6.解の存在について                 戻る

 求積法により求められる微分方程式は少ない。一般には、数値解析法などにより、解となる
関数のとり得る値の近似値の表を手に入れるだけである。実用上は、それで十分である。
 しかし、数学を専攻するものとして、それだけでは何か不完全燃焼という感は否めない。数
学の場合、いかに解くかということよりも、その問題は解けるのか、解はあるのか、という点に
こそ興味の対象がある。ガウスは、複素数の範囲で、n 次方程式には n 個の解が存在する
ことを示した。(代数学の基本定理)しかし、4次方程式までは、その解を求める公式は存在す
るが、5次以上の方程式に対しては、解の公式は存在しないことが示されている。(アーベル)

 数学の定理には、実際に解を求める方法を説いたものが多いが、解を具体的に求める方法
は分からないが、解は確かに存在する、ということを説いたものもある。
 このような定理を、『存在定理』という。

 このような存在定理は、高校で学習する「中間値の定理」とか「平均値の定理」にみられる。

微分方程式では、次のような存在定理が知られている。

定理(Cauchy-Lipschitz)
  微分方程式 Y’=F(X,Y)  (初期条件 X=a のとき、Y=b )において、
    関数 F(X,Y) が次の条件を満たすものとする。
 (1) F(X,Y) は、点( a , b )を含む閉集合 I (|X−a|≦A、|Y−b|≦B)で、連続
 (2) リップシッツ(Lipschitz)の条件: ある正数 K に対して、
                                 |F(X,Y)−F(X,Z)|≦K|Y−Z|
 このとき、ある閉区間で定義された関数 Y で、X=a のとき、Y=b となるような解が存在
し、しかも、ただ一つ存在する。

 この定理は、Picard の逐次近似法により証明されるが、このホームページのレベルをはる
かに超えてしまうので、その証明は省略。
 (興味ある方は、次の文献を参照:矢野健太郎 著 微分方程式(裳華房))

 上の定理で、(2)を省いた形の定理は、1890年 ペアノ(Peano)により、証明された。そ
の定理では、解の一意性が無視され、解の存在のみが示された。

 解の存在定理について、いろいろ難しい議論はあるが、大雑把に言って、

     ある範囲で F(X,Y) が連続ならば、その範囲で解は存在する

と考えてよいだろう。