面接点の数量化                           戻る 

 入学試験とか入社試験とか、さまざまな場面で、基礎・教養をみる学科試験とは別に、面
接試験が取り入れられることは少なくない。むしろ学力でははかれない総合的なものをみよ
うということで積極的に採用されている。

 ところで、学力試験は、たとえば、0 〜 100 の間で数量化され、その1点1点は全く公
平で、ある意味で「連続的」である。それに対して、面接試験の結果は、例えば、「秀・優・
良・可・不可」等のように評価が、ある意味で「離散的」である。このままでは、学力試験の
結果と単純に合計することは難しい。

 そこで、学力検査等の点数と合算をするためには、面接点の評価(秀・優・良・可・不可の
5段階、順序尺度)から間隔尺度への合理的な変換が求められる。

 このことに関して、「エントロピー」を用いた方法が人間の感性に合っているということを、
何かの本で読んだような気がする。すなわち、5段階の離散的すぎる評価を、a〜b(a<b)
の連続的な評価に変換したい訳である。

 しかし、「エントロピー」という言葉は、もともと物理の熱力学に出てくる言葉である。

 物質や熱の出入りのない系ではエントロピーは決して減少せず,不可逆変化をするとき
には,常に増大するという「エントロピー増大の法則」が有名であるが、この「エントロピー」
が、先ほどの話題とどのような関係があるのか、ちょっと推し量ることは難しい。

 「エントロピー」はまた、系の乱雑さ・無秩序さ・不規則さや情報の不確かさの度合を表す
量という意味も持っている。多分、この不確かさの度合(確かに、面接試験は、学力試験が
きっちりと結果が客観的に示されるのに対して、ある程度の不確かさを有する)をはかると
いう「エントロピー」の概念が利用されるのだろう。

 このことに関して、戸田盛和 著 「エントロピーのめがね」(岩波書店)の説明は分かり易
かった。

 上記の本によれば、「数学的エントロピー」なるものを次のように定義している。この場合
の「エントロピー」とは、「多様さやでたらめさ」を表す指標のことである。

 N個の箱があり、そのどれかに一つの球が入っている状態を考える。

もし、N=1 ならば、確実にその箱に球は入っていることになり、「多様さやでたらめさ」は
全くないので、エントロピーは、「0」であると考える。

もし、N=10 ならば、球の入れ方は全部で、10通りある。したがって、10通りの「多様さ
やでたらめさ」があると考えられる。

N=100 のときも同様で、球の入れ方は全部で、100通りあり、100通りの「多様さやで
たらめさ」がある。

 今、N個の箱に、一つの球を入れる方法の数を W とするとき、10を底とするWの対数

        

を、N のエントロピーと定義する。

 このようにエントロピーを定義する方法は、何となく「フラクタル次元」の定義に似ている。

 この定義によれば、N=1 のときのエントロピーは、1=100 なので、0
             N=10 のときのエントロピーは、10=101 なので、1
             N=100 のときのエントロピーは、100=102 なので、2
ということになる。

 このことは次のようにも考えられる。

 N個の箱があり、そのどれかに一つの球が入っている状態を考える。例えば、N=10 の
とき、球の入れ方は全部で、10通りある。これを情報量と考えると、1つの箱当たりの情報
量は「1」となる。一つの球がある箱に入る確率は1/10である。情報量はこの確率を用いて

   −log10(1/10) (これは、「1」に等しい!)

とも表される。このとき、エントロピーを情報量の期待値と考えれば、

  E=Σ{−(1/10)・log10(1/10)}=(1/10)・10=1

となり、先の結果と一致する。

 上記では、一つの球の入れ方により、エントロピーを計算したが、もちろん、二つの球の
入れ方を考えた場合は、その多様さは増大する。

 例えば、10個の箱に、赤球と白球を入れる方法の数は、100通りあり、この場合のエン
トロピーは、2 となり、一つの球の場合に比べて、「多様さやでたらめさ」は、2倍になってい
る。すなわち、球を入れる多様さがたくさんあるほどエントロピーは大きくなる。

 上記の本によれば、このエントロピーは物理学でいうエントロピーそのものではないが、
互いに比例するそうだ。

 冒頭の話題について考察しよう。

 区間[a,b]に対して、確率密度関数 F(x)=1/(b−a) とすると、 ∫F(x)dx=1 が
成り立つ。このときのエントロピーは、 ∫{−F(x)・logF(x)dx=log(b−a) である。

例 受験生40人に対して、面接の結果、その評価の分布は、

    秀(7)・優(10)・良(15)・可(5)・不可(3)

となった。a=60、b=100としてみると、それぞれに対応する得点区間は次のようになる。

  秀(93〜100)・優(83〜93)・良(68〜83)・可(63〜68)・不可(60〜63)

 得点区間の中央値を得点とすると、

  秀(96.5)・優(88)・良(75.5)・可(65.5)・不可(61.5)

 と5段階評価は、数値に変換される。


(コメント) 上記の例では、度数=得点区間の幅となっているが、このことがエントロピーと
      どう関係するのかは、今後の研究課題としよう。


  以下、工事中