調和数
平成20年9月17日付けで当HPの掲示板「出会いの泉」に、「格子点」の問題を投稿さ
れたHN「空港」さんが、次のような面白い問題を発見された旨の報告があった。
n が2以上の整数のとき、
は整数ではないことを証明せよ。
この問題は、ヴィノグラードフの「 整数論入門 」(共立全書)にあるらしい...。
問題視されている数は、自然数列の各項の逆数から作られた調和数列の初項から第
n
項までの和で、調和数(Harmonic Number)と言われる。
調和数が整数にならないことは、タイシンガー(1915年)の問題として知られる。
エルデシュ(1932年)は、この問題を一般化して、
は整数にならない
とした。特に、d=1の場合については、クルシュチャク(1918年)により与えられた。
空港さんが書き込まれたわずか19分後に、当HPがいつもお世話になっている、らすか
るさんが証明を寄せられた。らすかるさんに感謝します。
2p ≦ n < 2p+1 とすると、分母が 2p 以外の項の分母は、2p を素因数に含まないの
で、1/2p 以外の項を通分して既約分数にするとき、分母は、2p にならない。分母が 2p
でない既約分数に、1/2p を加えても整数にならないので、与式が整数になることはない。
(コメント) あまりに鮮やかすぎる証明で感動しました。
もう少し詳しく、この問題を考察してみよう。
Hn=1+1/2+1/3+・・・+1/n とおく。
n≧2 なので、 n=2 のとき、 H2=1+1/2=3/2
n=3 のとき、 H3=1+1/2+1/3=11/6
n=4 のとき、 H4=1+1/2+1/3+1/4=25/12
n=5 のとき、 H5=1+1/2+1/3+1/4+1/5=137/60
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
上記の計算から次のことが分かる。
分母が 2p (p≧1)である項のうち最大のものを考える。このとき、1/2p 以外の項を通
分して得られる既約分数の分母に2p が含まれることはない。
さらに、その既約分数に1/2p を加えると、Hn の分母は必ず偶数で分子は奇数となる。
このことからも、Hn が整数になり得ないことがうかがい知れる。
多分、らすかるさんの証明の背景を考えると、上記のような事情なのだろうと推察される。
きっちり証明しようと思えば、次のような証明になるだろう。
(証) 2p ≦ n < 2p+1 を満たす最大の自然数を p とし、n 以下のすべての奇数の積を
K とする。
Hn=1+1/2+1/3+・・・+1/2p+1/(2p+1)+・・・+1/n において、
2p-1K×Hn
=2p-1K×{1+1/2+・・・+1/(2p−1)+1/(2p+1)+・・・+1/n}+2p-1K×1/2p
={整数}+K/2
となる。
よって、明らかに K/2 は整数にはなり得ないので、Hn は整数にはなり得ない。(証終)
当HPがいつもお世話になっているHN「zk43」さんから、平成20年9月17日付けで別証
をお寄せいただいた。
チェビシェフの定理を使う証明とのことである。
チェビシェフの定理(1850年)
1より大きい自然数 x に対して、x と 2x の間には少なくとも一つ素数が存在する
zk43さんからいただいた証明をなぞってみよう。
(証明) n 以下の最大の素数を p とする。このとき、p の次に大きく p
を素因数にもつ自
然数は、2p である。
もしも、 2p ≦ n ならば、チェビシェフの定理により、p と 2p
の間に、ある素数 q
が存在する。 p<q<2p≦n なので、これは、p の最大性に矛盾する。
よって、 2p > n が成り立ち、n 以下には、p を素因数に持つものは
p のみと
なる。いま、 1+1/2+・・・+1/p+・・・+1/n=N(自然数) と仮定する。
1+1/2+・・・+1/(p−1)+1/(p+1)・・・+1/n=N−1/p=(Np−1)/p
において、右辺は既約分数である。
左辺を通分して既約分数にしても、分母には素因数 p が含まれることはない。
これは右辺の分母に素因数 p があることに矛盾する。
以上から、 1+1/2+・・・+1/n は整数になりえない。 (証終)
(コメント) チェビシェフの定理を持ち出すまでもなく、証明の趣旨が同一な、らすかるさん
の証明の方がスッキリしていて分かりやすいですね!別証をお寄せいただいた
zk43さんに感謝します。
(追記) 平成20年12月25日付け
zk43さんから次のような等式が成り立つことを伺った。
(調和数) Hn=1+1/2+1/3+・・・+1/n
(三角数) Tn=1+2+3+・・・+n=n(n−1)/2
(四角数) Sn=1+3+5+・・・+(2n−1)=n2
に対して、
ただし、 ζ(s)は、ゼータ関数で、次の式で定義される。
zk43さんによれば、非常に興味深いとのことで、調和数と多角数の関係に何らかの規
則性があるのかな?と考えていらっしゃるとのこと。
私自身は、
という等式に美しさを感じますが、上記の等式には、美しい以上の何か妖艶な雰囲気が醸
し出されているような...。
以下、工事中