Ferrari の解法
新学習指導要領により、「中学校では、2次方程式の解の公式は教えられなくなった」と思い
きや、実は依然として、しっかり各中学校で教えられているようだ。高校1年生対象の、基礎学
力調査により判明した。確かに、中学の教科書で教えられている2次方程式の解法は、基本
的には平方完成による方法で、これがなかなか難しい。旧課程でも、この平方完成のやり方を
飲み込めないものが多数いたことを思うと、中学側のほうで解の公式を手っ取り早く教えてしま
って、2次方程式を解かせたほうが、教える側にとっても、教わる側にとっても負担が少ない。
これが、意外と生徒が解の公式を知っている理由なのだろう。
5次以上の方程式には解の公式は存在しない(Abel)が、4次以下の方程式については、
解の公式が存在する。1次方程式、2次方程式、3次方程式、4次方程式の解の公式は、古く
から既に知られている。
このページでは、4次方程式の解の公式(Ferrariの解法)を取り上げる。
4次方程式 X4+aX3+bX2+cX+d=0 において、X に X−a/4 を代入することにより、
X3 の項を消滅させることができるので、はじめから、4次方程式は、
X4+pX2+qX+r=0
の形としてよい。このとき、
q2−4(2λ−p)(λ2−r)=0
を、4次方程式の分解方程式という。
もし、このような解λがあれば、
(X2+λ)2=X4+2λX2+λ2
=(2λ−p)X2−qX+λ2−r
=(mX+n)2
となる m,n が存在し、4次方程式の問題は、2つの2次方程式 X2+λ=±(mX+n)
の問題に帰着され、解けることになる。
上記の計算からも明らかなように、4次方程式 X4+pX2+qX+r=0 の分解方程式は、
2次方程式 (2λ−p)X2−qX+λ2−r=0 が重解を持つ条件 判別式 D=0 から得
られる。
(例) 4次方程式 X4−8X3+28X2−80X+48=0 を解け。
求める解を X とし、Y=X−2 とおく。 X=Y+2 を、方程式に代入して、
(Y+2)4−8(Y+2)3+28(Y+2)2−80(Y+2)+48=0
展開して、左辺を整理すると、
Y4+4Y2−32Y−48=0
このとき、分解方程式は、
(−32)2−4(2λ−4)(λ2+48)=0
よって、
λ3−2λ2+48λ−224=0
この3次方程式の左辺は、(λ−4)(λ2+2λ+56) と因数分解され、解の一つとして、
λ=4
を得る。このとき、
(Y2+4)2=Y4+8Y2+16
=(−4Y2+32Y+48)+8Y2+16
=4Y2+32Y+64
=4(Y+4)2
より、2つの2次方程式
Y2+4=±2(Y+4)
すなわち、
Y2−2Y−4=0 、 Y2+2Y+12=0
を得る。
これを解いて、 、
ところで、X=Y+2 なので、
、
が、4次方程式の解となる。
上記の問題のように、簡単に分解方程式の解の一つが見つかればよいが、一般的には
難しいと思う。ただ、4次方程式の解法の道筋を示している点で、Ferrariの解法は素晴ら
しいと思う。
読者のために、練習問題を残しておこう。
練習 4次方程式 X4+2X2−4X+8=0 を解け。
(答 、 )
(参考文献:永田雅宜 著 線形代数の基礎(紀伊國屋書店))
(追記) 平成22年10月8日付け
当HPがいつもお世話になっているHN「攻略法」さんから、上記の問題の解答をお寄せい
ただいた。
(解) 4次方程式 X4+2X2−4X+8=0 の分解方程式は、
(−4)2−4(2λ−2)(λ2−8)=0
∴ 2λ3−2λ2−16λ+12=0 より、 (λ−3)(2λ2+4λ−4)=0
よって、解の1つとして、λ=3 を得る。このとき、
(X2+3)2=X4+6X2+9=(−2X2+4X−8)+6X2+9=4X2+4X+1=(2X+1)2
より、2つの2次方程式 X2+3=±(2X+1) すなわち、
X2−2X+2=0 、 X2+2X+4=0
これを解いて、解は、 、 となる。 (終)
攻略法さんからの情報によれば、この問題は、筑波大学(2006年度前期 理系)で次の
ような誘導形式により出題されたとのことである。
F(x)=x4+2x2−4x+8 とする。
(1) (x2+t )2−F(x)=(px+q)2 が x の恒等式となるような整数 t、p、q の値を
1組求めよ。
(2) (1)で求めた t、p、q の値を用いて、方程式 (x2+t )2=(px+q)2 を解くこと
により、方程式 F(x)=0 の解をすべて求めよ。
(解)(1) 与式の左辺は、
x4+2tx2+t2−(x4+2x2−4x+8)=2(t−1)x2+4x+t2−8
与式の右辺は、 p2x2+2pqx+q2
したがって、 2(t−1)=p2 、 4=2pq 、 t2−8=q2
p、q は整数なので、第2式より、 ( p , q )=±( 1
, 2 ) 、 ±( 2 , 1 )
このうち、t も整数になる1組を求めれば、 ( p , q )=(
2 , 1 ) で、 t=3
(2) (1)より、 F(x)=(x2+t )2−(px+q)2=(x2+3 )2−(2x+1)2 なので、
F(x)=(x2−2x+2)(x2+2x+4)
よって、解は、 、 となる。 (終)
この攻略法さんの解法に対して、当HPがいつもお世話になっているHN「FN」さんは、デ
カルトの方法(2次式の積として、係数比較により求める方法)により解かれた。
(解) x4+2x2−4x+8=(x2+ax+b)(x2+px+c) とおくと、x3 の係数を比較して、
a+p=0 なので、 p=−a
よって、 x4+2x2−4x+8=(x2+ax+b)(x2−ax+c) と書ける。
右辺=x4+(b+c−a2)x2+a(c−b)x+bc より、係数比較して、
b+c−a2=2 、 a(c−b)=−4 、 bc=8
よって、 b+c=a2+2 、 b−c=4/a より、
2b=a2+2+4/a 、 2c=a2+2−4/a
この2式を掛けて、a2=A とおくと、 4bc=(A+2)2−16/A
ここで、 bc=8 なので、 32=(A+2)2−16/A
よって、 A3+4A2+4A−16=32A より、 A3+4A2−28A−16=0
(A−4)(A2+8A+4)=0 から、 A=4 、a=2 、b=4 、 c=2
したがって、 x4+2x2−4x+8=(x2+2x+4)(x2−2x+2)
よって、解は、 、 となる。 (終)
FNさんによれば、
4次方程式と言えば、フェラーリの方法というイメージですが、Wikipedia には他に、デカル
ト、オイラー、ラグランジュの方法が載っています。デカルトの方法が一番簡単なように思い
ます。Wikipedia によると「方法序説」に書いてあるそうですが、見つかりませんでした。
とのことです。
(コメント) 攻略法さん、FNさんに感謝します。x3 の項がない4次式の因数分解、勉強に
なりました!
(追記) 令和3年7月11日付け
YouTube 等で活躍されているHN「A.M.」さんから最近、4次式を(2次式)×(2次式)に
因数分解する方法について、ご教示いただいた。
x4+Ax3+Bx2+Cx+D=(x2+ax+b)(x2+cx+d) と因数分解できる場合を考える
と、
A=a+c 、B=ac+b+d 、C=ad+bc 、D=bd
が成り立つ。右辺を展開して係数比較すればよい。
因数分解するには、上式が成り立つような a、b、c、d を発見すればよい。
上式をぼ〜っと眺めていると、何となく「タスキ掛け」の匂いが感じられる。
手順的には、まず、b と d を決めて、その後、a と c を決めればいいのだろう。
具体的な問題で、因数分解の方法を探究してみよう。
問題 x4−10x3+19x2−18x+9 を(2次式)×(2次式)の形に因数分解せよ。
(解) x4−10x3+19x2−18x+9=(x2+ax+b)(x2+cx+d) とすると、
bd=9 から、例えば、b=9、d=1 としてみる。このとき、ac=19−(9+1)=9 から、
a+c=−10 と合わせて、タスキ掛けの方法で、 a=−9、c=−1 としてみる。
このとき、 ad+bc=−9−9=−18=C が成り立つので、求める場合となる。
よって、
x4−10x3+19x2−18x+9=(x2−9x+9)(x2−x+1) と因数分解できる。 (終)
(コメント) 上記の計算では、たまたま上手く出来たが、最後の確認(C=ad+bc)で合わ
ない場合は、タスキ掛けでもそうであったように、幾ばくかの試行錯誤が必要であ
る。
また、因数分解の結果から分かるように、因数定理を用いての因数分解は困難である。
このような手法にも熟知していれば、完璧なんだろうと思う。このような視座をご教示いただ
いたHN「A.M.」さんに感謝いたします。
通常の因数定理では難しいが、次のような裏技を試してみるのも一法だろう。
(→ 参考:「オメガ(ω)の真実」)
(別解) x2−x+1=0 の解をτとすると、 τ2−τ+1=0 すなわち、 τ3=−1
そこで、x=τ のとき、
τ4−10τ3+19τ2−18τ+9=−τ+10+19τ2−18τ+9
=19(τ2−τ+1)=0
よって、与式は、 x−τ すなわち、 x2−x+1 で割り切れる。
実際に、割り算して、 与式=(x2−9x+9)(x2−x+1) が分かる。 (終)
読者のために練習問題を残しておこう。
練習問題 x4−7x2+1 を(2次式)×(2次式)の形に因数分解せよ。
ぱっと見て、
x4−7x2+1=x4+2x2+1−9x2=(x2+1)2−(3x)2=(x2+3x+1)(x2−3x+1)
と因数分解できることに気がつかれた方もおられると思うが、練習のために上記の手法で
因数分解してみよう。
(解) x4−7x2+1=(x2+ax+b)(x2+cx+d) とすると、
bd=1 から、例えば、b=1、d=1 としてみる。
このとき、ac=−7−(1+1)=−9 から、
a+c=0 と合わせて、タスキ掛けの方法で、 a=−3、c=3 としてみる。
このとき、 ad+bc=−3+3=0=C が成り立つので、求める場合となる。
よって、 x4−7x2+1=(x2−3x+1)(x2+3x+1) と因数分解できる。 (終)
(コメント) いつもだったらアクロバット的に、平方の差の形を目指すのだが、HN「A.M.」
さんの解法では、ごく自然に解かれますね!
(追記) 令和3年7月12日付け
「因数分解せよ」という問題では、「有理整数の係数の範囲で」ということが暗黙の了解で
ある。
だから、
x4−7x2+1=x4+2x2+1−9x2=(x2+1)2−(3x)2=(x2+3x+1)(x2−3x+1)
と、有理整数の係数となるように、アクロバット的に平方の差の形を目指すわけである。
もちろん、何も考えなければ、
x4−7x2+1=x4−2x2+1−5x2=(x2−1)2−(x)2
=(x2+x−1)(x2−x−1)
という形にも変形可能なわけであるが、この形は、「因数分解せよ」の答えにはならない。
x2−3x+1=(x−(3+)/2)(x−(3−)/2)
x2+3x+1=(x+(3+)/2)(x+(3−)/2)
と1次式の積に変形できるので、2つの因数を組み合わせて、
(x+(3+)/2)(x−(3−)/2)=x2+x−1
(x−(3+)/2)(x+(3−)/2)=x2−x−1
と書ける。
このページの冒頭で取り上げた方程式を、分解方程式によらない方法で解いてみよう。
問題 4次方程式 x4−8x3+28x2−80x+48=0 を解け。
(解) x4−8x3+28x2−80x+48=(x2+ax+b)(x2+cx+d) とすると、
bd=48 から、例えば、b=4、d=12 としてみる。
このとき、ac=28−(4+12)=12 から、
a+c=−8 と合わせて、タスキ掛けの方法で、 a=−6、c=−2 としてみる。
このとき、 ad+bc=−72−8=−80=C が成り立つので、求める場合となる。
よって、 x4−8x3+28x2−80x+48=(x2−6x+4)(x2−2x+12) なので、
方程式の解は、 x= 、 となる。 (終)
問題 4次方程式 x4+2x2−4x+8=0 を解け。
(解) x4+2x2−4x+8=(x2+ax+b)(x2+cx+d) とすると、
bd=8 から、例えば、b=4、d=2 としてみる。
このとき、ac=2−(4+2)=−4 から、
a+c=0 と合わせて、タスキ掛けの方法で、 a=2、c=−2 としてみる。
このとき、 ad+bc=4−8=−4=C が成り立つので、求める場合となる。
よって、 x4+2x2−4x+8=(x2+2x+4)(x2−2x+2) なので、
方程式の解は、 x= 、 となる。 (終)
HN「A.M.」さんからのコメントです。(令和3年8月3日付け)
4次式の因数分解について、あれからいろいろ考えました。そして、チャート式を使わず因
数分解する方法を考えました。
x^4+Ax^3+Bx^2+Cx+D=(x^2+ax+b)(x^2+cx+d) において、
A=a+c ---(1)
B=ac+b+d -(2)
C=ad+bc --(3)
D=bd -----(4)
(1)式と(2)式から、cを消去してaの2次式と見て、根が整数になる条件として、判別式が平
方数になることを考え、同時に(4)式も考慮して、b+d の値を絞り込みます。(2)式からacの値
を得て、(1)式と合わせて、acの値を決定します。
この時点では、a、b、c、dの組合せが決まってないですから、(3)式より決定して、因数分解
終了となります。
要点は、(4)式からスタートするのでなく、(1)と(2)からb+dの値を絞り込めると気付いたこと
です。この時に同時に(4)を使います。
HN「A.M.」さんからのコメントです。(令和3年8月4日付け)
x^4+10*x^3+25*x^2-36 を、上記の方法で因数分解したら、正解が三つ出てきて驚きまし
た。
理由は後でわかりました。この式を因数分解すると、 (x-1)(x+3)(x+2)(x+6) になります。
2次式の積として与式を因数分解したので、3種類答えが出たとわかりました。
解法の正しさを実感しました。
(コメント) 実際に、HN「A.M.」さんの方法で計算してみた。
x^4+10x^3+25x^2-36=(x^2+ax+b)(x^2+cx+d) において、
10=a+c -----(1)
25=ac+b+d --(2)
0=ad+bc ----(3)
-36=bd -----(4)
(1)式と(2)式から、cを消去して、 a^2-10a+25-b-d=0
aは整数なので、aの2次方程式とみて、判別式Dは平方数となる。
よって、判別式D=25-25+b+d=b+d が平方数であることから、-36=bd より、
b=-3 、d=12 または、b=6 、d=-6 または、b=-6 、d=6 または、b=-2 、d=18
(1) b=-3 、d=12 のとき、 a^2-10a+16=0 より、 a=2、8 で
a=2 のとき、 c=8 なので、 0=ad+bc を満たし、
x^4+10x^3+25x^2-36=(x^2+2x-3)(x^2+8x+12)
a=8 のとき、 c=2 なので、 0=ad+bc を満たさない。
(2) b=6 、d=-6 のとき、 a^2-10a+25=0 より、 a=5 で、 c=5
0=ad+bc を満たし、 x^4+10x^3+25x^2-36=(x^2+5x+6)(x^2+5x-6)
(3) b=-6 、d=6 のとき、 a^2-10a+25=0 より、 a=5 で、 c=5
0=ad+bc を満たし、 x^4+10x^3+25x^2-36=(x^2+5x-6)(x^2+5x+6)
(4) b=-2 、d=18 のとき、 a^2-10a+9=0 より、 a=1、9 で
a=1 のとき、 c=9 なので、 0=ad+bc を満たし、
x^4+10x^3+25x^2-36=(x^2+x-2)(x^2+9x+18)
a=9 のとき、 c=1 なので、 0=ad+bc を満たさない。
以上から、因数分解の方法は3通りあり、
x^4+10x^3+25x^2-36=(x^2+2x-3)(x^2+8x+12)
または、
x^4+10x^3+25x^2-36=(x^2+5x+6)(x^2+5x-6)
または、
x^4+10x^3+25x^2-36=(x^2+x-2)(x^2+9x+18)
である。
(コメント) 「因数分解せよ」が問題なので、答が3通りあるわけでもなく、
x^4+10x^3+25x^2-36=(x-1)(x+3)(x+2)(x+6)
とするのが本筋でしょう!
HN「A.M.」さんの方法に対して、今までの手順でも解いてみた。
x^4+10x^3+25x^2-36=(x^2+ax+b)(x^2+cx+d) において、
10=a+c -----(1)
25=ac+b+d --(2)
0=ad+bc ----(3)
-36=bd -----(4)
bd=−36 から、例えば、b=−2、d=18 としてみる。
このとき、ac=25−(−2+18)=9 から、
a+c=10 と合わせて、タスキ掛けの方法で、 a=1、c=9 としてみる。
このとき、 ad+bc=18−18=0=C が成り立つので、求める場合となる。
よって、
x4+10x3+25x2−36=(x2+x−2)(x2+9x+18)=(x−1)(x+2)(x+3)(x+6)
と因数分解できる。 (終)
(コメント) 以上の計算から分かるように、HN「A.M.」さんの方法はあまり効果的でない
ように感じる。
以下、工事中!