垂心の証明                                戻る

 三角形には、五心(重心、外心、内心、垂心、傍心)がある。現在の高校1年生の多くが
学ぶであろう「数学A」では、残念ながら、垂心、傍心に関して、教科書の本文での説明は
割愛されている。旧課程では、五心の説明がしっかり書かれていたことを思うと、非常に
残念である。

 重心は「つりあい」、外心は「外接円」、内心は「内接円」と比較的扱いやすい題材が豊
富なのと、分かりやすさから多分生き残ったのだろう。

 それに対して、垂心とか傍心は応用もままならず、扱いにくい題材がゆえに省略された
のではないだろうか。

 しかしながら、傍心はまだしも、美しい性質を持つ垂心を生徒の目から遠ざけるというの
は、私個人的には賛成できない。ところで、垂心とは、三角形の3つの頂点から、それぞ
れの対辺に下ろした3つの垂線の交点のことをいう。

 △ABC の外心を O 、垂心を H 、重心を G とおくと、

   

が成り立つ。すなわち、

オイラーの定理(1765年)

 △ABC の外心 O 、重心 G 、垂心 H は一直線上にあり、

 OG : GH = 1 : 2 である


(注) 3点 O 、H 、G を通る直線を、オイラー線(Euler Line)という。

 この事実に関連して、次の事実も有名だろう。

 三角形の内心、外心、重心、垂心の4つのうちの2つが一致するならば、その三角
形は正三角形である


(証明) △ABC の内心を I 、外心を O 、重心を G 、垂心を H とおく。

  より、

 O=H ならば、 O=G となり、このとき、 △OAB、△OBC、△OCA がすべて合同に
なることから、△ABC は正三角形となる。

 同様に、

 O=G ならば、 O=H となり、このとき、 △OAB、△OBC、△OCA がすべて合同に
なることから、△ABC は正三角形となる。

 O=I ならば、 △OAB、△OBC、△OCA がすべて合同になることから、△ABC は正
三角形となる。

 G=H ならば、 G=O となり、このとき、 △OAB、△OBC、△OCA がすべて合同に
なることから、△ABC は正三角形となる。

 G=I とする。このとき、 3AGABAC である。いま、AB=a 、AC=b とおくと、
   k(a+b)AI=bAB+aAC
となる。ABAC は一次独立なので、 3ka=a+b 、3kb=a+b より、 a=b
同様にして、AB=BC=CA が示される。よって、△ABC は正三角形となる。

 H=I ならば、 G=H となり、このとき、 △ABC は正三角形となる。  (証終)

(コメント) 上記の証明では、「G=Iの場合」が少し不本意ですね。もっと幾何的な証明が
      ないのかな?

 オイラーの定理の証明は、ベクトルの内積を用いると味気ないが、平行四辺形の性質を
巧妙に用いた証明には、思わず引き込まれてしまうほどの美しいものがある。

(証明)○ ベクトルの内積を用いる場合

 重心の性質から、 であることは明らか。 と
おくと、 
 よって、AK⊥BC となる。同様にして、BK⊥CA、CK⊥AB が示される。
 したがって、Kは垂心となり、K=H である。よって、定理は成り立つ。


    ○ 平行四辺形の性質を用いる場合

   △ABCにおいて、辺ABの中点をM、外心Oを通る
  直径を BD とする。
   また、CM と OH の交点を G とする。
  このとき、四角形AHCD は平行四辺形。
  中点連結の定理により、AD=2OM
  よって、CH=AD より、CH:OM= 2 : 1
  △CHG ∽ △MOG より、CG : GM = 2 : 1
  よって、G は △ABC の重心。
  したがって、3点 O、G、H は一直線上にあり
  OG : GH = 1 : 2 が成り立つ。
  

 「3つの垂線が1点で交わる」ことの証明としては、いろいろあるが、私自身としては、座
標幾何を用いて、直接的に証明するのが一番分かりやすいと、ずっと思っていた。

 ところが、あるセミナーで横浜国立大学教育人間科学部の橋本吉彦先生から、このこと
に関してお話を伺う機会があり、興味を持って、教科書等にあたると、もっと分かりやすい
証明がなされていることを知った。

   左図の△ABCにおいて、各頂点を通り、対辺に
  平行な線分を引き、△PQRを作る。
   このとき、Aは辺QRの中点で、ADは辺QRの垂
  線である。
   同様に、Bは辺PRの中点で、BEは辺PRの垂
  線である。
   よって、垂線AD、BEの交点Hは、△PQRの外
  接円の中心である。
   したがって、辺PQの垂直二等分線CFは、点H
  を通る。

(注意) 3つの垂線が1点で交わることを、3つの垂直二等分線が1点で交わるという話
    に置き換えているわけで、とても巧妙なテクニックですね!


(追記) 令和6年7月6日付け

 将棋の王位戦が7月6日〜7日に名古屋・徳川園で行われる。隣接する徳川美術館では、
尾張徳川家ゆかりの将棋盤が9月8日まで特別公開されるという。おやつ候補として提供さ
れる予定の「竹千代」も12月15日まで販売されるらしい。

 垂心に関する問題が、東北大学 文理共通(1966)で出題されている。

第2問  2定点B(−1,0)、C(1,0)に対して、点Aが直線 y=a (a>0) 上を動くとき、
  次の各問いに答えよ。

(1) △ABCの垂心Hの描く図形の方程式を求めよ。
(2) 原点OとHの距離の最小値を求めよ。

(解)(1) A(t,a) とおくと、直線AHの方程式は、x=t

 直線BCの傾きは、 a/(t−1) なので、直線BHの方程式は、

 y=−{(t−1)/a}(x+1) なので、 x=t を代入して、y=(1−t2)/a

よって、垂心Hの描く図形の方程式は、 y=(1−x2)/a

(2) OH2=t2+(1−t22/a2=(1/a2)t4+(1−2/a2)t2+1/a2

ここで、t2=x とおくと、x≧0 で、 OH2=(1/a2)x2+(1−2/a2)x+1/a2

よって、

OH2=(1/a2)(x+(a2/2−1))2+1/a2−(1/a2)(a2/2−1)2

 =(1/a2)(x+(a2/2−1))2+1−a2/4

 軸の方程式 x=1−a2/2 なので、

 1−a2/2≦0 すなわち、a≧ のとき、OH2の最小値は、x=0 のときで、1/a2

 すなわち、a≧ のとき、OHの最小値は、1/a

 1−a2/2>0 すなわち、0<a< のとき、OH2の最小値は、

 x=1−a2/2 のときで、1−a2/4

 すなわち、0<a< のとき、OHの最小値は、√(1−a2/4)  (終)


(コメント) 「複素数の底力」の「三角形の垂心」で、次の公式が示されている。

 ガウス平面上の3点A(α)、B(β)、C(0)に対して、△ABCの垂心H(z)は、

  z=(α−β)(αβ)/(αβ)

である。


 この公式を用いてみよう。

 A(t,a)、B(−1,0)、C(1,0) に対して、x 軸方向に1だけ平行移動すると、

 A((t+1,a)、B’(0,0)、C’(2,0) となる。

そこで、 α=t+1+a・i 、β=2 として、公式に代入すると、z=t+1+{(1−t2)/a}i

 x=t+1 、y=(1−t2)/a とおいて、t を消去すると、 y=(1−(x−1)2)/a

x 軸方向に−1だけ平行移動すると、 y=(1−x2)/a となり、先の結果と一致する。


  以下、工事中!