置換積分
高校2年で学ぶ微分積分の知識だけだとこれから述べることは裏技にならないかもしれな
い。置換積分は高校3年が学ぶ数学Vの知識が必要だからだ。ただ、その計算が理解でき
なくても何かしら魔法を見ているような錯覚を感じていただけるとありがたい。
私が高校時代に感動した置換積分の問題の一つが次にあげるものである。
問題 次の定積分を計算せよ。
(解)
とおく。ここで、x=π/2−y と置換することにより、
が成り立つことが分かる。よって、 2I=π/2 より、 I=π/4 (終)
定積分を真面目に解こうとする者が、このような解答を見せられて何か肩すかしをくった
ような気分になるかもしれない。私自身は肩すかしと思うこともなく、置換積分の威力に魅
了された。
もちろん同じ置換でもやり方を間違えると、とんでもない計算になる。
例えば、三角関数の定積分というと、tan(x/2)=t という置換が定石である。こう置換す
れば、三角関数の定積分は必ず有理関数の定積分に変換できる。
実際に、sin x =2t/(1+t2)、cos x =(1−t2)/(1+t2)、dx=2/(1+t2)・dt より、
sin x /(sin x +cos x)dx={1/(1+t2)+t/(1+t2)−(t−1)/(t2−2t−1)}dt
から、答えは、π/4 となる。
上記では、途中計算を大幅に省略しているが、実際に手計算してみると、その大変さが実
感出来ると思う。
冒頭の問題の解法と同じ匂いのする問題に最近接することが出来た。
問題 次の定積分を計算せよ。
(出典:数学セミナー ’15 5月号 「エレガントな解答をもとむ」 (日本評論社))
(解)
とおく。ここで、x=−y と置換することにより、
が成り立つことが分かる。よって、
すなわち、
となるので、ここで、さらに、x=sinθ と置換することにより、 I=π (終)
もちろん、上記は一つの置換の例であり、
と置換すると、与式は直ちに、
となり、I=4×(π/4)=π と暗算で求められる。
ただ、この置換を思いつくことは難しいだろう。素直に、 と置換してもよい。
また、x=−y と置換しなくても、
と変形しても求められる。(第2項は奇関数で、定積分の値は0に注意)
DD++さんからのコメントです。(平成27年8月13日付け)
√((1+x)/(1-x)) の積分を見て、「普通なら、x = cos2θ と置くところだなあ」と思いながら読
んだら、三角関数が微塵も出てこなくて驚いたんですが、ひょっとして、この置換ってあんまり
普通じゃなかったりしますかね?
(コメント) 定積分の計算の最後の方をさらっと書いているので三角関数が使われているこ
とに気づきにくいと思いますが、しっかり使われています。
要は、どのような置換をすればより簡単に求まるかに主眼をおいて記述しています。
x = cos2θ と置換して、2倍角の公式から、
与式=4∫0π/2 cos2θdθ=2∫0π/2(1+cos2θ)dθ=[2θ+sin2θ]0π/2=π
#被積分関数の式の特徴から、私も「x = cos2θ と置換して」とやりたい気分満々ですね!
今の学習指導要領で、数学Vでは、曲線の弧の長さを求めることが学習内容となっている。
曲線の長さという観点で、次のような別解が考えられる。
原点中心で半径が1の円:x2+y2=1の上半円の弧の長さは、もちろんπであるが、定積
分を用いれば次の式で求められる。
陰関数の微分により、 x+yy’=0 から、1+(y’)2=1/(1−x2) なので、
すなわち、半円の円弧の長さからも、 I=π であることが示される。
以上から、定積分
は、いろいろな見方が出来ることに驚かされる。
(見方その1) 半径1の円の面積
(見方その2) 半径1の半円の円弧の長さ
多分、他にもいろいろな見方が出来ると思う。
よおすけさんが以前出題された「定積分の計算2」の問題も同様の匂いが漂う。
I=∫-11 x2/(1+ex) dx において、x=−y と置換すると、
I=∫-11 x2/(1+e-x) dx=∫-11 x2ex/(1+ex) dx
なので、 2I=∫-11 x2/(1+ex) dx +∫-11 x2ex/(1+ex) dx=∫-11 x2dx=2/3
より、 I=1/3
読者のために練習問題を残しておこう。
次の定積分を計算せよ。
(答え) (π−1)/4