作図問題における円の役割              戻る

 いろいろな図形の問題を考えていると、円という制約が、いかに大きなものであるかに気が
つく。一方で、円なくして語れない問題も数多い。新学習指導要領で、今まで中学で学習して
いた円の性質が高校に移行し、しかも、数学Aという科目の性質から、日本の高校生の全員
が必ず学ぶということもなくなる。中学生段階で、円のおもしろい性質に気がつき、幾何にお
ける深遠なる謀略を楽しむことが、その後の数学の学習に多大な影響を与えると思うのだが、
それもまた難しい時代になってしまった。

 このページでは、巧妙に、円の性質が使われている例をいくつか紹介したいと思う。

例1(相加平均と相乗平均の関係)

  相加平均は、相乗平均以上、即ち、 
 このことは、次の図から明らかである。

        

(追記) 平成22年2月18日付け

 HN「H.I.」さんより、相加平均・相乗平均・調和平均等の大小関係を一目で把握できる
図をご紹介いただいた。

  OTは相加平均 (a+b)/2

  PHは相乗平均 √(ab)

  PKは調和平均 2ab/(a+b)

  THは二乗平均 √{(a2+b2)/2}

  になるとのことである。




 高校の問題としてよく出てくる相加相乗平均について、2数 a、b の和を直径とする円で、
その関係を表す有名な図があるが、二乗平均や調和平均についても同様に表現できない
ものかと考えられたとのこと.。調和平均や二乗平均の図示はさほど有名ではないとのこと
で、特に興味を引きました!

 たとえば、PKが調和平均になることは、 PK=PH・PH/OP から分かるのかな...。

 上図を見ると、

        二乗平均≧相加平均≧相乗平均≧調和平均

であることが本当に明白ですね!

 また、a+b が定数、つまり直径が一定で円の形が変わらないとして、a が b の値に限り
なく近づくとき、二乗平均、相乗平均、調和平均が相加平均に近づく様子も確かに実感でき
ますね。

(コメント) とても印象的な図ですね。H.I.さんに感謝します。


(追記) 平成23年9月23日付け

 当HPの読者のSさんより、「相加平均と相乗平均の関係」について、平成23年9月22日
付けでメールを頂いた。

 相加相乗の図形的証明の中で、台形による方法で相乗平均の部分がなかったので考え
てみました。また、円の場合も添付しました。

 相加相乗平均の図形的証明

   ⇔ a2+b2≧2ab なので、a2、b2 (a≧b) を正方形の面積とする。

        

 上図より、2つの正方形の和の方が、長方形2つ分(緑と水色部分)よりも小正方形(黄色

部分)の分大きい。すなわち、 a2+b2≧2ab が成り立つ。また、等号成立は、小正方形

の面積が 0 のときで、つまり、a−b=0 より、a=b のとき。

 次に、円利用の場合について考える。

   左図において、円Oの外部の点Pからの

  長さを考える。

    PO=(PA+PB)/2 である。

  また、接線PTについて、方べきの定理より、

    PT2=PA・PB


 したがって、相加平均と相乗平均の関係が成り立つ。OとTが近づいて円が限りなく小さく

なるとき、等号が成立し、PA=PBのときである。

(コメント) 美しく簡明な証明ですね!Sさんに感謝します。


例2(2次方程式の解の作図)

  2次方程式  の解α、βは次のような長さで
 与えられる。
        
   このとき、図から
               α+β=a、αβ=bの2乗 (解と係数の関係)
  が成り立つことも分かる

例3(角の3等分の作図)

  直線ACを、OA=OB=BC となるように引く。(実は、これを引くのが一番難しい!)
 このとき、∠BOCは、∠AODの3等分を与える。
 この作図は、ギリシヤ数学の黄金時代であったB.C.3世紀頃、アルキメデスにより発見
されたものである。さらに、この方法は、16世紀後半ヴィエタにより、再発見された。
  

    (追記) 角の3等分の実用的な方法

      目盛りのない定規とコンパスを用いて、角の3等分が出来ないことは既に証明さ
     れている(ワンツェル 1837年)ことであるが、目盛りのある定規とコンパスを用い
     ると、角の3等分が可能であることを最近知る機会があった。

      2箇所に目盛りのついた定規を、アルキメデスの定規というそうだ。

      アルキメデスの定規の使い方と角の3等分の方法については、下図と、じっと睨
     めっこして、悟ってください。
      (ちょっと、定規の当て方に微妙に神経を使いますが...。)

             

     (参考文献:星野敏司さんのホームページ:Meta2mathematician’s HP

例4(正三角形と円の割線)

  正三角形と円が与えられた場合、次の事実は、とても興味深い。


  正三角形ABCが円に内接しているとき、
 弧BC上の点Pに対して、
       AP=BP+PC
 
が成り立つ。
 
 (証明) PCの延長線上に、BP=CP’となる点P’をとる。
     このとき、△ABP≡△ACP’である。
     従って、△APP’は正三角形となり、
     AP=BP+PC が成り立つ。






(参考文献:鈴木晋一、山下正勝 著 代数演算と作図(啓林館))