = 2n より、

 b−2a2 = 2m 、2+4a+b = 2n  なので、 n−m = a2+2a+1=(a+1)2

 0 ≦ a < 1 なので、 |n−m|=(a+1)2≧1

よって、 F(x) の最大偏位は、1以上であることが分かった。

 (イ)(ロ)より、関数 F(x) は、a=0 のとき、最大偏位が最小となり、最小値 1 をとる。

 最大偏位が最小となる関数として、G(x) を求めてみよう。

 このとき、 2m = b 、2n = b+2 なので、 m+n = b+1

 よって、 G(x) = F(x)−(m+n) = 2x2+b−(b+1)=2x2−1 となる。

 この関数 G(x) は、チェビシェフの多項式 T2(X) そのものである。

 以上の議論から、チェビシェフの多項式 T2(X) は、2次関数において「最大偏位が最小」
という性質を有することが確かめられた。


 一般の n 次の多項式においても、チェビシェフの多項式 T(X) は、「最大偏位が最小」
という性質を有するのであろうか? 次に、このことを確かめようと思う。

 冒頭での議論から、T(X) は、n 次の多項式で、最高次の項の係数は、2n-1 であった。

 そこで、n 次の多項式として、F(x) = 2n−1+a1n−1+・・・+an−1x+a とし、
−1 ≦ x ≦ 1 において、最大偏位が 1 以上であることをまず確かめる。

証明は背理法による。すなわち、−1 ≦ x ≦ 1 において、−1<F(x)<1 と仮定する。

 いま、 G(x)=F(x)−T(X) を考えると、G(x)は高々n−1次の多項式である。

 さらに、関数 T(X) のグラフの特徴から、−1 ≦ x ≦ 1 において、T(X) の最大・最
小は交互に現れる。

 つまり、 x=1(=cos0)、cos(π/n)、cos(2π/n)、・・・、−1(=cosπ) において、
順に、T(X) の値が、1、−1、1、・・・、(−1) と変化する。

したがって、仮定より、

  G(1)<0、G(cos(π/n))>0、G(cos(2π/n))>0、G(cos(3π/n))>0、・・・

となり、正負の符号が交互に現れる。

 よって、中間値の定理より、方程式 G(x)=0 は、

 1 と cos(π/n) の間、cos(π/n) と cos(2π/n) の間、・・・ にそれぞれ少なくとも 1 個解
を持つ。

 このことから、方程式 G(x)=0 は、相異なる n 個以上の解を持つことになるが、G(x)
は高々n−1次の多項式であるので、これは矛盾である。

 したがって、最高次の係数が 2n−1 の n 次の多項式の −1 ≦ x ≦ 1 における最大偏
位は、1 以上であることが示された。


(参考文献:ア・ヤグロム、イ・ヤグロム 著 筒井高胤 訳
  初等的に解いた高等数学の問題(W) (東京図書))


(追記) 令和7年5月30日付け

 次の東北大学 前期理系(1994)の問題は、チェビシェフの多項式に関する問題である。

問題  x に関する多項式P(x) (n=0、1、2、・・・)が、すべての実数θに対して
  P(cosθ)=cosnθを満たすものとする。
(1) Pn+1(x)+Pn-1(x) を、P(x)を用いて表せ。また、P(x)の次数を求めよ。
(2) P5(x)を求めよ。
(3) 方程式P5(x)=1の異なる実数解の個数を求めよ。

(解)(1) cos(n+1)θ+cos(n−1)θ=2cosnθcosx から、

 Pn+1(x)+Pn-1(x)=2xP(x) が成り立つ。

 P1(cosθ)=cosθ、P2(cosθ)=cos2θ=2cos2θ−1、

 P3(cosθ)=cos3θ=4cos3θ−cosθ から、

 P1(x)=x 、P2(x)=2x2−1 、P3(x)=4x3−3x 、・・・ なので、一般に、P(x)は、

n次式である。(厳密には、数学的帰納法による。)

(2) P5(x)+P3(x)=2xP4(x)、P4(x)+P2(x)=2xP3(x) から、

から、P5(x)=2x(2xP3(x)−P2(x))−P3(x)=(4x2−1)(4x3−3x)−2x(2x2−1)

 =16x5−20x3+5x

(3) 16x5−20x3+5x=1 すなわち、 16x5−20x3+5x−1=0

 このとき、 (x−1)(16x4+16x3−4x2−4x+1)=0

ここで、16x4+16x3−4x2−4x+1=(2x)4+2(2x)3−(2x)2−2(2x)+1

2x=X とおくと、 X4+2X3−X2−2X+1=X(X+2)(X+1)(X−1)+1

 =(X2+X)(X2+X−2)+1=(X2+X−1)2=(4x2+2x−1)2

 (x−1)(4x2+2x−1)2=0

よって、 x=1 、(−1±)/4 となり、方程式P5(x)=1の異なる実数解の個数は、

 3個 となる。  (終)



  以下、工事中!