積分定理と留数定理                  戻る

 表題の定理を紹介するために、いくつか言葉の定義をしなければならない。あまり厳密な定義
は、このホームページの性格上避けなければならないので、概略的な定義に留める。詳しくは、
専門書にあたられたい。
 a、bを実数として、「a+bi」の形の数を複素数という。ここで、i は2乗すると−1になる性質を
持つ。複素数と平面上の点は1対1に対応する。従って、複素数全体というのは、平面全体をイ
メージしてもらえばよい。
 連結な開集合を領域という。これも、切れ目のない漠然とした広がりと考えればよろしい。
領域Dの各点Zに、それぞれ1つの複素数Wが対応しているとき、WはZの関数であるという。
領域Dのある点で、関数が微分可能ということも、実数関数のときの微分可能の定義を拡張し
たものと考えてよろしい。領域Dの各点で微分可能であるとき、関数は正則であるという。
 (この「正則」という言葉は、コーシーが1820年代より使い始めたらしい)

定理A  関数F(Z)が領域Dで正則ならば、コーシー・リーマンの関係式が成り立つ。
   すなわち、F(Z)=U+Vi 、Z=X+Yi のとき、 Ux=Vy 、Uy=−Vx
                           (ここで、UxはUのXに関する偏微分で、他も同様)
   逆も成立する。
(証明) W=F(Z)=U+Vi とおくと、Zx=1、Zy=i であることに注意して
     Wx=Ux+i Vx=F’(Z)Zx=F’(Z)    (但し、F’はFの微分である。他も同様)
     Wy=Uy+i Vy=F’(Z)Zy=F’(Z)i
  よって、Ux+i Vx=−i (Uy+i Vy)=Vy−i Uy
  従って、Ux=Vy 、Uy=−Vx が成り立つ。
逆の証明は略する。(全微分の定義を用いることにより示される)

コーシー・リーマンの関係式が成り立たないと、関数は正則とはならないので、これはかなり厳
しい条件である。

(例) 正則でない関数と正則な関数

 関数 F(Z)=X2+iY2 は正則でない。関数 F(Z)=X2−Y2+2iXY は正則。

 1変数の関数の定積分は、図形の面積を1つのモデルとしている。2変数の関数の定積分
は、空間の曲面とXY平面との間に生ずる体積をモデルとしている。

 関数F(X、Y)の有界閉領域Dにおける定積分は、

       

 と表される。この積分は、逐次積分により求められる。

(例)逐次積分

 

 平面内にAを始点、Bを終点とする1つの曲線Lを考え、Lに沿った積分

       

線積分という。

(例)線積分
 平面上、点(0,1)から原点中心、半径1の円周上を半時計回りに進み、点(1,0)に至
る曲線をLとする。このとき、

     

Greenの定理  閉領域Dの周を正の向き(領域D内の点を左手にみるように半時計回
           りに進む)にとって、Lとするとき、

          

証明は略するが、逐次積分の考えにより、計算される。
 この定理は、重積分と線積分との関係を表すもので、左辺のD上での積分値が、実はL
上でとる値だけで定まってしまうということを表している。

コーシーの積分定理  関数F(Z)が閉曲線CおよびCで囲まれた領域D上で正則ならば、

                     

(証明) まず、F(Z)=U+Vi が正則なので、Ux=Vy 、Uy=−Vx が成り立つ。
    このとき、Greenの定理により、

     

次の定理はコーシーの積分定理より帰結される。

定理B  LとL’は単一閉曲線(始点と終点が一致し、それ以外一致しない)で正の向き
    にまわる向きをもつ。L’はLに囲まれた閉領域に含まれ、LとL’に囲まれた領域上
    で、関数F(Z)が正則ならば、

         

この定理は、次のように一般化される。

定理C  Lは点α、β、・・・、γを内部に含む単一閉曲線で、LおよびLで囲まれた領域
    上で、関数F(Z)は正則とする。また、点α、β、・・・、γを中心とし、Lの内部に円
    周A、B、・・・、Cをかくとき、次が成り立つ。

        

定理D(ある特殊な定積分の計算) Cを中心α、半径rの円周とする。このとき、

        

(証明)  Z−α=r・iθ と置換することにより直ちに求められる。

留数(Residue)  関数F(Z)がαで正則でないが、αのある近傍ではα以外の全ての
    点で正則なとき、αを関数F(Z)の孤立特異点という。このとき、

           

    の値は曲線Cの選び方に無関係に定まる。この値を、関数F(Z)のαにおける留数
    といい、Res(α)と表される。

留数の計算  次の2つの方法が簡便である。ほかに、部分分数分解による方法もある。

(方法その1) αがF(Z)の孤立特異点で、Z→αのときの(Z−α)F(Z)の極限値Rが存
        在するとき、Res(α)=R である。

(方法その2) F(Z)、G(Z)がαで正則で、G(α)=0、G’(α)≠0のとき、
        F/G の留数 Res(α)は、F(α)/G’(α) に等しい。

(例) F(Z)=1/Z(Z−2i)において、α=0、2i
   このとき、Res(0)=i/2、 Res(2i)=−i/2 である。

留数定理  関数F(Z)が閉曲線C内に孤立特異点α1、α2、・・・、αn を持ち、それ以
       外の閉曲線CおよびCで囲まれた領域D上で正則であるとする。このとき、

             

  証明は、留数の定義と定理Cから明らかであろう。

(例)留数定理を用いた定積分の計算

  

  (解) Res(0)=−1/3 なので、求める値は、−2πi/3 である。

 余談になるが、留数定理を大学2年生のときに学んで、大いにショックを受けたことを覚
えている。なぜなら、積分の計算なのに、そういう計算もなく、積分が求まってしまうから。
「ちょっとズルだな〜?」というのが、その当時受けた印象である。(塾長)

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