菱形の驚くべき性質
当HPがいつもお世話になっているHN「DD++」さんからの投稿です。
(平成28年5月29日付け)
三角関数の計算と初等幾何学との対応を研究(→ 参考:「四角形の面積」)していたとこ
ろ、驚きの発見をしたので紹介します。
問題(中学3年生の応用問題レベル)
菱形ABCDで、対角線ACとBDとの交点をOとします。辺BC上に∠DAEが鋭角になる範囲
で点Eを取り、3点 B、O、D から線分AEに対して垂線 BP、OQ、DR を下ろします。
このとき、 2AQ=AP+AR および 2OQ=DR−BP が成り立つことを証明してください。 |
(解) 線分BRと線分OQの延長との交点をFとします。DR//OF かつ OはBDの中点なの
で、中点連結定理の逆より、FはBRの中点で、2OF=DRです。
BP//FQ かつ FはBRの中点なので、再び中点連結定理の逆より、QはPRの中点で、
2FQ=BP です。∠DAEが鋭角なので、点Aは線分PR間にはなく、
2AQ=(AQ−PQ)+(AQ+PQ)=AP+AR
となります。また、 2OQ=2(OF-FQ)=DR−BP となります。 (終)
どうですか驚いたでしょうと、これだけで言ってもサッパリ伝わらないと思いますので、以下
解説。
勘のいい方はお分かりと思いますが、菱形の性質でこの証明に使ったものは対角線の交
点が中点であることくらいで、点Aも線分PRの外にあることしか使っていません。
つまり、これ自体は一般の平行四辺形と適当な直線と適当な外分点を使っても成り立ち
ます。しかし、わざわざ平行四辺形を菱形に限定し、外分点を菱形の頂点に限定したこと
で、この2式が面白い意味を持つようになるのです。
AB=BC=CD=DA=1 として、角度に注目してみましょう。ここから高校数学になります。
(1) ∠OAB=∠OAD=α、∠OAE=∠OBP=∠ODR=β とおいてみる。
直角三角形ABPを考えると、 BP=sin(α−β)、AP=cos(α−β)
直角三角形ADRを考えると、 DR=sin(α+β)、AR=cos(α+β)
また、OA=cosα なので、 OQ=cosαsinβ 、AQ=cosαcosβ
つまり、この2式はそれぞれ積和の公式
2cosαcosβ=cos(α−β)+cos(α+β)
2cosαsinβ=sin(α+β)−sin(α−β)
を意味することになります。
(2) ∠ABO=∠ADO=α、∠OAE=∠OBP=∠ODR=∠β とおいてみる。
直角三角形ABPを考えると、 BP=cos(α+β)、AP=sin(α+β)
直角三角形ADRを考えると、 DR=cos(α−β)、AR=sin(α−β)
また、OA=sinα なので、OQ=sinαsinβ、AQ=sinαcosβ
つまり、この2式はそれぞれ積和の公式
2sinαcosβ=sin(α+β)+sin(αーβ)
2sinαsinβ=cos(α−β)−cos(α+β)
を意味することになります。
(3) ∠DAE=α、∠BAE=β とおいてみる。
直角三角形ABPを考えると、 BP=sinβ、AP=cosβ
直角三角形ADRを考えると、 DR=sinα、AR=cosα
また、∠OAB=(α+β)/2 なので、OA=cos((α+β)/2) で、
∠OAE=(α−β)/2 なので、
OQ=cos((α+β)/2)sin((α−β)/2) 、AQ=cos((α+β)/2)cos((α−β)/2)
つまり、この2式はそれぞれ和積の公式
cosα+cosβ=2cos((α+β)/2)cos((α−β)/2)
sinα−sinβ=2cos((α+β)/2)sin((α−β)/2)
を意味することになります。
(4) ∠ABP=∠CDR=α、∠ADR=∠CBP=β とおいてみる。
直角三角形ABPを考えると、 BP=cosα、AP=sinα
直角三角形ADRを考えると、 DR=cosβ、AR=sinβ
また、∠OBA=(α+β)/2 なので、OA=sin((α+β)/2) で、
∠OAE=∠OBP=(α−β)/2 なので、
OQ=sin((α+β)/2)sin((α−β)/2) 、AQ=sin((α+β)/2)cos((α−β)/2)
つまり、この2式はそれぞれ和積の公式
sinα+sinβ=2sin((α+β)/2)cos((α−β)/2)
cosβ−cosα=2sin((α+β)/2)sin((α−β)/2)
を意味することになります。
つまり、高校数学で習う三角関数の和と積の変換公式8種は、正体を暴いてみれば、実
は、中学3年生でも理解できる程度の簡単な菱形の性質を大変ややこしく書いただけにす
ぎないのでした。いやー驚き。
(コメント) いやー本当に驚きですね!DD++さんの洞察力溢れる展開に感動しました。