角の3等分方程式
作図問題において許される作業は、次の2つである。
(1) 定木を用いて、任意に与えられた2点を結ぶ直線を引くこと
(2) コンパスを用いて、任意に与えられた中心と半径を持つ円を描くこと
所要の線分が、定木とコンパスを用いて作図できるということは、代数的には、その線分
の長さが、有限回の、+−×÷といった四則演算と平方根の計算により、求められること
を意味する。
このページでは、角の3等分を可能にする線分の長さが満たす、角の3等分方程式を求
め、その解析を行うつもりである。
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アルキメデスによれば、∠AOB の3 等分を求めるには、 OB=OC=CD となる直線BDが作図できればよい。 (参考:作図問題における円の役割) 即ち、OD=X となる点D が直線AL上 に作図できればよい。 |
この X の満たす方程式が、角の3等分方程式といわれるものである。
それでは、実際にその角の3等分方程式を求めてみよう。ただし、OA=1 として考える。
OH=a、CK=BK=Y とおくと、
△DCL∽△DOK∽△DBH なので、 DL : DC = DK : DO = DH : DB
よって、X/2 : 1 = 1+Y : X = X+a : 1+2Y が成り立つ。
即ち、 1+Y=(1/2)X2 、 X+a =(1/2)X+XY
この2式より、Y を消去して、次の角の3等分方程式を得る。
X3−3X−2a=0
∠AOB=3θ を与えるということは、a を与えることに等しいので、上式を満たす解 X が代
数的に求まれば、角の3等分は可能となる。
(参考) 任意の角を3等分することが不可能であることは、1837年に Wantzel により証明されている。
ところで、a=cos3θ=4cos3θ−3cosθなので、方程式は、
X3−3X−8cos3θ+6cosθ=0
と書ける。
上図より、(1/2)X=cosθ 即ち、X=2cosθ なので、上式の左辺は、X−2cosθ で割り
切れる。
従って、左辺は因数分解されて、
(X−2cosθ)(X2+2cosθ・X+4cos2θ−3)=0
となる。
解の公式により、 X2+2cosθ・X+4cos2θ−3=0 の解は、
X=
となる。ここで、三角関数における単振動の合成の公式を用いると、
X=2cos(120°±θ)
と表されるので、角の3等分方程式の解は、
2cosθ 、2cos(120°±θ)
で与えられる。
例えば、∠AOB=60°のとき、a=1/2 で、角の3等分方程式は、X3−3X−1=0 とな
る。この方程式の3つの解は、2cos20°、−2cos40°−2cos80°であるが、X>0
より、求める X は、2cos20°となる。
この値は近似値しか求めることができないので、角の3等分は不可能となる。
(参考) X=cos20°とおくと、X は、3次方程式 8X3−6X−1=0 の解である。ところが、この方程式は、
整数係数の範囲では因数分解できない。このとき、代数学の体の拡大理論により、このような方程
式の実数解は、自然数に対して四則演算(+−×÷)と開平(√)の操作を有限回行って得ることは
できないことが示される。したがって、X=cos20°の値を作図することは不可能である。
※ 角の3等分が不可能であることの詳細は、こちらを参照。
角の n 等分方程式については、数研出版のホームページの中の数研通信のコーナーに
ある
龍山一郎 著 「正17角形の代数的解法および幾何的解法」
が詳しい(一部ミスプリ有り)。是非参考にしてみて下さい。
(参考文献:鈴木晋一 山下正勝 著 作図問題の代数化(啓林館))
龍山一郎 著 正17角形の代数的解法および幾何的解法(数研出版))
(追記) 平成16年10月20日 Margulis 様の掲示板への書き込みで、放物線を用いた任
意角の3等分の作図方法があるということを知った。楕円や双曲線でもいいらしい。
このことについて、次のホームページ : Zeitraubershaus〜時間泥棒の館
の中で詳しく述べられている。(このページ作成中何故かHPにアクセス出来なかった?)
ここでは、上記のホームページを参考にして、作図方法を確認したい。
角 3θ が与えられているものとして、角 θ を作図するには、上記で述べた角の3等分方
程式
X3−3X−2a=0 (ただし、a=cos3θ)
を解かなければならない。この解法に、放物線が巧妙に利用される。
いま、放物線 Y=X2 が与えられているものとし、この放物線と円:
(X−p)2+(Y−q)2=r2
が交わる場合を考える。放物線の式を円の式に代入して整理すると、
X4+(1−2q)X2−2pX+p2+q2−r2=0
となる。
このとき、 X3−3X−2a=0 の3つの解 α 、 β 、 γ が上記の4次方程式の解となるよう
に円の中心( p , q )と半径 r が求まればよい。
第4の解を δ とすると、解と係数の関係から、
α + β + γ = 0 、 α + β + γ + δ = 0
よって、そのような条件を満たすとき、 δ = 0 であることが分かる。
したがって、4次式は次のように因数分解される。
X4+(1−2q)X2−2pX+p2+q2−r2 = X(X3−3X−2a)
両辺の係数を比較して、 1−2q=−3 、 −2p=−2a 、 p2+q2−r2=0
これより、 p=a 、 q=2 、 r2=a2+4 となる。
以上から、放物線 Y=X2 に対して、円 (X−a)2+(Y−2)2=a2+4 を描けば、その交
点のX座標が角の3等分を求めるための候補となる。
ところで、角の3等分の方程式は、簡単なグラフの解析から分かるように、正の解を1個と
負の解を2個持つ。
したがって、上記の放物線と円との交点で、X座標が正のものはただ一つ存在する。
この値が求めるものとなる。
以上を踏まえて、実際に作図してみよう。
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(1) ∠ABC=3θ は与えられた角度である。ただし、AB=1 とする。
(2) このとき、BC=cos3θ=a となる。これにより、円の中心 T
が定まる。この点を中心
として原点を通る円を描き、所要の放物線との交点を K とおく。
(3) K より、x 軸に垂線を下ろし、X の位置が求められる。
(4) OX の長さと等しい長さを持つ線分BDを、CBの延長線上に定める。
(5) A と D を結ぶと、∠ADC= θ となる。
(注意) 上記では、放物線 Y=X2 が用いられたが、実は任意の放物線で構わないことが、
上述のHPで述べられている。(この事実には、とても感動しました!)
原点を頂点とする任意の放物線は、Y=aX2 と書ける。そこで、長さ 1/a を単位の長さ(1)
と考えることにより、上記の作図方法がそのまま適用される。
(このことは、放物線の相似性と関連がある。)