平方根・立方根を筆算で求める方法       戻る

 近所の図書館では毎年古本市を開いている。在庫があるとか、貸出利用がないとかで
不要になった書籍を無料で開放している。隣町では、一人20冊までとかの冊数制限を設
けているが、我が街の図書館は冊数無制限である。そんな太っ腹な所が好きで、毎年足
を運んでいる。朝10時開館前から並ぶ人も多く、会場は超満員であった。

  今年も、30冊近く本をGETすることができた。その中で気になる本が1冊あった。

昭和9年初版発行、昭和17年9月13日に13版発行(2000部)と記された

  問谷 力・森本清吾著  袖珍 数学公式要覧(山海堂出版部)

という本である。(出版社は、現存する「山海堂」のことだと思うが、詳細は不明。)

 公式集としては、高校生向けの『科学新興社モノグラフ24.公式集』が有名であるが、
上記の公式集は、小学校から大学初年級位までの、数学のありとあらゆる公式が網羅
され読むものを圧倒する迫力が感じられた。多分もう絶版だと思うが、惜しい限りである。

 学習指導要領も改訂の度ごとに内容が削減され、数学教育に携わる者として寂しい思
いをしていた。ただ、今度の新学習指導要領では、それまでの上限という認識から、下限
という認識に立って教えていいことになったので、生徒の興味のおもむくまま、これまでは
躊躇していたいろいろなことを紹介していきたいと思う。その材料を上記の本に見つける
ことが出来たのである。

 私が高校生のころ、教科書のコラムに「開平法」というのがあり、そこで、筆算で平方根
を計算する方法を学んだ。同年代の人に聞くと、「やったね!」という声が返ってきたので、
多分日本全国で、開平法というものが高校生の目に触れる機会はあったのだと思う。でも、
今はどの教科書をみてもその記述はないようである。上記の本では、その開平法はもちろ
んのこと、私が知らなかった開立法というものも紹介されていた。因みに、開立法について
は、我々より一世代前の方はご存知のようである。

 九去法とあわせ、それらをこのホームページで紹介し、先人たちが学んだことを、少しで
も我々が受け継ぎ、それらを後世に残していきたいと思う。
(開平法の原理については、こちらを参照)

○ 開平法

例 85248289 の平方根を求めよ。

 (手順)
 1.右より2位ずつ区切る。
 2.平方して85より小さくなる最大の数9を
  求める。
 3.副運算の方で9+9を計算して18を求
  め、主運算の方で9と9を掛け合わせて
  81を求め、85より引き、4を出す。
 4.その4の横に上の24を下ろし、424を
  つくる。

5.副運算の18*に*を掛けて主運算の424より小さくなる最大の*を求めて2を得る。これ
 が平方根の次位となり、主運算で9の横に入る。副運算の182に2を掛けて364とし、こ
 れを上の数から引いて60を得る。
6.副運算で182と2との和を求める。この184は、副運算で92+92を計算していること
 に相当する。
7.上記のような操作を続ける。開ききれないときは、0を右側に2つずつ添えていき、操作
 を続ける。


 上記の計算から、85248289 の平方根は、9233 となる。

(コメント) 計算機に頼らず、手計算で平方根が求められることに感動しました!

○ 開立九九

 平方根を求めるために数の平方が使われたように、立方根を求めるために次の計算は
使われる。

3=1、23=8、33=27、43=64、53=125、63=216、73=343、83=512、93=729

○ 開立法

例 95193593496 の立方根を求めよ。

   
(手順)
1.右より3位ずつに区切る。
2.開立九九を用いて、95より小さい数で最大のものを探し、立方根の首位4を求める。
3.43=64を95より引き、31を出す。31の横に上の193を下ろし、31193を作る。
4.求めた数4の3倍12と42=16の3倍48を作り、これを第一及び第二副運算の数とする。
 第二副運算の横に0を2つ並べる。
5.第一副運算で12*に*を掛けて、第二副運算の4800を加えたものにさらに*を掛けて出
 来る数のうち、主運算の31193より小さくなる最大の*を求めて、5を得る。
6.第一副運算で12にこの5を添えて125とし、第二副運算では、これに更に5を掛けた数
 625と4800との和5425を求める。これに更に5を掛けて27125とし、これを主運算の
 31193より引き、その値4068に上から下ろした593を添えて4068593とする。
7.第一副運算で125に5を2つ加えて135を作る。これは、45の3倍を計算していることに
 相当する。第二副運算では先ほどの数5425に更に625と52=25を加え6075を得る。
 これは、452=2025の3倍を計算していることに相等する。
8.上記のような操作を続ける。


○ 九去法

 電卓の普及により四則計算は容易になったが、計算の結果が正しいだろうかと疑問に思
ったとき、実は面白い検算法がある。それは九去法というものである。この方法については

  和田秀男 著  数の世界 整数論への未知(岩波書店) p.2〜p.5

に詳しく述べられている。その原理は、

 A×B=C という計算で、A、Bを9で割った余りの積を更に9で割った余りは、
Cを9で割った余りに等しい


というものである。A+B=Cについても同様である。

 ある数を9で割った余りを求めるには、その数の各位の数字の和を求め、その和の各位
の数字の和を求め、これを繰り返して、一位の数字を求めればよい。

 これらのことを用いて、四則の検算をすることが出来る。

例 257813×2481=639634053 は正しいか?

  257813 → 2+5+7+8+1+3=26 → 2+6=8
  2481 → 2+4+8+1=15 → 1+5=6
  よって、 8×6=48 → 4+8=12 → 1+2=3 より、左辺を9で割った余りは、3

  639634053 → 6+3+9+6+3+4+0+5+3=39→3+9=12→1+2=3
  よって、右辺も9で割った余りは、3

  以上から、この計算は正しいだろうと判断される。

(注意) もちろん、両辺を9で割った余りが一致するからと言って、計算が実は間違ってい
    るということもあり得る。ただその可能性は、上記の計算をする前の九分の一に減っ
    たという意味で、九去法の意義があるのである。

 九去法を使えば、次のような数当てゲームが出来ると、和田秀男 著 「数の世界」 には
書かれている。面白いゲームなので紹介したい。

(遊び方)

1.一つの数を紙に書く。
2.各位の数字の和を求める。
3.もとの数から2.で求めた数を引く。
4.3.で得られた数の各位の数字の順番をめちゃめちゃにして、新しい数を作る。
5.その数に81を加える。
6.5.で出来た数の各位の数字のうち、一つの数字を消す。
7.各位の数字の和を求める。
8.9から(7.で得られた数を9で割った余り)を引いて得られる数が、6.で消された数字と
 なる。

開平法の原理

 開平法については、私自身高校生のころ学んだわけであるが、その原理について深く考
えようとしたことは、恥ずかしながら、今まで一度もなかった。大学受験ということもあるが、
「解ければO.K.」という考えが先に立ち、立ち止まってじっくり取り組むという時間もなかっ
た。全てが効率主義であったと、今大いに反省しているところである。ただ、「突っ走って先
を急ぐ」ということも数学の学習では大切であると思う。一つの高い山に登る場合、山道を寄
り道しながら進むよりも、一気に山頂に登りつめ、山頂から今登ってきた道を振り返る方が、
はるかに見通しよく山を語ることができる。数学の学習でもその方法は有効で、深入りしす
ぎて迷路に迷い込むこともなくなる。ある程度直感的に正しいと思うことは、深く考えずどん
どん先に進むという方が精神衛生上にもいいのかもしれない。数学のノーベル賞といわれる
フィールズ賞を受賞された広中平祐氏も、細く、先を急ぐという学習をされていたと聞く。(特
異点解消理論によりフィールズ賞を受賞された後、文化勲章を受章され、日本に一時帰国
されたときのNHKでの対談より)
 このページでは開平法の原理について、具体例を通して眺めてみたい。
  (231)=53361 なので、53361の平方根は 231 である。
ここでは、53361を与えて、その平方根231が求まる原理を調べようと思う。
(231)=53361の両辺を、10進法展開すれば、
    (2×100+3×10+1)=5×10000+3×1000+3×100+6×10+1
となる。従って、a、b、cを、0〜9の整数として(ただし、aは0でない)、
    5×10000+3×1000+3×100+6×10+1=(a×100+b×10+c)
を満たすa、b、c を合理的に見つける手順を探せばよい。
 ところで、a×100 を a00 などと表すことにすると、
  (a00+b0+c)=a0000+b00+c+2ab000+2ca00+2bc0
              =a00+(2a00+b0)×b0+(2a00+2b0+c)×c

と変形される。
 この式を見ると、副運算で、なぜ、あのような計算を行う必要があったのか、鮮やかにそ
のからくりが見えてくる。
 50000+3000+300+60+1=(a00+b0+c) において、まず、左辺の50000
に関係するのは、右辺ではa00 のみである。
 (a00)が一番50000 に近くなる、即ち、aが一番5に近くなる数を探す。
このことにより、a=2 が定まる。次に、
 (a00+b0+c)− (a00)を求めて、この値に一番近い値(2a00+b0)×b0 を与え
る b を見つけなければならない。そのために、副運算の方で、
2a00 を求めておくのであ
る。
c についても以下同様である。開平法のからくりの図式を次にまとめてみた。

     

特に、X−a0000−2ab000−b00−2ca00−2bc0−c=0 のとき、
  X=a0000+2ab000+b00+2ca00+2bc0+c
   =(a00+b0+c)
が成り立つ。



(追記) 令和2年1月26日付け

 上記で説明されている「開平法のからくり」を、別な視点で、もっと分かりやすく説明したい
と思う。

 を例にとる。近似値を覚えている方は、 =2.64575・・・(菜に虫いない) と言
えると思うが、ここでは、

  2<<3 から、 =2.a・・・=2+(a/10)+・・・  (aは、0≦a≦9の整数)

として、aの値を求める手順を考える。

 1辺の長さがの正方形を考えると、上式は、1辺の長さが2の正方形に少しずつ図形
を継ぎ足して、1辺の長さがの正方形に近づけるものと考えられる。

   

 このとき、 2×2+2×(a/10)+2×(a/10)+(a/10)2+・・・=7 なので、

  2×(a/10)+2×(a/10)+(a/10)2≦7−2×2=3 から、

すなわち、 {(2+2)×10+a}×a≦300 を満たす最大数aを求めればよい。

 このように考えていくと、小数点を境になぜ2桁ずつ区切るのかとか、なぜ「2+2」を計算
するのか等、その理由が明確に分かり、次の計算図が理解されることと思う。