周の長さ一定な図形
平成18年6月27日、当HPの掲示板「出会いの泉」に加俊さんが問題を提起された。
学校帰りに友人と話していて、次のことが話題になったという。
周の長さが一定な図形で最大面積を持つのは円というのは有名である。じゃあ、その逆
は?ということで次の疑問が生まれた。
「同体積の立体で、最も表面積が大きくなる図形は何か?」
そのときは、柔毛見たいな感じ?というあいまいな答えで終わってしったが、これでは納
得できなかったので、その後じっくり考えてみた。やはり柔毛の毛のように作ったシート状
の物を、また柔毛のように折り返し、再びシート状にする…を繰り返した図形という考えに
たどり着いた。なんかフラクタルのようにも感じるが、どうだろうか?
加俊さんがフラクタルのようだと感じられた感覚は正しいと思う。ただ、平面で下記のよ
うな例があるので、空間図形で最大の表面積があるとは考えにくい。
例 平面において、下図のような図形を考える。
左図において、面積は1で一定である |
そう言えば、昔読んだ話の中に次のようなものがあった。
王様から、牛1等分の皮で覆われる土地を与えようというご褒美をもらった知恵者が、牛
の皮を細く長く切って、それで覆われる広大な土地を手に入れたという。王様の思惑と違い、
王様は大変困ったとのことである。
平成18年6月30日付けで、当HPがいつもお世話になっている未菜実さんからアドバイス
を頂いた。未菜実さんに感謝します。
話題に直接関係するかどうかわかりませんが、
ガードナーの「スフィンクスの謎」 9.カルカッターのブラックホール
に体積が有限で表面積や長さが無限になる3次元図形の話が出ています。
(上記の書籍は現在入手不可能で図書館等で閲覧するしかないようだ!)
加俊さんに触発されて、周の長さが一定な図形について調べてみようと思い立った。
当HPでは、「ラグランジュの乗数」において、「周の長さが 6 の三角形で面積が最大で
あるものを求める」という問題を考えた。
Lagrange の未定乗数法(大学1年の微分積分学のレベル)を用いると次のように鮮やか
に解かれる。
(問題設定)
3辺の長さ x , y , z の三角形において、 x + y + z =6 のとき、その三角形の面
積の平方は、ヘロンの公式より、 3(3− x )(3− y )(3− z ) で与えられる。
3(3− x )(3− y )(3− z ) が最大となるのは、どんな場合か?
(解) G( x , y , z )=x + y + z −6=0 のとき、
F( x , y , z )=3(3− x )(3− y )(3− z ) の極値を与える点(a , b , c )は次の式
を満たす。
x + y + z −6=0 、−3(3− y )(3− z )+λ=0 、−3(3−x )(3− z )+λ=0
−3(3− x )(3− y )+λ=0
x ≠ 3 、y ≠ 3 、z ≠ 3 としてよいので、上式から、 x= y = z =2 、λ=3 で
あることが容易に分かる。
幾何学的に考えて、x = y = z =2 すなわち、正三角形のとき、面積は極大かつ最大
となる。 (終)
このことを一般化すれば、
周の長さが一定な三角形で面積が最大なものは、正三角形である
ことが分かる。
上記では、Lagrange の未定乗数法を用いたが、高校生レベルの証明も可能だ。
(別解) 三角形の3辺の長さを x , y , z とし、 x + y + z
=2L とすると、
その三角形の面積 S の平方は、ヘロンの公式より、
S2=L(L−x)(L−y)(L−z)=L(L−x)(L−y)(x+y−L)
ただし、 0<x<L 、0<y<L 、x+y>L
で与えられる。
ここで、閉領域 0≦x≦L 、0≦y≦L 、x+y≧L において、S2 は、最大値を持つ。
相加平均と相乗平均の関係から、
したがって、 L−x=L−y=x+y−L すなわち、 x = y = z = 2L/3 のとき、
面積 S は最大となる。 このとき、三角形は正三角形である。 (終)
(追記) 平成27年10月10日付け
上記では、周の長さが一定な三角形で面積が最大となるものは正三角形であることを、
Lagrange の未定乗数法や相加・相乗の平均の不等式を用いて示したが、次のように考
えれば直感的にも明らかだろう。
三角形の1辺を固定すれば、面積が最大になるのは、二等辺三角形だから、どの辺から
見ても二等辺三角形となる三角形は、正三角形に限る。
このような解法は当HPがいつもお世話になっている U さんには不評のようで、Lagrange
の未定乗数法を用いる方が発想が自然であると述べられている。
(当HP掲示板「出会いの泉」:平成18年7月2日付け)
1984年度の数学オリンピックで、次のような問題が出題されたそうだ。
x , y , z が、 x + y + z = 1 を満たす非負の実数であるとき、
0≦xy+yz+zx−2xyz≦7/27
が成り立つことを示せ。
数学オリンピックは、高校程度の予備知識を想定しているので、この問題に、ラグランジュ
の乗数を適用するのは無理があるだろう。
U さんには「これは、ちょっとネ...。」という解法だが、私自身は次のような解法の鮮やかさ
に引かれる方だ。
* 平成22年3月4日付けのHN「きょゆに」さんのご指摘を受けて、以下の証明を一部手直ししました。
(証) 条件より、 0≦x≦1 、0≦y≦1 、0≦z≦1 なので、
−1≦1−2x≦1 、−1≦1−2y≦1 、−1≦1−2z≦1 より、
−1≦(1−2x)(1−2y)(1−2z)≦1 が成り立つ。
また、
(1−2x)(1−2y)(1−2z)
=1−2(x+y+z)+4(xy+yz+zx)−8xyz=4(xy+yz+zx)−8xyz−1
よって、 xy+yz+zx−2xyz={(1−2x)(1−2y)(1−2z)+1}/4
したがって、 xy+yz+zx−2xyz≧0 が成り立つ。
また、 xy+yz+zx−2xyz の最大値を求めるためには、
xy+yz+zx−2xyz={(1−2x)(1−2y)(1−2z)+1}/4
より、 (1−2x)(1−2y)(1−2z) の最大値を求めればよい。
そのためには、 1−2x≧0 、1−2y≧0 、1−2z≧0 と仮定してよい。
なので、相加平均と相乗平均の関係から
よって、(1−2x)(1−2y)(1−2z)≦1/27 であるので、
xy+yz+zx−2xyz≦(1/27+1)/4=7/27
以上から、 0≦xy+yz+zx−2xyz≦7/27 (終)
このような変分問題は、大学初年級における微分積分学の格好の演習問題といえるよ
うで、多くの大学でその傾向が伺える。
例えば、東京大学理科T類冬学期における数学TAの問題として、2001年、2005年
に下記の問題が見られた。
a) R2 の部分集合Sを S={(x ,y)∈R2|0≦x≦1、0≦y≦1、1≦x+y} で定義し、
関数 F を F(x ,y)=(1−x)(1−y)(x+y−1) で定義する。 F
の S における最
大点を求めよ。
b) 上の問いを用いて、周の長さが一定の三角形の面積が最大になるのは正三角形のと
きであることを証明せよ。
解答は、上記の問題の解と同様である。(ポイントは、ヘロンの公式!)
また、東北大学の2003年解析学B期末試験には、次の問題が出題されている。
周の長さ L が一定の直角3角形のうちで面積が最大のものを求めよ。
(解) 直角三角形の斜辺以外の2辺の長さを、x 、y とすると、
三平方の定理から、 x2+y2=(L−x−y)2
よって、 2xy−2Lx−2Ly+L2=0
が成り立つ。そこで、 G( x , y )=2xy−2Lx−2Ly+L2=0 のとき、
F( x , y )=xy の極値を与える点( a , b )は次の式を満たす。
2xy−2Lx−2Ly+L2=0 、y+λ(2y−2L)=0 、x+λ(2x−2L)=0
よって、 (2λ+1)y=2λL 、 (2λ+1)x=2λL より、2λ+1≠0 で、
このとき、 x = y である。
すなわち 斜辺の長さが (−1)L である直角2等辺三角形のとき、面積は極大かつ
最大となる。(終) ・・・・ 結論を確かなものとするには、もう少し計算が必要!(→参考)
上記と同様な議論を四角形に適用すると、
周の長さが一定な四角形で面積が最大なものは、正方形である
ことが言える。(→ 参考:「扇形の面積」)
(証明) まず、周の長さを一定とし、底辺BCを固定した△ABCで面積が最大なのは、
AB=ACなる二等辺三角形であることを下図により確認しよう。
当HP読者のHN「DS」さんから、平成27年7月30日付 けで、図が間違っている旨、ご指摘いただいた。 (左図は、修正済み) DSさんに感謝します。 平成18年6月にこのページを起こし、平成22年3月に一 部見直しをしたものの図は長らく放置されたままでした。 この機会に再度検討を進めてみました。 |
このことから、周の長さが一定な四角形で面積が最大なとき、任意の隣り合う2辺の長さは
等しいことが分かる。すなわち、そのような四角形はひし形となる。
今、ひし形の1辺の長さを a とし、内角の一つの角の大きさをθとすると、四角形の面積は
a2sinθで与えられるが、これは明らかに、θ=90°のとき最大となる。
したがって、周の長さが一定な四角形で面積が最大なものは、正方形である。 (終)
以下、工事中