斜交座標系
斜交座標系(oblique coordinate system)は、通常の直交座標系を拡張したもので、
斜めに交差する2直線により、座標を定義しようとするものである。
上図をしばらく眺めていると、直交座標系とほとんど変わらないこと、何となく直交座標系
を空間で斜めから見ているような雰囲気であることが分かるだろう。
直交座標系において、平面上の任意の点 P( x , y ) に対して、基本ベクトルを
e1=( 1 , 0 ) 、 e2=( 0 , 1 )
とおくと、 OP= xe1 + ye2 と一意に書くことができる。
e1 、e2 のように垂直でなくても大きさが 1 でなくとも、一次独立な2つのベクトル
a 、 b
があれば、上記と同様に、平面上の任意の点 Pは、平面上に1点Oを固定して、
OP= xa + yb
と一意に書くことができる。
このとき、点 Pを表す座標として、( x , y ) としようとする考えが斜交座標系の考え方で
ある。
この斜交座標系という概念を知ると、平面図形に斜交座標系がオーバーラップし、いろい
ろな問題が解析幾何的に座標を用いて解けるような気分になるから不思議だ。
基本的な図形は、次のような条件で与えられる。斜交座標系の考え方を会得していれば
明らかだろう。
一次独立な2つの定ベクトル OA、OB に対して、 OP=sOA+tOB で点Pを定める。
この場合、OA方向が、s 軸(OAの係数)、OB方向が、t 軸(OBの係数)であることに
注意を払わなければならない。
(1) s+t=1 のとき、動点 P の描く図形は、2点A、Bを通る直線である。
これは、
と書けることから、 点Pは、線分ABを、 t : s の比に分ける点である。
よって、動点 P の描く図形は、2点A、Bを通る直線であるとしてもよい。
斜交座標系によらない場合は、一般的にこのように考えるのが定石である。
(2) s+t=1、 s≧0、 t≧0 のとき、動点 P の描く図形は、2点A、Bを結ぶ線分である。
点Pは、線分ABを、 t : s の比に分ける点で、s、 t は同符号なので、点Pは線分
ABの内分点となる。
よって、動点 P の描く図形は、2点A、Bを結ぶ線分である。
(3) s+t≦1、 s≧0、 t≧0 のとき、動点 P の描く図形は、△OABの周および内部である。
s+t=k とおくと、 0≦k≦1 である。 OA’=kOA 、OB’=kOB とおくと、
A’、B’はそれぞれ線分OA、OB上の点である。
さらに、 s’=s/k 、t’=t/k とおくと、
OP=s’OA’+t’OB’ s’+t’=1、 s’≧0、 t’≧0
が成り立つので、(2)より、動点 P の描く図形は、2点A’、B’を結ぶ線分である。
0≦k≦1 であるので、これらの線分は、△OABの周および内部を埋め尽くす。
よって、動点 P の描く図形は、△OABの周および内部である。
一次独立な2つの定ベクトル OA、OB に対して、 OP=sOA+tOB で点Pを定め、s
と t に様々な条件を付加して、点Pの存在範囲を問う問題は、教科書ではあまり深入りして
教えられることはないが、大学入試問題の1つの宝庫といってもいいだろう。
例えば、(解答は下記参照)
(1) 明治大学(2007年)
∠AOBが直角で、OA=OB=1 である△OABにおいて、OP=sOA+tOB とおく。
実数 s 、t が、 |s|+|t|≦1 を満たすとき、点Pが動く部分の面積を求めよ。
(答え: 2)
(2) 関西大学(2007年)
平面上の3点 O、A、B について、 OA=2、OB=3、OA⊥OB とする。このとき、
OP=sOA+tOB 2s+3t≦5、 s≧0、 t≧0 で定められる点Pが動く領域の面
積を求めよ。 (答え: 25/2)
(3) 横浜国立大学(2006年)
平面上の3点 O、A、B について、 OA=5、OB=6、AB=7 とする。このとき、
OP=sOA+tOB で定められる点Pが次の条件を満たすとき、点Pが動く領域の面
積を求めよ。
(イ) 1≦s+t≦2、 s≧0、 t≧0 (答え: 18)
(ロ) 1≦2s+t≦2、 s+3t≦3、 s≧0、 t≧0(答え: 27/5)
(4) 神戸大学(2000年)
△OAB について、OP=(2s+t)OA+(s−t)OB 0≦s+t≦1、 s≧0、 t≧0
で定められる点Pが動く領域の面積は△OABの面積の何倍か。 (答え: 3倍)
(5) 東京都立大学(1997年)・・・現在は、首都大学東京
平面上に△ABC と点 O がある。
OP=aOA+bOB+cOC a+b+c=1、 a≧0、 b≧0、 c≧0
で定められる点Pの描く図形を求めよ。 (答え: △ABCの内部と周)
これらは、斜交座標系の考えを用いれば、視覚的に即答できるだろう。
教科書で述べられる解法と斜交座標系の考えを用いた解法を、(2)関西大学(2007)を
例題として比較してみよう。
(教科書的な解法) OP=sOA+tOB 2s+3t≦5、 s≧0、 t≧0
2s+3t≦5 より、 (2/5)s+(3/5)t≦1 である。
そこで、 s’=(2/5)s 、t’=(3/5)t とおくと、 s’+t’≦1、
s’≧0、 t’≧0
このとき、 OA’=(5/2)OA 、OB’=(5/3)OB とおくと、
A’、B’はそれぞれ直線 OA、OB上の点で、
OP=s’OA’+t’OB’ s’+t’≦1、 s’≧0、 t’≧0
が成り立つので、(3)より、動点 P の描く図形は、△OA’B’の周および内部である。
OA’=2×5/2=5、 OB’=3×5/3=5、 OA’⊥OB’ なので、求める面積は、
(1/2)×5×5=25/2
(斜交座標系による解法)
点Pの存在範囲は、左図の領域で、
求める面積は、
(1/2)×5×5=25/2
である。
(コメント) 「斜交座標系の考えを用いて・・・」と書けば、入試本番の記述式の解答としても
耐えうるのかな...?
上記の2つの解法を比較して、斜交座標系の考えが如何に有効かが理解できると思う。
大学入試問題(1)(3)(4)(5)についても、斜交座標系を用いた図を掲示しておこう。
(1)
左図から、「面積 2 」は明らか!
(3)(イ)
OA=5、OB=6、AB=7 より、
cos∠AOB=1/5
よって、 sin∠AOB=2/5 より、
△OABの面積は、 6
左図より、 △OA’B’=4△OAB=24
よって、求める面積は、 18
(3)(ロ)
△AA”B=3 より、
△A’A”B=15
△A’A”B と △A’AC の相似比は
5 : 4 なので、
△A’AC=15×(16/25)=48/5
よって、求める面積は、 27/5
(4) OP=(2s+t)OA+(s−t)OB=s(2OA+OB)+t(OA−OB)
OA’=2OA+OB 、OB’=OA−OB
とすると、 0≦s+t≦1、 s≧0、 t≧0 なので、
求める面積は、△OA’B’の面積である。
ここで、 △OAA’=△OAB’=△OAB
また、 △AA’B’=△OAB であるので、
求める面積は、△OABの面積の3倍である。
(5) 大学受験の解答としては、
OP=aOA+bOB+cOC において、 c=1−a−b≧0 より、
0≦a+b≦1 、 a≧0 、 b≧0 で、
OP−OC=a(OA−OC)+b(OB−OC) すなわち、 CP=aCA+bCB
よって、求める図形は、 △ABCの周および内部
となる。
斜交座標系を考えれば、「答えは一発!」だろう。
上記では、一次独立な2つの定ベクトル OA、OB に対して、
OP=sOA+tOB ( s+t=1 )
で定められる点Pの描く図形が直線であることを見たが、逆に、2点A、Bを通る直線が与
えられたとき、
s+t=1
という関係式が成り立つことも大切な考え方になる。これは、共線条件と言われる。
例 題 △ABCの辺ABを 2 : 1 に内分する点をPとし、線分PCを 3 :
2 に内分する点
をQとする。直線AQと辺BCの交点をRとするとき、BR : RC
を求めよ。
(解) AP=(2/3)AB 、 AQ=(2/5)AP+(3/5)AC より、
AQ=(4/15)AB+(3/5)AC となる。
このとき、 AR=tAQ=(4/15)tAB+(3/5)tAC ( t は実数)と書ける。
R は、直線BC上の点なので、
(4/15)t+(3/5)t=1
よって、 t=15/13 となり、 AR=(4/13)AB+(9/13)AC である。
このとき、 BR : RC = 9 : 4 となる。 (終)
(コメント) 直線上だから「s+t=1」という論法の美しさに、高校時代とても感動しました!