分数の意味                              戻る

 分数は、小学校算数の一つの壁といわれる。多くの児童がつまづくところらしい。それまで、
1とか2とか絶対的な値だと思わせていた数に対して、分数との出会いで、どうも違う感覚を
児童に要求するところに原因があるようだ。

 比の学習が小学校算数のメインテーマの一つだと思うが、分数の、比としての感覚を身に
つけないまま進級してしまうので、その後の学習で支障をきたすことになる。高校生でも分数
を見ると、「計算の手が止まってしまう」という生徒も数多い。比の計算(分数の計算)は、数
学に限らず、化学など、自然科学全般で必要とされる計算技法の一つである。比の感覚は、
是非身につけてほしいと願うところである。

 分数は、3つの顔を持つ数である。

(1) 方程式の解としての表現(割り算の表現)

   整数係数の1次方程式がいつも解けるように、新しい数を創造。

 例  方程式 3X=6 の解は、X=6÷3=2 である。

    (実は、この計算は、数学が苦手な人にとって、かなり難しい計算のようだ。
     X を求めるために、両辺を 3 で割るという発想は、浮かばないらしい。
     3を何倍したら、6になるかを考えて、X=2 という解を発見する人が多い。)

 上記のように割り切れる場合は、どんな人にとっても、それほどの困難さは感じられない。

  ところが、方程式 3X=2 の解を問われると、数学が苦手な生徒は考え込んでしまう。
 多分、それは自然な反応だと思う。今まで知っていた数の中に、3に掛け算して2となる数
 が存在しないからである。

  数学では、この場合、新しい数― 分数 ―を創造して、X=2/3 とする。

  即ち、方程式 aX=b の解は、a≠0 である限り、機械的に、X=b÷a と考えて解き、
 b÷a という計算を分数 b/a で表現しようということである。(→ 参考:「割り算の意味」)

   (注意) 広島工業大学の大川研究室からコメントをいただいた。一部修正して、紹介し
       たいと思う。

       例えば、分数 12/3 には、

         3 を X 回加えて12になるように定めた解であるという見方(包含除)
      と、
         X を 3 回加えて12になるように定めた解であるという見方(等分除)

      の2通りがある。すなわち、

      aX=b (a≠0)の解として、X=b/a があるわけだが、その解の意味として、

           aX を、a・X とする見方と、X・a とする見方

      の2通りの見方があるということである。

       大川研究室でも指摘していることであるが、交換法則 AB=BA が成立するので
      結果的に同じ値になり、同じ記号で表されるということになる。 AB=BA があまり
      にも当たり前と認識されるため、両者の差異のことを、皆すぐ忘れるのだろうとの
      ことである。
      (私も大川さんと同様に昔、小学校で習ったような気がするが、あまり両者を特段
       に区別して意識したことはないように思う。全く不都合が起こらなかったので意識
       することがなかったと言う方が正しいかもしれない...ちょっと、反省!)

(2) 単位1に対する絶対的な値としての表現(全体に対する割合としての表現)
    (中国的な考え方といわれる)

  例  分数 2/3 は、単位1を3等分して、それを2つ分集めた量として把握される。

    ここで混乱が起こる原因は、単位1という量そのものが、時と場所によって変化する点
   であろう。
    例えば、300人に対する2/3という量と、30000人に対する2/3という量は明らかに
   異なるが、それぞれに対して、2/3という絶対的な値は同一である。

  例 分数の計算 1/2+1/3 で、1/2は単位1を2等分したものが1個分、1/3は単位
    1 を3等分したものが1個分である。すなわち、

 
   それぞれ個数数え上げの単位となる量(大きさ)が異
  なり、このままの形では計算できない。

    個数数え上げの単位をそろえるために、単位1を6等分したものを考える。このとき、
   1/2は、3個分で、1/3は、2個分となる。すなわち、あわせて5個分である。

      

     したがって、1/2+1/3=5/6 という計算が成り立つ。

  (コメント) 1/2+1/3の計算で、よく誤答例と引き合いに出されるのが、
      分子=1+1=2 、 分母=2+3=5 だから、1/2+1/3=2/5
  という計算である。もちろん、数学(算数)の計算としては誤りであるが、

    Aの皿には、2個の果物がのっていて、うち1本はバナナである。
    Bの皿には、3個の果物がのっていて、うち1本はバナナである。
  今、2つのお皿A、Bを一つのお皿に移すと、そこには、
    5個の果物がのっていて、うち2本はバナナである。

  これって、雰囲気は、「1/2+1/3=2/5」という感じ。だから、こういう計算をしがちな人
 をなぜか非難することができないネ!


(3) 基準の量に対する比較としての表現
    (ギリシャ的な考え方といわれる)

  例 分数 2/3 は、何か基準となる量ではかると、一方が2個分、他方が3個分という比
    較を表す場合にも用いられる。
     比較は通常、「 2 : 3 」という形で表現されるが、「:」の間に「−」を付け加えれば、
    「÷」という記号になり、 2 : 3 =2÷3=2/3 ということが理解される。

  例 勝ち目(odds)という言葉がある。これは、事象の確率を比で表す方法である。
    例えば、さいころを投げて、6の目が出る確率は、1/6 、6の目以外の目が出る確率
    は、5/6 であるので、6の目に賭けるときのオッズは、1:5(=0.2)となる。

 競馬等にもオッズという言葉があるが、これは上記とは違うようだ。

ある券に賭けられた金額に対する、全賭け金から諸経費を差し引いた払戻金の割合をオッ
ズと呼ぶ。(実際はもっと複雑で、こんな単純な計算ではオッズは求められない。)

例 ある競馬のレースで、A君は、ある券を100円を出して買った。
  そのレースの全賭け金額は100万円で、諸経費は20万円であった。A君の買った券の
  賭け金総額が、5万円のとき、その券のオッズは、(100−20)÷5=16.0(倍)となる。
  したがって、もしA君の買った券が勝てば、A君は、100×16.0=1600(円)を手にす
  ることができる。
   (私自身、これまで競馬の馬券等を購入した経験がないので、オッズに詳しい方、上記
    の文章で何か間違いがあればご指摘ください。)


(追記) 平成30年9月20日付け

 分数の問題です。

 ある分数の分母に8を加えると1/3で13を加えると1/4になるという。この分数を求めよ。

(解) ある分数を y/x とおくと、 y/(x+8)=1/3 、 y/(x+13)=1/4

   よって、逆数を考えて、 x/y+8/y=3 、x/y+13/y=4

   辺々引いて、 5/y=1 より、 y=5

   このとき、 x+8=15 より、 x=7

   よって、求める分数は、 5/7  (終)

 この問題を文字を使わずに解くことは可能でしょうか?


 PBさんからのコメントです。(平成30年9月20日付け)

 出来上がる二つの分数は分子が同じで分母の差が5、それらが1/3、1/4 に等しくなる。

これらの分母は差が1なので、分子・分母を5倍して、 5/15、5/20

 よって、元の分数は、 5/7

...という解答ではいかがでしょうか?


 tetsuさんからのコメントです。(平成30年9月20日付け)

 8と13の差5が1/3、1/4の分子・分母に使われている数の1に相当します。言い換えれ

ば、文中の1/3、1/4は、約分する前のもとの分数に使われている数字で分母に8や13を

加えた段階では、それぞれ5/15、5/20であったと考えられます。

 ということは、もとの分数は分子が5、分母は、15−8 または 20−13で7。

つまり、もとの分数は、5/7。


 ハンニバル・フォーチュンさんからのコメントです。(平成30年9月20日付け)

 逆数の世界で考えてから、また元の世界に戻るのはいかがでしょうか。逆数の世界での問
題は、以下のように考えました。

《ある分数の分子に8を加えると3で13を加えると4になるという。この分数を求めよ。》

 これならば、【ある分数の分子に5を加えると1になる】ことは自明です。従いまして、分母
は5です。

 分母が5であるような、ある分数の分子に8を加えると3となるということです。

言い換えれば、

 分母が5であるような、ある分数の分子に8を加えると15/5となるということです。従いま
して、ある分数は、7/5でした。

 以上は逆数の世界での出来事でしたから、元の世界に戻れば、求めるべき分数の値は、
5/7となります。


(コメント) 皆さんの素晴らしい閃きに感動しました。