不等式に遊ぶ                          戻る

 1次の多項式 F(X) =aX+b (−1≦X≦1)において、その絶対値 | F(X) | の最大値を、
Mとする。

 このとき、| F(1) |=| a+b |≦M、| F(−1) |=| −a+b |≦M が成り立つ。

また、 a+b = F(1) 、−a+b = F(−1) から、 a =(F(1)−F(−1))/2

よって、
     | a | = | (F(1)−F(−1))/2 |≦(| F(1) |+| F(−1) |)/2≦M
が成り立つ。

 ところで、 F(X) の導関数 F’(X) = a なので、その絶対値 | F’(X) | の最大値を、M’と
すると、上記の計算は、次の不等式が成り立つことを意味する。

               M’≦M

 同様のことを、2次の多項式 F(X) =aX2+bX+c (−1≦X≦1)についても計算してみ
よう。
 絶対値 | F(X) | の最大値を M、 F(X) の導関数 F’(X) の絶対値 | F’(X) | の最大値を
M’とする。このとき、

   | F(1) |=| a+b+c |≦M、| F(0) |=| c |≦M、| F(−1) |=| a−b+c |≦M

が成り立つ。

また、a+b+c = F(1) 、a−b+c = F(−1) 、c = F(0) から、

     a =( F(1)+F(−1))/2−F(0) 、b =( F(1)−F(−1))/2

である。

さらに、 F’(X) = 2aX+b は、1次関数なので、M’=max(| F’(1) |,| F’(−1) |) である。

ここで、| F’(1) | = | 2a+b | = | F(1)+F(−1)−2F(0)+( F(1)−F(−1))/2 |

                   = | (3/2) F(1)+(1/2) F(−1)−2F(0) |

                   ≦ (3/2)| F(1) |+(1/2) | F(−1) |+2| F(0) |≦4M

     | F’(−1) | = | −2a+b | = | −F(1)−F(−1)+2F(0)+( F(1)−F(−1))/2 |

                       = | −(1/2) F(1)−(3/2) F(−1)+2F(0) |

                       ≦ (1/2)| F(1) |+(3/2) | F(−1) |+2| F(0) |≦4M
よって、
               M’≦4M
が成り立つ。

 これらの事実から、一般的に次の定理が成り立つ。

定理(Markov)

     n次の多項式 F(X) (−1≦X≦1) において、その絶対値 | F(X) | の最大値を M、
     F(X) の導関数 F’(X) の絶対値 | F’(X) | の最大値を M’ とすると、

               M’≦n2

    が成り立つ。


 この定理の一般的な証明は、とても難しいらしい。私自身、3次の多項式について証明を
試みたが、途中で挫折、思案中である。(できたら、報告します!)

(参考文献:安田 亨 著 入試数学伝説の良問100 (講談社))


追記) 上の定理の3次の場合の証明を、ずっと考えているが、未だ未完成で
           ある。とりあえず、現時点までの進捗状況だけでもと思い、中間報告を
           しておきたい。

 F’(X) = 3a(X−m)2+b (a≠0) とすると、 F(X) = a(X−m)3+b(X−m)+c

 多項式 F(X) (−1≦X≦1) において、その絶対値 | F(X) | の最大値を Mとする。

このとき、 F(1) = a(1−m)3+b(1−m)+c=p とおくと、 | p |≦M

       F(0) = −am3−bm+c=q とおくと、 | q |≦M

       F(−1) = −a(1+m)3−b(1+m)+c=r とおくと、 | r |≦M

が成り立つ。さらに、

   p − q = a−3am+3am2+b 、 q − r = a+3am+3am2+b

なので、−p+2q−r= 6am が成り立つ。

 いま、 | m |≧1 のときを考える。 

グラフの特性から、 M’=max(| F’(1) |,| F’(−1) |)  である。

 よって、F’(1) = 3a(1−m)2+b = 2a−3am+p−q より、

    | F’(1) |≦2| a |+3| am |+| p |+| q |≦5| am |+| p |+| q |

 ここで、−p+2q−r= 6am より、 6| am |≦| p |+2| q |+| r |≦4M

すなわち、| am |≦ (2/3)M なので、

    | F’(1) |≦5| am |+| p |+| q |≦(10/3)M+M+M=(16/3)M≦9M

 同様にして、F’(−1) = 3a(1+m)2+b = 2a+3am+q−r より、

    | F’(−1) |≦5| am |+| q |+| r |≦(10/3)M+M+M=(16/3)M≦9M

 以上から、| m |≧1 のとき、M’≦9M すなわち、 M’≦32M が成り立つ。

 次に、| m |≦1 のときを考える。

グラフの特性から、 M’=max(| F’(1) |,| F’(m) |,| F’(−1) |) である。

 よって、F’(1) = 3a(1−m)2+b = 2a−3am+p−q より、

    | F’(1) |≦2| a |+3| am |+| p |+| q |≦5| a |+| p |+| q |

 同様にして、F’(−1) = 3a(1+m)2+b = 2a+3am+q−r より、

    | F’(−1) |≦5| a |+| q |+| r |

   ( ... 現在、証明を考え中!)

 ある計算をすると、| a |≦6M が示されるが、これでは全然評価が甘いですね!
もう少し精密な評価をしないと駄目なようです。そんなわけで、今証明が止まっています。
「こうしたらどう?」というアドバイスを、よろしかったら、メールでお願いします。


(追々記) 定理の 3 次の場合について、京都在住のハンドル名:大空風成さんという方
       から、肯定的に解決した旨のメールをいただいた。(平成15年11月14日)

 下記に、若干計算や文言を補充して、掲載したいと思う。

 3次の多項式 F(X) =aX3+bX2+cX+d (−1≦X≦1)について、

 絶対値 | F(X) | の最大値を M、 F(X) の導関数 F’(X) の絶対値 | F’(X) | の最大値を
M’とする。このとき、

   | F(1) |=| a+b+c+d |≦M、| F(−1/2) |=|−(1/8)a+(1/4)b−(1/2) c+d |≦M、

   | F(−1) |=| −a+b−c+d |≦M、| F(1/2) |=|(1/8)a+(1/4)b+(1/2) c+d |≦M

が成り立つ。

また、a、b、c、d についての連立方程式:     a+b+c+d = F(1)
                              −a+b−c+d = F(−1)
                      (1/8)a+(1/4)b+(1/2) c+d = F(1/2)
                     −(1/8)a+(1/4)b−(1/2) c+d = F(−1/2)

を解くと、a、b、c、d が、 F(1)、 F(−1)、F(1/2)、F(−1/2) を用いて表される。

 実際に、 2a+2c=F(1)−F(−1)   、  2b+2d=F(1)+F(−1)

        a+4c=4F(1/2)−4F(−1/2) 、b+4d=2F(1/2)+2F(−1/2)

したがって、
        3a=2F(1)−2F(−1)−4F(1/2)+4F(−1/2)

        6c=−F(1)+F(−1)+8F(1/2)−8F(−1/2)

        3b=2F(1)+2F(−1)−2F(1/2)−2F(−1/2)

        6d=−F(1)−F(−1)+4F(1/2)+4F(−1/2)

このとき、 F’(X) =3aX2+2bX+c の絶対値 | F’(X) | の最大値について考える。

軸の方程式 X=−b/(3a) について、| −b/(3a) |=| b/(3a) |>1 のとき、

グラフの特性から、 M’=max(| F’(1) |,| F’(−1) |)  である。

ここで、| F’(1) |=| 3a+2b+c |

           =| (2+(4/3)-(1/6))F(1)+(-2+(4/3)+(1/6))F(−1)
                    +(-4-(4/3)+(4/3))F(1/2)+(4-(4/3)-(4/3))F(−1/2) |

           =| (19/6)F(1)−(1/2)F(−1)−4F(1/2)+(4/3)F(−1/2) |

          ≦ (19/6)M+(1/2)M+4M+(4/3)M=9M

   | F’(−1) |=| 3a−2b+c |

           =| (2-(4/3)-(1/6))F(1)+(-2-(4/3)+(1/6))F(−1)
                    +(-4+(4/3)+(4/3))F(1/2)+(4+(4/3)-(4/3))F(−1/2) |

           =| (1/2)F(1)−(19/6)F(−1)−(4/3)F(1/2)+4F(−1/2) |

          ≦ (1/2)M+(19/6)M+(4/3)M+4M=9M

 以上から、| b/(3a) |>1 のとき、M’≦9M すなわち、 M’≦32M が成り立つ。

次に、| b/(3a) |≦1 のとき、

グラフの特性から、 M’=max(| F’(1) |,| F’(−1) |,| F’(−b/(3a)) |)  である。

| b/(3a) |>1 のときと同様にして、  | F’(1) |≦9M 、 | F’(−1) |≦9M が成り立つ。

    | F’(−b/(3a)) |=| −b2/(3a)+c |

              =| −(b/(3a))・b+c |≦| b/(3a) |・| b |+| c |≦| b |+| c |

ここで、 | b |=| (2/3)F(1)+(2/3)F(−1)−(2/3)F(1/2)−(2/3)F(−1/2) |

         ≦ (2/3)M+(2/3)M+(2/3)M+(2/3)M=(8/3)M

      | c |=| −(1/6)F(1)+(1/6)F(−1)+(4/3)F(1/2)−(4/3)F(−1/2) |

         ≦ (1/6)M+(1/6)M+(4/3)M+(4/3)M=3M
なので、
    | F’(−b/(3a)) |≦(8/3)M+3M=(17/3)M≦9M

 以上から、| b/(3a) |≦1 のとき、M’≦9M すなわち、 M’≦32M が成り立つ。

したがって、n=3 のとき、 M’≦32M  が成り立つ。

(コメント) フーセイさんの解答は、すばらしいですね!軸の方程式が関係すると思って、
      F’(X) = 3a(X−m)2+b (a≠0) としてしまったのが敗因でした。(軸を簡単
     に扱えると思いきや、式をいたずらに複雑にしてしまったようです!)

      また、文字が4つなので、式も4本必要。それで、−1、0、1/2、1 について、計
     算したこともありましたが、思うような結果が出ず、諦めてしまいました。上の連立
     方程式の形をみると、−1、−1/2、1/2、1 について考えるということが、ごく自然
     に見えます。

      この証明で、一番の難所は、| F’(−b/(3a)) | の評価ですね。文字 a が分母に
     入っているので、少し考えさせられます。−b2/(3a)=−(b/(3a))・b という式変形
     に気がつくことがポイントのようです。

      1995年度入試の京都大学後期理系数学の問題3で、このようなアイデアを用
     いる問題が出題されています。

       a、b、c は実数で、a≧0、b≧0 とする。
      p(X)=aX2+bX+c 、q(X)=cX2+bX+a とおく。−1≦X≦1 を満たすすべ
      ての X に対して、| p(X) |≦1 が成り立つとき、−1≦X≦1 を満たすすべての
       X に対して、| q(X) |≦2 が成り立つことを示せ。


      (解) c=0 のとき、

            | q(X) |=| bX+a |≦ b・| X |+a≦a+b=a+b+c=p(1)≦1≦2

       c≠0 とする。 ここで、q(X)=cX2+bX+a=c(X+b/(2c))2−b2/(4c)+a

       | −b/(2c) |≦1 のとき、

          | q(X) |≦max(| q(1) |,| q(−1) |,| q(−b/(2c)) |) である。

            | q(1) |=| a+b+c |=| p(1) |≦1

            | q(−1) |=| a−b+c |=| p(−1) |≦1

            | q(−b/(2c)) |=| −b2/(4c)+a |

                     ≦| −b/(2c) |・(b/2)+a

                     ≦a+(b/2)≦a+b=p(1)−p(0)≦1+1=2

          以上から、  | q(X) |≦2

       | −b/(2c) |>1 のとき、

          | q(X) |≦max(| q(1) |,| q(−1) |) である。

          | −b/(2c) |≦1 のときと同様にして、| q(1) |≦1、| q(−1) |≦1

          以上から、  | q(X) |≦1≦2

    従って、−1≦X≦1 を満たすすべての X に対して、| q(X) |≦2 が成り立つ。(終)

 n=3 の場合が解決したと思ったら、今度は、n=4 の場合、あるいは一般の場合につ
いてはどうかという疑問がわいてきます。 n=1,2,3 の場合の証明から分かるように、
証明の本質的なところが、かなり図形の性質に依存しています。したがって、上記のような
計算で一般の場合が証明できるとは考えにくいです。もっと起死回生的な解法はないもの
でしょうか?まだまだ悩みの種は尽きないようです。


(追々々記) 不等式で遊ぼうと思って取り組んだ問題であったが、随分と不等式に遊ば
        れてしまった。平成15年11月14日に、n=3の場合の解決(フーセイさんに
        感謝)をみて以来、ずっと「ほったらかし」であった。(ほぼ半年間!!)

         その原因は明らかである。n=1,2,3 の場合が何れも直線や放物線とい
        った図形の性質に依存した解答だからである。n=4 の場合は、それまでと
        比べてはるかに難しく、新たな視点で解決しなければならないことは必定であ
        る。

         平成16年5月15日に、この問題の出典の著者 安田 亨 先生(駿台予備
        学校)からメールを頂戴した。敬愛する安田先生から直にメールを頂いて、恐
        縮したが、このマルコフの定理について、いろいろお話を伺うことができた。

         結論からいえば、この定理の証明は、常人では甚だ困難だろうということで
        ある。既に証明されている事実であるが、その手法は、3次関数の場合に限
        定しても、我々が上記で知りえた証明とは全く異なる視点で解かれている。

         整関数の話なのに無理関数まで登場するくらいで安田先生も驚かれていた。

         安田先生から、3次関数の場合の解答を頂戴したので、この解答を4次関数
        に拡張したものをこれから考えていくつもりである。

         直ぐにはできない(今ちょっと殺人的ハードスケジュールの中に身を投じてい
        るので!)と思うが、時間を工面して是非安田先生に結果をお返ししたいと決
        意する次第である。

         なお、このマルコフの定理について、広島工業大学の大川研究室から、次
        のことをお教えいただいた。(平成16年5月21日付け)

         この問題は、ポリア、セゲーの著書 :

    G.Polya-G.Szegoe, Problems and Theorems in analysis II, Springer-Verlag

        の中の練習問題にあり、解答を見ると、それまでの問題・解答の結果として与
        えられた第一種・第二種チェビシェフ多項式、三角多項式(有限三角級数)に関
        する幾つかの事実を使って示されているそうである。

         なお、この結果は、 A.Markov(1889) に依ると記されているとのことである。

 4次関数について調べる前に、安田先生から頂戴した3次関数の場合の証明方法を理解
するために、まず、2次関数の場合を、冒頭の証明とは異なる手法で確かめてみることにす
る。

 最初に、次のことを注意しておきたい。

  n次の多項式 F(X) (−1≦X≦1) において、その絶対値 | F(X) | の最大値を M、F(X)
の導関数 F’(X) の絶対値 | F’(X) | の最大値を M’ とするとき、 M’≦n2 を示すわ
けであるが、両辺を F(X) の最高次の係数の絶対値で割っても不等式は不変であるので、
最初から、最高次の係数は、1 であるとしても一般性は失われない。

 そこで、2次の多項式 F(X) =X2+aX+b (−1≦X≦1)について考えることにする。

 絶対値 | F(X) | の最大値を M とする。

 いま、 X=cosθ とおき、G(θ)=F(cosθ) とおく。

このとき、 0≦θ≦2π における絶対値 | G(θ) | の最大値を、Max| G(θ) | などと書く

ことにすると、  Max| G’(θ) | ≦ 2・Max| G(θ) | =2M が成り立つ。

ところで、 G’(θ)=F’(cosθ)・(−sinθ) であるので、

        Max| F’(cosθ)・(−sinθ) | ≦ 2M
すなわち、
        Max| F’(X)・ | ≦ 2M
である。

さらにまた、  Max| F’(X) | ≦ 2・Max| F’(X)・ |  が成り立つ。

よって、  Max| F’(X) | ≦ 2・2M=4M となり、題意は証明された。

(コメント) 上記が2次の多項式の場合の証明の概略である。 三角関数あり、無理関数
      ありで、その発想の斬新さに驚かされる。(太字の部分は、証明が必要である。)

  上記の証明方法を検討すると、n次の多項式の場合を証明するには、次の2つの事実
 を示せばよいだろうと予想される。

       Max| G’(θ) | ≦ n・M     (ベルンシュタインの不等式)

       Max| F’(X) | ≦ n・Max| F’(X)・ |

  この2つの不等式を組み合わせれば、所要の不等式 : M’≦n2 が示される。

従って、次の課題は、これらの不等式の証明である。


 証明にあたって本質的に活躍するのは、 n 倍角の余弦 cosnθ である。

この関数を、加法定理を用いて展開した式において、cosθ=X として得られる多項式を

チェビシェフの多項式という。

 2次の多項式の場合の証明には、cos2θ=2cos2θ−1 から、2次式 T2(X)=2X2−1

が用いられる。 0≦θ≦π において、cos2θ=0 の解は、π/4、3π/4 なので、

   X1=cosθ1  (ただし、θ1=π/4) 、 X2=cosθ2  (ただし、θ2=3π/4)

とおくと、これらは、方程式 T2(X)=0 の異なる2つの解 X1 、X2 を与える。

 まず、
       Max| F’(X) | ≦ 2・Max| F’(X)・ |

を、示したい。

 今、 F(X) =X2+aX+b なので、 F’(X) =2X+a である。

Lagrange の補間多項式によれば、F’(X) と、X=X1 、X=X2 で一致するような1次の多

項式 L(X)は、明らかに次の式で与えられる。

    L(X)=((X−X2)/(X1−X2))F’(X1)+((X−X1)/(X2−X1))F’(X2)

F’(X) は、1次式なので、この場合、F’(X)=L(X) である。すなわち、

   F’(X)=((X−X2)/(X1−X2))F’(X1)+((X−X1)/(X2−X1))F’(X2)

 ところで、チェビシェフの多項式 T2(X)=2(X−X1)(X−X2) を用いて、上式は、

  2F’(X)=T2(X)F’(X1)/((X−X1)(X1−X2))−T2(X)F’(X2)/((X−X2)(X1−X2))

と形式的に変形される。(ここで、形式的としたのは、実際に、たとえば、X=X1 における値

を計算する場合は、各項で零因子を約分してから求めることになるからである。)

 さらに、θ1+θ2=π であることに注意すれば、

 X1−X2=cosθ1−cosθ2=2cosθ1 であるが、

 2cosθ1sinθ1=sin2θ1=1 であるので、

       1/(X1−X2)=1/(2cosθ1)=sinθ1

 同様にして、X1−X2=cosθ1−cosθ2=−2cosθ2 であるが、

 2cosθ2sinθ2=sin2θ2=−1 であるので、

       1/(X1−X2)=−1/(2cosθ2)=sinθ2

となる。よって、

   2F’(X)=T2(X)F’(X1)/(X−X1)−T2(X)F’(X2)/(X−X2

と書くことができる。

 さて今、 M=2・max| F’(X) | = max| 2・F’(X) | とおく。

 このとき、−1≦X≦1 において、 | F’(X) | ≦ M であることを示せばよい。

 X2≦X≦X1 のとき、(= )=/2>1/2 なので、

        | F’(X) | ≦| 2・F’(X) | ≦M

は、明らかに成り立つ。

−1≦X≦X2 または X1≦X≦1 のとき、

 | 4・F’(X) | =2・| T2(X)F’(X1)/(X−X1)−T2(X)F’(X2)/(X−X2) |

        ≦M( | T2(X)/(X−X1) | + | T2(X)/(X−X2) | )

        =M( 2・| X−X2 | +2・ | X−X1 | )

        =M(| 2(X−X2)+2( X−X1) | )  (← X−X1 、X−X2 は同符号!)

        =M・| T2’(X) |

        ≦4M   (← T2’(X)=4X (−1≦X≦1 )より、| T2’(X) |≦4  )

 したがって、
           | F’(X) | ≦ M 

であることが示された。以上から、不等式

       Max| F’(X) | ≦ 2・Max| F’(X)・ |

の成り立つことが分かる。

  (注意) 上記の証明で、『 T2’(X)=4X (−1≦X≦1 )より、| T2’(X) |≦4 』の部
       分は、関数 T2’(X) のグラフが直線という幾何学的性質を用いたが、このこ
       とは一般化の障害になる部分である。

        次のように証明すれば、回避される。

          T2(X)=2X2−1 において、X=cosθ とおくと、

          T2(cosθ)=2cos2θ−1=cos2θ

          両辺を、θ で微分すると、  T2’(cosθ)(−sinθ)=−2sin2θ

          よって、 T2’(cosθ)・sinθ=2sin2θ より、

                T2’(cosθ)=2sin2θ/sinθ

             ( sinθ=0 のときのT2’(cosθ)の値は、sinθ→ 0 のときの右
              辺の極限値として定義する。)

           ここで、一般に、| sin nθ |≦n・| sinθ | (n は自然数)が成り立つ。

          実際に、n=1 のときは明らか。

               n=k (k≧1)のとき成り立つと仮定する。すなわち、

                     | sin kθ |≦k・| sinθ |

               n=k+1 のとき、 

                | sin (k+1)θ |=| sin kθcosθ+cos kθsinθ |

                           ≦| sin kθ||cosθ|+|cos kθ||sinθ |

                           ≦k・| sinθ |+|sinθ |=(k+1)・| sinθ |

               以上から、全ての自然数 n に対して、 | sin nθ |≦n・| sinθ |

         したがって、 | T2’(cosθ) |≦4 即ち、| T2’(X) |≦4 が成り立つ。

次に、
       Max| G’(θ) | ≦ 2・M

であることを示す。

 今、 B(α,θ)=(1/2)(G(α+θ)−G(α−θ)) とおく。

 | G(θ) | の最大値が、M であることに注意して、

     | B(α,θ) |=(1/2)| G(α+θ) − G(α−θ) |

              ≦(1/2)( | G(α+θ) | + | G(α−θ) | )≦M

 ここで、B(α,−θ)=−B(α,θ)より、B(α,θ)はθについて2次の奇関数である。

よって、 α を固定して、B(α,θ)=p・sinθ+q・sin2θ とおける。

このとき、 B(α,θ)/sinθ は、cosθ=X の1次式なので、

 Max| F’(X) | ≦ 2・Max| F’(X)・ | のときと同様にして、

   Max| B(α,θ)/sinθ | ≦ 2・Max| (B(α,θ)/sinθ)・ |

の成り立つことがいえる。

 よって、    Max| B(α,θ)/sinθ | ≦2・Max| B(α,θ) |≦2M より、

              | B(α,θ)/sinθ | ≦ 2M

ここで、θ を限りなく 0 に近づけるとき、ロピタルの定理を用いて、

             | G’(α) | ≦ 2M

αは任意なので、  | G’(θ) | ≦ 2M が成り立つ。

以上から、不等式

       Max| G’(θ) | ≦ 2・M

の成り立つことが分かる。

 これで、2次関数の場合の証明は完了した。

次は、これを足がかりにして一般化を視野に入れつつ、4次関数の場合に挑戦してみよう。

 広島工業大学の大川研究室のHPによれば、「この問題は解決!そのうちアップロードし
ます。」とのことである。(平成16年5月22日現在)
                     ....... 大川先生、どのような解答か楽しみです!


(追記) 平成25年7月21日付け

 このページも約9年ぶりの更新です。今日は参議院議員選挙の日。結果が気になります。

 このページで紹介した定理(Markov)は、これまでもいくつかの大学入試で題材にされ
てきた。

学習院大学(1981年)

 実数a、b、cに対して、−1≦x≦1において、−1≦ax2+bx+c≦1が成り立つならば、

−1≦x≦1において、−4≦2a+b≦4が成り立つことを証明せよ。


(解) 2次の多項式 F(x) =ax2+bx+c (−1≦x≦1)について、

   | F(1) |=| a+b+c |≦1、| F(0) |=| c |≦1、| F(−1) |=| a−b+c |≦1

 また、a+b+c = F(1) 、a−b+c = F(−1) 、c = F(0) から、

     a =( F(1)+F(−1))/2−F(0) 、b =( F(1)−F(−1))/2

 ここで、| F’(1) | = | 2a+b | = | F(1)+F(−1)−2F(0)+( F(1)−F(−1))/2 |
                    = | (3/2) F(1)+(1/2) F(−1)−2F(0) |
                    ≦ (3/2)| F(1) |+(1/2) | F(−1) |+2| F(0) |≦4

 よって、 | 2a+b | ≦4 より、 −4≦2a+b≦4 が成り立つ。  (終)


東京工業大学(1988年)

 関数 F(x) =ax2+bx+c は、| x |≦1で| F(x) |≦1を満たしている。このとき、F(x) の導
関数 F’(x) について、

(1) | F’(1) |≦4 を示せ。

(2) | F’(1) |=4 となる F(x) を全て求めよ。

 (1)については、学習院大学と同じ問題で同様に解けるが、ここでは別な解法で示してお
こう。

(解)(1) 題意より、 −1≦a+b+c≦1、−1≦a−b+c ≦1、−1≦c≦1

 −1≦c≦1から、−1≦−c≦1でもあるので、第1式、第2式に辺々加えて、

    −2≦a+b≦2、−2≦a−b ≦2

 このとき、点(a,b)は、(2,0)、(0,2)、(−2,0)、(0,−2)を頂点とする正方形の周
および内部に存在する。

 そこで、 F’(1) = 2a+b = k が上記の領域と交わるような k の値の範囲を求めれば
よい。

 k は、(a,b)=(2,0)のとき最大で、最大値 4

 k は、(a,b)=(−2,0)のとき最小で、最小値 −4

 よって、 −4≦F’(1) ≦4 より、 | F’(1) | ≦4 が成り立つ。

(2) | F’(1) | =4 となるのは(1)より、 (a,b)=(2,0)、(−2,0)

  (a,b)=(2,0)のとき、 c=−1 で、 F(x) =2x2−1

  (a,b)=(−2,0)のとき、 c=1 で、 F(x) =−2x2+1


(コメント) (1)の解法から分かるように、(2,0)、(0,2)、(−2,0)、(0,−2)を頂点と
      する正方形の周および内部の点が全て条件を満たす訳ではないことに注意しな
      ければならない。

       例えば、F(x) =x2+x+c=(x+1/2)2+c−1/4 について、

          c−1/4≦F(x)≦2+c

      区間[c−1/4,2+c]の幅が9/4(>2)なので、cがいかなる値をとっても、

      −1≦x≦1 において、−1≦F(x)≦1 となることはない。


 当HPがいつもお世話になっているHN「空舟」さんからのコメントです。
                                      (平成25年7月23日付け)

 冒頭で、M’≦n2M という定理が紹介されていますが、この等号が成り立つ状況を理解す
ることはできました。

 F(x) を、F(cosθ) = cos(nθ) となるように定めると、M=1 であり、x=±1 において
|F’(x)| = n2 の等号が成立するようです。

 実際に、 dF/dx = {d(cos(nθ))/dθ}/{d(cosθ)/dθ} = n・|sin(nθ)| / |sinθ| より、
       limx→±1 F'(x) = limθ→0 n・|sin(nθ)| / |sinθ| = n2


 5倍角の公式と見比べて、F(x)=16x5-20x3+5x としてグラフを書いてみると、

max { |x|,|y| } ≦1 という正方形に、ぴったり収まる様子を見ることができます。(このときが
限界だなあと感じさせます。)その時、x=±1 で、|F’(x)|が最大値25をとるわけですね・・。


 当HPがいつもお世話になっているHN「S(H)」さんからの情報です。
                                      (平成25年7月24日付け)