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011 平成2年度前期 東京大学 理系 ・・・ 微分積分(数学U)  やや難

 東京大学の入試問題は、いつも世間の注目を浴びるが、常に良問を生産し続けるという
ことは並大抵のことではない。数学系教員を多数抱える大学だからこそ出来ることだろう。
これからも面白い問題を是非期待したいものだ。

 次の問題は随分昔のものであるが、高校の授業+α の部分で数学的に面白いところを
微妙に問うているという点で、名作の部類に入るといってもいいだろう。


東京大学 理系(1990)

 3次関数 H(x)=px3+qx2+rx+s は、次の条件(イ)(ロ)を満たすものとする。
  (イ) H(1)=1 、 H(−1)=−1
  (ロ) 区間 −1<x<1 で、極大値 1 、極小値−1 をとる
 このとき、
(1) H(x)を求めよ。
(2) 3次関数 F(x)=ax3+bx2+cx+d が、区間 −1<x<1 で、 −1<F(x)<1
  を満たすとき、|x|>1 なる任意の実数 x に対して、不等式 |F(x)|<|H(x)|
  が成立することを証明せよ。



(解) (1) H(1)=p+q+r+s=1 、H(−1)=−p+q−r+s=−1 より、

       q+s=0 、 p+r=1  なので、  q=−s 、 r=1−p

      よって、 H(x)=px3−sx2+(1−p)x+s となる。

     条件(イ)(ロ)を満たすことから、 p>0 でなければならない。

      このとき、 H’(x)=3px2−2sx+(1−p)=0 の異なる2つの解を、α 、 β と

     すると、 −1<α<β<1 で、 x=α で極大、x=β で極小 となる。

      すなわち、 H(α)=1 、H(β)=−1

     よって、 H(α)+H(β)=p(α3+β3)−s(α2+β2)+(1−p)(α+β)+2s

     ここで、解と係数の関係から、 α+β=2s/(3p) 、 αβ=(1−p)/(3p) なので、

       α3+β3=(α+β)3−3αβ(α+β)=8s3/(27p3)−2s(1−p)/(3p2

       α2+β2=(α+β)2−2αβ=4s2/(9p2)−2(1−p)/(3p)

     より、

     H(α)+H(β)=p{8s3/(27p3)−2s(1−p)/(3p2)}
                   −s{4s2/(9p2)−2(1−p)/(3p)}
                       +2s(1−p)/(3p)+2s

               =8s3/(27p2)−2s(1−p)/(3p)
                   −4s3/(9p2)+2s(1−p)/(3p)
                       +2s(1−p)/(3p)+2s

               =−4s3/(27p2)+2s(1−p)/(3p)+2s

     α+β=2s/(3p) より、 s=3p(α+β)/2 なので、

    H(α)+H(β)=−p(α+β)3/2+(1−p)(α+β)+3p(α+β)

              =−p(α+β)3/2+(1+2p)(α+β)

              =(−1/2)(α+β){p(α+β)2−2−4p}=0

   となる。 ここで、 −2<α+β<2 において、 p>0 に注意して、

     p(α+β)2−2−4p<−2 より、 p(α+β)2−2−4p≠0

    よって、 α+β=0 でなければならない。 このとき、 s=0 となる。

   H(x)=px3+(1−p)x において、 H’(x)=3px2+(1−p) で、

        pα3+(1−p)α=1 、 3pα2+(1−p)=0

    よって、 2pα3=−1 より、 p=−1/(2α3) なので、第1式に代入して、

         −1/2+(1+1/(2α3))α=1

    したがって、 2α3−3α2+1=0 を解いて、 α=−1/2 、1(重解)

    −1<α<1 より、 α=1 は不適で、 α=−1/2 すなわち、 p=4

     このとき、 H(x)=4x3−3x となる。

    逆に、 H(x)=4x3−3x のとき、問題の条件を満たすことは明らか。

     以上から、求める関数 H(x) は、 H(x)=4x3−3x である。

   (コメント) この問題は、チェビシェフの多項式に関連する問題である。いま求めた多
         項式 H(x) は、チェビシェフの多項式 T3(X) そのものである。

    上記は、教科書風の解答であるが、下記のような美しい別解も知られている。

   (別解) 関数 H(x)は、 x=α で極大、x=β で極小 とする。

       このとき、題意より

          H(x)−1=p(x−α)2(x−1)

          H(x)+1=p(x−β)2(x+1)

      と書ける。 よって、

        p(x−α)2(x−1)+1=p(x−β)2(x+1)−1

        p(x3−(2α+1)x2+(α2+2α)x−α2)+1
                        =p(x3−(2β−1)x2+(β2−2β)x+β2)−1

      係数を比較して、

        2α+1=−(2β−1) 、α2+2α=β2−2β 、−pα2+1=pβ2−1

      よって、 β=−α で、 pα2=1 となる。

       ここで、 H(−1)−1=p(−1−α)2(−1−1) より、 p(α+1)2=1

      したがって、 (α+1)2=α2 より、 α=−1/2 となる。

       このとき、 p=4 なので、

           H(x)=4(x+1/2)2(x−1)+1=4x3−3x    (別解終)

      (コメント) あの長い計算がコンパクトにまとめられてスッキリですね!

(2) 関数 G(x)=F(x)+H(x) を考えると、

     G(1)=F(1)+H(1)=F(1)+1≧0

     G(−1)=F(−1)+H(−1)=F(−1)−1≦0

   また、 H(−1/2)=1 、H(1/2)=−1 なので、

     G(1/2)=F(1/2)+H(1/2)=F(1/2)−1<0

     G(−1/2)=F(−1/2)+H(−1/2)=F(−1)+1>0

   よって、関数 G(x)は 3次関数で、−1<x<1 の範囲において、極大値と極小値を

  持つ。さらに、グラフの特徴から、

     x>1 のとき、 G(x)>0  で、 x<−1 のとき、 G(x)<0

  である。

   同様にして、関数 K(x)=H(x)−F(x) を考えると、

     K(1)=H(1)−F(1)=1−F(1)≧0

     K(−1)=H(−1)−F(−1)=−1−F(−1)≦0

   また、 H(−1/2)=1 、H(1/2)=−1 なので、

     K(1/2)=H(1/2)−F(1/2)=−1−F(1/2)<0

     K(−1/2)=H(−1/2)−F(−1/2)=1−F(−1)>0

   よって、関数 K(x)は 3次関数で、−1<x<1 の範囲において、極大値と極小値を

  持つ。さらに、グラフの特徴から、

     x>1 のとき、 K(x)>0  で、 x<−1 のとき、 K(x)<0

  である。

   以上から、 x>1 のとき、 F(x)+H(x)>0 かつ H(x)−F(x)>0

                すなわち、 −H(x)<F(x)<H(x)

          x<−1 のとき、 F(x)+H(x)<0 かつ H(x)−F(x)<0

                すなわち、 H(x)<F(x)<−H(x)

   したがって、 |x|>1 なる任意の実数 x に対して、不等式

               |F(x)|<|H(x)|

  が成り立つ。 (終)