錯視について                          戻る

 人間の目ほど、当てにならないものはない。例えば、同じ長さの線分でも、水平線より垂直
線の方が長く見える。約5%程度、垂直線の方を短くしないと同じ長さに見えないという。従っ
て、正方形を正しく書いてしまうと、見る人によっては、縦長の長方形に見えてしまうわけだ。

              

 また、三角形の高さのちょうど半分の点は、高さの半分と感じる点よりも少し上にずれてい
るように感じる。

             

 したがって、高さの半分に素直に字などを書いてしまうと、非常にバランスの悪い構図にな
ってしまう。デザインを専門にやっている人たちは、当然ここら辺のところを十分注意している
のだろう。もっとも、そういう方々は、感覚的に違和感を感じて、構図を考えると思うが...。

 この他にも、いくつか例をあげるので、目の前に見えていることと実際がいかに感覚的に
ズレているかを、十分楽しんでもらいたい。きっと、世事に疲れた頭も癒されることでしょう。

例1 どちらが長い?
       

     実は、上下とも長さは同じ        実は、青色の対角線の長さは同じ
                               (参考:Sander 1926)

例2 曲がっているかな?
         

               実は、青色の図形は、正方形
                (参考:Orbison 1939)

例3 下から見てるのかな?

                 


    (追記) 平成19年1月13日放送の「世界一受けたい授業!!1億人の国語算数
        理科社会音楽2007熱血先生大集合SP」(NTV系 19:00〜20:54)で、この
        例に関する話題が、俳優の武田鉄矢さんから紹介された。

          下図は、線画のみで画かれた立方体である。

                

         この立方体には、2つの見え方がある。

                  

         このように、表面かと思いきや裏面にもなりうるという錯視を利用した立方体
        のことを、ネッカーキューブというそうだ。

         上の2つの図は、角が出っ張っているのか凹んでいるのか分かりにくい。番
        組では、下図のような図(緑色の線が動く!)で説明されていた。

            

          このネッカーキューブの話題は、『3年B組金八先生』でも取り上げられた
         と言うが、私は見ていないので詳しくは知らない。

例4 平行でないかな?

               

               実は、7本の斜線はすべて平行

例5 真っ直ぐかな?

                 

                 実は、直線の矢印
               (参考:Poggendorff 1860)

(参考文献:ナギビン 著 山崎 昇・宮本敏雄 訳 数学玉手箱(東京図書)
       馬場雄二 著 不思議発見!アイマジックパズル82(講談社))


(追記) 令和3年10月15日付け

例6 人間の血管は青い?

 「チコちゃんに叱られる!」(NHK総合(19:57〜20:42))で、人間の血管は実は肌色に近い
灰色で、そのとき、人間の眼の錯角で青色に見えるのだという。

 近い色があった場合には、それらを区別するために、人間の眼は、血管を肌色の補色の
青色と認識するらしい。


(追記) 令和3年10月20日付け

 令和3年10月20日(水)、学士会館にて午餐会が開かれ参加してきた。参加者は、63名。

    

 この日の講演テーマは、錯視研究の第一人者である杉原厚吉氏(明治大学教授)による

 「見ることの常識が通じない錯視研究の最前線」

であった。杉原氏は、米国の神経相関学会が毎年開催している「世界錯覚コンテスト」にお
いて、優勝4回、準優勝2回を誇っており、楽しみな講演会となった。そのときの優勝作品も
展示され、不思議な錯視体験が出来た。

 錯視の他に不可能物体についても、いろいろなお話を伺うことができた。

 講演終了後には、質問タイムもあり、楽しい1時間を過ごすことができた。

 杉原氏によれば、人間は、生まれたときより直角に囲まれて生活しているので、人間の脳
は、対称性を好み、直角を優先する傾向があるという。この傾向を利用して、いろいろな不
可能物体が作られるようだ。実際の見た目は直角ではないのに、直角であると脳は勘違い
してくれるらしい。

 これまでの生活体験から、直角と考えて間違いないと判断するようだ。錯視を通して、人間
の脳がどういう反応を見せるのかが分かり、興味は尽きない。

 講演会場は、上記の写真の3階相当部分(実際は2階)の左の部屋(201号室)であった。

 学士会館は、いろいろなドラマのロケ地としても知られ、「半沢直樹」(TBS系)が有名であ
るが、2021年放送分だと、「緊急取調室」(テレビ朝日系)や「Doctor-X〜外科医・大門未
知子」(テレビ朝日系)で、この201号室が使われたそうだ。とてつもなく天井が高いのに圧
倒される。現在の学士会館は1928(昭和3)年4月末完成で、その際、渋沢栄一氏より一
万円(現在の価値で数千万円)の寄付があったそうだ。

   

 杉原氏の刺激を受けて、「不可能物体を作る」で作成した「無限階段」を少し手直ししてみ
た。



 R.Penrose(1958)の作品のようだ。

 杉原氏によれば、

  ・注意して見ても錯視は起こる
  ・本当の形を知った後でも錯視は起こる
  ・両目で見ても錯視は起こる

と、錯視は、見ることの常識が通用しないものだという。

 東名高速道路下りの大和トンネル周辺は、全国でもワースト1と言われる渋滞の名所で
ある。トンネルまでは緩やかな下り坂で、トンネルの直前で勾配なしに変わるのだが、運転
手の感覚では、上り坂と認識され、この変化で車のスピードが落ち、渋滞が発生するらしい。
これも人間の錯覚が悪戯している。

 渋滞発生のメカニズムは他にもあると考えられるが、一つの解決策として、大和トンネル
周辺の車線の拡幅工事が行われ、令和3年7月14日より、一部運用が開始され、渋滞緩
和が期待される。

 杉原氏によれば、香川県屋島ドライブウェイの「お化け坂」が有名だという。上り坂が終わ
り、下り坂に変わったと思いきや、実は、まだ上り坂だったという話である。次のような勾配
になっているようだ。