003 | 平成13年度後期 | 京都大学 | 理系 | ・・・ | 対数計算(数学U) | やや難 |
新学習指導要領(平成15年より実施)によれば、数学Uにおける対数の扱いは軽くなっ
ている。(内容の取扱い)には、「対数計算は扱わないものとする。」と明言されているくらい
だ。
しかしながら、教科書をみると、そこまで踏み込んだものはなく、簡単な対数計算(底の変
換を含む)から始まって、対数表を利用した桁数の問題や有効数字が小数第何位から始ま
るかなど以前から行われている計算がそのままに残されている。ある教科書には最高位の
数を求めさせる問題も章末問題にある。
現在のそのような状況下において、次の問題は、対数問題の終焉を飾るに相応しい問題
といえる。多分、作問をされた方は対数問題の華やかなりし頃をご存じの方なのだろう。
京都大学 後期理系(2001)
負でない実数 a に対し、0≦r<1 で、a−r が整数となる実数 r を {
a } で表す。すなわ
ち、{ a } は、a の小数部分を表す。
(1) { nlog10 2 }<0.02 となる正の整数 n を1つ求めよ。
(2) 10進法による表示で 2n の最高位の数字が7となる正の整数 n を1つ求めよ。
ただし、 0.3010<log10 2<0.3011、0.8450<log10 7<0.8451 である。
この問題は予備校等の分析では「やや難」と判定されているが、十分満点が狙える問題
でもある。条件を満たす正の整数 n を全て求めることは難しいが、1つだけ解を見つけれ
ばいいわけで、その方法は問われないからだ。
ただ、このような出題形式は新傾向で、慣れていないと、やはり難しいかもしれない。
一般に受験生が習熟している問題パターンは次のようなものであろう。
218 は、何桁の数か。また、最高位の数字は何か。ただし、log102=0.3010
通常は次のように解かれる。(もちろん、手計算で求める方法もある。)
log10218=18×log102=18×0.3010=5.418
よって、 105<218<106 から、 218 は、6桁の数である。
ここで、 log10218=5.418=5+0.418 において、 log102.62=0.4183
なので、 log10218≒log102.62×105 より、 218≒2.62×105=262000
(実際は、218=262144)
したがって、 最高位の数字は、 2 である。
京都大学の問題は、受験生が習熟している問題の正に逆をいっているわけで、その点で
まごついた方が多数いられたかと思う。
対数 log X の値は、指標(整数部分)と仮数(小数部分)に分けられる。指標と仮数につ
いては学習内容から削除されているので、問題文中で説明されている。随分昔の高校生
なら、「指標から桁数が分かり、仮数から数字の配列が分かる」と教わったものだが、現在
は教えられていない。教える側からすれば、何となく魂が抜けたものを教えているようで、
スッキリした清涼感は得られない。京都大学後期理系の問題に出会い、昔の高校時代に
戻ったように感じた。
また、京都大学の出題はとても丁寧であると感じた。普通だったら、log102=0.3010
としてしまうところを、正確に、 0.3010<log10 2<0.3011 と表現しているからであ
る。
あくまでも、0.3010 は近似値であるので、log10 2 の値を不等式で表す方が正しい
と思う。
さて、前置きが長くなってしまったが、京都大学の問題を解いてみよう。
(解) (1) 0.3010<log10 2<0.3011 より、 3.010<10log10 2<3.011
よって、 0.010<{10log10 2}<0.011 から、 {10log10 2}<0.02
したがって、 条件を満たす正の整数 n として、 n=10
(2) 2n の最高位の数字が7であるので、 log107≦{nlog102}<log108
ここで、 0.8450<log10 7<0.8451、0.9030<log10 8<0.9033 より、
0.8451≦{nlog102}<0.9030 なるような正の整数 n を見つければよい。
0.3010<log10 2 において、両辺を46倍すると、 13.8460<46log10 2
さらに、 log10 2<0.3011 において、 46log10 2<13.8506
以上から、 0.8451<0.8460<{46log102}<0.8506<0.9030 なので、
条件を満たす正の整数 n として、 n=46 (終)
(コメント) n=46 の発見は、「0.3010」という数の特殊性に依存することが多い。
Microsoft社の Excel に「log10 2」の値を聞くと、「0.301029995663981・・・」
である。これを利用して、(2)の条件を満たす正の整数 n が、10000までのうちに何個あ
るか計算してみた。
n=46、56、66、76、86、96、149、159、169、179、・・・ の計579個存在する。
これらには特別な規則性はないように感じるが、条件を満たす正の整数 n を規定する
一般的な公式は存在するのであろうか。これは今後の研究課題とすることにしよう。
当HPがいつもお世話になっているHN「FN」さんが、上記の問題について考察された。
(平成23年11月26日付け)
問題の(2)の解答で、「46」という数が突然出てきます。論理的には何も問題はありませ
んが、「46」という数が出てきた根拠、少なくとも気分がわからないとわかった気にならない
し、類題を解く参考にもなりません。
(1)でも、「10」という数が突然出てきますが、これは自然です。(1)の条件は、
n・log10 2=log10 2n
の小数部分が0.02より小さい数を1つ求めよということですが、それは、2n が 10m より
ちょっとだけ大きい数が欲しいということで、210(=1024)が103(=1000)とほぼ等しく、少し
だけ大きいことは当然意識しておくべきことです。
さて、(2)ですが、もし、log10 7やlog102についての条件が書いてなかったら、すること
は何もないから、具体的に、2nを 2、4、8、16、32、64、128、256、512、・・・と書い
ていくはずです。なかなか「7」で始まるものはないなと。もちろん、このように調べて、「7」
で始まるものが見つかるようだと問題として成立しません。
もう少し書いてみると、1024、2048、4096、8192、16384、32768、65536
私は、受験生たるものここまではすらすら書けるべきだと思っています。ここまでで、先頭の
数字として、「7」と「9」以外はすべて出ています。
重要なのは、210(=1024)です。即ち、210をかけると前の方はあまりかわらない。例えば
23(=8)に、210をかけると、213(=8192)のように。21から216までで先頭が「7」はないです
が「6」はあります。26(=64)、216(=65563)です。これに、210(=1024)をかけていけば、前
の方は、段々と、67、68、69、70のようになっていくと思われます。
だから、216(=65563)に210(=1024)をかけて、さらに210(=1024)をかけて・・・・とやってい
けばよい。log10 7とかが書いてなくてもできます。しかし、log10 7とかが書いてあるのだか
らそれを使うべきでしょう。
((2)の解)
0.3010<log10 2<0.3011 より、 1.8060<6log10 2<1.8066 ・・・ (A)
(これは、26(=64)をベースに210(=1024)をかけていこうということから出た式で、6をかけるのは自然である)
同様に、3.010<10log10 2<3.011 ・・・ (B)
(A)+(B)×n より、
1.8060+3.010×n<(6+10n)log10 2<1.8066+3.011×n
従って、nが小さいとき、(例えば、n<10)
0.8060+0.010×n<{(6+10n)log10 2}<0.8066+0.011×n
ここで、n=4とすると、 0.8460<{46log10 2}<0.8506
log10 7<0.8451<0.8506 で、0.8506<0.9030<log10 8 であるから、
log10 7<{log10 246}<log10 8
より、246 の先頭の数字は「7」であることがわかる。
条件を満たす正の整数 n として、 n=46 (終)
さて、2n の先頭の数字を、n=1からn=30まで書いてみると次のようになります。
2、4、8、1、3、6、1、2、5、1、2、4、8、1、3、6、1、2、5、1、2、4、8、1、3、6、1、2、5、1、・・・
規則性はないですが、弱い規則性に近いものはありそうです。「1」が現れる頻度が最も多
く、次が「2」のようです。「7」は上の問題にあるように、46番目に始めて現れ、「9」は53番
目に始めて現れます。
では、例えば、「1」が現れる確率は、どの程度でしょうか。きちんと書けば
{2n}を10進法で表したときの最高位の数が「1」であるものの個数をN(n)とする。
n が限りなく大きくなるとき、N(n)/n の極限は何だろうか?
(コメント) Excel さんに「1」の出現頻度を計算してもらった。
FNさんの結果では、 9/30=0.3
n=1023 までの個数を計算して、 307/1023=0.3001位
下図の表から類推すると、FNさんの問題の答えは、「0.3」かな?
当HPの「投稿一覧」の中の「数字の出やすさ」というページがまさにFNさんの問題に対す
る解答であることを、攻略法さんにご教示いただきました。(平成23年11月27日付け)
それによれば、求める確率は、 log10 2−log10 1=0.3010 となります。
一般に、最高位の数がm(1≦m≦9)である確率は、
llog10(m+1)−log10 m (ただし、log10 x は常用対数)
で与えられ、ベンフォード(Benford)の法則というそうです。(→ 参考:「A008952」)
FNさんからのコメントです。(平成23年11月27日付け)
確かに、「数字の出やすさ」に書いてあることとかなりの関連があり、答えは、log10 2 で
あると思います。ただ、この問題が純然と数学の問題であるのに対し、ベンフォードの法則
は、一定の条件のもとで近似的に成り立つ法則だから、一応区別した方がいいと思います。
少し一般化して、次の形にした方が証明しやすいでしょう。
a は無理数、0≦b≦1、n は自然数とし、n 以下の自然数 k で、0≦{ka}<b
を満た
すものの個数をN(n)とする。このとき、N(n)/n の n → ∞ のときの極限は、b
である。
証明できそうだと思っていますが、証明できたわけではありません。これが証明できたとし
て、もとの問題の解が log10 2 であることを確認しておきます。
まず、log10 2 は無理数である(証明は?)。 a=b=log10 2 とおく。
2k の最高位の数が1 ⇔ 0≦{klog10 2}<log10 2 ⇔ 0≦{ka}<b
「数字の出やすさ」に書いてあることで、多少気になることがあります。「たとえば、各自治
体の人口とか面積など...。」という記述がありますが、これだと都道府県の面積とか市町
村の人口とかも入りそうに感じます。
例えば、都道府県の面積について調べてみると次のようになります。
先頭の数字 1 2 3 4 5 6 7 8 9
度 数 8 4 3 10 4 6 6 3 3
ベンフォードの法則に従ってる感じはしません。数が少ないこともありますが、それより、
「取り得る値が十分広範囲に広がっていて」に該当していないことが最大の理由でしょう。
最小の香川と最大の北海道でも、1:100にもなりません。それと都道府県というのは明治
政府が統治の都合で作ったものですから、妥当な大きさについてのイメージがあったでし
ょう。4が10個もある原因と思います。
国の面積となると、最小と最大の比は(バチカンは除いて)1:106 ぐらいはあるから、ある
程度成り立つのでしょう。日本の市町村の人口だとどうなるかわかりません。日本の市の
人口なら駄目でしょう。3、4、5 のあたりが多くなりそうです。
at さんからのコメントです。(平成23年11月27日付け)
FNさんの主張は正しいですね。一様分布定理より成り立ちます。
FNさんからのコメントです。(平成23年11月28日付け)
高いレベルの数学から見れば、それほど難しくはないのだと思います。初等数学(高校数
学程度)で証明ができないかと思います。次のようなことをなんとなく考えています。
a を固定して考える。N(n)/n の n → ∞ のときの極限の存在は言えるとして、これを
bの
関数と考え、P(b)とする。P(b)の連続性は言えそう。P(b)の乗法性 P(b)P(c)=P(bc)が言え
れば、P(b)=b は言えるだろう。P(b)の乗法性については、連続性があれば、b、c
が有理数
としてもよい。乗法性の代わりに加法性でもよい。存在、連続性、乗法性と3つもあります。
無理かな?
らすかるさんからのコメントです。(平成23年11月28日付け)
証明をちゃんと考えているわけではないんですが、e2πi・ka を考えたら証明できませんか
ね?k の増加に対して、単位円上を同じ角度(距離)ずつ進むので、n が十分大きければ、
どの一部分をとっても(そこからθ=2πia進んだ部分にも同じ回数止まっているので)同じ密
度になりますよね。と、頭では考えているんですが、うまくまとまりません。
FNさんからのコメントです。(平成23年11月28日付け)
確かに感覚的にはほぼ明らかかなと思えたりしますが、その感覚的な気分を証明に持ち
込むことができません。前に「P(b)の存在と連続性と乗法性」と書きましたが半分以上冗談
ですが、多少本気でもあります。「存在と単調性とbが有理数のとき成り立つこと」の方がい
いかななどと思っています。いずれも頭の中でぼーっと考えてるだけで、紙と鉛筆を持ちだ
すところまで行ってません。
らすかるさんからのコメントです。(平成23年11月27日付け)
元の問題の解答です。
(解) 21〜2n のうち最高位の数が1であるものの個数は、「2n の桁数−1」に等しい。
実際に、2k の桁数が2k-1 の桁数より大きい ⇔ 2k の最高位が1 である。
このとき、2n の桁数は、log10 2n の整数部分+1 なので、「2n の桁数−1」は、
log10 2n の整数部分そのものになる。すなわち、N(n)=[log10 2n]=[n・log10 2] なので、
n → ∞のとき、 (n・log10 2−1)/n<N(n)/n≦n・log10 2/n より、
N(n)/n → log10 2 (終)
(コメント) 21=2、22=4、23=8、24=16、25=32、26=64、27=128、・・・ を眺め
ていると、桁が1だけ上がった瞬間に最高位が1になることが頷ける。
だから、21〜2n のうち最高位の数が1であるものの個数は、「2n の桁数−1」
に等しいわけだ。「−1」は、1位の分と理解すればよい。
らすかるさんの解答に感動しました。
FNさんからのコメントです。(平成23年11月27日付け)
なるほど。きれいな解答ですね。一般化した形で証明するものかなと思いましたが、そう
でもないようです。最高位の数が、「2」とか「3」とかになれば一般化した形になるでしょうか。
らすかるさんからのコメントです。(平成23年11月28日付け)
2k の最高位が1のとき、2k+1 の最高位は、「2」または「3」ですから、最高位が「2」または
「3」となる確率も、log10 2 です。
また、2k の最高位が1のとき、2k-1 の最高位は、「5」〜「9」ですから、最高位が「5」〜「9」
となる確率も、log10 2 であり、これから、最高位が「4」となる確率は、
1−3log10 2=log10 5−log10 4
と求まります。他に、最高位が「4」〜「7」となる確率も求まりますので、結局同じ方法で求まる
のは、
最高位が「1」 (確率=log10 2)
最高位が「2」〜「3」 (確率=log10 2)
最高位が「4」 (確率=1−3log10 2)
最高位が「5」〜「7」 (確率=4log10 2−1)
最高位が「8」〜「9」 (確率=1−3log10 2)
までですね。結局、log10 2 で表せるものしか求まりませんので、「1」、「4」以外は一般化し
ないと難しいと思います。
FNさんからのコメントです。(平成23年11月28日付け)
最高位が「4」である確率が同じ方法で求められるのが面白いですね。2kを3kに変えたら、
同じ方法で、最高位が「1」〜「2」と最高位が「3」〜「8」、最高位が「9」が求められそうですね。
ところで、2kでも3kでも結果は同じになるはずですが、このことを何かうまい方法で示せる
でしょうか。