小学校2年で九九を習って、数学への長く遠い茨の道が始まる。ある者は、できるまで
居残り指導なんていうのも昔はあった。最近新聞紙上では、日本の児童・生徒の学力低
下が叫ばれている。何をもって学力とするかは、判断の分かれるところだが、少なくとも、
計算力に限定すれば、確実に、その力は落ちている。繰り返しの計算練習、居残り指導
などが軽視され、児童・生徒は、その学年で学ぶことを完全に修得しないまま、上級学年
に進級している。その積もり積もったツケのために、結局は、本人が苦しむわけであるが、
気づくのが遅かったために、進路変更せざるをえない場合もある。
誰が何と言おうと、計算の基本は、九九だろう。その九九が危機に瀕している。九九を
常習的に間違える高校生が少なからずいるのだ。
日本では、「に〜いちがに、ににんがし、にさんがろく、にしがはち、・・・」と、口と耳を使
って、割と語呂よく覚えられるようになっている。多少いいにくい段もあるが、前後を変え
れば、何とか間違えずに全段いえる筈だ。九九の完全習得が、小学校卒業の最大の条
件だろうと、私は思う。 ところで、アメリカなどでは、日本のような覚え方はないそうだ。
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小学校2年相当で、「Times Table」なるものを使って九九を覚えると、知り合いのアメリカ
人の方から伺った。(上図参照)
1個1個について、例えば、「2×3=6」は、「Two times three is six.」というが、
これでは、九九全部を覚えるのは容易でない、と感じるのは、私だけだろうか?
(追記) 令和元年11月19日付け
九九というと、81通りの式を覚えるものと相場が決まっているが、江戸時代の九九は省
力化が図られ、36通りだけを覚えればよかったらしい。そんなことが、吉田光由 著の「塵
劫記」にまとめられている。覚える部分は太字になっているところだけである。
2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | |
1 | ||||||||
2 | 4 | 6 | 8 | 10 | 12 | 14 | 16 | 18 |
3 | 9 | 12 | 15 | 18 | 21 | 24 | 27 | |
4 | 16 | 20 | 24 | 28 | 32 | 36 | ||
5 | 25 | 30 | 35 | 40 | 45 | |||
6 | 36 | 42 | 48 | 54 | ||||
7 | 49 | 56 | 63 | |||||
8 | 64 | 72 | ||||||
9 | 81 |
世界には、もっとすごい国がある。インドでは、22×20までの、いわゆる「九九」の表が
ある。
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インドの人は、この440個の値を、本当に丸暗記するのだろうか?ここら辺の事情に詳しい
方、是非お教えください。(メールは、こちら)
最近、「おみやげ算」と言われる、次のような速算術があることを知った。
例えば、18×19 を計算する場合、
19の一位の数「9」をおみやげとして、18に渡して、18+9=27 とし、おみやげを渡した
分を19から引いて、19−10=10 とし、27×10=270 と計算し、その結果に、一の位同
士の積 8×9=72 を加えて、 270+72=342 を得る。
すなわち、 18×19=(18+9)×10+8×9=270+72=342
普通に計算して、18×19=18×9+18×10=162+180=342 とする場合に比べ
て、3桁同士の足し算が、3桁と2桁の足し算に改良されているところが、若干「速い」ところ
なのだろう。
数学の学習では、平方数の計算が頻出である。(平方根の計算、三平方の定理、余弦定
理、・・・) インドのように、22×20までの「九九」を覚えることは必要ないと思うが、11から
19までの平方数については、私自身の経験から言えば、多分知らないよりは知っている方
が得する場合が多いだろう。(速算術を用いると、容易に覚えられると思う。)
(→ 参考:「平方数を秒算する技」)
おみやげ算を用いて、
11×11=121 ・・・・・ (11+1)×10+1×1=120+1=121
12×12=144 ・・・・・ (12+2)×10+2×2=140+4=144
13×13=169 ・・・・・ (13+3)×10+3×3=160+9=169
14×14=196 ・・・・・ (14+4)×10+4×4=180+16=196
15×15=225 ・・・・・ (15+5)×10+5×5=200+25=225
16×16=256 ・・・・・ (16+6)×10+6×6=220+36=256
17×17=289 ・・・・・ (17+7)×10+7×7=240+49=289
18×18=324 ・・・・・ (18+8)×10+8×8=260+64=324
19×19=361 ・・・・・ (19+9)×10+9×9=280+81=361
(参考文献:樺 旦純 著 数学がらくにわかる本(三笠書房))
(追記) 令和2年12月29日付け
平方数の覚え方を考えてみた。
11×11=121 ・・・ 11(トイ)に11(トイ)重ねて、121(イチニイチ)
12×12=144 ・・・ 人に、人に、お人好し
13×13=169 ・・・ 意味重ねて重ロック
14×14=196 ・・・ いよいよ一苦労
15×15=225 ・・・ 一個一個は不都合
16×16=256 ・・・ いろいろニコリ
17×17=289 ・・・ いいないいなに妬く
18×18=324 ・・・ いやいや、ミニよ
19×19=361 ・・・ トックリ重ねて寒い
14×14=196 を知っていれば、15×13=(14+1)(14−1)=196−1=195 と
簡単に求められる。
(追記) 平成19年5月6日付け
5月5日、何とはなしにTVを見ていたら、インドの九九の話題が取り上げられていた。
例えば、14×19 の計算を上述のおみやげ算を用いて、
(14+9)×10+4×9=230+36=266
と説明されていた。(ただ、原理の説明に四苦八苦していたような...。)
(参考:日本テレビ系 ウェークアップぷらす 5日(土) 8時〜9時25分)
(追記) 令和4年12月11日付け
上記の「14×19=(14+9)×10+4×9=230+36=266」のようなおみやげ算は、
37×34などのように、十の位が同じ2桁同士の掛け算にも有効である。
例 37×34=(37+4)×30+7×4=1230+28=1258
(おみやげ算の原理)
(10a+b)(10a+c)=(10a)2+(b+c)・10a+bc=(10a+b+c)・10a+bc
この手法を用いると、インド式九九もスラスラ出来そう...。
例 16×18=(16+8)・10+6×8=240+48=288
暗算でこの計算をするには、まず「6×8」を計算し、それに「16+8」を10倍したものを
加えればよい。
例 19×14=(19+4)・10+9×4=230+36=266
頭の中では、 36+230=266 と計算している。
(追記) 平成19年9月28日付け
私の大好きな番組「ためしてガッテン」(NHK)の9月26日放送で、速算術の話題が取り上
げられた。その中で、上記では述べていない次のような計算に心が引かれた。
十の位が同じで、一の位の和が10である2桁同士のかけ算の場合
例えば、26×24=624 ((2+1)×2=6、後は6×4=24)
63×67=4221 ((6+1)×6=42、後は3×7=21)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
十の位が同じで、一の位の和が10である2桁同士のかけ算に有効な方法である。
その原理は、
(10a+b)(10a+c)=100a2+10a(b+c)+bc=100a(a+1)+bc
である。 ( ← これは、よく知られた速算術ですね!)
もちろん、おみやげ算的に計算してもよい。
(10a+b)(10a+c)=(10a+b+c)・10a+bc
26×24=(26+4)・20+24=624
63×67=(63+7)・60+21=4221
練習問題 64×66 を計算せよ。
(解) 64×66=4200+24=4224 (終)
一の位が同じで、十の位の和が10である2桁同士のかけ算の場合
例えば、74×34=4×4+(7×3+4)×100=2516
同様に、
76×36=2736 (7×3=21に6を足して27、後は、6×6=36)
42×62=2604 (4×6=24に2を足して26、後は、2×2=04)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一の位が同じで、十の位の和が10である2桁同士のかけ算に有効な方法である。
その原理は、
(10a+c)(10b+c)=100ab+10(a+b)c+c2=100(ab+c)+c2
である。 ( ← これは、初見でした!)
練習問題 76×36 を計算せよ。
(解) 76×36=(21+6)×100+6×6=2736 (終)
また、番組では、格子掛け算の話題も取り上げられていた。
(番組では、三角マス目計算法として紹介されていた。)
出演されていたインド人のニャンタさんが
このような計算法は学校では教えない、国家機密である
と仰っていた。番組を見ていて、インドの方々の抜群の計算力に圧倒されました!
(追記) ドイツ語では、次のような数詞が使われている。
数 | 数 詞 | 読み方 | 数 | 数 詞 | 読み方 | 数 | 数 詞 | 読み方 |
0 | null | ヌル | 10 | zehn | ツェーン | 20 | zwanzig | ツヴァンツィッヒ |
1 | eins | アインス | 11 | elf | エルフ | 30 | dreiβig | ドライスィッヒ |
2 | zwei | ツヴァイ | 12 | ツヴェルフ | 40 | vierzig | フィアツィッヒ | |
3 | drei | ドライ | 13 | dreizehn | ドライツェーン | 50 | フュンフツィッヒ | |
4 | vier | フィア | 14 | vierzehn | フィアツェーン | 60 | sechzig | ゼヒツィッヒ |
5 | フュンフ | 15 | フュンフツェーン | 70 | siebzig | ズィープツィッヒ | ||
6 | sechs | ゼクス | 16 | sechzehn | ゼヒツェーン | 80 | achtzig | アハツィッヒ |
7 | sieben | ズィーベン | 17 | siebzehn | ズィープツェーン | 90 | neunzig | ノインツィッヒ |
8 | acht | アハト | 18 | achtzehn | アハツェーン | 100 | hundert | フンダート |
9 | neun | ノイン | 19 | neunzehn | ノインツェーン |
ドイツ語の数詞は英語と同様な構造になっている。ただ、例えば、「21」という数は、英語では、
twenty-one
と上位の位から読んで簡明なのに対して、ドイツ語では、「1+20」、つまり、
einundzwanzig
と表現され、多少分かりにくい印象を受ける。100、200、300、・・・ などは、日本語に近い。
たとえば、300=dreihundert
しかし、一般にドイツ語で数字を読む場合、私など、ほぼ「目がテン!」になってしまう。
468=vierhundertachtundsechzig
(フィアフンダートアハトウントゼヒツィッヒ)
(ここは、やっぱり、「よんひゃく ろくじゅう はち」と読みたいですね!)
さらに、日本では、桁数の多い数に対しては、3桁おきに、「カンマ」を打って、読みやすくする
のに対して、ドイツでは、「カンマ」は小数点を意味することから、日本のようなことはせず、わ
ずかに数字と数字の隙間を僅かに離して、読みにくい点を克服しているようである。
4 382=viertausenddreihundertzweiundachtzig
また、ドイツ語には、「万」という単位がないので、
10 000=zehntausend
と表現しなければならないという難点もある。
このように、ドイツ語の数字の読みにくさから、日本の「九九」のような覚え方があるとは期
待できない。しかも、ドイツ語では、乗算の「×」、除算の「÷」の記号は用いないらしい。
2・4=8 は、 Zweimal vier ist acht.(2 倍の
4 は 8 である)
18:3=6 は、
Achtzehn durch drei ist sechs.(3 によって分たれた 18 は 6 である)
フランス語は、ドイツ語以上にすごいようだ。たとえば、「81」などは、「20 × 4 + 1」
と読むので、フランス語にも、日本の「九九」のような覚え方など、到底期待できない。
以上の観点からみると、日本語においては、十、百、千、万、・・・などの位を用いて、数字の
読み方を易しくしているところが、ほかの言語と違う点である。奈良時代から使われ始めたと
される日本の「九九」は、その後も不動の地位を占め、小学校教育の根幹として、現在に至っ
ている。日本の小学生の計算力が優れているのは、まさしく「九九」の覚えやすさにあると思う。
このページは、全く私の独断と偏見で書かれているので、ドイツ語・フランス語に詳しい方で
「これは、違うぞ!」という点がありましたら、こちらにメールをお願いします。
(参考文献:藤原正彦 著 父の威厳 数学者の意地(新潮文庫)
藤田五郎 著 現代ドイツ文典(郁文堂)
田島 宏 著 初歩のフランス語(昇龍堂))
(追記) 当HPの読者の方から、数字の区切りについて、ご意見を頂いた。貴重なご意見に
感謝いたします。(平成17年4月23日付け)
上記で、「日本では、桁数の多い数に対しては、3桁おきに、「カンマ」を打って、読みやす
くする」と書いたが、この流儀は、もともとは英語圏の発想とのことである。たしかに、英語圏
では thousand、million、billion、trillion(米)というように3桁ずつ数詞が変わるので、
25786542358456 を、25trillion786billion542million358thousand456 と読むと
ころを、25,786,542,358,456 と表記するのはとても合理的に感じる。
日本ではむしろ4桁おきに、「カンマ」を打った方が読みやすいかもしれない。
25786542358456 を、25兆7865億4235万8456 と読まなければならないが、
25,7865,4235,8456 と区切られていると、右側から、万、億、兆で読みやすい。
私が小学生の頃は、このように4桁ずつ区切るように教わった覚えがあるのだが、いつし
か3桁ずつ区切ることに慣らされてしまった。
(追々記) 平成20年6月8日付け
朝日新聞 7日付け夕刊で、「九九の秘密を探れ」という記事が目に止まった。
杉並区立高井戸第三小学校の吉田映子さんの授業実践報告である。
下図のような「九九ジオボード」を用意して、「0」から順次、九九の掛け算で答えの一の位
の数字に紐をかけていく。
そうすると、同じような文様になるものが出来るという。面白そうなので、実際にやってみた。
上図から、1の段と9の段、2の段と8の段、3の段と7の段、4の段と6の段 が同じ
文様になる。 今までこのようなことをしたことがなかったので、とても新鮮だ!
上記の性質を一般化すれば、
一桁の自然数 n に対して、 n の段と 10−n の段 は同じ文様になる
(証明) 自然数 k (1≦k≦9)に対して、n・k+(10−n)・k=10k≡0 (mod 10)
よって、 n の段の一位の数と 10−n の段の一位の数は足すと必ず 10 になる。
したがって、n の段の一位の数と 10−n の段の一位の数それぞれの取り得る値は一致
する。 (証終)