ヤングの定理                             戻る

 当HPの投稿において、「ある図形の性質」というものが考えられている。いろいろな方々
のお力添えで、

  半径5/2の円内に互いの距離が2以上である点を9個配置することは不可能

であることが示された。

 円と点の配置に関する定理として、ヤングの定理(J.W.Young (1879〜1932))が知ら
れている。

ヤングの定理

  平面上に、n 個の点が与えられている。ただし、どの2点間の距離も 1 以下とする。
 このとき、n 個の点は全て、半径 /3 の円の周および内部に存在する。


 1辺の長さが1の正三角形の外接円の半径がちょうど、/3 であるので、「どの2点
間の距離も 1 以下」という束縛条件を満たす点は全て、この円の枠内に存在するという
ことである。

 この定理を示すために、いくつか準備をしておこう。

補題A  直線上に、n 個の線分が与えられている。ただし、どの2つの線分も重なる部
      分があるものとする。
       このとき、全ての線分に共通する点が少なくとも一つ存在する。

(証明) 証明は、数学的帰納法による。

    n=2 のとき、明らか

    n=k (k≧2) のとき、成り立つと仮定する。

     いま、k+1 個の線分 L1、L2、・・・、L、Lk+1 が直線上にあり、どの2つの線

    分も重なる部分があるものとする。このとき、帰納法の仮定により、

    k 個の線分 L1、L2、・・・、L に対して、空ではない共通部分 L が存在する。

     この L と Lk+1 が重なることを示せば十分である。

    いま、L と Lk+1 が重ならないものと仮定する。このとき、L と Lk+1 の間にある点

    Pが存在する。ところが、k 個の線分 L1、L2、・・・、L は、L と Lk+1 の両方と重

    なりを持つので、点Pは、k 個の線分 L1、L2、・・・、L 全てに共通する点になる。

    すなわち、Pは、Lに属する。これは、点Pが、Lに属さない点としたことに矛盾する。

    よって、k+1 個の線分 L1、L2、・・・、L、Lk+1 に共通する点が存在する。

     以上から、n=k+1 のときも成り立ち、2以上の全ての自然数に対して、命題は

    成り立つ。(証終)

 この補題Aは、平面の場合に拡張される。

補題B  平面上に、n 個の円板が与えられている。ただし、どの3つの円板も重なる部
      分があるものとする。
       このとき、全ての円板に共通する点が少なくとも一つ存在する。

(証明) 証明は、数学的帰納法による。

    n=3 のとき、明らか

    n=k (k≧3) のとき、成り立つと仮定する。

     いま、k+1 個の円板 C1、C2、・・・、C、Ck+1 が平面上にあり、どの3つの円

    板も重なる部分があるものとする。このとき、帰納法の仮定により、

    k 個の円板 C1、C2、・・・、C に対して、空ではない共通部分 C が存在する。

     この C と Ck+1 が重なることを示せば十分である。

    いま、C と Ck+1 が重ならないものと仮定する。Ck+1 に最も近いC上の点をAとす

    る。このとき、左下図のように線分OAに垂直な直線 L を考える。LがCと交わるもの

  とすると、∠OABは鋭角で、OA≦OB より、

  Hは線分AB上にあり、OA>OH。

   ところが、点A、BはCに属するので、k 個の

  円板 C1、C2、・・・、C に属する。このとき、

  線分ABは、k 個の円板 C1、C2、・・・、C

  に属することになり、点Hは、k 個の円板
  
   C1、C2、・・・、C すなわち、Cに属することになり、OA≦OH でなければならない。

   これは矛盾である。

     以上から、C と Ck+1 の何れにも交わらない直線Lが存在することが分かった。

    ところが、k 個の円板 C1、C2、・・・、C は、C と Ck+1 の両方と重なりを持つの

    で、直線Lは、k 個の円板 C1、C2、・・・、C 全てと交わる。直線Lの、k 個の円

    板 C1、C2、・・・、C との重なりの部分をそれぞれ L1、L2、・・・、L とする。

    これらのどの2つをとっても重なる部分があることが次のようにして示される。

 例えば、 L1 と L2 が重なっていることを示す。

 Cに属する点Pは、C1、C2 にも属する。

  円板 C1、C2、 Ck+1 は重なる部分があるの

 で、そこに点Qをとる。このとき、線分PQは直線

 L と点Rで交わり、点Rは、円板 C1、C2 に属す

 る点である。

     したがって、点Rは、線分 L1、L2 に共通する点で、L1 と L2 は重なっている。

    同様にして、他のどんな2つの線分に対しても重なる部分のあることが示される。

     よって、補題Aにより、線分 L1、L2、・・・、L に共通する点Dが存在する。この点

    Dは、k 個の円板 C1、C2、・・・、C に共通する点であるので、点Dは、Cに属さな

    ければならない。しかし、このことは、Dの取り方に矛盾する。

     ゆえに、C と Ck+1 は重なり、k+1 個の円板 C1、C2、・・・、C、Ck+1 に共通

    する点が少なくとも一つ存在する。

     以上から、n=k+1 のときも成り立ち、3以上の全ての自然数に対して、命題は

    成り立つ。(証終)


 さて、いよいよヤングの定理の証明にとりかかろう。

 平面上の n 個の点から任意に3点をとる。どの2点間の距離も 1 以下であるので、一

般性を失うことなく、3点のうち1点は半径1の円の中心で、もう1点は、その円の半径上

にあるものとしてよい。そうすると、第3の点は、下図の斜線部分の領域内になければなら

ない。
            

 このとき、図形の対称性から、第3の点は、下図の斜線部分の領域にあるものとしてもよ

い。
            

 下図のように領域は、第1、第2の点を含む半径 /3 の円により被覆されるので、

第3の点がこの領域内のどこにあろうとも、3点は必ず半径 /3 の円の周および内

部に含まれる。

            

(厳密には計算をしなければいけないが、ここでは図による了解に留める。)

 いま、平面上の n 個の各点を中心として、半径 /3 の円を描く。

              

 このとき、任意の3点は、半径 /3 の円の周および内部に含まれるので、その中心

は3つの円の共通部分に含まれる点である。

 よって、平面上の、n 個の円板のうち、どの3つの円板も重なる部分のあることが示され

た。したがって、補題Bにより、全ての円板に共通する点が少なくとも一つ存在する。

 この点を中心として、半径 /3 の円を描けば、平面上の n 個の点は全て、この円

の周および内部に含まれる。

(参考文献:ゴロヴィナ、ヤグロム 著 松田信行 訳  幾何の帰納法 (東京図書))