自然対数の底
自然対数の底 e(Napier の数)は、 |
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により定義される。 |
高校では、 |
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で定義されることが多いが、前者の級数は非常に速く収束する |
ので、e の値を計算するのに便利である。2項定理を用いて、容易に
であることが示される。
実際に、2項定理を用いて展開して整理すると、
(1+1/n)n=1/0!+1/1!+(1−1/n)/2!+(1−1/n)(1−2/n)/3!+・・・
+(1−1/n)(1−2/n)・・・(1−(n−1)/n)/n!
ここで、n → ∞ とすると、 limn→∞ (1+1/n)n=Σn=0∞ (1/n!) が成り立つ。
ところで、自然対数の底eは「Napier(ネイピア)の数」と呼ばれるが、発見したのはオイラ
ーで、ネイピアではない。「e」はEulerの「e」なのである。
eπが超越数であることは、1873年にシャルル・エルミートにより示されている。
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が収束する速さは、次のような不等式を用いて評価される。 |
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とおくとき、 |
よって、 |
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・・・・・ (*) が成り立つ。 |
e =2.7182818284590452353・・・・・ に対して、
s10=2.718281・・・・・
であることを考えれば、収束の速さは明らかである。
sn の収束が非常に速いので、電卓を用いて計算してみようという気になる方もおられよう。
たとえば、s10 の計算は、広島工業大学の大川研究室によれば、
[・・・{{(1/10+1)/9+1}/8+1}・・・]/1+1
と考え、前から順番にキーを叩けば、紙にメモすることなく計算できるとのことだ。
(→参考:「面白い電卓の使い方」)
また、評価式 (*) を用いると、e が無理数であることが容易に示される。
今、e が有理数と仮定すると、
と書ける。ただし、p 、 q は、互いに素な正の整数である。
このとき、 (*) より、
なので、
ここで、 q!e および q!sq はともに整数なので、 q≧1 より、0 と 1 の間に整数
が存在することになり、これは矛盾である。よって、 e は無理数である。
(参考文献 : Walter Rudin 著 Principles of Mathematical
Analysis (McGRAWHILL))
(追記) 平成28年6月4日付け
e の近似分数として、19/7、193/71、2721/1001などが知られている。
実際に、 19/7=2.71428・・・
193/71=2.718309・・・
2721/1001=2.718281718・・・
また、e については、次のモローの不等式
e/(2n+2)<e−(1+1/n)n<e/(2n+1) ただし、nは正の整数
が知られている。次のように式変形されることも多い。
{2n/(2n+1)}e<(1+1/n)n<{(2n+1)/(2n+2)}e
高校生でも十分解きうる問題として、数学検定(1級レベルかな?)や大学入試などで、こ
の不等式を題材とする問題が出題されている。
古くは、次の学習院大学 理学部(1989)の問題が有名だろう。
学習院大学 理学部(1989)
次の不等式が成り立つことを証明せよ。ただし、eは自然対数の底である。
(1) x>0 のとき、 (1/x)log(1+x)>1+log(2/(x+2))
(2) nが正の整数のとき、 e−(1+1/n)n<e/(2n+1)
(解)(1) x>0 なので、 log(1+x)>x(1+log(2/(x+2))) を示せばよい。
F(x)=log(1+x)−x(1+log(2/(x+2))) とおくと、
F’(x)=1/(x+1)−(1+log(2/(x+2)))+x/(x+2)
F”(x)=−1/(x+1)2+1/(x+2)+2/(x+2)2=x(x2+5x+5)/(x+1)2(x+2)2
よって、F”(x)>0 より、F’(x)は単調増加で、 F’(0)=1−1+0=0 より、
x>0 のとき、 F’(x)>0 で、F(x)は単調増加
F(0)=0−0=0 なので、 x>0 のとき、 F(x)>0
したがって、 log(1+x)>x(1+log(2/(x+2))) より、
(1/x)log(1+x)>1+log(2/(x+2))
が成り立つ。
(2) (1)で、x=1/n(>0) とおくと、 nlog(1+1/n)>1+log(2n/(2n+1))
すなわち、 log(1+1/n)n>loge(2n/(2n+1)) より、
(1+1/n)n>e(1−1/(2n+1)) より、 e−(1+1/n)n<e/(2n+1) (終)
学習院大学の問題で、モローの不等式の右辺は示されたので、左辺を示すのも同様に出
来る。
e/(2n+2)<e−(1+1/n)n より、 (1+1/n)n<e(2n+1)/(2n+2) の両辺の対
数をとって、nlog(1+1/n)<1+log(2n+1)/(2n+2) となるので、n=1/x とおいて
(1/x)log(1+x)<1+log((x+2)/(2x+2)) (x>0)
そこで、 G(x)=log(1+x)−x(1+log((x+2)/(2x+2))) とおくと、
G’(x)=1/(x+1)−(1+log((x+2)/(2x+2)))−x(1/(x+2)−1/(x+1))
=−log((x+2)/(2x+2)))−x/(x+2)
G”(x)=−1/(x+2)+1/(x+1)−2/(x+2)2=−x/((x+1)(x+2)2)<0
よって、G’(x)は単調減少で、G’(0)=0 より、 x>0 のとき、 G’(x)<0
このとき、G(x)は単調減少で、G(0)=0 より、 x>0 のとき、 G(x)<0
したがって、 (1/x)log(1+x)<1+log((x+2)/(2x+2)) が成り立ち、
x=1/n(>0) とおくと、 nlog(1+1/n)<1+log(2n+1)/(2n+2)
すなわち、 (1+1/n)n<e(2n+1)/(2n+2) より、
e/(2n+2)<e−(1+1/n)n
が成り立つ。
高知県土佐高校の藤岡優太先生が数研通信No.85で、モローの不等式をスッキリ証明
されている。それを参考にしながら、モローの不等式の図形的意味を考えてみよう。
モローの不等式 e/(2n+2)<e−(1+1/n)n<e/(2n+1) から示される不等式
{2n/(2n+1)}e<(1+1/n)n<{(2n+1)/(2n+2)}e
の両辺の対数をとって式変形すると、
log(n(n+1))−log(n+1/2)<(n+1)log(n+1)−nlogn−1<log(n+1/2)
となる。ここで、
∫nn+1 log x dx=(n+1)log(n+1)−nlogn−1
より、S=(n+1)log(n+1)−nlogn−1は、y=log x とx=n、x=n+1、x軸で囲まれた
面積となっている。
さらに、点(n,logn)と点(n+1,log(n+1))を結ぶ線分とx=n、x=n+1、x軸で囲まれ
た台形の面積Tは、
T=(logn+log(n+1))/2=(1/2)logn(n+1)
で与えられる。
さらに、y=log(n+1/2)とx=n、x=n+1、x軸で囲まれた長方形の面積Uは、
U=log(n+1/2)
で与えられる。
このとき、モローの不等式の図形的意味が明らかとなる。すなわち、
2T−U<S<U
が成り立つ。
(コメント) SとUの関係は微妙な雰囲気なのですが、モローの不等式から、確実に、S<U
と言えるわけですね。直感的には、y=log x が上に凸の曲線で勾配がだんだん
緩やかになっていることを考えれば、S<Uであることは予想されますが...。
以下、工事中!