・ 解の存在定理 S.H氏
解の存在定理といえば、常微分方程式の解の存在定理が思い浮かぶが、数列の漸化式
にも解の存在定理があるようだ。
漸化式の解の存在定理 実数 α と、写像 F : R → R ( R は実数全体の集合)
が与えられたとき、実数の数列 { Xn } で、
1. X1 = α
2. Xn+1 = F( Xn )
を満たすものが存在し、しかも、唯一つ定まる。
微分方程式の場合は、リップシッツの条件という強烈な制約のもとに、その解の存在が保
証されたが、漸化式の場合は、写像というだけで、その他の厳しい制約はない。
漸化式の場合、いくつかのパターンについては、その解法が知られている。
今まで、ある特定の漸化式については解けるが、それ以外の場合は、解けないものと決
め付けていた。
この解の存在定理によれば、ありとあらゆる漸化式には解が存在し、しかも唯一つである
ことになる。これは、とても新鮮な驚きだ!
証明については、大いに興味はあるが、自分自身まだ掌握していない。
もし、証明をご存知の方がいらしたら、メールにてお教えください。
(追記) 広島工業大学の大川研究室から「解の存在定理」についてのアドバイスを頂いた。
そのアドバイスを伺っている中で、自分自身「解の存在定理」について、ある誤解の
もとに考えていることに気づかされた。
「今まで、ある特定の漸化式については解けるが、それ以外の場合は、解けない
ものと決め付けていた。」とあるように「解の公式の存在」の方に関心があって「数
列の存在」自体は、自明なこととして、あまり関心がなかった。ここの認識が、誤解
のもとであった。
大川研究室によれば、与えられた漸化式の解が存在することは、証明が必要な
事項とのことである。高校数学では、漸化式の解が存在することは、自明なこと、
暗黙の了解という認識で扱われている。教科書や大学入試問題でも、「解の存在」
を前提に説明、出題されている。
たとえば、次のような問題が好例である。
a1=1、an+1=2an+1 (n=1、2、3、・・・)で決まる数列 { an } の一般項を類推し、
それが正しいことを数学的帰納法によって証明せよ。
通常は、次のように解かれる。
a2=2a1+1=2・1+1=3=22−1
a3=2a2+1=2・3+1=7=23−1
a4=2a3+1=2・7+1=15=24−1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
よって、 an=2n−1 と類推できる。この類推が正しいことを数学的帰納法により
示す。
n=1 のとき、左辺=a1=1、右辺=21−1=2−1=1
よって、n=1 のとき、 an=2n−1 は成り立つ。
n=k (kは、1以上の任意の自然数)のとき、成り立つと仮定する。: ak=2k−1
n=k+1 のとき、ak+1=2ak+1=2(2k−1)+1=2k+1−1 なので、
an=2n−1 は、n=k+1 のときも成り立つ。
したがって、任意の自然数 n について、an=2n−1 は成り立つ。
ある方に伺うと、このような解は、いかにももっともらしい解答であるが、あくまでも「漸化
式の解の存在」を仮定して初めて、解としての意味を持つとのことである。
「漸化式の解の存在と一意性」を仮定する以上、単純に数列の一般項を求める問題だと
して、類推の結果を数学的帰納法で証明することは果たして意味あることなのであろうか?
次のように解いたら、いけないのだろうか?
(類推の計算は表に出さないで、)数列 { an }として、an=2n−1 とする。
このとき、a1=1 で、an+1−2an−1=2n+1−1−2(2n−1)−1=0 より、漸化式を
満たす。よって、求める数列の一般項は、 an=2n−1 である。
私の高校時代は、数列の一般項を類推して求めたら、必ず数学的帰納法で証明するこ
とが厳密な解であるというように学んだものだが、いざ、振り返ってみると、五十歩百歩の
ことをやっていたことに気づかされた。
漸化式の解の存在定理の証明
一意性の証明 : X1 = α 、Xn+1 = F( Xn ) となる数列 { Xn } と
Y1 = α 、Yn+1 = F( Yn ) となる数列 { Yn } を考える。
すべての自然数 n に対して、Xn=Yn であることを数学的帰納法により示す。
n=1 のとき、X1 = α、Y1 = α より、X1=Y1 で、n=1 のとき成り立つ。
n=k ( k は任意の自然数)のとき成り立つと仮定する。: Xk=Yk
このとき、F(Xk)=F(Yk) より、 Xk+1=Yk+1
よって、n=k のときも成り立つ。
したがって、すべての自然数 n に対して、Xn=Yn が成り立つ。
存在の証明 : 自然数の集合
K={ m | Xn+1 = F( Xn ) (但し、1≦n≦m)、X1 = α により定まる数列 { Xn }}
に対して、
K ⊂ N ( N は自然数全体の集合 )
は明らか。
任意の n ∈ N に対して、X1 = α、X2 = F( X1 )、・・・、Xn+1 = F( Xn ) により、数
列 { Xn }が定まる。
よって、 n ∈ K となり、 N ⊂ K すなわち、 K = N が成り立つ。
(コメント) 上記では、2項間漸化式について話を限定しているが、もちろん、m
項間漸化
式についても同様の議論が成り立つ。