ガウスの記号
私が高校生の頃、新鮮に感じた関数がある。それまで関数といえば、すべて連続関数で
あった。多分、不連続な関数との最初の出会いだったと思う。
たしか、それは数学V(現行の数学Vとは比べものにならない位、魅力的な話題が豊富
であった!) の授業のときであった。先生が、黒板に次のような問題を出された。
問題 関数 Y=[X] のグラフを描け。但し、[X] は、X を越えない最大の整数を表す。
[X] は、ガウスの記号といわれる。最初の頃、『 X を越えない最大の整数』 という文言
がよく理解できなかった。しかし、
[X]=n ⇔ n≦X<n+1
という不等式で、了解できた。この不等式によれば、[3.14]=3、[0]=0、[−π]=−4
は、明らかである。頭の中に、次のような数直線を想起してもよい。
不等式を利用して、関数 Y=[X] のグラフは容易に描くことができる。
定義域を有限の範囲に限定すれば、この関数は、階段関数(または単純関数)の1つの
例を与えている。(一般に、単純関数とは、値域が有限集合のものをいう。)任意の関数は、
単純関数で近似できるという定理などもあり、単純関数は、Lebesgue積分論において、
基本的な役割を果たしている。(高校で学ぶ積分は、Riemann積分論のごく一部で、これ
を新しい視点で構成し直したものが、Lebesgue積分論である。)
関数 Y=[X] は、無限個の点(X=整数のとき)で、不連続である。
ところが、世の中には、もっとすごい関数がある。
この関数は、ワイエルシュトラス(Weierstrass)の関数といわれ、到るところ不連続
である。『到るところ不連続』といわれても、そのグラフは想像すらできない。
ガウスの記号 [X] には、 [X]=n ⇔ n≦X<n+1 という性質以外に、次
のような性質がある。
(1) 任意の実数 X、Y に対して、 [X]+[Y]≦[X+Y]
(2) 任意の実数 X と整数 N に対して、 [X+N]=[X]+N
(3) 有理数 B/A (A、Bは互いに素な自然数)で、
B=A・q+R (q 、Rは0以上の自然数で、0≦R<A)
のとき、 [B/A]=q 、 [B/A2]=[[B/A]/A]
(証明)(1) [X]=m 、[Y]=n とおくと、 m≦X<m+1 、n≦Y<n+1
このとき、 m+n≦X+Y<m+n+2 より、 [X+Y]=m+n または、m+n+1
よって、 [X]+[Y]≦[X+Y] が成り立つ。
(2) [X]=m とおくと、 m≦X<m+1 なので、 m+N≦X+N<m+N+1
よって、 [X+N]=m+N=[X]+N が成り立つ。
(3) B=A・q+R (0≦R<A) より、 B/A=q+R/A で、 0≦R/A<1
よって、 q≦q+R/A<q+1 より、 [B/A]=q が成り立つ。
また、 B/A=q+R/A より、 B/A2=q/A+R/A2
ここで、0以上の自然数 q’と R’を用いて、 q=Aq’+R’ (0≦R’<A)と書くとき、
B/A2=q/A+R/A2=q’+R’/A+R/A2=[[B/A]/A]+R’/A+R/A2
このとき、 0≦R’/A+R/A2<(A−1)/A+A/A2=1 (← 上手い!)なので、
[B/A2]=[[B/A]/A]
が成り立つ。 (証終)
ガウスの記号は、とっつきにくい反面、その応用は、とても魅力的である。
ひとつの応用例をあげよう。
例 自然数 N の階乗( N!)の中に、素数 P は何個含まれているか?
今の世の中では、計算といえば電卓と相場が決まっているが、このような問題に対して、
電卓は、非常に無力である。10桁の電卓だと、14!=6,227,020,800 が精一杯
である。市販されている関数電卓では、69!までは計算できるが、指数表示なので、この
問題には使えない。
この問題は、ガウスの記号を用いると、簡単に解決される。
例えば、10!=10・9・8・7・6・5・4・3・2・1=3,628,800 の中に、素数
2 が何個
含まれているか見てみよう。
2 を含む因数は、2 の倍数である 2,4,6,8,10 の5個ある。
2=2・1 で、1個 2 が含まれている。
4=2・2 で、2個 2 が含まれている。
6=2・3 で、1個 2 が含まれている。
8=2・2・2 で、3個 2 が含まれている。
10=2・5 で、1個 2 が含まれている。
以上の計算から、10!には、素数 2 が 8 個含まれていることが分かる。
このような計算を一般化するために、次のような表を作ってみよう。
2 | 4 | 6 | 8 | 10 | 計 | 意味 | |
● | ● | ● | ● | ● | 5 | ・・・・・ | 10以下の 2 の倍数の個数 |
● | ● | 2 | ・・・・・ | 10以下の 4 の倍数の個数 | |||
● | 1 | ・・・・・ | 10以下の 8 の倍数の個数 | ||||
1 | 2 | 1 | 3 | 1 | 8 |
自然数 N を、P で割った商を、m、余りを、n とすると、
N 以下の P の倍数は、m 個
ある。ところで、割り算の等式から、
N=P・m+n ( 0≦ n <P )
したがって、
が成り立つ。
この記法を用いれば、上記の問題は、次のように計算してもよいことになる。
以上を一般化して、次の公式を得る。
自然数 N の階乗( N!)の中に、素数 P は次の個数含まれる。
また、この値は次のように評価される。
証明は、易しい。
(証明) [N/P]≦N/P 、[N/P2]≦N/P2 、[N/P3]≦N/P3 、・・・ より、
左辺≦N/P+N/P2+N/P3+・・・=N/P{1/(1−1/P)}=N/(P−1) (証終)
厳密には、
自然数 N の階乗( N!)の中に、素数 P は次の個数含まれる。
(ただし、N の P 進法展開を、stu・・・ とする。)
である。このことを次に考えよう。
個数を求める上記の公式は、次のように変形されて用いられる。
とおくとき、求める個数は、 |
この記法で、再度問題の答えを計算してみると、
となる。
ところで、10 → 5 → 2 という計算を見ていると、10 を 2進数に転換する計算との類
似性に気がつく。すなわち、
したがって、10!の中に、素数 2 が何個含まれているかを計算する場合、10
を 2進数
に転換する計算をして、その中の赤字の部分の和を求めてもよい。
さらに、上記の計算から、10 の 2進法展開は、1010 なので、
10=1・23+0・22+1・2+0・1
両辺を 2 で割って、その商を a とすると、 a=1・22+0・2+1
さらに、両辺を 2 で割って、その商を b とすると、 b=1・2+0
さらに、両辺を 2 で割って、その商を c とすると、 c=1
したがって、 | ||
=a+b+c=1・(22+2+1)+0・(2+1)+1・1 | ||
上記の計算と同様にして、次の公式が得られることが分かる。
自然数 N の階乗( N!)の中に、素数 P は次の個数含まれる。
(ただし、N の P 進法展開を、stu・・・ とする。)
(例) 100!は、末尾に 0 が何個続くか?
100 の2進法展開は、1100100 なので、100!の中に素数 2
は、100−3=97 個
含まれる。
100 の5進法展開は、400 なので、100!の中に素数 5 は、(100−4)/4=24
個
含まれる。
したがって、100!の中に、10 は、24 個含まれるので、100!は、末尾に
0 が24 個
続く。
実際に、表計算ソフト Excel の助けを借りて、100!を計算すれば、次のような値となる。
93326 21544 39441 52681 69923 88562 66700 49071 59682 64381 62146 85929
63895 21759 99932 29915 60894 14639 76156 51828 62536 97920 82722 37582
51185 21091 68640 00000 00000 00000 00000 000
確かに、0 が24個並んでいることが分かる。
このような大変な計算をしなくても、ガウスの記号を用いると、簡単な四則計算で同じものが
求められるということに感動を覚える。ガウスの偉大さが、ひしひしと感じられる。
(注) 各自然数Nに対して、その階乗 N!を返す関数 F および関連する関数は、VBAを
用いて次のように記述される。
Function s1(a As String, b As String, c As Single) As String
If a = "" Then
If c = 0 Then s1 = "" Else s1 = c
Else
t = Val(Right(a, 1)) + Val(Right(b, 1)) + c
s1 = s1(Left(a, Len(a) - 1), Left(b, Len(b) - 1), Int(t / 10)) &
(t Mod 10)
End If
End Function
Function s(a As String, b As String)
Dim aa As String
Dim bb As String
aa = a
bb = b
If Len(aa) > Len(bb) Then bb = String(Len(aa) - Len(bb), "0") & bb
If Len(aa) < Len(bb) Then aa = String(Len(bb) - Len(aa), "0")
& aa
s = s1(aa, bb, 0)
End Function
Function d(a As String) As String
While Left(a, 1) = "0"
a = Right(a, Len(a) - 1)
Wend
If a = "" Then d = "0" Else d = a
End Function
Function m(a As String, b As String) As String
If b = "" Then m = "": Exit Function
For i = 1 To Val(Right(b, 1))
m = s(m, a)
Next i
m = d(s(m(a, Left(b, Len(b) - 1)) & "0", m))
End Function
Function F(n)
If n = 0 Then F = 1 Else F = m(Str(n), F(n - 1))
End Function
(上記のVBAについては、吉岡章夫さんより、ご教示いただいたもので、高精度の演算結
果を知りたい場合に有効である。私の貴重な宝物である。)
Excel を起動し、[ツール]−[マクロ]−[Visual Basic Editor] とクリックして
Editor を起動し、[挿入]−[標準モジュール] を選択して、上記を記述すればよい。
後は、Excelの任意のセルに、例えば、 =F(5) と打ち込むと、瞬時に、120
と
いう値が返される。因みに、F(5)=5・4・3・2・1=120 である。
(参考文献:田島一郎 著 整数 (共立出版))
N!の中に素数 P が幾つ含まれるかは、大学入試問題でも散見される。
早稲田大学 教育学部(2008年)
n を自然数とする。219!は2nで割り切れるが、2n+1では割り切れないとすると、
n=( )である。
(解) 219÷2=109・・・1 、109÷2=54・・・1 、54÷2=27・・・0
27÷2=13・・・1 、13÷2=6・・・1 、6÷2=3・・・0 、3÷2=1・・・1
よって、 109+54+27+13+6+3+1=213 より、
219!の中に素数2は、213個含まれていることが分かる。
したがって、求める n の値は、 213 である。 (終)
(コメント) この問題は、第1問の(1)の問題であるが、上記の公式を知らないと解けないの
ではないかと思う。受験テクニックとして、必ずマスターすべき考え方なのだろう。
(追記) ガウスの記号を用いて、 の無理数性が示されることを、最近、広島工業大学
の大川研究室のホームページで学んだ。通常は、既約分数で表して、矛盾を導く方
法が一般的だが、ガウスの記号を用いたエレガントな解法に、とても美しさを感じた。
今、 が有理数であるとする。明らかに、 は整数ではない。このとき、・n が整数
となるような、最小の自然数 n が存在する。
ここで、( −[ ])・n =m とおくと、m は整数で、0< −[ ]<1 から、
0 < m < n
が成り立つ。このとき、・m=2・n−[ ]・(・n) は整数となる。
これは、n が、・n が整数となるような最小の自然数であることに矛盾する。
よって、 は、無理数である。 (詳しくは、こちらを参照)
(追記) ガウスの記号 [X] は、数学の世界では重宝する記号であるが、この呼び名は日本
固有のものらしい。
最近では、小数点以下切り捨ては、記号 で表し、「Xのfloor(床)」と呼ぶことが多い
そうだ。
ちなみに、小数点以下切り上げは、記号 で表され、「Xのceiling(天井)」と呼ぶらしい。
(参考文献:根上生也、中本敦浩 著 基礎数学力トレーニング (日本評論社))
欧米の数学教科書では、ガウスの記号は既に廃れていて、代わりに「床」関数とか「天井」
関数が使われているらしい。
例 ガウスの記号を用いて、
と表される数式は、 an+1=2an−an-floor(1/2+√(2n)) とも表される。 (→ 参考例)
ガウスの記号に関する大学入試問題も数多い。
奈良女子大学 理学部・生活環境学部(1998年)
実数 x に対して、その整数部分を [ x ] で表す。すなわち、[ x ] は不等式
[ x ] ≦ x <[ x ] +1
を満たす整数である。
(1) 実数 x に対して、等式 [ x ] +[ x+1/3 ] +[ x+2/3 ] =[ 3x ] を示せ。
(2) 正の整数 n 、実数 x に対して、
等式 [ x ] +[ x+1/n ] +[ x+2/n ] +・・・+[ x+(n−1)/n ] =[ nx ] を示せ。
(解)(1) [ 3x ]=m とおくと、 m≦3x<m+1 である。
m=3k のとき、 k≦x<k+1/3 なので、
[ x ] +[ x+1/3 ] +[ x+2/3 ] =k+k+k=3k=m=[ 3x ]
m=3k+1 のとき、 k+1/3≦x<k+2/3 なので、
[ x ] +[ x+1/3 ] +[ x+2/3 ] =k+k+k+1=3k+1=m=[ 3x ]
m=3k+2 のとき、 k+2/3≦x<k+1 なので、
[ x ] +[ x+1/3 ] +[ x+2/3 ] =k+k+1+k+1=3k+2=m=[ 3x ]
以上から、何れにしても、[ x ] +[ x+1/3 ] +[ x+2/3 ] =[ 3x ] が成り立つ。
(2) [ nx ]=m とおくと、 m≦nx<m+1 である。
m=nk+h (h=0、1、2、・・・、n−1) のとき、k+h/n≦x<k+(h+1)/n なので、
k+(h+t)/n≦x+t/n<k+(h+t+1)/n
よって、 h+t+1≦n すなわち、 0≦ t ≦n−h−1 のとき、
k≦x+t/n<k+1 なので、 [ x+t ] =k
h+t≧n すなわち、 n−h≦t≦n−1 のとき、
k+1≦x+t/n<k+2 なので、 [ x+t ] =k+1
したがって、 n−1−(n−h)+1=h なので、
[ x ] +[ x+1/n ] +[ x+2/n ] +・・・+[ x+(n−1)/n ]
=(n−h)k+h(k+1)=nk+h=m=[ nx ]
が成り立つ。 (終)
上記の問題の出典は、おそらく相当昔の名古屋市立大学の次の問題だろう。
任意の実数 x に対して、不等式 a≦x<a+1 を満たす整数 a を記号 [ x ] で表す。実
数 x および正の整数 n が与えられたとき、
(1) 不等式 [ x ] +k/n≦ x <[ x ] +(k+1)/n を満たす整数 k が存在することを示せ。
(2) 等式 [ x ] +[ x+1/n ] +[ x+2/n ] +・・・+[ x+(n−1)/n ] =[ nx ] が成立す
ることを証明せよ。
(解)(1) 区間 [ x ] ≦ x <[ x ] +1 を n 等分する。
[ x ] ≦ x <[ x ] +1/n、[ x ] +1/n≦ x <[ x ] +2/n、・・・、
[ x ] +(n−1)/n≦ x <[ x ] +1
x はこのどれかの区間に含まれるから、ある整数 k (0≦k≦n−1)が存在して、
[ x ] +k/n≦ x <[ x ] +(k+1)/n
(2) (奈良女子大学の(2)と同様) (終)
早稲田大学 理工学部(2009年)で出題されている問題も面白そうだ。
実数 x に対して、x 以下の最大の整数を [ x ] で表す。以下の問いに答えよ。
(1) 14/3<x<5 のとき、[ 3x/7 ]− [ 3[ x ]/7 ] を求めよ。
(2) すべての実数 x について、[ x/2 ]− [ [ x ]/2 ]=0 を示せ。
(3) n を正の整数とする。実数 x について、[ x/n ]− [ [ x ]/n
] を求めよ。
(解)(1) 14/3<x<5 より、 2<3x/7<15/7<3 なので、 [
3x/7 ]=2
また、 4<14/3<x<5 より、 [ x ]=4 なので、 [ 3[ x ]/7 ]=[ 12/7 ]=1
よって、 [ 3x/7 ]− [ 3[ x ]/7 ]=2− 1=1
(2) [ x ] =2m (mは整数) のとき、2m≦x<2m+1 なので、 m≦x/2<m+1/2
このとき、 [ x/2 ]− [ [ x ]/2 ]=m−[ m ]=m−m=0
[ x ] =2m+1 (mは整数) のとき、2m+1≦x<2m+2 なので、m+1/2≦x/2<m+1
このとき、 [ x/2 ]− [ [ x ]/2 ]=m−[ m+1/2 ]=m−(m+[ 1/2 ])=m−m=0
以上から、何れにしても、 [ x/2 ]− [ [ x ]/2 ]=0 が成り立つ。
(3) [ x ] =nk+r (k、r は整数で、0≦r<n) のとき、nk+r≦x<nk+r+1 なので、
k≦k+r/n≦x/n<k+(r+1)/n≦k+1
このとき、 [ x/n ]− [ [ x ]/n ]=k−[ k+r/n ]=k−k=0 (終)
上記の(解)では、[ x ] の剰余で分類して解を導いたが、次のような別解も考えられる。
(別解)(1)は上記と同じ。
(2) [ [ x ]/2 ]=[ x ]/2 または ([ x ]−1)/2 なので、
([ x ]−1)/2≦[ [ x ]/2 ]≦[ x ]/2
すなわち、 [ x ]≦x<[ x ]+1 より、 x−1<[ x ] 、 [ x ]≦x を用いて
x/2−1<([ x ]−1)/2≦[ [ x ]/2 ]≦[ x ]/2≦x/2
よって、 x/2−1<[ [ x ]/2 ]≦x/2 ・・・(*)
また、 x−1<[ x ]≦x より、 x/2−1<x/2−1/2<[ x ]/2≦x/2 なので、
−x/2≦−[ x ]/2<−x/2+1 ・・・(**)
(*)と(**)を辺々加えて、 −1<[ [ x ]/2 ]−[ x ]/2<1
[ [ x ]/2 ]−[ x ]/2 は整数であるので、 [ [ x ]/2 ]−[ x ]/2=0
(3) (2)と同様に考えて、[ [ x ]/n ]=[ x ]/n 、([ x ]−1)/n 、・・・、([ x ]−n+1)/n
なので、 ([ x ]−n+1)/n≦[ [ x ]/n ]≦[ x ]/n
すなわち、 [ x ]≦x<[ x ]+1 より、 x−1<[ x ] 、 [ x ]≦x を用いて
x/n−1<([ x ]−n+1)/n≦[ [ x ]/n ]≦[ x ]/n≦x/n
よって、 x/n−1<[ [ x ]/n ]≦x/n ・・・(*)
また、 x−1<[ x ]≦x より、 x/n−1<x/n−1/n<[ x ]/n≦x/n なので、
−x/n≦−[ x ]/n<−x/n+1 ・・・(**)
(*)と(**)を辺々加えて、 −1<[ [ x ]/n ]−[ x ]/n<1
[ [ x ]/n ]−[ x ]/n は整数であるので、 [ [ x ]/n ]−[ x ]/n=0 (終)
ガウスの記号の意味が分かってしまえば何でもないが、慣れていない人にとってはとてつ
もなく難しく感じるらしい。同じ問題でも、ガウスの記号を用いただけで難度は上がる。多分
入試問題でガウスの記号が使われるのは出題者側の論理だろう。受験生を「びびらせる」
ために...。
ただ次の問題は、そんな風情を感じさせない位に、よく考えられた良問だと思う。
東京大学前期 理系(1998年)
実数 a に対して、k≦a<k+1 を満たす整数 k を [ a ] で表す。n
を正の整数として、
とおく。36n+1個の整数
[ F(0) ] 、[ F(1) ] 、[ F(2) ] 、・・・、[ F(36n) ]
のうち相異なるものの個数を n を用いて表せ。
n=1 として、実際に 37個の値を求めてみた。
(受験場で、黙々と実行する方がもしかしたら...いるかも?幾ばくかの部分点はもらえる
かもしれない。)
F(x)=x2(54−x)/864 について、
|
以上から、n=1のとき、求める個数は、27個であることが分かる。
同様に、n=2 のときも求めてみよう。
F(x)=x2(108−x)/3456 について、
|
以上から、n=2のとき、求める個数は、53個であることが分かる。
上記の実験から、 27,53,・・・ という数列が得られ、一般の自然数
n について、求め
る個数は、
26n+1(個)
であることが推察される。
具体的な n について、電卓があれば容易に個数が求められるが、電卓なしで個数を求め
るという東京大学の問題に、平成24年度から実施の新学習指導要領で期待される「課題学
習」の片鱗を見るような思いである。
n=1のときと n=2のときのグラフを描いてみて驚いたことがある。縮尺は、n=1のときを
1とすると、n=2のときは2にしたのだが、2つのグラフを同じ縮尺にして重ねてみるとピッタリ
重なって見えるのだ!これって...偶然?
きっと関数のこの綺麗な性質が問題解法に生かされるのだろう。
空舟さんから上記問題の解答を頂きました。(平成24年1月22日付け)
東京大学前期 理系(1998年)
実数 a に対して、k≦a<k+1 を満たす整数 k を [ a ] で表す。n
を正の整数として、
とおく。36n+1個の整数
[ F(0) ] 、[ F(1) ] 、[ F(2) ] 、・・・、[ F(36n) ]
のうち相異なるものの個数を n を用いて表せ。
(解) x/36n=y とおくと、式が多少見やすくなります。
G(y)=27y2(3−2y)n
このとき、[ G(0) ] 、[ G(1/36n) ] 、[ G(2/36n) ] 、・・・、[ G(1) ] を調べることにな
ります。
微分して、 G’(y)=162y(1−y)n
区間 [0,1] で、 G’(y)≧0 より、G(y)は単調に増加し、さらに、G’(y) は、y=1/2 の
時最大である。
G’(1/2)=81n/2>36n ということは、y=1/2 付近では、y
が、1/36n 動いたとき、
G(y)は1以上動くことが分かります。
ちょうど、G’(y)=36n となる y を求めたくなりますね。求めてみると、y=1/3、2/3 と
なります。その時のG(y)の値は、7n、20n となります。また、G(0)=0、G(1)=27n
このような考察から、
(a) 0≦y≦1/3 では、y が、1/36n動いた時、G(y)の変化は1以下であるから、
[G(y)] は、0から7nまでの整数を網羅する。
(b) 1/3≦y≦2/3 では、y が、1/36n動いた時、G(y)の変化は1以上であるから、
[G(y)] は、すべて異なる整数となる。
(c) 2/3≦y≦1 では、(a)と同様に、20nから27nまでの整数を網羅する。
よって、 (a)の範囲で、7n−0+1=7n+1個の整数
(b)の範囲で、24n−12n+1=12n+1個の整数
(注意:1/3=12n/36n、2/3=24n/36n)
(c)の範囲で、27n−20n+1=7n+1個の整数
2箇所の境界で重複して数えていますので、合計は、26n+1個 となる。
(コメント) 分かりやすい計算ですね!空舟さんに感謝します。
FNさんからのコメントです。(平成24年1月23日付け)
東大の問題はごつごつした感じでいかにも難しそうに見えます。考えようと思う気力を萎え
させる効果はありそうです。こんなに複雑な式で出題しなければならないのでしょうか。2次
関数で出してもいいのではないかと思うのですが、それでは簡単すぎるということでしょうか。
それとも2次関数なら既に出題されたことがあるということなのでしょうか。
次の程度の問題でもいいのではないかと思います。
(1) 実数 a に対して、k≦a<k+1 を満たす整数 k を、[a] で表す。n
を正の整数とし、
F(x)=x(x+3n)/(9n) とおく。6n+1個の整数 [F(0)]、[F(1)]、[F(2)]、・・・、[F(6n)]
のうち
相異なるものの個数を n を用いて表せ。
問題としてはかなり単純になっていますが、問題としての構造には大きな違いはありませ
ん。見た感じがちょっと軽いので、手を付けやすいのではないでしょうか。この程度の問題
からやってみるのがいいと思います。
問題を作る方から言うと、2次関数の場合はかなりいい加減に作っても問題として成立し
ます。3次関数で作ろうとすると、かなり面倒なようです。3次関数で、この形の問題ができ
るための条件を調べてみるのも面白そうです。
(1)を一般化して次の形にしてみます。
(2) 実数 a に対して、k≦a<k+1 を満たす整数 k を、[a] で表す。n、a、b
を正の整数とし、
F(x)=x(x+a)/b とおく。n+1個の整数 [F(0)]、[F(1)]、[F(2)]、・・・、[F(n)]
のうち相異なる
ものの個数を n を用いて表せ。
理屈は同じですが、一般化した分面倒になります。n、a、b についての煩瑣な場合分けが
必要になるようです。私も解けてるわけではありません。a、b の偶奇が同じである場合はで
きそうな気がします。
空舟さんからのコメントです。(平成24年1月24日付け)
『(2) 実数 a に対して、k≦a<k+1 を満たす整数 k を、[a] で表す。n、a、bを正の整数と
し、F(x)=x(x+a)/b とおく。n+1個の整数 [F(0)]、[F(1)]、[F(2)]、・・・、[F(n)]
のうち相異
なるものの個数を n を用いて表せ。』について、
正の整数とした場合は、以下の(a)(b)(c1)(c2)の場合分けとなりました。
F’(x)=(2x+a)/b 、F’(x)=1 を下から通過する点は、 x=(b-a)/2
見やすくするため、x=A まで網羅、以降ばらばらの時の個数: [F(A)]+1+(n-A)
を G(A) と
書くことにします。
(a) b-a≦0 なら n+1個の値が全部ばらばらで、n+1個
(b) b-a≧2n なら 0 から [F(n)] を網羅するタイプで、G(0)個
(c) 0<b-a<2n の場合は、
(c1) b-a が偶数の時、x=(b-a)/2 までは網羅、以降ばらばらなので、G((b-a)/2)個
(c2) b-a が奇数の時、 F((b-a+1)/2)-F((b-a-1)/2)=(b-a+a)/b=1 なので、
x=(b-a-1)/2 までは網羅、以降ばらばらと考えて、 G((b-a-1)/2)個
となりますね。F’(x)のかわりに、より直接 F(x)-F(x-1)を調べる手もありました。
FNさんからのコメントです。(平成24年1月24日付け)
b-aが奇数のときは、計算もしないで、面倒かなと思ったのですが、実際に計算したら、そ
れほどでもないのですね。微分でなく差分(階差)でもいいのか!差分でやっていれば、
F((b-a+1)/2)-F((b-a-1)/2) = (b-a+a)/b = 1
は、あらためて計算するまでもなく、 F(x)-F(x-1)=1 を満たす値として求めていた筈だから
差分のほうが楽なのかもしれません。
3次関数の場合は差分では無理なようです。ということは、2次と3次で本質的な違いがあ
るということになります。やはり、3次関数で出題する必然性があるということかもしれません。
あとは、3次関数で出題するとき、東大の式程度の式しかないのか、また、気が向いたら調
べてみましょう。(b)のG(0)個は、G(n)=[F(n)]+1個ですね。
(追記) 平成28年8月7日付け
上記で次の問題を考えた。受験数学の有名問題でもある。
(例) 100!は、末尾に 0 が何個続くか?
そこでは、公式 :
自然数 N の階乗( N!)の中に、素数 P は次の個数含まれる。
(ただし、N の P 進法展開を、stu・・・ とする。)
を用いて、100 の5進法展開 400 より、100!の中に 5 は、(100−4)/4=24 (個)含
まれることから、100!の末尾に 0 が24 個続くことを見た。
もちろん、この計算は、ガウスの記号を用いても出来る。
[100/5]+[100/52]=20+4=24(個)
最近、飯高 茂 著 「数学の研究をはじめよう(T)」(現代数学社) を読んでいたら、
この計算を次のようにしていることが注目された。
n!に含まれる5の個数をF(n)とおく。ここで、1からnまでの数のうち、5の倍数の個数を
mとすると、次の等式が成り立つ。
F(n)=m+F(m)
したがって、 F(100)=20+F(20)=20+4+F(4)=20+4+0=24
(コメント) 再帰的な等式の利用で感動しました。意味はガウスの記号と同様なのだが、少
し目新しい感じがする。
(追記) 令和6年11月10日付け
次の東北大学 理系(1985)の問題は、ガウスの記号と絶対値が出てくる問題である。
問題3 [x]によって実数 x をこえない最大の整数を表し、F(x)=|x−2[(x+1)/2]|と
おく。
(1) y=F(x)のグラフを描け。
(2) limn→∞ ∫02n e-2xF(x)dx の値を求めよ。
(解)(1) [(x+1)/2]=k とおくと、 k≦(x+1)/2<k+1 すなわち、
2k−1≦x<2k+1 のとき、 [(x+1)/2]=k で、 F(x)=|x−2k| となる。
2k−1≦x<2k のとき、 F(x)=−x+2k
2k≦x<2k+1 のとき、 F(x)=x−2k
よって、y=F(x)のグラフは、下図のようになる。
(2) k=1、2、・・・、n について、
∫2k-22k-1 e-2x(x−2k+2)dx+∫2k-12k e-2x(−x+2k)dx
=[(−1/2)e-2x(x−2k+2)]2k-22k-1+(1/2)∫2k-22k-1 e-2xdx
+[(−1/2)e-2x(−x+2k)]2k-12k−(1/2)∫2k-12k e-2xdx
=(−1/2)e-4k+2+(1/2)[(−1/2)e-2x]2k-22k-1+(1/2)e-4k+2−(1/2)[(−1/2)e-2x]2k-12k
=−(1/4)(e-4k+2−e-4k+4)+(1/4)(e-4k−e-4k+2)
=(1/4)e-4k−(1/2)e-4k+2+(1/4)e-4k+4
=(1/4)e-4k(1−2e2+e4)
=(1−e2)2/4・e-4k
よって、
∫02n e-2xF(x)dx=Σk=1n (1−e2)2/4・e-4k
=(1−e2)2/4・(1−e-4n)/(e4−1) から、
limn→∞ ∫02n e-2xF(x)dx=(e2−1)/4(e2+1) (終)
(コメント) なかなか計算がハードでしたね!
以下工事中