ピタゴラス数のある性質 
自然数 a、b、c が、a2+b2=c2 を満たすとき、ピタゴラス数といわれる。
このような a、b、c は、
a=m2−n2 、 b=2mn 、 c=m2+n2
と書かれる。
ただし、m、n は、互いに素な自然数で、どちらかは偶数、かつ、m>n とする。
(詳しくは、こちらを参照)
次の表は、ピタゴラス数をいくつかまとめたものである。
m |
2 |
3 |
4 |
4 |
5 |
5 |
6 |
6 |
7 |
7 |
7 |
n |
1 |
2 |
1 |
3 |
2 |
4 |
1 |
5 |
2 |
4 |
6 |
a |
3 |
5 |
15 |
7 |
21 |
9 |
35 |
11 |
45 |
33 |
13 |
b |
4 |
12 |
8 |
24 |
20 |
40 |
12 |
60 |
28 |
56 |
84 |
c |
5 |
13 |
17 |
25 |
29 |
41 |
37 |
61 |
53 |
65 |
85 |
abc |
60 |
780 |
2040 |
4200 |
12180 |
14760 |
15540 |
40260 |
66780 |
120120 |
92820 |
この表を見ていると、3つの自然数 a、b、c の積 abc は、すべて60の倍数になっている
ことに気がつく。
実は、このことは一般的に成立する事実である。すなわち、
自然数 a、b、c が、a2+b2=c2 を満たすとき、 abc ≡ 0 (mod 60)
が成り立つ。(合同の記号(≡)については、こちらを参照)
(証明) a=m2−n2、b=2mn、c=m2+n2 より、abc=2mn(m4−n4)
abc が60の倍数であることを示すには、mn(m4−n4)が30の倍数であることを示
せばよい。30=2×3×5 なので、2の倍数かつ3の倍数かつ5の倍数であることを
示せばよい。
(参考: A≡B (mod m)、A≡B (mod n)、(m,n)=1 ⇔ A≡B (mod mn) )
mod 2 において、 |
|
mod 5 において、 |
m |
n |
m4−n4 |
mn(m4−n4) |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
1 |
0 |
1 |
0 |
1 |
0 |
1 |
1 |
0 |
0 |
|
|
m |
n |
m4−n4 |
mn(m4−n4) |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
4 |
0 |
0 |
2 |
4 |
0 |
0 |
3 |
1 |
0 |
0 |
4 |
4 |
0 |
1 |
0 |
1 |
0 |
1 |
1 |
0 |
0 |
1 |
2 |
0 |
0 |
1 |
3 |
0 |
0 |
1 |
4 |
0 |
0 |
2 |
0 |
1 |
0 |
2 |
1 |
0 |
0 |
2 |
2 |
0 |
0 |
2 |
3 |
0 |
0 |
2 |
4 |
0 |
0 |
3 |
0 |
1 |
0 |
3 |
1 |
0 |
0 |
3 |
2 |
0 |
0 |
3 |
3 |
0 |
0 |
3 |
4 |
0 |
0 |
4 |
0 |
1 |
0 |
4 |
1 |
0 |
0 |
4 |
2 |
0 |
0 |
4 |
3 |
0 |
0 |
4 |
4 |
0 |
0 |
|
|
|
mod 3 において、 |
|
m |
n |
m4−n4 |
mn(m4−n4) |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
2 |
0 |
0 |
2 |
2 |
0 |
1 |
0 |
1 |
0 |
1 |
1 |
0 |
0 |
1 |
2 |
0 |
0 |
2 |
0 |
1 |
0 |
2 |
1 |
0 |
0 |
2 |
2 |
0 |
0 |
|
|
上記の表から、mn(m4−n4)は30の倍数、すなわち、abc は、60の倍数であることが
分かる。
(参考文献:小野寛晰 著 情報代数(共立出版))
(追記) 広島工業大学の大川研究室より、上記の証明に関して、コメントをいただいた。
自然数 a、b、c が、a2+b2=c2 を満たすとき、
(1) a、b のうち少なくとも一方は 3 の倍数
(2) a、b のうち少なくとも一方は 4 の倍数
(3) a、b、c のうち少なくとも一つは 5 の倍数
という性質を持つことは、よく知られた事実とのことである。
実際に、
(1)の証明:
a、b のどれも 3 の倍数でないとすると、a2、b2 を 3 で割った余りは、必ず 1 となる。
したがって、a2+b2 を 3 で割った余りは、2 となるが、a2+b2=c2 を 3 で割った余り
は、0 または 1 なので、これは矛盾である。
したがって、a、b のうち少なくとも一方は 3 の倍数である。
(2)の証明:
a、b のどれも 4 の倍数でないとすると、a2、b2 を 4 で割った余りは、0 または 1 と
なる。したがって、a2+b2 を 4 で割った余りは、0 または 1 または 2 となる。
(イ) a2+b2 を 4 で割った余りが、0 のとき、
a=4m+2、b=4n+2 とおける。このとき、c2=a2+b2=16(m2+n2+m+n)+8
c2 は偶数なので、c は偶数。よって、c=2k とおける。
上式に代入して整理すると、 k2=4(m2+n2+m+n)+2
よって、k2 が偶数なので、k は偶数。
このとき、左辺は4の倍数になるが、右辺は4で割って2余る数である。
これは、矛盾である。
(ロ) a2+b2 を 4 で割った余りが、1 のとき、
一般性を失うことなく、a=4m±1、b=4n+2 とおいてよい。このとき、
c2=a2+b2=8(2m2+2n2±m+2n)+5
c2 は奇数なので、c は奇数。よって、c=2k+1 とおける。
上式に代入して整理すると、 k2+k=2(2m2+2n2±m+2n)+1
左辺=k2+k=k(k+1) は連続する2整数の積なので偶数、しかるに、右辺は奇数で、
これは矛盾である。
(ハ) a2+b2 を 4 で割った余りが、2 のとき、
a=4m±1、b=4n±1 とおける。このとき、
c2=a2+b2=8(2m2+2n2±m±n)+2
c2 は偶数なので、c は偶数。よって、c=2k とおける。
上式に代入して整理すると、 2k2=4(2m2+2n2±m±n)+1
このとき、左辺は偶数であるが、右辺は奇数である。これは、矛盾である。
以上から、a、b の少なくとも一方は 4 の倍数である。
(3)の証明:
a、b、c のどれも 5 の倍数でないとすると、a2、b2、c2 を 5 で割った余りは、1 または
4 となる。したがって、a2+b2 を 5 で割った余りは、0 または 2 または 3となるが、これ
は、a2+b2=c2 であることに矛盾である。
したがって、a、b、c のうち少なくとも一つは 5 の倍数である。
従って、上記の性質を知っていれば、3 と 4 と 5 は互いに素であることから、
abc が3・4・5=60 の倍数になることは自明である。
(注)整数論の知識を用いれば、このような解もあり得るが、私的には、冒頭のような表形式
で示す方法の方が、簡明で手っ取り早く好きである。(大川さん、ゴメンナサイ!)
(追記) 平成22年5月12日付け
上記で示された次の性質:
自然数 a、b、c が、a2+b2=c2 を満たすとき、
(1) a、b のうち少なくとも一方は 3 の倍数
(2) a、b のうち少なくとも一方は 4 の倍数
を用いると、「abは12の倍数である」ことが直ちに分かる。このことを問う問題が
平成22年度 首都大学東京 都市教養学部(理工学系−数理科学コース) 前期 で出題
された。
整数 a、b、c が、a2+b2=c2 を満たしているとすると、積 ab は、12で割り切れ
ることを示しなさい。
(解) まず、ab が 3の倍数であることを示す。
a、b がともに3の倍数でないと、a2、b2 を 3 で割った余りは、必ず 1 となる。
よって、c2=a2+b2 を3 で割った余りは、2となり矛盾である。
したがって、 a、b のうち少なくとも1つは3の倍数となり、ab は
3の倍数となる。
次に、ab が 4の倍数であることを示す。
奇数の平方を8で割った余りは、必ず 1 となる。
また、偶数 m に対して、整数 k を用いて、
m=2(2k) のとき、 m2 を8で割った余りは、必ず 0 となる。
m=2(2k+1) のとき、 m2 を8で割った余りは、必ず 4 となる。
よって、a、b がともに奇数とすると、c2=a2+b2 を8 で割った余りは2となり矛盾である。
したがって、 a、b のうち少なくとも1つは偶数となる。
a、b がともに偶数ならば、明らかに、ab は 4の倍数である。
また、どちらかが偶数で、どちらかが奇数のとき、例えば、a が偶数、b が奇数のとき、
c2=a2+b2 から c も奇数で、 a2=c2−b2 は8で割り切れる。
このとき、a=2(2k) の場合のみなので、a は4の倍数、即ち、ab
は 4の倍数である。
以上から、ab は 3の倍数 かつ 4の倍数であるので、12の倍数となる。 (終)
(追記) 平成31年1月22日付け
次の事実が成り立つことを最近知ることが出来た。
直角をはさむ2辺の長さが a、b で斜辺の長さが c とする。a、b、c がすべて整数
のとき、直角三角形に内接する円の半径 r も整数となる。
証明は易しい。
(証明) 題意より、 c=a−r+b−r なので、 r=(a+b−c)/2
また、三平方の定理より、 a2+b2=c2 が成り立つ。
ここで、 a2−a=a(a−1)≡0 (mod 2) より、 a2≡a (mod 2)
同様にして、 b2≡b (mod 2) 、c2≡c (mod 2)
よって、 0=a2+b2−c2≡a+b−c (mod 2) なので、r は整数である。 (証終)