意外な所に2等辺三角形
小学校5年生で2等辺三角形のいろいろな性質を学んで以降、与えられた図形の中に
2等辺三角形を見い出し、その性質から問題が解決されるということは多分多くの人が経
験していることだろう。
幾何の問題において、補助線の発見と同様に、隠れた2等辺三角形を探すことも一つの
着眼のポイントとなる。
例 左図のような△ABCにおいて、
AB>AC ならば、 ∠C>∠B である。
この事実は、「三角形の最大辺には最大角が対応する」
ことを示すのに用いられるが、2等辺三角形の効果を知る
最良の問題と言える。
証明は易しいだろう。
(証明) 右図のように、AD=AC となるように、辺AB上 に点Dをとる。このとき、△ADCは2等辺三角形。 よって、 ∠ACD=∠ADC である。 このとき、 ∠C=∠ACD+∠BCD =∠ADC+∠BCD =∠B+2∠BCD>∠B (証終) |
次の問題は意外な所に2等辺三角形が見い出され、その結果として興味ある性質を導く
ことができる。
左図のような半径 a の半円に半径 r の円O’
が内接している。
直径ABに垂直な円O’の接線と半円との交
点をPとし、接点をQ、R とする。
このとき、△APQ は2等辺三角形である。
(証明) 右図において、OH=h とおく。
このとき、 AP2=(a+h)2+a2−h2=2a2+2ah
また、円O’が半円に接しているので、 (a−r)2=(h+r)2+r2 より、
2(a+h)r+r2=a2−h2
よって、AQ2=(a+h+r)2=(a+h)2+2(a+h)r+r2=(a+h)2+a2−h2=2a2+2ah
したがって、AP2=AQ2 即ち、AP=AQ となり、△APQ は2等辺三角形である。(証終)
△APQ が2等辺三角形であることから、
直ちに、
線分PQは∠BPHの2等分線
であることが分かる。
実際に、 △APQ が2等辺三角形であることから、 ∠APQ=∠AQP
ここで、 ∠APQ=∠APH+∠HPQ 、 ∠AQP=∠PBQ+∠BPQ なので、
∠APH=∠PBQ より、 ∠HPQ=∠BPQ
よって、 線分PQは∠BPHの2等分線である。
(追記) 平成21年9月6日付け
平成21年9月4日付けで当HPの掲示板「出会いの泉」にHN「凡人」さんが面白い問題を
提示された。
問 題 △ABCにおいて、AB=2、BC=4、CA=3 とする。辺BC上に、AD=DC
となるように点Dを取るとき、ADの長さを求めよ。
問題自体は高校1年レベルで容易に解き得る。余弦定理を用いればよい。
実際に、左図において、余弦定理より、
cosθ=7/8
なので、
AD=(3/2)(1/cosθ)=12/7
これに対して、「凡人」さんが注目しているのは、この問題が「余弦定理や三平方の定理な
どを使わない」形で、小学生レベル(この場合は私立中学受験レベルを想定)で解き得るか
という点である。
この凡人さんの問いかけに対して、当HPがいつもお世話になっているHN「らすかる」さん
が、発問からわずか2時間15分後に十分小学生的と思われる鮮やかな解法を示された。
CE=CB=4、EB=2 である二等辺三角形CEB
において、AB=2となるようにCE上に点Eと異なる
点Aをとる。
△CEB∽△BAEから、AE=1 となり、CA=3
よって、△ABCは問題にある三角形である。
次に、四角形CEBFが平行四辺形になるように
点Fをとる。
このとき、明らかに、△CEB≡△BFC である。
また、 BC=FB=4 、 CF=EB=BA=2 で、
∠FBA=∠FBC+∠CBA=∠BCA+∠CBA=∠EBA+∠CBA=∠CBE=∠BCF
より、2辺とその間の角が相等しいので、 △BFC≡△FAB となる。
このとき、AFとBCの交点をDとすると、明らかに、 AD=DC で、
AD : DF = AC : BF = 3 : 4
となる。
したがって、 AD=(3/7)AF=12/7 となる。
(コメント) らすかるさんの解答は、2等辺三角形の性質を上手く用いられていますね!
感動的です。らすかるさんに感謝します。
最初に「2等辺三角形ありき」で、その途中で題意を満たす△ABCが出現するという手法
は、私にとって多分初めて見る解法です。
らすかるさんの解法を参考にしながら題意を満たす△ABCを出発点として、ADの長さを
求めるための道筋を考えてみよう。
題意を満たす△ABCに、左図のような2等辺三角 形ABEを付加する。 明らかに、3点 E、A、C は一直線上にある。 さらに、△ABCと合同な△CFAを左図のように付 加すると、BFとACは平行となるので、 ∠BCA=∠BFA よって、 △EBC≡△ABF となり、 BF=4 このとき、 AD : DF = AC : BF = 3 : 4 より、 AD=(3/7)AF=12/7 |
(コメント) らすかるさんの解法を模倣しましたが、やはり2等辺三角形の性質が本質的に
効いていて、その呪縛から逃れることは出来ませんでした!
また、ほとんど小学生的ではないが、HN「ロン」様(9月5日付け)のように、面積比に注目
して解かれた方もおられる。
AD=d とおくと、 △ABD : △ADC = 4−d : d より、
(4−d)△ADC=d△ABD すなわち (4−d)2(△ADC)2=d2(△ABD)2
ヘロンの公式より、
(△ABD)2=3(3−d)(d−1) 、 (△ADC)2=(9/4)(d+3/2)(d−3/2)
なので、 (4−d)2・(9/4)(d+3/2)(d−3/2)=d2・3(3−d)(d−1)
すなわち、 28d4−160d3+213d2+216d−432=0
この方程式は、 d=12/7 (← 見つけるのが大変かも...。)を解に持ち、さらに、
から、題意を満たす d の値は、 d=12/7 のみである。
(コメント) 4次方程式の解は、グラフを用いないと辛いですね!グラフから、一発で、
「12/7」(← ±108の約数/7の約数 から候補を選ぶ!)と見当がつくかな。