留数定理の応用                     戻る

  [目 次]   1.定積分の計算問題(直接的解法)
          2.積分定理と留数定理
          3.定積分の計算(留数定理による解法)

 今からおよそ2200年ほど前、シラクサのアルキメデス(紀元前287?〜紀元前212)は、
「直線と放物線によって囲まれる任意の切片の面積は、この切片と同じ底辺、等しい高さを
持つ三角形の面積の3分の4倍である」ことを確かめている。これについては、高木貞治 著
「解析概論」(この本は、私が学生の頃、数学を志すものの必読書とされていた)にセンセー
ショナルに取り上げられているので、ご存知の方も多いと思う。
 特殊な曲線・曲面に関する求積法(積分法)は、古代ギリシア以来とりあげられ、多くの場
合に解かれていたようである。
 これに対して、関数の極値および曲線の接線に関する問題は、17世紀始めに提出された
が、ニュートン、ライプニッツにより微分法が確立され、その大部分が答えられている。微分
積分と呼ばれる数学が実質的に確立されたのは、17世紀の60〜70年代で、18世紀まで
微分積分を中心に数学は発展した。
 フォーブス、ディクステルホイス著「科学と技術の歴史」(みすず書房)によれば、「ニュート
ン、ライプニッツの最大の業績は、求積法の問題が微分法の逆であることを指摘することに
よって、独立に発展してきた数学のこの2分野の間の関係を確立したこと、そして、両者の一
般的計算方法と一般的記号を導入したこと」であるという。
 微分積分の起源は、上記のことから図形的問題からきていることは、歴史的事実である。
そこで、図形の面積を求めることが、定積分の一つの目標になったわけである。ただ、定積
分は、面積・体積の計算のみにとどまらない。立体の重心計算や慣性能率、回転運動のエ
ネルギー、ポテンシャルなどの力学的応用問題で、定積分の計算はしばしば必要である。
 定積分は、周知のとおり、不定積分が求められれば易しいが、不定積分がひどく複雑な関
数になることが多い。簡単な関数に対しても、その不定積分が初等関数の範囲では求めら
れないことも少なくない。仕方なく、台形公式やシンプソンの公式により、近似計算でお茶を
濁さざるをえない場合もある。特殊な区間の定積分は、いろいろ工夫して求められている。
 コーシーが複素変数の関数を考え、積分定理や留数の定理などを得た(1820年代)のは、
定積分計算の統一的な方法を求めたいというのが直接の動機であった。
 このページでは一つの定積分の計算問題を考え、留数定理の応用とその優秀性を紹介し
たいと思う。

(参考文献:田村二郎 著 解析函数(裳華房)
       山下純一 著 数学史物語(東京図書)
       高木貞治 著 解析概論(岩波書店)
       稲葉三男 著 微分積分の根底をさぐる(現代数学社)
       フォーブス、ディクステルホイス 著 科学と技術の歴史(みすず書房)
       谷口 勝 著 微分積分(旺文社)
       佐々木重夫、和田秀三、寺田文行 著 微分積分学(廣川書店)
       洲之内治男、寺田文行、網屋正信 著 演習 関数論(サイエンス社)
       志賀浩二 著 解析性(岩波書店))