ある2項係数の関係                     戻る

 2項係数 を計算していると、n と r が異なるのに、 の値が同じになる場合がある。

例  3132 ・・・・・ これは、2項係数の対称性から自明かな?

    4261 ・・・・・ このような式はいくらでも作れるかな?

 今まで、上記のような自明な場合だけかと思ったら、意外にも、実は、そのような例で自明
でない場合も結構な数あるらしい。

例  104212 =210

  1043910340 ≒6.12182×1028

 第一式は、手計算により発見できるが、理論的背景なしに、第二式を見出すことはほとん
ど困難であろう。

 第二式、即ち、n+1r+1 が成り立つような n と r を求める問題は、実は、ペル方
程式
を解く問題に還元される。

 条件式を整理して、 (n−r+1)(n−r)=(r+1)(n+1)
すなわち、
 n 、r の2元2次方程式  2−3rn+r2−2r−1=0  を得る。

この方程式は、図形的には双曲線となる。

n の2次方程式とみて、解の公式を用いると、

             

 n が自然数なので、 5r2+8r+4=A2 とおける。

よって、r の2次方程式  5r2+8r+4−A2=0  において、判別式を D とすると、

             D/4=16−5(4−A2)=52−4

 r が自然数なので、 2−4=B2 とおける。

したがって、 25A2=−4 というペル方程式に問題は帰着される。

この方程式を満たす最小の自然数は、(A,B)=(1,1) なので、ペル方程式の全ての解
は、
         

により与えられる。ただし、n は奇数。

したがって、n=1 のとき、A1=1、B1=1 なので、5r2+8r+3=0

この式を満たす自然数 r は存在しない。

n=3 のとき、A3=2、B3=4 なので、5r2+8r=0

この式を満たす自然数 r は存在しない。

n=5 のとき、A5=5、B5=11 なので、5r2+8r−21=0

この式を満たす自然数 r は存在しない。

n=7 のとき、A7=13、B7=29 なので、5r2+8r−165=0

この式を満たす自然数 r は、r=5 で、このとき、n = 14 (n=1は不適)

   よって、 155146 が成り立つ。

n=9 のとき、A9=34、B9=76 なので、5r2+8r−1152=0

この式を満たす自然数 r は存在しない。

n=11 のとき、A11=89、B11=199 なので、5r2+8r−7917=0

この式を満たす自然数 r は、r=39 で、このとき、n = 103 (n=14は不適)

   よって、 1043910340 が成り立つ。

n=13 のとき、A13=233、B13=521 なので、5r2+8r−54285=0

この式を満たす自然数 r は存在しない。

n=15 のとき、A15=610、B15=1364 なので、5r2+8r−372096=0

この式を満たす自然数 r は、r=272 で、このとき、n = 713 (n=103は不適)

   よって、 714272713273 が成り立つ。

以下同様にして、n+1r+1 を満たす n と r を求めることができる。

(参考文献:北村泰一 著  数論入門 (槙書店))


(追記) 上記の計算において、n+1r+1 が成り立つような n と r は確かに存在し、

    しかも 3 個以上はあることが示された。しかしながら、解法の仕方から、不定方程式

            2−3rn+r2−2r−1=0

    の解が無限に存在することが自明でないような印象を受けるというご指摘を、広島工

    業大学の大川研究室よりいただいた。以下では、大川研究室からいただいた証明の

    指針をもとに、これらの不備を修正することができた。大川研究室に感謝したい。

 n 、r の2元2次方程式  2−3rn+r2−2r−1=0  において、

n の2次方程式とみて、解の公式を用いると、

             

である。よって、  (2n−3r)2=5r2+8r+4  と書き直すことができる。

ところで、平方完成の公式より、 5r2+8r+4=5(r+4/5)2+4/5 なので、

        5(2n−3r)2=5{5(r+4/5)2+4/5}=(5r+4)2+4

即ち、 (5r+4)2−5(2n−3r)2=−4 となる。ここで、 X=5r+4 、Y=2n−3r と

おけば、上記の方程式は、X2−5Y2=−4 というタイプのペル方程式である。

この方程式を満たす最小の自然数は、(X,Y)=(1,1) なので、ペル方程式の全ての解は、

α=(1+)/2 に対して、α (ただし、n は奇数)により与えられる。

即ち、α=(x+y)/2 とおくと、(X,Y)=(x,y) (ただし、n は奇数)が解となる。

ところで、 α=(1+)/2 は、2次方程式 α2−α−1=0 の解であるので、

    α2=1+α

が成り立つ。

いま、フィボナッチ数列 {an} を考える。: 1、1、2、3、5、8、13、21、34、55、・・・

1=1、a2=1、an+2=a+an+1 (n≧1)なので、

上記の等式は、 α2=1+α=a1+a2α とみることができる。実は、一般に、

   2以上の自然数 n に対して、等式 α=an-1+aα が成り立つ。

             ( a0=0 とすれば、全ての自然数 n に対して成り立つとしてよい。)

このことは、数学的帰納法により、簡単に示すことができる。

n=2 のとき、左辺=α2=1+α 、右辺=a1+a2α=1+α より、左辺=右辺 となり、

n=2 のとき成り立つ。次に、n=k (k≧2)のとき、成り立つと仮定する。即ち、

        α=ak-1+aα

よって、αk+1=α・α=ak-1α+aα2=ak-1α+a(1+α)=a+(ak-1+a)α=a+ak+1α

から、n=k+1 のときも成り立つことが分かる。

したがって、 2以上の自然数 n に対して、等式 α=an-1+aα が成り立つ。

 このことから、α=an-1+aα={(2an-1+a)+a}/2 と書けるので、

α=(x+y)/2 と係数比較して、

     x =2an-1+a=an-1+an-1+a=an-1+an+1 、 y =a

となる。(このように、ペル方程式の解が、フィボナッチ数を用いて書けるとは新鮮な驚きである!)

 いま、n=7 のときを考えると、 x7 =a6+a8=8+21=29 、 y7 =a7=13 なので、

     5r+4=29 、 2n−3r=13

このとき、r=5 で、n=14 となり、方程式  n2−3rn+r2−2r−1=0 は解を持つ。

 ところで、フィボナッチ数列の周期性により、mod 3 周期 8 を持つ。実際に、

1、1、2、3、5、8、13、21、34、55、89、144、233、377、610、987、1597、・・・
、 1、 1、 2、  0、  2、  2、  1、  0、   1、・・・

したがって、x7+8m =a(7+8m)-1+a(7+8m)+1≡a6+a8≡2 (mod 3)

        y7+8m =a7+8m≡a7≡1 (mod 3)

となる。(ただし、mは自然数)

このとき、連立方程式 5r+4=3g+2 、 2n−3r=3h+1 が自然数の解

n 、r を持つように、自然数 g、h は必ず定まるであろうか?

実際に、5r+4=3g+2 から、5r−3g=−2 で、5・2−3・4=−2 から、

     5(r−2)−3(g−4)=0 すなわち、5(r−2)=3(g−4)

3 と 5 は互いに素なので、 r−2=3p 、g−4=5p すなわち、

        r=3p+2 、 g=5p+4  (p は自然数)

同様にして、2n−3r=3h+1 から、2n−3(r+h)=1 で、2・2−3・1=1 から、

     2(n−2)−3(r+h−1)=0 すなわち、2(n−2)=3(r+h−1)

2 と 3 は互いに素なので、 n−2=3q 、r+h−1=2q すなわち、

        n=3q+2 、 h=2q+1−r  (q は自然数)

したがって、ペル方程式 X2−5Y2=−4 の解 (x7+8m,y7+8m)は無限個あり、

       連立方程式 5r+4=x7+8m 、 2n−3r=y7+8m は自然数解を持つので、

方程式  n2−3rn+r2−2r−1=0 は無限個の自然数解を持つ。

(コメント) 最後の部分で、しっくりいかない点が若干ありますが、読者の方のご批判を
      いただきたいと思います...。

(追々記) 2つの2項係数が等しい場合について調べているホームページとして、

          Pigeonhole 短信  007:二項係数の重複値

    があることを、広島工業大学の大川研究室よりご教示いただいた。

    ペル方程式の解がフィボナッチ数を用いて書けるということを上記で確認したが、
   さらに、詳しく、 n 、 r が、フィボナッチ数 a を用いて、

         n = a2m+22m+3−1 、 r = a2m2m+3

   と書けるとき、
                   
n+1r+1 

   を満たすということを証明した方(Singmaster (Fibonacci Quarterly,1975))がいら
   れるとのことである。

    上記で計算した

           155146 は、m=1 の場合(a2=1、a4=3、a5=5)

            1043910340 は、m=2 の場合(a4=3、a6=8、a7=13)

           714272713273 は、m=3 の場合(a6=8、a8=21、a9=34)

   と、順次簡単に求められることに感動を覚える。

   フィボナッチ数の性質を用いれば、もしかしたら、上記の証明でわずかに残っている
   「しっくりいかない」感が払拭できるかもしれないという希望が湧いてきた。


(追記) 当HP読者のK.K.さんより、

  n+1r+1 が成り立つような n と r を求める問題

に関連する話題をメールで頂いた。

 n+1r+1 を満たす n 、 r を項とする数列 {n}、{r} を考える。

 上記の計算をまとめると、

14 103 713 4894 33551
39 272 1869 02815

 この n 、r について、次の漸化式が成り立つ。

 (イ) n=8nk-1−3rk-1+6

 (ロ) r=3nk-1−rk-1+2

 または、

 (イ)’ n=7nk-1−nk-2+6

 (ロ)’ r=7rk-1−rk-2+4

(コメント) 2項係数の新たな関係を提供していただいたK.K.さんに感謝します。
      この話題については、オンライン整数列大辞典A003482」が詳しいようです。