・ 新しい認識                     S.H氏

 2直線の交点を通る直線の計算、2円の交点を通る直線の計算、2球の交円を含む平面の計
算などに対して、次の公式はよく知られている。

 2つの図形の方程式 F(X,Y)=0 、G(X,Y)=0 の交わりを含む図形の方程式は、
        h・F(X,Y)+k・G(X,Y) = 0  (ただし、h、k は同時に0でない)
と書ける。


 2つの図形が交わっていれば、上の公式は意味がある。しかし、問題は、交わっていなくても、
上記の公式を用いると、何がしかの方程式が得られるということである。

(例) 2つの円 X2+Y2 = 1 、(X−1)2+Y2 = 1 は明らかに交わる。2つの方程式を辺々
   引いて(h=1、k=−1 に相当)、 X=1/2 が得られる。これは、2つの円の交点を通る
   直線の方程式であり、2つの円の中心を結ぶ線分に垂直である。

(例) 2つの円 X2+Y2 = 1 、(X−4)2+Y2 = 1 は明らかに交わらないが、2つの方程式
   を辺々引いて(h=1、k=−1 に相当)、 X=2 が得られる。これは、2つの円の中心を
   結ぶ線分に垂直な直線の方程式である。

この問題に対して、自分なりに次のように理解していた。

2つの図形F、Gに対して、
 「点Pは、FとGの交点」 ならば、「点Pは、図形 h・F+k・G=0 上の点」
という命題において、交わりがない場合は、仮定が「偽」なので、上の命題は、無内容的に成り
立つ。したがって、交わりがなくても、方程式 h・F+k・G=0 は意味を持つ。

 私自身の解釈では自信がなかったので、ひろく教えを請うために教科書会社のHPに次のよ
うな書き込みなどもした。

 『中心の異なる2つの円があるとします。2つの円が交わるとき、2つの円の方程式を辺々引
 くと、2つの円の交点を通る直線の方程式が得られます。この直線は、2つの中心を結ぶ直
 線に垂直です。2つの円が交わらないとき、形式的に、上記の計算を行うと、やはり、2つの
 円の中心を結ぶ直線に垂直な直線の方程式が得られます。私の感覚からすると、交わって
 いないので、2つの円の方程式同士を引き算することは出来ないと思うのですが、皆さん、
 どうお考えでしょうか?お教えください。交わっていないときは、2つの解集合の交わりが空
 集合で、空集合上で計算している感じで馴染めません。よろしくお願いします。』


この書き込みに対して、そのサイト内では、満足のいく反応を得ることができなかった。

 この問題に対して、数学セミナー(1999年2月号(日本評論社))の中の記事
    「交わらない2円の交点を通る直線の存在」(岡部恒治・中村文則)
が、それまでのモヤモヤを一気に解消してくれた。

 「交わっていなければ、交わるようにすればよい!」というごく自然な発想が、私を「はっ!」
と、させた。すなわち、2つの円 X2+Y2 = 1 、(X−4)2+Y2 = 1 において、中心を変えず、
右辺の値を、両者とも同じ数だけ少し水増しするのである。即ち、2つの円として、
              X2+Y2 = 9 、(X−4)2+Y2 = 9
としても、辺々引いた結果は、X=2 で一致する。

半径が水増しされた2つの円

 上の図を見ると、交わっていないのに得られてしまうという直線の意味が分かってくる。
ところで、2つの円の交点を結ぶ直線は必ず2つの円の中心を結ぶ線分に垂直であるが、さら
に、次のような驚くべき性質をもつことも教えられた。

接線の長さが等しい点の軌跡

 方べきの定理から、PS2 = PA・PB = PT2 であるので、明らかに、PS = PT である。
ところで、PU2 = PO2−OU2 = PS2+OS2−OU2
      PV2 = PC2−CV2 = PT2+CT2−CV2
において、PS = PTで、また、OS2−OU2 = CT2−CV2 =(水増し分) であることから、
PU = PV が成り立つ。
 (この証明は、2つの円の半径が異なる場合も有効であることに注意する。)

 したがって、2つの円が交わっている、いないに関わらず、2つの円から得られる直線にお
いて、
     直線上の任意の点から、それぞれの円に引いた接線の長さは常に等しい

という性質を持つことが分かった。

 この事実は、私のこれまでの認識を変える、非常に驚くべき結果である。


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