ブラマグプタの公式                        戻る 

 インドの数学者ブラマグプタ(598〜660)は、とても美しい公式を残している。そして、この公
式のおかげで、長年多少違和感のあった「ヘロンの公式」が、実は必然的なものであることが
理解できた。ブラマグプタに大いに感謝しなければならない。

ブラマグプタの公式

   円に内接する四角形の4辺の長さを、a、b、c、d とするとき、

  四角形の面積 S は、

  

  で与えられる。

(証明)  S=△ABC+△ACD において、B+D=180°より、sin B=sin D なので、

  2S=(ab+cd)sin B

ここで、余弦定理により、AC2=a2+b2−2abcos B=c2+d2−2cdcos D

B+D=180°より、cos D=−cos B であることに注意して、cos B を求めれば、

  

となる。このとき、

 

となることが簡単な計算で示される。
(この計算は、因数分解の典型的な計算なので、詳しいところは読者にまかせよう!)

 a+b+c−d=a+b+c+d−2d=2(s−d) などから、

   

これより、sin B を求めて、2S=(ab+cd)sin B に代入すれば、公式が得られる。  (終)

 ブラマグプタの公式の美しさは、何といっても、その一様性にある。四角形の周の長さの
半分(s)から一様に各辺の長さを引いている。そこには、一点のためらいもない。

 それに対して、三角形の面積を求めるヘロンの公式:

          
           (ただし、 a 、b 、c は三角形の三辺で、sは、三角形の周の長さの半分)

においては、その一様性が見られない。 s のみが、何か場違いな、不自然な形である。

 この点について、ヘロンの公式を高校2年のときに学んで以来、ヘロンの公式を目にする
度に幾ばくかの違和感を感じていた。

 ところが、ブラマグプタの公式を用いれば、この違和感は一掃される。s の存在にも必然
性があったのだ!

 次のように考えればよい。

 三角形を、4辺のうちの1辺の長さが 0 の四角形と考える。しかも、三角形には必ず外接
円が存在するので、ブラマグプタの公式における条件は満たされる。


 よって、ブラマグプタの公式により、三角形の面積は、

    

と理解される。このように考えると、やはり、ヘロンの公式においても、一様性があると認識
せざるを得ない。


(参考文献: D.ウェルズ 著 大橋義房 訳 みつけよう!数学!(岩波書店)
        永井勇一 著 3角関数 (科学新興社モノグラフ))


(追記) 上記でブラマグプタの公式について紹介したが、最近その一般化が存在することを
     知った。(平成18年2月11日付け)

   四角形ABCDの4辺の長さを、a、b、c、d とし、

       a+b+c+d=2s  、 A+C=2θ

  とする。このとき、四角形ABCDの面積 S は次の式で与えられる。

    

 上記において、特に四角形ABCDが円に内接するとき、円に内接する四角形の性質から、
A+C=180°なので、θ=90°すなわち、cosθ=cos90°=0 なので、ブラマグプタの
公式がえられる。


(追記) HN「通りすがり」さんから、「一般化されたブラマグプタの公式」の名前は「ブレート
    シュナイダーの公式
」と言われることをご教示頂いた。(平成27年10月11日付け)


 この一般化されたブラマグプタの公式の証明を考えてみよう。

(証明) S=△ABD+△BCD=(1/2)ad・sinA+(1/2)bc・sinC より、

    2S=ad・sinA+bc・sinC

両辺を平方して、 4S2=a22・sin2A+2abcd・sinAsinC+b22・sin2C ・・・(1)

ここで、余弦定理より、BD2=a2+d2− 2ad・cosA=b2+c2− 2bc・cosC なので、

  a2−b2−c2 +d2=2ad・cosA− 2bc・cosC

より、 (a2−b2−c2 +d2)/2=ad・cosA− bc・cosC で、両辺を平方して、

(a2−b2−c2 +d22/4=a22・cos2A−2abcd・cosAcosC+b22・cos2C ・・・(2)

(1)+(2)より、

 4S2+(a2−b2−c2 +d22/4

=a22−2abcd・cos(A+C)+b22

=a22−2abcd・cos2θ+b22

=a22−2abcd・(2cos2θ−1)+b22

=(ad+bc)2−4abcd・cos2θ

よって、 16S2+(a2−b2−c2 +d22=4(ad+bc)2−16abcd・cos2θ より、

16S2

=4(ad+bc)2−(a2−b2−c2 +d22−16abcd・cos2θ

=(2ad+2bc+a2−b2−c2 +d2)(2ad+2bc−a2+b2+c2 −d2)−16abcd・cos2θ

={(a+d)2−(b−c)2 }{(b+c)2−(a−d)2}−16abcd・cos2θ

=(a+d+b−c)(a+d−b+c)(b+c+a−d)(b+c−a+d)−16abcd・cos2θ

=(2s−2c)(2s−2b)(2s−2d)(2s−2a)−16abcd・cos2θ

=16(s−a)(s−b)(s−c)(s−d)−16abcd・cos2θ

 以上から、 S2=(s−a)(s−b)(s−c)(s−d)−abcd・cos2θ となり、

      

を得る。(証終)

 一般化されたブラマグプタの公式から、特に四角形が円に内接する場合として、ブラマグ
プタの公式が導かれたが、それでは、四角形が円に外接する場合は、どんな公式が導か
れるのだろうか?興味の種は尽きない。

 円に外接する四角形の4辺の長さを、a、b、c、d とし、

      a+b+c+d=2s  、 A+C=2θ

 このとき、四角形ABCDの面積 S は次の式で与えられる。

    

 証明は易しい。

(証明) 円に外接する四角形の性質から、対辺の長さの和は等しいので、a+c=b+d=s

 である。よって、 s−a=c、s−b=d、s−c=a、s−d=b なので、

一般化されたブラマグプタの公式から、 S2=abcd−abcd・cos2θ=abcd・sin2θ

 したがって、    が成り立つ。(証終)


 獨協大学(2013)で、次のような問題が出題された。

 半径 r の円に四角形ABCDが外接している。このとき、四角形ABCDの面積は、

  (AB+CD)・r


(解) 接線の長さが相等しいことから、 a+c=b+d が成り立つ。

 よって、四角形ABCDの面積を円の中心を用いて4分割すると、

 S=ar/2+ar/2+ar/2+ar/2=(a+b+c+d)・r/2=(a+c)・r

 すなわち、 S=(AB+CD)・r が成り立つ。  (終)


 さらに、上記の四角形が円に内接している場合は、非常に美しい公式となる。

  四角形が円に内接しているので、θ=90°である。

  よって、sinθ=sin90°=1 より、

  四角形ABCDの面積 S は次の式で与えられる。

       


(参考文献:辻 正次、平野智治 著  新三角法 (共立出版)
       中村文則氏(札幌旭丘高校)のHP「三角形の面積をひも解く」 )


(追記) 平成25年4月15日付け

 当HPがいつもお世話になっているHN「よおすけ」さんから、ブラマグプタの公式の練習問
題を頂いた。

練習問題  円に内接する四角形ABCDにおいて、AB=5cm、BC=19cm、CD=7cm、DA=15cm
       のとき、この四角形ABCDの面積を求めよ。

(解) s=(5+19+7+15)/2=23 なので、求める面積は、ブラマグプタの公式より、

  S=√(18・4・16・8)=3・8・4=96(cm2)  (終)


(追記) 平成26年3月11日付け

 ヘロンの公式、ブラマグプタの公式と、n角形(n=3、4)の面積を、その辺の長さのみを
用いて表す公式を見てきたが、それもここまでであるという残念な定理が示されている。
すなわち、

 5以上の任意の自然数nに対して、円に内接するn角形の面積を、四則演算とk乗根を
とる操作を通して、辺の長さで表現する一般の公式は存在しない。

 証明は、次の文献を参照されたい。

  数学セミナー’09 11月号 p.42〜48 Non-Biri数学研究会 「ヘロンとガロワ」


(追記) 平成27年10月10日付け

 上底がa、下底がb、高さhの台形の面積Sは、小学校5年で学ぶように、S=(a+b)h/2
で与えられる。

 等脚台形は円に内接するので、ブラマグプタの公式が利用できる。

 等脚台形の側長をcとすると、 2s=a+b+2c より、 s=(a+b)/2+c

 このとき、 s−a=(b−a)/2+c 、s−b=(a−b)/2+c 、s−c=(a+b)/2

より、S2={(b−a)/2+c}{(a−b)/2+c}{(a+b)/2}2

     ={c2−{(b−a)/2}2}{(a+b)/2}2

 ここで、 c2−{(b−a)/2}2=h2 なので、 S=(a+b)h/2


(コメント) 台形の面積の公式は平行四辺形の面積の公式からの導入が鮮烈で、上記の
      証明は何となくもどかしい。ただ、ブラマグプタの公式を利用しても示されることが
      理解できた。


(追記) 次の事実は「ブラマグブタの定理」として知られている。(平成31年2月9日付け)

 円Oに内接する四角形ABCDでAC⊥BDのとき、対角線の交点Pを通る線分LがCD
と垂直のとき、LとABとの交点MはABの中点である。

  

(証) △MPAにおいて、 ∠MAP=∠BDC=∠CAH=∠MPA から、△MPAは、

  MA=MPの2等辺三角形である。

 同様にして、△MBPにおいて、 ∠MBP=∠ACD=∠DPH=∠MPB から、

△MBPは、MP=MBの2等辺三角形である。

 以上から、 MA=MB で、Mは辺ABの中点である。  (証終)


#ブラマグプタの定理は円に内接しないときでも成り立つ場合がある。(→ 参考


(追記) 令和4年9月22日付け

 高校数学Tで、円に内接する四辺形の対角線の長さを求める問題は、余弦定理練習の
ための定番の問題だろう。そんな問題にも公式があることを最近知った。しかも、その公式
は、ブラマグプタも知っていたというから驚きだ。

 円に内接する四辺形ABCDがあり、AB=a、BC=b、CD=c、DA=d とする。

      

 このとき、対角線ACの長さ x は、


    


(証明) B+D=π なので、 cosB=cos(π−D)=−cosD

 余弦定理より、 (a2+b2−x2)/(2ab)=−(c2+d2−x2)/(2cd)

よって、 cd(a2+b2−x2)=−ab(c2+d2−x2) より、

  (ab+cd)x2=ab(c2+d2)+cd(a2+b2)=(ac+bd)(ad+bc)

 したがって、
           (証終)


 読者のために、練習問題を置いておこう。

練習問題  円に内接する四辺形ABCDがあり、AB=5、BC=4、CD=4、DA=2 とす
       る。このとき、対角線ACの長さ x を求めよ。

(解) x2=(5・4+4・2)(5・2+4・4)/(5・4+4・2)=26 より、 x=  (終)



  以下、工事中!