三角関数の大小
現行の学習指導要領では、高校1年で三角比の定義およびその図形への応用を学び、
高校2年では関数として衣替えし、三角関数およびそのグラフを学ぶ。
教科書では、基本のグラフからそれらの関係を把握するのにとどまっている。
高校3年で三角関数の微分を学習して、三角関数と初等関数との関係を知ることになる。
その中で大切な関係は、次の不等式だろう。
x ≧ 0 のとき、 x ≧ sin x ただし、等号成立は、x=0 のときに限る
この不等式の証明は易しい。
(証明) F(x)= x − sin x とおくと、 F’(x)= 1 − cos x ≧0 より、
F(x)は単調増加関数となる。
また、F(0)=0 なので、 x ≧ 0 のとき、 F(x) ≧0 となる。
よって、 x ≧ 0 のとき、 x ≧ sin x が成り立つ。 (証終)
この不等式は、直線 y=x が、曲線 y=sin x の原点における接線であるという関係から
も直感的に受け入れやすい。
平成17年4月29日、当HPの掲示板「出会いの泉」にHN「ポルテ」さんという方から質問
が寄せられた。
sin(cos x) と cos(sin x) について、 cos(sin
x)>sin(cos x) が成り立つことは、
グラフ描画ソフトを用いて分かるが、計算では、どう示せばいいのだろうか?
実際に、グラフ描画ソフトを用いて2つの曲線の概形を描かせてみた。
グラフから、確かに不等式の成り立つことが了解される。
さらに、上図から、 y=sin(cos x) は、周期 2π の周期関数
y=cos(sin x) は、周期 π の周期関数
であることが予想される。実際に、
sin(cos (2π+x))=sin(cos x) 、 cos(sin (π+x))=cos(−sin
x)=cos(sin x)
から明らかであろう。
「ポルテ」さんの問題に対して、当HPがいつもお世話になっているHN「らすかる」さんが、
不等式 「 x ≧ 0 のとき、 x ≧ sin x 」を活用して、明解に解決された。
以下は、らすかるさんの解答に若干の補足をしてまとめたものである。
まず
2つの曲線 y=sin(cos x) と y=cos(sin x) は、直線 x=
π に関して線対称
であることを示す。
実際に、 sin(cos (π+x))=sin(−cos x)=−sin(cos
x)
sin(cos (π−x))=sin(−cos x)=−sin(cos x)
よって、 sin(cos (π+x))=sin(cos (π−x)) より、成り立つ。
同様に、 cos(sin (π+x))=cos(−sin x)=cos(sin x)
cos(sin (π−x))=cos(sin x)
よって、 cos(sin (π+x))=cos(sin (π−x)) より、成り立つ。
また、 y=sin(cos x) 、y=cos(sin x) は、それぞれ周期
2π、π の周期関数なので、
考える x の範囲として、 0 ≦ x ≦ π としても一般性を失わない。
まず、 0 ≦ x < π/2 のとき、 y=cos x は単調減少で、 x ≧
sin x より、
cos x ≦ cos(sin x) すなわち、 cos(sin x)≧ cos x
また、 cos x > 0 なので、 cos x > sin (cos x)
上記の2つの不等式より、 cos(sin x)> sin (cos x) が成り立つ。
次に、 π/2 ≦ x ≦ π のとき、 −π/2 < cos x ≦ 0 なので、sin
(cos x) ≦ 0
一方、 0 ≦ sin x < π/2 なので、 cos(sin x)> 0 が成り立つ。
上記の2つの不等式より、 cos(sin x)> sin (cos x) が成り立つ。
以上から、0 ≦ x ≦ π のとき、 cos(sin x)> sin (cos
x) が成り立ち、従って、
全ての実数 x に対して、 cos(sin x)> sin (cos x)
が成り立つ。
(コメント) 今まであまり気にとめなかった不等式「 x ≧ 0 のとき、 x ≧ sin x 」の力強
いパワーに思わずひれ伏しました!このような機会を与えていただいたらすかるさん
と質問者のポルテさんに感謝いたします。
(追記) 平成18年3月1日、当HPの掲示板「出会いの泉」に、HN「ぽるて」さんから久々の
書き込みがあった。受験も終わってあとは合格発表を待つ…!だけという時間の中で、
上記の別解(?)に繋がりそうなものを発見されたとのことである。
ここでは、ぽるてさんの発見された別解を紹介したいと思う。
−π/2 < u < π/2 、−π/2 < v < π/2 のとき、 sin u < cos v を満たす点
( u , v ) の存在範囲を求める。
cos v −sin u
= cos v −cos (π/2−u)=−2sin{(π/2+v−u)/2}・sin{(v+u−π/2)/2}
=2sin{(π/2+v−u)/2}・sin{(π/2−v−u)/2}>0
よって、 sin{(π/2+v−u)/2}>0 かつ sin{(π/2−v−u)/2}>0
または、sin{(π/2+v−u)/2}<0 かつ sin{(π/2−v−u)/2}<0
ここで、 −π/2 < u < π/2 、−π/2 < v < π/2 に注意して、
−π/4<(π/2+v−u)/2<3π/4 、−π/4<(π/2−v−u)/2<3π/4
なので、 0<(π/2+v−u)/2<3π/4 かつ 0<(π/2−v−u)/2<3π/4
または、 −π/4<(π/2+v−u)/2<0 かつ −π/4<(π/2−v−u)/2<0
よって、 0<π/2+v−u<3π/2 かつ 0<π/2−v−u<3π/2
または、 −π/2<π/2+v−u<0 かつ −π/2<π/2−v−u<0
すなわち、 −π/2<v−u<π かつ −π<v+u<π/2
または、 −π<v−u<−π/2 かつ π/2<v+u<π
以上から、 sin u < cos v を満たす点( u , v ) の存在範囲は、
ただし、境界線は含まない。
このとき、単位円周上の点(cos x ,sin x )は、上記の領域内にあるので、
sin (cos x)<cos(sin x)
が成り立つ。
(コメント) ぽるてさん、証明がスッキリですね!このような計算を高校時代にやらされたの
を思い出しました。ぽるてさん、大学受かるといいね!ぽるてさんに、謝謝!
らすかるさんからのコメントです。(令和元年6月15日付け)
久々に、cos(sinx)>sin(cosx) を示す問題の解法を考えたところ、場合分け不要で計算だ
けで示せる方法を思い付きました。
{cos(sinx)}^2-{sin(cosx)}^2
={1+cos(2sinx)}/2-{1-cos(2cosx)}/2 (∵半角公式)
={cos(2sinx)+cos(2cosx)}/2
=cos(sinx+cosx)・cos(sinx-cosx) (∵和積公式)
=cos((√2)sin(x+π/4))・cos((√2)sin(x-π/4)) (∵三角関数の合成)
ここで、 |(√2)sin(x±π/4)|≦√2<π/2 から、 {cos(sinx)}^2-{sin(cosx)}^2>0
すなわち、 |cos(sinx)|>|sin(cosx)| が成り立つ。
ここで、 |sinx|≦1<π/2 から、 cos(sinx)>0 なので、 cos(sinx)=|cos(sinx)| より、
cos(sinx)=|cos(sinx)|>|sin(cosx)|≧sin(cosx)
# 半角・和積・合成はすべて加法定理から導けますので、基本的には三角関数の基本的な
性質と加法定理だけで解いていることになりますね。
(コメント) なるほど!鮮やかですね。
よおすけさんからのコメントです。(令和元年6月16日付け)
第223回実用数学技能検定準一級の2次 問題1でも、
0<α<2πとします。2つの数cos(sinα)とsin(cosα)の大小を比較しなさい。
が出題されていました。解答の方針自体は、らすかるさんと同じでした。
DD++さんからのコメントです。(令和元年6月16日付け)
2乗しなくてもいけませんかね?
cos(sinx) - sin(cosx)
= sin(π/2-sinx) - sin(cosx)
= 2 cos{π/4-(1/2)sinx+(1/2)cosx} sin{π/4-(1/2)sinx-(1/2)cosx}
= 2 cos{π/4+(√2/2)cos(x+π/4)} sin{π/4-(√2/2)sin(x+π/4)}>0
(∵ 0<π/4-√2/2、π/4+√2/2<π/2 より { } 内はいずれも常に第一象限の角)
らすかるさんからのコメントです。(令和元年6月16日付け)
あ、なるほどそっちの方がいいですね。cos(sinx)をsin(π/2-sinx)に直したりもしてたのです
が、そのときは合成すればよいことには気づいていませんでした。
(追記) 平成20年8月14日付け
冒頭で、「 θ≧0 のとき、 sinθ ≦ θ 」が成り立つことを証明したが、さらに詳しく
0≦θ<π/2 のとき、 sinθ ≦ θ ≦ tanθ
が成り立つことは数学Vの教科書に必ず紹介されている公式である。この不等式を用いて、
という重要公式が証明されるわけだが、最近、この不等式を有効に活用する問題に遭遇し
たので、備忘録として残したいと思う。
問 題
左図において、 h → ∞ のとき、 はどんな値に近づくか? |
(コメント) h → ∞ のとき、 α → 0 、 β → 0 なので、求めるものは不定形の極限
値である。 どんな値に近づくのか、大いに興味が引き起こされますね!
(解) tan α = 1/h 、 tan (α+β) = 4/h なので、
より、
ここで、
であり、 0 < α , β < π/2 において、
、
なので、
が成り立つ。
このとき、
なので、はさみうちの原理により、
(終)
上記の解では、不等式を意識して極限値を求めているが、もちろん直接的に求める方法
もある。
(別解) tan α = 1/h 、tan (α+β) = 4/h なので、
より、
ここで、
、
よって、 h → ∞ のとき、 α → 0 、 β → 0 なので、
(終)
(コメント) この結果より、 α , β は同程度の無限小であることが分かりますね!
図から、当たり前かな?
(追記) 平成21年1月9日付け
上記の計算で、 0 < α 、β < π/2 において、
、
が成り立つことから、不等式
を利用したが、最近、 0 < β < α < π/2 において、 不等式
が成り立つことに気がついた。
(証明) 両辺の対数をとって、
log(sinα)−log(sinβ)<log(α)−log(β)<log(tanα)−log(tanβ)
が成り立つことを示せばよい。
0 < β < α < π/2 において、Cauchy の平均値の定理より、
となる m 、n ( β < m , n < α
)が存在する。
ここで、 F(m)=sin m−m・cos m とおくと、 0 < m <
π/2 において、
F’(m)=cos m−cos m+m・sin m=m・sin m>0
より、関数 F(m)
は単調に増加し、 F(0)=0 なので、F(m)>0 となる。
よって、
同様にして、 G(n)=n−sin n・cos
n とおくと、 0 < n< π/2 において、
G’(n)=1−cos2 n+sin2
n=2sin2 n>0
より、関数 G(n)
は単調に増加し、 G(0)=0 なので、G(n)>0 となる。
よって、
以上から、不等式
log(sinα)−log(sinβ)<log(α)−log(β)<log(tanα)−log(tanβ)
の成り立つことが示された。 (証終)
(コメント) 0
< β < α < π/2 において、
、
から、
も示されるなんて、何か不思議な感覚ですね!
この不等式を利用しても、求める解は上記とほとんど同じで変わり映えしないが...。
はさみうちの原理を用いる問題が、平成27年度入試 東京大学前期理系で出題された。
問題 nを正の整数とする。以下の問いに答えよ。
(1) 関数g(x)を次のように定める。
g(x)=(cos(πx)+1)/2 (|x|≦1のとき) 、 g(x)=0 (|x|>1のとき)
f(x)を連続な関数とし、p、qを実数とする。|x|≦1/nをみたすxに対して、p≦f(x)≦q
が成り立つとき、次の不等式を示せ。
p≦n∫-11g(nx)f(x)dx≦q
(2) 関数h(x)を次のように定める。
h(x)=−(π/2)sin(πx) (|x|≦1のとき) 、 h(x)=0 (|x|>1のとき)
このとき、次の極限を求めよ。
limn→∞ n2∫-11h(nx)log(1+ex+1)dx
(解)(1) 関数g(x)の定義から、|x|≦1/n のとき、g(nx)=(cos(nπx)+1)/2(≧0)
|x|>1/n のとき、 g(nx)=0 なので、
p∫-1/n1/n (cos(nπx)+1)/2dx≦∫-1/n1/n g(nx)f(x)dx
≦q∫-1/n1/n (cos(nπx)+1)/2dx
ここで、 p∫-1/n1/n (cos(nπx)+1)/2dx=p[{sin(nπx)}/(nπ)+x)/2]-1/n1/n =p/n
q∫-1/n1/n (cos(nπx)+1)/2dx=q[{sin(nπx)}/(nπ)+x)/2]-1/n1/n =q/n
よって、 p/n≦∫-1/n1/n g(nx)f(x)dx≦q/n より、 p≦n∫-11g(nx)f(x)dx≦q
(2) 関数h(x)の定義から、|x|≦1/n のとき、 h(nx)=−(π/2)sin(nπx)
|x|>1/n のとき、 h(nx)=0 なので、
n2∫-11h(nx)log(1+ex+1)dx
=n2∫-1/n1/n {−(π/2)sin(nπx)}log(1+ex+1)dx
=n2([{(cos(nπx)+1)/2n}log(1+ex+1)]-1/n1/n
−∫-1/n1/n {(cos(nπx)+1)/2n}ex+1/(1+ex+1)dx)
=n(−∫-1/n1/n g(nx)ex+1/(1+ex+1)dx)
ここで、F(x)=ex+1/(1+ex+1)とおくと、
F’(x)=(ex+1(1+ex+1)−(ex+1)2)/(1+ex+1)2=ex+1/(1+ex+1)2>0 より、
|x|≦1/n において、単調増加となるので、
e-1/n+1/(1+e-1/n+1)≦F(x)≦e1/n+1/(1+e1/n+1)
以上から、
−e1/n+1/(1+e1/n+1)≦n2∫-11h(nx)log(1+ex+1)dx≦−e-1/n+1/(1+e-1/n+1)
n→∞ のとき、 −e1/n+1/(1+e1/n+1)→−e/(1+e)
−e-1/n+1/(1+e-1/n+1)→−e/(1+e)
なので、はさみうちの原理により、
limn→∞ n2∫-11h(nx)log(1+ex+1)dx=−e/(1+e) (終)
(コメント) 予備校等の問題分析では「やや難」とのことらしいです。某週刊誌によれば、この
問題は最難関の理Vの受験生以外は解かない方がいいとも言われているらしい
です。