ソモスの数列
高校で習う数列で一番有名な数列は、フィボナッチ数列であろう。
その数列は簡単な漸化式
a1=a2=1 、an+2=an+1+an (n=1,2,・・・)
で定義される。漸化式の形から、任意の n に対して、 an が整数であることは誰も疑うこ
とはしないと思う。
これに対して、世の中に驚くべき数列が存在する。その漸化式は、
a1=a2=a3=a4=1 、an・an+4=an+3・an+1+an+22 (n=1,2,・・・)
で定義される。
この漸化式の形を見て、誰も「任意の n に対して、 an は整数になる!」ということを信
じないだろうと思う。(私も、当初信じられなかった!)
ところが、この数列の各項は、誰が何といっても必ず整数になる!
上記の数列は、ソモスの第1数列(または、4-Somos sequence)といわれている。
日本語のHPで、この数列について取り上げているものは非常に少ない。当HPがいつも参
考にさせてもらっている
オンライン整数列大辞典
では、整数列番号A006720 に詳しくまとめられている。
このページでは、この数列の話題について整理しようと思う。
実際に、数列の各項を求めてみよう。
1、1、1、1、2、3、7、23、59、314、1529、8209、83313、620297、・・・
求めるのに、Excel を利用した。セルのA1、A2、A3、A4に、「1」を入力して、A5には、
「=(A2*A4+A3^2)/A1」と入力。後は、このセルA5を下方にコピーすればよい。
(残念ながら、この方法で求められる最大値は、32606721084786 である。)
ソモスの第1数列は、楕円曲線 y2=4x3−4x+1 とも関係があるそうだが、ここでは
深入りしないことにする。
さて、当面の課題は、ソモスの第1数列の各項が整数であることはどのようにして示され
るのかということである。
この証明は、数学セミナー(’93年3月号 日本評論社)の名物コーナー「エレガントな解
答をもとむ」において与えられている。(解答者は、一松 信 先生)
また、一松 信 著 「初等関数概説」(森北出版)p.84〜p.87にも詳しい記述がある。
詳しい証明はそちらに譲るとして、ここでは証明のあらましを眺めることにしよう。
初期条件から、 a1 〜 a8 が整数であることは明らかなので、a9 が整数であることを論証
により確認することにする。
まず、次の事実が成り立つ。
0≦n≦4 に対して、an+4 は、an+1、an+2、an+3 とそれぞれ互いに素である。
(証) an+4 と an+3 が互いに素でないとして、公約数のうち素数であるものを p とおく。
このとき、 an・an+4=an+3・an+1+an+22 から、 an+22=an・an+4−an+3・an+1
なので、 an+22 すなわち、 an+2 は、p で割り切れる。
以上から、 an+4 と an+3 が p で割り切れれば、an+3 と an+2 も p で割り切れる。
この操作を続けると、 a2 と a1 も p で割り切れることになるが、a2 = a1 =1 なので、
これは不可能である。
よって、 an+4 と an+3 は互いに素である。
次に、an+4 と an+2 が互いに素でないとして、公約数のうち素数であるものを p とおく。
このとき、 an・an+4=an+3・an+1+an+22 から、 an+3・an+1=an・an+4−an+22
なので、 an+3・an+1 は、p で割り切れる。上記より、an+4 と an+3 は互いに素である
ので、 an+1 は、p で割り切れる。このとき、an+2 と an+1 が p で割り切れることにな
るので、上記と同様の推論により、a2 と a1 も p で割り切れることになるが、これは不可
能である。
次に、an+4 と an+1 が互いに素でないとして、公約数のうち素数であるものを p とおく。
このとき、 an・an+4=an+3・an+1+an+22 から、 an+22=an・an+4−an+3・an+1
なので、 an+22 すなわち、 an+2 は、p で割り切れる。
このとき、an+2 と an+1 が p で割り切れることになるので、上記と同様の推論により、
a2 と a1 も p で割り切れることになるが、これは不可能である。(証終)
この事実を用いて、次の事実を論証により示そうと思う。
1≦n≦8 に対して、an が整数であるとき、a9 も整数である。
(証) 以下において、 a2=s、a3=t、a4=u とし、a5 を法として考える。
a1・a5=a4・a2+a32=su+t2 より、 su+t2≡0 である。
さらに、a2・a6=a5・a3+a42≡u2 において、a2=s と a5 は互いに素なので、a6≡u2/s
である。同様にして、
a3・a7=a6・a4+a52≡u3/s において、a3=t と a5 は互いに素なので、a7≡u3/st
a4・a8=a7・a5+a62≡u4/s2 において、a4=u と a5 は互いに素なので、a8≡u3/s2
このとき、 a8・a6+a72≡u5/s3+u6/s2t2=u5(t2+su)/s3t2≡0 である。
よって、 a8・a6+a72 は、a5 で割り切れる。
ところで、 a5・a9=a8・a6+a72 より、 a9=(a8・a6+a72)/a5 なので、 a9 は整数と
いえる。(証終)
数学的帰納法を用いて、同様の論法で、「全ての n に対して、an は整数」であることが
示される。
上記では、a5 を法として考えて証明したが、直接的に示すことも出来る。
(別証) 漸化式より、次の各式が成り立つ。
a4・a8=a7・a5+a62 すなわち、 a8=(a7・a5+a62)/a4
a3・a7=a6・a4+a52 すなわち、 a7=(a6・a4+a52)/a3
a2・a6=a5・a3+a42 すなわち、 a42= a2・a6−a5・a3
a1・a5=a4・a2+a32
このとき、 a5・a9=a8・a6+a72 において、 a8・a6+a72 が a5 で割り切れることを示
せばよい。順次、上式を代入して計算すると、
a8・a6+a72=a6・(a7・a5+a62)/a4+(a6・a4+a52)2/a32
すなわち、
a4・a32・(a8・a6+a72)
=a32・a6・(a7・a5+a62)+a4・(a6・a4+a52)2
=( a5 を含む項)+a32・a63+a43・a62=( a5 を含む項)+a62(a32・a6+a43)
ここで、
a32・a6+a43=a32・a6+a42・a4
=a32・a6+(a2・a6−a5・a3)a4
=( a5 を含む項)+(a4・a2+a32)・a6
=( a5 を含む項)+a1・a5・a6=( a5 を含む項)
以上から、 a4・a32・(a8・a6+a72) は、a5 で割り切れる。
また、 a5 は、a3 、a4 とそれぞれ互いに素なので、 a8・a6+a72 は、a5 で割り切れる。
したがって、 a9 は整数となる。 (証終)
上記では、ソモスの第1数列についてまとめたが、ソモスの第2数列、ソモスの第3数
列も存在する。
ソモスの第2数列
a1=a2=a3=a4=a5=1 で、
an・an+5=an+4・an+1+an+3・an+2 (n=1,2,・・・)
で定義される数列の各項は整数である。
ソモスの第3数列
a1=a2=a3=a4=a5=a6=1 で、
an・an+6=an+5・an+1+an+4・an+2++an+32 (n=1,2,・・・)
で定義される数列の各項は整数である。
これらの事実もにわかには信じられないかもしれないが、真実である!
これらの数列は、ソモスにより1980年頃に提出され、1989年計算機による数式処理を
使用して証明された。
(参考文献:一松 信 著 初等関数概説 (森北出版))