大小比較                                    戻る

 2つの実数 a、b があれば、「a<b、a=b、a>b」の何れかが必ず成り立つので、2つの
ものがあれば比較したがるのが人間の性(さが)だろう。大小比較は、数に対する素朴な感
覚を養ううえで大切である。

 平成18年度の学習院大学文学部の入試問題に、次のような問題が出題された。

 次の5つの数を小さい順に並べよ。

 、11/7、、1/(


 A=、B=、C=11/7、D=、E=1/() とする。

 Excel さんに協力してもらえれば、 E<D<A<C<B であることは瞬時に分かるが、そ
れでは大人げない。きっちり手計算で求めることにしよう。

 5つの数ですぐ分かることは、

6=8、B6=81 より、A<B

2=2、C2=121/49>2 より、1<A<C<2 で、8<9 より、2<B

また、3/2<<5/2 なので、0<D<1

ここで、D==2/()>2/()=1/>1/()=E

以上から、E<D<A<C<B である。


 S(H)さんの話題から問題をいただきました。(平成26年10月26日付け)

問題 2− と 3− の大小を比較せよ。

(解) (2−)−(3−)=−(+1) において、6−(+1)2=3−2

ここで、<3/2 なので、6−(+1)2>0 より、−(+1)>0

したがって、2−>3−  (終)


 S(H)さんからの情報に依れば、次のようなエレガントな解法が存在するらしい。

(別解) 2つの円 (x−2)2+y2=2 、(x−3)2+y2=6 を考えるとき、2円と x 軸の交

点のうち、原点に近い側は、(2−,0)、(3−,0)である。

 2つの円の式を連立する。辺々引いて、2x−5=−4 より、x=1/2

このとき、y2=2−9/4<0、y2=6−25/4<0 となり、実数 y が存在しない。

すなわち、2円は交わらないので、円 (x−2)2+y2=2 は円 (x−3)2+y2=6 の内部に

含まれる。よって、2−>3− でなければならない。  (終)

(参考:→「新しい認識」)


 昭和53年度の学習院大学理学部の入試問題に大小比較の問題が出題されている。

 A=sin(sin3π/8)、B=sin(cos3π/8)、C=cos(sin3π/8)、D=cos(cos3π/8)

とおく。A、B、C、Dの大小を比較して、小さいものから大きいものへの順に書き並べよ。


 Excel さんの協力を仰げば、A=0.797945925932441 、B=0.373411139698684 、
C=0.602729043010058 、D=0.927665953212109 なので、B<C<A<D となることが分
かるが、これは「ズル」だろう。

 上記の関係を手計算で求めることにしよう。ここで、θ=3π/8 とおく。

まず、2π/3<3π/4<π なので、π/3<θ<π/2

このとき、/2<sinθ<1、0<cosθ<1/2 なので、

 0<cosθ<1/2<π/6</2<sinθ<1<π/3

よって、sin(cosθ)<1/2<sin(sinθ)</2

 1/2<cos(sinθ)</2<cos(cosθ)

また、π/4</2<sinθ<π/2 なので、 cos(sinθ)<sin(sinθ)

 以上から、sin(cosθ)<cos(sinθ)<sin(sinθ)<cos(cosθ)

 すなわち、B<C<A<D が成り立つ。


(コメント) この問題は、三角関数のグラフを学習したあとに経験すると、sinθやcosθの
     特徴が真に理解される良問と思われる。


(追記) 令和6年7月11日付け

 次の東北大学 文理共通(1968)の大小比較の問題は、なかなか面白い問題で、大小比
較の手法に慣れていないと手強い問題となることでしょう。

第1問  x≧0、y>0、z≧0、a>b>c で、(x+y+z)2=ax+by+cz とする。
  S=x+y+z とおくとき、S、a、c の間の大小関係を調べよ。

(解) 条件より、 ax≧bx≧cx 、ay>by>cy 、az≧bz≧cz なので、

 ax+ay+az>ax+by+cz>cx+cy+cz 即ち、 aS>S2>cS

 S>0 なので、両辺をSで割って、 a>S>c となる。  (終)


(追記) 令和7年4月22日付け

 次の東北大学 前期理系(1992)の問題は、手頃な大小比較の問題ですね。

問題  a、b、c をそれぞれ1より大きな数とする。
(1) logab a +logbc b +logca c >1 を示せ。
(2) logab a +logbc b +logca c <2 を示せ。
(3) logab a +logbc b +logca c =3/2 となるための必要十分条件を求めよ。

(解)(1) 底の変換公式により、logab a =1/(1+loga b)、logbc b =1/(1+logb c)

 logca c =1/(1+logc a) なので、

logab a +logbc b +logca c =1/(1+loga b)+1/(1+logb c)+1/(1+logc a)

通分して、

分母=2+loga b+logb c+logc a+(loga b)(logb c)+(logb c)(logc a)+(logc a)(loga b)

分子=3+2(loga b+logb c+logc a)+(loga b)(logb c)+(logb c)(logc a)+(logc a)(loga b)

ここで、loga b>0、logb c>0、logc a>0 より、分子>分母 となるので、

 logab a +logbc b +logca c >1 が成り立つ。

(2) loga b>0、logb c>0、logc a>0 より、分子<2×(分母) となるので、

 logab a +logbc b +logca c <2 が成り立つ。

(3) 2×(分子)=3×(分母) なので、

 loga b+logb c+logc a=(loga b)(logb c)+(logb c)(logc a)+(logc a)(loga b)

このとき、 (loga b−1)(logb c−1)(logc a−1)=0 が成り立つ。

よって、 loga b=1 または logb c=1 または logc a=1 から、

 a=b または b=c または c=a  (終)


(追記) 令和7年4月27日付け

 次の東北大学 後期理系(1992)の問題は、大小比較を数学的帰納法で解決する問題
です。

問題  a1≧a2≧・・・≧a、b1≧b2≧・・・≧b のとき、次の不等式を証明せよ。

  (Σi=1n)(Σi=1n)≦n(Σi=1n

(解) 数学的帰納法により、証明する。

n=1 のとき、命題は明らかに成り立つ。

n=k(k≧1) のとき、成り立つと仮定する。即ち、(Σi=1k)(Σi=1k)≦k(Σi=1k

n=k+1 のとき、(Σi=1k+1)(Σi=1k+1)≦(k+1)(Σi=1k+1) が成り立つことを

示す。すなわち、(Σi=1k+ak+1)(Σi=1k+bk+1)≦(k+1)(Σi=1k+1) から、

(Σi=1k)(Σi=1k)+ak+1(Σi=1k)+bk+1(Σi=1k)+ak+1k+1≦(k+1)(Σi=1k+1

を示せばよい。帰納法の仮定より、(Σi=1k)(Σi=1k)≦k(Σi=1k) なので、

k(Σi=1k)+ak+1(Σi=1k)+bk+1(Σi=1k)+ak+1k+1≦(k+1)(Σi=1k+1

を示せばよい。すなわち、

 ak+1(Σi=1k)+bk+1(Σi=1k)≦Σi=1k+k・ak+1k+1

が成り立つことを示せばよい。そこで、

右辺−左辺

=Σi=1k+k・ak+1k+1−ak+1(Σi=1k)−bk+1(Σi=1k

=Σi=1k (ak+1−a)(bk+1−b)≧0 より、

 ak+1(Σi=1k)+bk+1(Σi=1k)≦Σi=1k+k・ak+1k+1

が成り立つので、命題は、n=k+1のときも成り立つ。

 したがって、全ての自然数nに対して、

 (Σi=1n)(Σi=1n)≦n(Σi=1n

が成り立つ。  (終)


 DD++ さんから別解をいただきました。(令和7年4月29日付け)

 上記の問題は、数学的帰納法でこねくり回さなくても、以下で終わる気がしますが、どうで
しょう?

(別解) n = 1 の場合は明らかに成り立つ。以下では n ≧ 2 の場合について証明する。

 p≧q かつ r≧s のとき、pr+qs−ps−qr=(p−q)(r−s) ≧ 0 より、pr+qs ≧ ps+qr

よって、

(左辺)=(Σi=1n)(Σi=1n

=Σi=1n+Σi=2n Σj=1i-1 (j+aj)

≦Σi=1n+Σi=2n Σj=1i-1 (+a)

=nΣi=1n


(コメント) なるほど!鮮やかですね。DD++ さんの示された不等式から、

1 2 3
1 11 12 13
2 21 22 23
3 31 32 33
1 2 3
1 11 11 11
2 22 22 22
3 33 33 33

が分かる。例えば、a11+a33−a13−a31=(a1−a3)(b1−b3)≧0 より、

 a13+a31≦a11+a33 などが成り立つ。この不等式は、本解でも用いられている。

 同様にして、(Σi=13)(Σi=13)≦3Σi=13 が成り立つことが示される。



  以下、工事中!