垂直に関する定理                     戻る

 大学入試センター試験で、よく次のような場面設定を見かける。

    △ABCの外接円と∠Aの2等分線の交点をMとし、

   AMと辺BCの交点をDとする。


  この場面設定だと、角の2等分の性質を利用させる問題や
 円周角の性質を用いて正弦や余弦、はたまた面積などを求
 めさせたり、いろいろな問題が湧出してくる。

  多分、センター試験出題者にとってはまさにドル箱の図形と
 言っても言い過ぎではないだろう。

 この有名すぎる場面設定で、次のような公式が成り立つことを最近知ることが出来た。

 AM2=AB・AC+BM2

 この公式は、さらに豊かな応用を秘めており、私の備忘録に記録することにした。

 こういう性質は受験場ではなかなか思いつかないもの。知っていれば、大学入試センター
試験で有利になる可能性は十分あるだろうし、また、美しい性質ゆえ図形に対する愛着も
湧いてくることだろう。

(証明) △ABM∽△BDM より、AM : BM = BM : DM なので、BM2 = AM・DM

また、△ABD∽△AMC より、 AB : AD = AM : AC なので、AB・AC = AD・AM

よって、 AB・AC+BM2 = AD・AM+AM・DM = AM・(AD+DM) = AM2  (証終)


 さらに、次の性質も面白い。

 AD2=AB・AC−BD・DC

(証明) △ABD∽△AMC より、 AB : AM = AD : AC なので、

 AB・AC = AD・AM = AD・(AD+DM) = AD2+AD・DM

方べきの定理より、 AD・DM = BD・DC なので、AB・AC = AD2+BD・DC

すなわち、 AD2 = AB・AC−BD・DC が成り立つ。  (証終)


 特に、△ABC が、 AB=AC の2等辺三角形のとき、

 AB2=AD・AM

 なお、この性質は、AM が∠Aの2等分線でない場合も成立する。

(証明)
   左図において、 ∠ABD=∠ACD=∠BMD なので、

  接弦定理より、ABは、3点 B、M、D を通る円の接線である。

   よって、方べきの定理より、

      AB2=AD・AM

  が成り立つ。 (証終)

 今、平面上に相異なる4点 A 、B 、C 、D があり、 AB⊥CD とする。

 

 このとき、 AC2+BD2=AD2+BC2 が成り立つ。

(証明) 三平方の定理より、

 AC2+BD2=AH2+HC2+BH2+HD2

 AD2+BC2=AH2+HD2+BH2+HC2

なので、 AC2+BD2=AD2+BC2 が成り立つ。 (証終)


 ここで興味深いことは、この逆が成り立つことである。

 すなわち、

 平面上の相異なる4点 A 、B 、C 、D に対して、 AC2+BD2=AD2+BC2 が

成り立つとき、 AB⊥CD が成り立つ。


 

(証明) 上図のように、平行四辺形 AEBC を作り、対角線の交点を F とする。

また、線分 DE の中点を M とおく。このとき、中線定理と、AC2+BD2=AD2+BC2 より、

2(AM2+MD2)=AD2+AE2=AD2+BC2=AC2+BD2=BE2+BD2

=2(BM2+MD2

よって、 AM=BM が成り立ち、 △AMF≡△BMF となる。

このとき、 AB⊥FM である。

 ところで、 中点連結の定理より、 FM‖CD なので、 AB⊥CD となる。  (証終)


 以上の準備の下に、いくつかの問題を考える。

 △ABC の辺 AB の中点を D とし、3点 A、B、D および A、C、D を通る円を描く。

下図のように、弧AB、弧AC の中点をそれぞれ M、N とおく。

 このとき、 MN⊥AD となることを証明せよ。


 

 意外なところに「垂直」が現れて、その美しさに感動を覚える!

(証明) 題意より、 DM2=DA・DB+AM2 、DN2=DA・DC+AN2

 DB=DC なので、 DM2−AM2=DN2−AN2

すなわち、 DM2+AN2=DN2+AM2 が成り立つ。

 よって、 MN⊥AD である。 (証終)


 ABを直径とする円周上に、AP=AQ となるように2点 P、Q をとり、線分 PQ 上

の任意の点を C とする。点 C より、 AQ 、AP に平行に直線を引き、AP 、AQ と

の交点をそれぞれ M 、N とおく。このとき、 MN⊥BC となることを証明せよ。


 

 この「垂直」にも意外性が感じられますね!

(証明) 題意より、 BP=BQ 、MP=MC 、NC=NQ が成り立つ。

また、 BM2=BP2+MP2=BQ2+MC2

 BN2=BQ2+NQ2=BQ2+NC2

よって、 BM2−BN2=MC2−NC2 より、 BM2+NC2=BN2+MC2 なので、

 MN⊥BC である。 (証終)


(コメント) 4点 B、C、M、N がどんな位置にあっても、BM2+NC2=BN2+MC2 が
      成り立っていれば、純粋に、MN⊥BC なんですね!


 円に内接する四角形 ABCD において、対角線 AC と BD の交点を M とする。

また、△ABM の外接円の中心を N とおく。このとき、 MN⊥CD となることを証

明せよ。

 

 これは、ちょっと気がつきにくい「垂直」ですね!

(証明) 点 C より、円 N に引いた接線の接点を T とすると、方べきの定理より、

 CT2=CM・CA  なので、 CN2−NT2=CM・CA

すなわち、 CN2−NM2=CM・CA=CM・(CM+MA)=CM2+CM・MA

同様にして、 DN2−NM2=DM・DB=DM・(DM+MB)=DM2+DM・MB

また、方べきの定理より、 CM・MA=DM・MB なので、

 CN2−DN2=CM2−DM2 すなわち、 CM2+DN2=CN2+DM2

となり、よって、MN⊥CD である。 (証終)


 △ABC の各辺を斜辺とする直角2等辺三角形を △ABC の外部に作る。

 

 このとき、 AP⊥QR となることを証明せよ。

 この場合も、「垂直っぽいけど、ホントに垂直...?」という感じである。

(証明) 余弦定理より、

PQ2=PC2+CQ2−2PC・CQ・cos∠PCQ

 =PC2+CQ2−2PC・CQ・cos(90°+∠ACB)

 =PC2+CQ2+2PC・CQ・sin∠ACB

 =PC2+CQ2+(PC)・(CQ)・sin∠ACB

 =PC2+CQ2+CB・CA・sin∠ACB

 =PC2+CQ2+2△ABC

同様にして、 PR2=PB2+BR2+2△ABC

 よって、 PQ2−PR2=PC2+CQ2−PB2−BR2=CQ2−BR2=AQ2−AR2

このとき、 AR2+PQ2=AQ2+PR2 となり、 AP⊥QR である。 (証終)

ブラマグプタの定理


  円に内接する四角形 ABCD の対角線

AC、BD が直交している。

 このとき、

その交点 P を通って辺 CD に垂直な直線

は辺 AB の中点を通る。

   

(証明) ∠NAP=∠PDM=∠CPM=∠NPA より、

 △NPAは2等辺三角形で、 NA=NP

 同様にして、 ∠NBP=∠PCM=∠DPM=∠NPB より、

 △NBPは2等辺三角形で、 NB=NP

よって、 NA=NB となり、 N は辺 AB の中点となる。 (証終)


(コメント) ブラマグプタというと、面積の公式が有名(→参考:「ブラマグプタの公式」)です
      が、こういう定理もあったんですね!


 このブラマグプタの定理は次のような形に
一般化される。


  円に内接する四角形 ABCD の対角

線の交点 P を通り、辺 CD に垂直な直

線は △PAB の外心を通る。

 
(証明)
   左図において、PTを接線とすると、

  接弦定理より、 ∠BPT=∠BAP

  また、円周角の定理より、

  ∠BAP=∠BDC

  よって、 ∠BPT=∠BDC となり、

  PT‖DC である。 PM⊥PT なので、

  直線PMは△PABの外心を通る。 (証終)

 次の「垂直」も面白い。

 △ABC の頂点 A を通る任意の直線に、頂点 B、C から垂線を下ろし、その足を

それぞれ D、E とする。点 D、E からそれぞれ辺 AC、AB に垂線を下ろし、その交

点を F とする。このとき、 AF⊥BC となることを証明せよ。

 

(証明) 4点 B、E、Q、D は同一円周上にある。同様に、4点 C、E、P、D も同一円周上

にある。 よって、方べきの定理より、BA・AQ=EA・AD かつ CA・AP=EA・AD

よって、 BA・AQ=CA・AP が成り立つ。

すなわち、方べきの定理より、4点 B、C、Q、P は同一円周上にある。

よって、 ∠ABC=∠APQ が成り立つ。

ここで、4点 A、Q、F、P は同一円周上にあるので、 ∠APQ=∠AFQ

よって、 ∠ABC=∠AFQ が成り立つ。

△ABR と △AFQ において、 ∠ABR=∠AFQ かつ ∠BAR=∠FAQ なので、

△ABR ∽ △AFQ  となり、よって、 ∠ARB=∠AQF=90°である。

したがって、 AF⊥BC が成り立つ。 (証終)


 下図のような、AB=ACの二等辺三角形ABCにおいて、頂点Aより辺BCに垂線

ADを下ろし、さらに、点Dより辺ACに垂線DEを下ろ

す。線分DEの中点を F とする。このとき、

  AF⊥BE となることを証明せよ。



   (証明は、「適切な座標系」を参照)

 「適切な座標系」では座標系を上手く設定して解析幾何的に解いたり、あるいはベクトル
を用いて軽妙に解いた。

 あまりお勧め出来ない方法であるが、

 平面上の相異なる4点 A 、B 、C 、D に対して、 AC2+BD2=AD2+BC2 が

成り立つとき、 AB⊥CD が成り立つ。


という事実を用いても当然証明されうる。

(証明) BD=DC=a 、AD=b 、∠DCE=θ とおくと、  なので、

       

このとき、

      

また、∠BDF=180°−(90°−θ)=90°+θ なので、△BDFに余弦定理を適用して、

 BF2=BD2+DF2−2・BD・DF・cos(90°+θ)

より、



よって、
 

 

より、  AB2+EF2=AE2+BF2 が成り立つ。

 したがって、 AF⊥BE が成り立つ。 (証終)

 また、次の「垂直」も面白い。

 △ABC において、辺AB、辺ACを1辺とする正方形ABSR、ACRQ を三角形の

外部に作る。辺BCおよび線分PQの中点をそれぞれM、Nとおくとき、

    AM⊥PQ 、 PQ=2AM 、 AN⊥BC 、 BC=2AN

となることを証明せよ。


 

 この証明を考えるとき、複素数平面を知っていると非常に楽であることに気づく。複素数
平面が新学習指導要領から消えてしまったことが残念でならない。

(証明) 複素数平面において、Aを原点とし、B( 2β )、C( 2γ )とする。

このとき、 P( −2iβ ) 、 Q( 2iγ )  (ただし、 i は虚数単位) が成り立つ。

よって、 M( β+γ ) 、 N( i(γ−β) ) である。

このとき、PQ/AM=2i(γ+β)/(β+γ)=2i より、 AM⊥PQ 、 PQ=2AM が

成り立つ。同様にして、BC/AN=2(γ−β)/{i(γ−β)}=−2i より、

 AN⊥BC 、 BC=2AN が成り立つ。 (証終)


 この手法を用いると、いろいろな「垂直」が楽しめそうな...予感。

 △ABC において、辺AB、辺ACを1辺とする正方形ABSR、ACRQ を三角形の

外部に作る。このとき、 BQ⊥CP 、 BQ=CP となることを証明せよ。


  

(証明) 複素数平面において、Aを原点とし、B( β )、C( γ )とする。

 このとき、 P( −iβ ) 、 Q( iγ )  (ただし、 i は虚数単位) が成り立つ。

このとき、BQ/PC=(iγ−β)/(γ+iβ)= i より、

 BQ⊥PC 、 BQ=PC が成り立つ。  (証終)


(コメント) 複素数を使わないとすると、 BQ=PC は、△ABQ≡△APC から明らかだ
      が、BQ⊥PC を示すためには別な三角形を用いないといけない!

 

 △APM ∽ △NBM なので、 ∠MNB=∠MAP=90° から、 BQ⊥PC

このように考えると、複素数を使う場合が、いかにエレガントかが思い知らされる。


(追記) 令和3年4月16日付け

 上記の複素数平面を利用した解法の類題を考えよう。

 正三角形ABCの各辺の外側に正方形BCPQ、CARS、ABUVを描き、各正方形の中心を
それぞれD、E、Fとおく。このとき、

  AD⊥EF 、BE⊥FD 、CF⊥DE

が成り立つことは自明だろう。3直線AD、BE、CFは1点Hで交わり、点Hは△DEFの垂心
となる。

 実は、この事実は、正三角形のみならず、一般の三角形においても成り立つ。

定理  △ABCの各辺の外側に正方形BCPQ、CARS、ABTUを描き、各正方形の
    中心をそれぞれD、E、Fとおく。このとき、

       AD⊥EF 、BE⊥FD 、CF⊥DE

    が成り立つ。

 

(証明) 複素数平面において、A( 2α )、B( 2β )、C( 2γ )とする。

 このとき、 P( 2γ+2i(β−γ) ) 、Q( 2β−2i(γ−β) )  (ただし、 i は虚数単位)

なので、 D(β+γ+i(β−γ)) が成り立つ。

 同様にして、 E(γ+α+i(γ−α)) 、F(α+β+i(α−β)) が成り立つ。

 よって、 EF=β−γ+i(2α−β−γ) 、AD=−2α+β+γ+i(β−γ) より、

 i・EFAD なので、 AD⊥EF が成り立つ。

 同様にして、

 i・FDBE i・DECF なので、BE⊥FD 、CF⊥DE が成り立つ。  (証終)


 証明の中で示されたことから、 AD=EF、BE=FD、CF=DE であることも分かる。


 上記では、一般の三角形であったが、一般の四角形においても次のような性質が言える。

 四角形ABCDの各辺の外側に正方形を描く。このとき、相対する正方形の中心を
結ぶ線分は、長さが等しく、かつ、垂直である。


  

(証明) 複素数平面において、A( 2α )、B( 2β )、C( 2γ )、D(2δ)とする。

 このとき、 i を虚数単位として、

 P( β+γ+i(β−γ) ) 、Q(δ+α+i(δ−α) ) 、R(α+β+i(α−β))

 S(γ+δ+i(γ−δ))

なので、 PQ=α−β−γ+δ+i(−α−β+γ+δ)

 SR=α+β−γ−δ+i(α−β−γ+δ)

が成り立つ。よって、 i・PQSR なので、 PQ=SR かつ PQ⊥SR  (証終)


 読者の方のために、練習問題を残しておこう。

練習問題  △ABCの辺AB、ACの外側に正方形ABSP、ACRQを描き、線分BRとCS
       の交点をHとする。このとき、 AH⊥BC が成り立つことを示せ。

 


(解) 複素数平面において、A( α )、B( β )、C( γ )、H(δ)とする。

 このとき、 S( β+i(α−β) ) 、R( γ−i(α−γ) )  (ただし、 i は虚数単位)

 S、H、Cが一直線上にあるので、 (β+i(α−β)−γ)/(δ−γ) は実数となる。

すなわち、 (β+i(α−β)−γ)/(δ−γ)=(β~−i(α~−β~)−γ~)/(δ~−γ~)

が成り立つ。ただし、α~は、αの共役複素数とする。

 分母を払って、

 δ(β~−γ~)−δ~(β−γ)−β~γ+βγ~

=i・(δ(α~−β~)−γ(α~−β~)+δ~(α−β)−γ~(α−β)) ・・・ (*)

 同様に、B、H、Rが一直線上にあるので、 (γ−i(α−γ) −β)/(δ−β) は実数

なので、 (γ−i(α−γ) −β)/(δ−β)=(γ~+i(α~−γ~) −β~)/(δ~−β~)

 分母を払って、

 δ(γ~−β~)−δ~(γ−β)+β~γ−βγ~

=i・(−δ(α~−γ~)+β(α~−γ~)−δ~(α−γ)+β~(α−γ)) ・・・ (**)

 (*)と(**)を辺々加えて、

 0=i・(δ(γ~−β~)+δ~(γ−β)−α(γ~−β~)−α~(γ−β))

 よって、 (δ−α)(γ~−β~)+(δ~−α~)(γ−β)=0 から、

  (δ−α)/(γ−β)=−(δ~−α~)/(γ~−β~)

 すなわち、 arg(δ−α)/(γ−β)=±π/2 となり、AH⊥BC が成り立つ。  (終)



  以下、工事中!