3数の和
自然数 X 、Y 、Z に対して、その和を考え、方程式
X+Y+Z=N (Nは、与えられた自然数)
を満たす解の個数を問う問題は、順列・組合せの分野では陳腐とも思える題材である。
最近、この問題に対して、これまでの通念に刺激を与える問題設定に遭遇したので、こ
のページで、そのまとめをしようと思う。
通常、上記の問題を解く場合、解の数字の組合せが同じであっても、その順序が異なる
場合は異なるものとして扱う。
つまり、たとえば、方程式 X+Y+Z=5 で、
( X ,Y ,Z )=( 2 ,2 ,1 ) と ( X ,Y ,Z )=( 2 ,1 ,2 )
は異なる解の組として数えるということである。
高校時代に用いた参考書・問題集では、この種の問題には必ずと言っていいほど、上記
のような但し書きが添えられていた。多分今もそう...。
これまで、あまり気にも留めなかったが、このことは当然問題解法に重大な影響を与える
部分である。恐らく多くの方は、その但し書きで考えることはごく当たり前のことと思っている
かもしれない。(私もそうでした!)
ただ、この但し書きは、一般的にはすごく不自然に感じる。3数の和を考える場合、例え
ば、「3数の和が5になる場合は?」と問われれば、通常「 3、1、1 または 2、2、1」と答
える方が自然だろう。この見方は、解を、数の「組合せ」と見るもので、但し書きがある方は
解を、数の「順列」と見るものである。
この2つの見方で解の個数がどう変わるかを、まず具体例で確かめてみよう。
例1a 自然数 X 、Y 、Z に対して、方程式 X+Y+Z=3 を満たす解の個数を求めよ。
(解) ( X ,Y ,Z )=( 1 ,1 ,1 ) の 1 通りしかない。 (終)
例1b 3つの自然数の和が3となるような場合の数を求めよ。
(解) { 1 ,1 ,1 } の 1 通りしかない。 (終)
例2a 自然数 X 、Y 、Z に対して、方程式 X+Y+Z=4 を満たす解の個数を求めよ。
(解) ( X ,Y ,Z )=( 1 ,1 ,2 )、( 1 ,2 ,1 )、(
2 ,1 ,1 ) の 3 通り。 (終)
例2b 3つの自然数の和が4となるような場合の数を求めよ。
(解) { 1 ,1 ,2 } の 1 通りしかない。 (終)
例3a 自然数 X 、Y 、Z に対して、方程式 X+Y+Z=5 を満たす解の個数を求めよ。
(解) ( X ,Y ,Z )=( 1 ,1 ,3 )、( 1 ,2 ,2 )、(
1 ,3 ,1 )、
( 2 ,1 ,2 )、( 2 ,2 ,1 )、(
3 ,1 ,1 ) の 6 通り。 (終)
例3b 3つの自然数の和が5となるような場合の数を求めよ。
(解) { 1 ,1 ,3 }、{ 1 ,2 ,2 } の 2 通り。 (終)
例4a 3種類のお菓子 X 、Y 、Z がそれぞれたくさんあり、この中から6個を選び、おやつ
セットを作る。異なるおやつセットは何種類できるか? ただし、どのお菓子も必ず 1
個は入れるものとする。(H20年度 大妻多摩中学 入試問題より改題)
(解) この問題は、「自然数 X 、Y 、Z に対して、方程式 X+Y+Z=6 を満たす解の個
数を求めよ。」と全く同じである。答えは、
( X ,Y ,Z )=( 1 ,1 ,4 )、( 1 ,2 ,3 )、(
1 ,3 ,2 )、( 1 ,4 ,1 )、
( 2 ,1 ,3 )、( 2 ,2 ,2 )、(
2 ,3 ,1 )、( 3 ,1 ,2 )、
( 3 ,2 ,1 )、( 4 ,1 ,1 ) の
10 通り。 (終)
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自然数 X 、Y 、Z に対して、方程式 X+Y+Z=N (Nは、与えられた自然数)を満た
す解の個数は、一般的に、重複組合せの考えを用いて解かれる。
当然ながら、 N≧3 で、与式を、 (X−1)+(Y−1)+(Z−1)=N−3 と変形する。
このとき、求める場合の数は、相異なる3個のもの{ X−1、Y−1、Z−1
}から重複を許
して、N−3個とる組合せの数に等しいので、
3HN-3=N-1CN-3=N-1C2=(N−1)(N−2)/2
となる。
N=3 のとき、 (N−1)(N−2)/2=1 ・・・・・ 例1a
N=4 のとき、 (N−1)(N−2)/2=3 ・・・・・ 例2a
N=5 のとき、 (N−1)(N−2)/2=6 ・・・・・ 例3a
最近、重複組合せに依らない別解があることを知った。
基本となる公式は、
方程式 X+Y=K (Kは、与えられた自然数)を満たす解の個数は、 K−1 個
というもの。これは、明らかとしても問題はないだろう。
このとき、求める解の個数は次のように計算される。
このような公式を用いれば、例*a のタイプの問題は完全に解かれる。
それに対して、例*b のタイプの問題を完全に解く公式は存在するのだろうか?
一般的な公式を考えるために、
例4b : 「3つの自然数の和が6となるような場合の数を求めよ。」
という問題を、普遍的な解法というものを意識して解いてみよう。
題意を満たす自然数 X 、Y 、Z は、
方程式 X+Y+Z=6 、 X ≦ Y ≦ Z
を満たすものと考えても一般性を失わない。
このとき、最小数 X は、3X≦6 より、X≦2 なので、取り得る値は、1
または 2 となる。
X=k ( k=1 または 2 ) のとき、Y+Z=6−k 、Y ≦ Z を満たす解を求めればよい。
X の場合と同様にして、2Y≦6−k より、k≦Y≦(6−k)/2 が、自然数
Y の取り得る値
である。自然数 X 、Y の値が定まれば、方程式 X+Y+Z=6 より、自然数 Z の値は自
動的に定まる。
k=1 のとき、 1≦Y≦5/2 より、 Y = 1 、 2
k=2 のとき、 2≦Y≦2 より、 Y = 2
以上から、求める解の組は、{ 1 ,1 ,4 }、{ 1 ,2 ,3 }、{
2 ,2 ,2 } の 3 通り。
上記の計算を振り返ってみると、自然数 a を自然数 b で割ったときの商を求める必要
があることが分かる。
この計算に利用される記号がガウスの記号 [x] である。( → 参考:「ガウスの記号」)
ここでは、 自然数 a を自然数 b で割ったときの商は、[a/b]
という明らかな事実を活用することにしよう。
この記号を用いると、上記の計算は、次のように整理される。
題意を満たす自然数 X 、Y 、Z は、
方程式 X+Y+Z=6 、 X ≦ Y ≦ Z
を満たすものと考えても一般性を失わない。
このとき、最小数 X は、1≦X≦[6/3]=2 なので、取り得る値は、1
または 2 となる。
X=k ( k=1 または 2 ) のとき、Y+Z=6−k 、Y ≦ Z を満たす解を求めればよい。
X の場合と同様にして、自然数 Y の取り得る値は、 k≦Y≦[(6−k)/2] である。
自然数 X 、Y の値が定まれば、方程式 X+Y+Z=6 より、自然数 Z
の値は自動的に
定まる。
k=1 のとき、 1≦Y≦[5/2]=2 より、 Y = 1 、 2
k=2 のとき、 2≦Y≦「4/2]=2 より、 Y = 2
以上から、求める解の組は、{ 1 ,1 ,4 }、{ 1 ,2 ,3 }、{
2 ,2 ,2 } の 3 通り。
このように考えると、一般的に、自然数 X 、Y 、Z で、
方程式 X+Y+Z=N 、X ≦ Y ≦ Z
を満たす解の個数を数えるという解法の指針は明確に理解できることだろう。
(解) 最小数 X は、1≦X≦[N/3]=n なので、取り得る値は、1 以上
n 以下の自然数
である。
X=k ( 1≦k≦n ) のとき、 Y+Z=N−k 、Y ≦ Z を満たす解を求めればよい。
X の場合と同様にして、自然数 Y の取り得る値は、 k≦Y≦[(N−k)/2]=hk より、
hk−k+1 通りの場合がある。
自然数 X 、Y の値が定まれば、方程式 X+Y+Z=N より、自然数
Z の値は自動的
に定まる。
したがって、求める場合の数は、
となる。
ここで、 N=3n+r (n は自然数で、r は、0 または 1 または 2)とおくと、
hk=[(N−k)/2]=[(3n+r−k)/2]
なので、上記の和は、
と変形される。
ところで、自然数 m に対して、
m が偶数ならば、[m/2]=m/2
m が奇数ならば、[m/2]=(m−1)/2=m/2−1/2
であるので、一般的に
と書くことが出来る。このとき、
であるので、求める場合の数は、
となる。 (終)
この公式を
例4b : 「3つの自然数の和が6となるような場合の数を求めよ。」
という問題に適用してみよう。
6=3・2+0 なので、n=2、r=0 を上記の公式に代入すると、
与式=(3・22+2・2・0)/4+(−1)0(1−(−1)2)/8=3
となり、先の計算結果と一致する。
上記で公式なるものを求めたが、決して覚えやすい形にはなっていない。若干式変形を
試みて覚えやすい形にしよう。
であるので、
の挙動が問題となる。
r=0 のとき
r=1 のとき
r=2 のとき
以上から、求める場合の数は、
となる。
例5b 3つの自然数の和が7となるような場合の数を求めよ。
(解) 上記の公式を用いれば、
すなわち、
となり、求める場合の数は、4となる。 (終)
実際に、その解の組を求めてみれば、
{ 1 ,1 ,5 }、{ 1 ,2 ,4 }、{ 1 ,3 ,3 }、{ 2 ,2
,3 }
の4通りである。
ところで、題意より、
は必ず存在し、しかも、ただ一つである。このことを考えると、求める場合の数は、簡単に、
に最も近い自然数といってもよいことに気がつく。
いま、整数 X に最も近い整数を、(X) と表すことにする。
すなわち、 X−[X]<0.5 ならば、 (X)=[X]
X−[X]>0.5 ならば、 (X)=[X]+1
(注意) (X)という記号は、X−[X]≠0.5 の場合に限って使用される。
この記号を活用すれば、自然数 X 、Y 、Z で、方程式 X+Y+Z=N 、X ≦ Y ≦ Z
を満たす解の個数は、
で与えられる。
例6b 3つの自然数の和が8となるような場合の数を求めよ。
(解) 82/12=64/12=5+1/3 に最も近い自然数は、5 なので、
求める個数は、5個 (終)
実際に、その解の組を求めてみれば、
{ 1 ,1 ,6 }、{ 1 ,2 ,5 }、{ 1 ,3 ,4 }、{ 2 ,2
,4 }、{ 2 ,3 ,3 }
の5通りである。
上記の計算で、
例1b 3つの自然数の和が3となるような場合の数は、1通り
例2b 3つの自然数の和が4となるような場合の数は、1通り
例3b 3つの自然数の和が5となるような場合の数は、2通り
例4b 3つの自然数の和が6となるような場合の数は、3通り
例5b 3つの自然数の和が7となるような場合の数は、4通り
例6b 3つの自然数の和が8となるような場合の数は、5通り
という結果を目にすると、何となく
N≧4 で、3数の和がNとなる場合の数は、 N−3 通り(?)
という期待(?)を持たされるが、N=9 の場合に見事にその期待は裏切られる。
実際に、92/12=81/12=6+3/4 に最も近い自然数は、7 なので、3つの自然数の
和が9となるような場合の数は、7 通りであり、6 通りではない!
左図から、
y=(1/12)x2
y=x−3
という2つのグラフの接近する
様子がうかがえる。
この3数の和の問題は、次のような問題とも同等である。
正N角形の頂点を3つ選んでできる三角形の総数はいくつあるか?
ただし、合同なものは区別しないものとする。
左図のように、正N角形は円に内接している。正N角形のN個
の頂点で、円周はN等分される。2つの頂点を結ぶ弦は、いくつ
かの等分された円弧により作られる。
3つの自然数の和がNとなるような場合の数は、方程式 X+Y+Z=N 、X
≦ Y ≦ Z
を満たす自然数 X 、Y 、Z の組の数であり、この X 、Y 、Z の値がそれぞれ円弧の数を
表す。
N=6 のとき、その解は、{ 1 ,1 ,4 }、{ 1 ,2 ,3 }、{
2 ,2 ,2 } の 3 通りであ
ったが、これらの場合は、次のような図形と1対1に対応する。
このような視点で数学を考えると、次のような一見難しそうな問題も易しく見えることだろう。
問 題 正十角形の頂点を3つ選んでできる三角形の総数はいくつあるか?
ただし、合同なものは区別しないものとする。
(解) 102/12=100/12=8+1/3 に最も近い自然数は、8 なので、求める場合の数は、
8 個である。 (終)
(参考文献: ア・ヤグロム、イ・ヤグロム 著 筒井孝胤 訳
初等的に解いた高等数学の問題(T) (東京図書)
根上生也、中本敦浩 著 基礎数学力トレーニング (日本評論社))