ブロカール点
△ABCの内部の点Xに対して、次の事実が知られている。
定 理 △ABCの内部の点Xに対して、∠XAB、∠XBC、∠XCAのうち、30°以下
のものが存在する。
定理を見て至極当然のような気もする。そのような点Xは必ず存在するような...雰囲気!
どんな三角形でも言えるよ、という点が大切なのだろう。
この定理を示すために、ブロカール点という概念が活躍する。
(第一)ブロカール(Brocard)点とは、△ABCに対して、∠PAB=∠PBC=∠PCA を
満たす点をいう。この点は確かに存在することが次の図を見れば了解されるだろう。
円C1 は、点Bで辺BCに
接し、円C2は、点Aで辺AB
に接する。
接弦定理により、
∠PAB=∠PBC=∠PCA
が成り立つ。
同様に、△ABCに対して、∠PBA=∠PCB=∠PAC を満たす点を(第二)ブロカール
点という。
ブロカール点という言葉を初めて知ったのは、平成25年11月23日(祝)に、筑波大学付
属駒場高校で行われた研究集会においてであった。
数学の控室として利用された50周年記念会館に、「ブロカール点の応用」と題した、筑波
大学付属駒場高校 富士晃成さんのパネルが掲示されていた。このパネルは、「身の回り
の現象を数理の目で見る!」というテーマのもとに開催されている、高校生による研究発表
会:「第3回 高校生によるMIMS現象数理学研究発表会」(平成25年10月13日 明治大学中
野キャンパス)に展示されたものらしい。
パネルに書かれている推論が少し不明確に感じたので、厳密に示したいという思いが、こ
のページを起こしたきっかけである。
上記の定理を示すには、点Xをブロカール点と考えて示せば十分である。即ち、
△ABCにおいて、BC=a、CA=b、AB=c とおく。△ABCのブロカール点Xに対して、
XA=p、XB=q、XC=r とおく。∠XAB=∠XBC=∠XCA=θとし、△ABCの面積をSと
おく。
このとき、次の補題が成り立つ。
補 題 cotθ=(a2+b2+c2)/(4S)=cotA+cotB+cotC
(証明) △XAB=pqc/(4R’) (R’は△XABの外接円の半径) より、
4△XAB=pqc/R’=2pcsinθ=2pccosθ/cotθ=(p2+c2−q2)/cotθ
同様にして、 4△XBC=(q2+a2−r2)/cotθ 、4△XCA=(r2+b2−p2)/cotθ
辺々加えて、4S=(a2+b2+c2)/cotθ 即ち、cotθ=(a2+b2+c2)/(4S) が成り立つ。
また、AからBCに下ろした垂線の足をDとすると、
cotB+cotC=BD/AD+DC/AD=BC/AD
ここで、S=BC・AD/2 より、AD=2S/BC なので、
cotB+cotC=BC2/(2S)=a2/(2S)
同様にして、 cotC+cotA=b2/(2S) 、cotA+cotB=c2/(2S)
辺々加えて、 2(cotA+cotB+cotC)=(a2+b2+c2)/(2S)
よって、 cotA+cotB+cotC=(a2+b2+c2)/(4S) が成り立つ。
以上から、 cotθ=(a2+b2+c2)/(4S)=cotA+cotB+cotC が成り立つ。 (証終)
いよいよ定理を証明する準備ができた。
(証明) ここで、C≦B≦A としても一般性は失われない。さらに、AからBCへ下ろした垂
線の足をDとし、AD=1、BD=x とおく。このとき、cotB=x 、cotC=a−x より、
cotB+cotC=a である。このとき、
cotA+cotB+cotC=cot(180°−(B+C))+cotB+cotC
=cotB+cotC−cot(B+C)
=cotB+cotC−(cotBcotC−1)/(cotB+cotC)
=a−{x(a−x)−1}/a
=(x2−ax+a2+1)/a
={(x−a/2)2+(a/2−1)2+a}/a≧
よって、cotθ=cotA+cotB+cotC≧ より、 tanθ≦1/
したがって、θ≦30°が成り立つ。等号成立は、△ABCが正三角形のとき。 (証終)
上記証明の別証明を、当HPがいつもお世話になっているHN「K.S.」さんより、メールで
頂いた。(平成26年1月2日付け)
△ABCの辺をa、b、c、角をA、B、Cとする。
(a2+b2+c2)/(4S)=cotA+cotB+cotC≧ の別証明
(証明) 余弦定理より、
a2=b2+c2−2bc・cosA 、b2=c2+a2−2ca・cosB 、c2=a2+b2−2ab・cosC
辺々足して、
a2+b2+c2=2bc・cosA+2ca・cosB+2ab・cosC
=4{(1/2)bcsinA・cotA+(1/2)casinB・cotB+(1/2)absinC・cotC}
=4S(cotA+cotB+cotC)
(a2+b2+c2)/(4S)≧ ⇔ (a2+b2+c2)2/(4S)2≧3 ⇔ (a2+b2+c2)2≧3・16S2
⇔ (a2+b2+c2)2≧3・(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)
⇔ 4(a4+b4+c4−a2b2−b2c2−c2a2)≧0
⇔ 2{(a2−b2)2+(b2−c2)2+(c2−a2)2)≧0 (証終)
(追記) 平成26年1月18日付け
K.S.さんが与えられた証明は、筑波大学付属駒場高校50周年記念会館に掲示されて
いた、富士晃成さんのパネルで示されていた証明とほとんど同じである。うろ覚えであるが、
次のように論証が進められていたように思う。
(パネルを撮影したが保存するのを忘れてしまい画像が消失してしまった!残念..(T_T) )
(別証) この定理を示すには、ブロカール点Pに対して、∠PAB≦30°を示せばよい。
三角形の内角の和は、180°なので、 0°≦∠PAB≦60°は明らかだろう。
ここで、△ABCの面積をS、3辺の長さを BC=a、CA=b、AB=c とし、∠PAB=θと
おくと、
tanθ=4S/(a2+b2+c2)
が成り立つ。実際に、余弦定理より、
PB2=PA2+AB2−2PA・ABcosθ
PC2=PB2+BC2−2PB・BCcosθ
PA2=PC2+CA2−2PC・CAcosθ
これらを辺々加えて、 a2+b2+c2=2(PB・a+PC・b+PA・c)cosθ
=2(PB・a+PC・b+PA・c)sinθ/tanθ
=4S/tanθ
よって、 tanθ=4S/(a2+b2+c2) が成り立つ。
ヘロンの公式より、 2s=a+b+c に対して、
16S2=2s(2s−2a)(2s−2b)(2s−2c)
=(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)
={(b+c)2−a2}{a2−(b−c)2}
=−a4+{(b+c)2+(b−c)2}a2−(b+c)2(b−c)2
=−a4+2(b2+c2)a2−b4+2b2c2−c4
=−a4−b4−c4+2a2b2++2b2c2+2c2a2
=(a2+b2+c2)2−2(a4+b4+c4)
tanθ=4S/(a2+b2+c2)≦1/ を示すためには、48S2≦(a2+b2+c2)2 を示せば
よい。
ヘロンの公式 16S2=(a2+b2+c2)2−2(a4+b4+c4) を代入して、
3{(a2+b2+c2)2−2(a4+b4+c4)}≦(a2+b2+c2)2 が言えればよい。
よって、 (a2+b2+c2)2≦3(a4+b4+c4) が言えればよいが、この不等式は、
a2b2+b2c2+c2a2≦a4+b4+c4
が言えることから成り立つ。 (別証終)
(コメント) いつも見慣れた形のヘロンの公式ではなく、新しい視点から見たヘロンの公式も
魅力的ですね!
(追記) 平成26年11月22日付け
1年ぶりに筑波大学附属駒場高校を訪れた。校内を歩いていると、廊下に展示してあるパ
ネルが目に留まった。
「防犯カメラの設置問題」 (2年 富士晃成)
以前、富士晃成さんの展示パネルから、この頁を起こし紹介した。今回の展示パネルは、
平成26年8月23日にエルおおさかで行われたマスフェスタ(全国数学生徒研究発表会」で
発表されたもののようだ。
問 題
視界の角度がx°の防犯カメラ3台を三角形の各頂点に配置する。ただし、視界の境界の
一方を各辺に一致させるものとする。
任意の鋭角三角形に対して、その三角形の内部をすべて監視できるようにしたいとき、x
はどこまで小さくできるか?
問題の趣旨は何となく「ブロカール点」と同じような匂いを感じる。
(解) 円C1 は、点Bで辺BCに接し、円C2は、点Aで辺ABに接する。このとき、
接弦定理により、 ∠PAB=∠PBC=∠PCA が成り立つ。
△ABCに対して、∠PAB=∠PBC=∠PCA を満たす点が、ブロカール点であり、上
図から、この点は確かに存在する。
∠PAB=θ とおくと、題意を満たすためには、「θ≦x」であることが必要十分である。
ブロカール点の性質から、θ≦30°なので、防犯カメラの視界 x は、30°以上である。
(終)
展示パネルにある「θ≦30°」の証明を見ると、1年前に見た証明の危うさを解消されて
いて改良されたように感じる。
左図において、点Xはブロカール点である。
θ≦30°が成り立つことを示す。
(証明) △ABCにおいて、BC=a、CA=b、AB=c とおく。さらに、XA=p、XB=q、
XC=r とおく。∠XAB=∠XBC=∠XCA=θとし、△ABCの面積をSとおく。
余弦定理より、
PB2=PA2+AB2−2PA・ABcosθ
PC2=PB2+BC2−2PB・BCcosθ
PA2=PC2+CA2−2PC・CAcosθ
これらを辺々加えて、 a2+b2+c2=2(PB・a+PC・b+PA・c)cosθ
=2(PB・a+PC・b+PA・c)sinθ/tanθ
=4S/tanθ
よって、 tanθ・(a2+b2+c2)=4S が成り立つ。
イェンゼンの不等式より、 (a2+b2+c2)/3≧{(a+b+c)/3}2 が成り立つ。
また、周長一定の三角形で面積が最大のものは正三角形なので、(→ 参考)
S≦(/4){(a+b+c)/3}2
以上から、 tanθ=4S/(a2+b2+c2)≦1/ より、 θ≦30° (終)
(コメント) 証明が本当にスッキリしましたね!
以下、工事中!