円周の等分点の性質                       戻る

 平成19年9月3日付けで当HPの掲示板「出会いの泉」に、当HPがいつもお世話になっ
ている「らすかる」さんから問題が提起された。

 単位円周上に等間隔に、n 点(n≧2)をとり、ある点と他の n−1 点をそれぞれ
結ぶと、それら n−1 本の線分の長さの積は n である


 この証明は難しいだろうか?

   (補足) zexio さんによれば、この問題は、1999〜2002年位に出版された「大学
       への数学」の宿題にあったそうである。

 らすかるさんの問題を拝見して、その証明云々の前に、「そんな性質もあるのか!」と感
動してしまった。(私には、初見でした!)

 いくつか手計算で確認してみよう。

n=2 のときは、

 長さの積=2

なので、命題は成り立つ。
  n=3 のときは、

 長さの積=×

      =3

なので、命題は成り立つ。
 
n=4 のときは、

 長さの積=×2×

      =4 

なので、命題は成り立つ。
 
n=5 のときは、以下のような計算を行う。

   L1=2sin36°で、さらに、余弦定理により、L2=2sin72°

ここで、 θ=36°とおくと、 5θ=180°より、 3θ=180°−2θ
            よって、  sin3θ=sin(180°−2θ)=sin2θ から、

                    3sinθ−4sin3θ=2sinθcosθ

                sinθ≠0 なので、  3−4sin2θ=2cosθ

     すなわち、3−4(1−cos2θ)=2cosθ より、 4cos2θ−2cosθ−1=0

 これより、 cosθ>0 に注意して、
                       
 このとき、
        

 したがって、 長さの積=(2sinθ・2sin2θ)2=5 となるので、命題は成り立つ。
 
  n=6 のときは、

    長さの積=1××2××1=6

  なので、命題は成り立つ。

 
  n=7 のとき、 180°/7=θ とおくと、

     L1=2sinθ

     L22=1+1−2cos4θ=4sin22θ より、 L2=2sin2θ     

                 L32=1+1−2cos6θ=4sin23θ より、 L3=2sin3θ

したがって、長さの積=(L1・L2・L32=64(sinθ・sin2θ・sin3θ)2 を求めればよい。

 このとき、式 sinθ・sin2θ・sin3θ について、ある魅惑的な公式が知られている。
 
n=8 のとき

       L12=1+1−2cos45°=2−

       L2=2sin90°= より、 L22=2

                     L32=1+1−2cos135°=2+

                  明らかに、   L4=2

したがって、 長さの積=L12・L22・L32・L4=(2−)・2・(2+)・2=8 となる。    

 ところで、n=7 のときの計算から、この問題の本質は次の計算にあることが察せられる。

   180°/n=θ とおく。左図において、余弦定理より、

 A02=1+1−2cos2kθ=2(1−cos2kθ)=4sin2kθ

    よって、  A0=2sinkθ

  したがって、求める長さの積は、

 A01×A02×・・・×A0n−1=2sinθ×2sin2θ×2sin3θ×・・・×2sin(n−1)θ

                     =

 ここで、右辺の値が、n に等しいことを示すには、多くの技巧的な準備と少しの勇気がい
るが、左辺の値が、n に等しいことを示すことは易しいようだ。


 Anonymous さんからの情報によれば、次のように示す方法が最も簡明だろう。
           (見事な証明で、感動しました!Anonymous さんに感謝いたします。)

(証明) ガウス平面 において、 A0(1) とし、180°/n=θ とする。

              

とおくと、 Ak(αk) と書くことができる。

 このとき、 A0(1) の置き方から、2点 Ak と An−k は実軸に関して線対称で、

2つの複素数 αk と αn−k は互いに共役な複素数となる。

したがって、  2つの複素数 1−αk と 1−αn−k も互いに共役な複素数となる。

このとき、 その積について、

    (1−αk)(1−αn−k)=|1−αk|・|1−αn−k|=A0×A0n−k

が成り立つ。

 以上から、 

  A01×A02×・・・×A0n−1=(1−α)(1−α2)・・・(1−αn−2)(1−αn−1

となる。

 ここで、 F(x)=(x−α)(x−α2)・・・(x−αn−2)(x−αn−1) とおくと、

α は、1 の n 乗根なので、 方程式 x−1=0 の解である。

 このとき、 α≠1 で、 x−1=(x−1)F(x) が成り立つ。

両辺を x で微分して、 nxn-1=F(x)+(x−1)F’(x)

上式に、x=1 を代入して、

     n = F(1) = (1−α)(1−α2)・・・(1−αn−2)(1−αn−1

したがって、
         A01×A02×・・・×A0n−1 = n

が成り立つ。  (証終)

(これが、らすかるさんの考えられた問題であった。)


 また、この結果から、次の魅惑的な公式も証明される。

      θ=180°/n のとき、   = n

(証明)

   A01×A02×・・・×A0n−1  なので、上記の結果より、

           = n

が成り立つ。  (証終)

(コメント) それにしても、美しい結果ですね!!

 らすかるさんが他所のHPで書き込みされているのを拝見すると、この問題のそもそもの
発端は、

    sin36°×sin72°×sin108°×sin144°

という問題だとのことである。これは丁度、上記の n=5 の場合の問題である。


(追記) 平成27年9月14日付け

 次は、cos(π/7)cos(2π/7)cos(3π/7)=1/8 の証明である。発想の斬新さに脱帽で
す。


  正7角形の内角の大きさは、5π/7 で、∠APB=π/7

   sin(π/14)=a/2c 、sin(3π/14)=c/2b 、
   sin(5π/14)=b/2a

  これらの式を辺々掛けて、
   sin(π/14)sin(3π/14)sin(5π/14)=1/8

ここで、sin(π/14)=cos(π/2−π/14)=cos(3π/7)
   sin(3π/14)=cos(π/2−3π/14)=cos(2π/7)
   sin(5π/14)=cos(π/2−5π/14)=cos(π/7)

               よって、 cos(π/7)cos(2π/7)cos(3π/7)=1/8 が成り立つ。


 ところで、phaos さんという方(以前にも当HPでお世話になりました!)が、1998年に

      θ=180°/n のとき、   = n

を証明されている。

 やはり共役複素数の考え方を用いた、非常に技巧的な証明で、その簡明さには驚かされ
る。多少文言を修正して、なぞってみたいと思う。

(証明)  (x−1)2=(x−1)(x−1)

            =(x−e2πi)(x−e−2πi)  (← この変形に、しびれました!)

            

よって、 x≠1 として、

   

上式において、x が限りなく 1 に近づくときの極限値を考えて、



すなわち、 π/n=θ とおいて、

                   = n

が成り立つ。 (証終)

(コメント) 上記をまとめるにあたり、らすかるさん、Anonymous さんを始め、eibuさんや
      kokouさん、zexio さんからの情報が大いに役立ちました。この場をかりて感謝
      いたします。

(追記) 平成19年9月13日付け

 Anonymous さんのご尽力により、らすかるさんの問題の原典が見いだされた。

 If C123・・・Cn is a regular n-gon inscribed in a circle of unit radius
centered at O ,and P is the point on OC1 at a distance x from O ,
then x−1=PC1・PC2・・・PCn


 (原点中心の単位円に内接する正 n 角形 C123・・・Cn において、OC1上に点 P を
  OP = x であるようにとる。このとき、 −1=PC1・PC2・・・PCn が成り立つ。)

            

 Anonymous さんによれば、この定理の発見者はコーツ(Roger Cotes 1682〜1716)

とのこと。ニュートンのお弟子さんで、プリンキピア第2版の編集を行った方。ニュートンは早

すぎる彼の死を悼んで、

      If he had lived we might have known something.

と言ったそうである。

 意訳をすれば、

      彼が死んでしまって、我々に未知の部分が残ってしまった!

とでもなるのかな?


 ところで、 x=0 のとき、 PC1・PC2・・・PCn=−1 になるが、PC1、PC2、・・・に何ら
かの意味づけが必要だろう。

 ガウス平面において、 P、C1、C2、・・・、Cn を複素数とし、例えば、 PC1=P−C1 と
考えれば、矛盾が起きないように思う。

 すなわち、 |PC1|・|PC2|・・・|PCn|=−PC1・PC2・・・PCn=1 となる。

 また、このように理解すれば定理の式は今日で言うところの複素数の範囲での因数分解

      −1=(x−C1)(x−C2)・・・(x−Cn

と同義であり、上記で述べた証明で、複素数が使われる原典にもなっているようだ。


(コメント) 今から300年ほど前から知られていた問題ということで感動しました。
      Anonymous さんのご尽力に感謝いたします。


(追記) 平成20年3月18日付け

 三角比の値で、 tan(π/6)=1/ 、 tan(π/3)= ということを理解しても、

        tan(π/6)×tan(π/3)=1

という事実に気がつく高校1年生は少ないかもしれない。
                (→もちろん、高校1年生は、弧度法ではなくて、度数法ですが...!

 次の値 tan(π/8)×tan(π/4)×tan(3π/8) はいくつになるだろうか?

 もちろん、 tan(π/4)=1 なので、 tan(π/8)×tan(3π/8) の値を求めればよい
のだが...。

 数学Uで学ぶ半角の公式を用いれば、
                          

なので、 tan2(π/8)=(−1)2 より、 tan(π/8)=−1

      tan2(3π/8)=(+1)2 より、 tan(π/8)=+1

 したがって、 tan(π/8)×tan(π/4)×tan(3π/8)=(−1)・1・(+1)=1

 以上のことは、下図と睨めっこすれば幾何学的に納得できることだろう。

       

 この問題の特徴は、π/2 を、n 等分し、それらの角の正接をすべて掛け合わせている
点だろう。

 このとき、
         

という公式が成り立つので、上記のことから、一般に

          

が成り立つことは、ほぼ自明と言える。

 すぐ納得されない方のために、次のような証明が知られているので紹介しよう。

(証明) 
       
    より、

    

    よって、

     

    したがって、
               (証終)

 この等式を用いると、

           

が成り立つことが簡単に示される。

 実際に、
       
なので、
       

を掛けたり、割ったりすればよい。


 平成20年3月18日付けで、当HPの掲示板「出会いの泉」に、zk43さんの書き込みが
あった。

 定積分の計算
            

に、このページで行った手法が生かせるというものである。

 通常、上記の定積分は次のような置換積分法により求められる。

   まず、左辺は特異点を持つ関数の定積分なので、
  可積分であることを示そう。

   この場合、次の定理が用いられる。

   関数 F(x) が区間 [ a , b ] において、a を特

  異点とするとき、0<α<1 なるある α について、

   x → a+0 のとき、 (x−a)αF(x)が有限確定

  値に収束すれば、関数 F(x) は区間 [ a , b ]

  において可積分となる


   証明は、(x−a)αF(x) の有界性から明らかだろう。



 上記の定理を用いて、


から、可積分となる。 さて、

   

とおき、 x → π/2−x と置換すると、    
である。また、 x → π−x と置換すると、    

である。 このとき、
             
 そこで、
       

なので、
        

が成り立つ。

(コメント) 途中の式変形で、「ここまでする!」という感動もあるが、無味乾燥な式変形で
      あることに変わりはない。

 この話題について、zk43さんは次のように考えられた。

 このページの冒頭の結果から、

 半径 1 の円に内接する正 n 角形があり、一つの頂点と他の n−1 個の頂点を
結ぶ線分 n−1 本を作ると、これら n−1 本の線分の長さの積は、n


であった。

 そこで、今度は半径 1 の円に内接する正 2n 角形A012・・・A2n−1を考え、その一つ
の頂点をガウス平面 において、 A0(1) とし、π/(2n)=θ とする。

              

とおくと、 Ak(αk) と書くことができる。

 このとき、 A0(1) の置き方から、2点 Ak と A2n−k は実軸に関して線対称で、

2つの複素数 αk と α2n−k は互いに共役な複素数となる。

したがって、  2つの複素数 1−αk と 1−α2n−k も互いに共役な複素数となる。

このとき、 その積について、

   (1−αk)(1−α2n−k)=|1−αk|・|1−α2n−k|=A0×A02n−k

が成り立つ。 以上から、

  A01×A02×・・・×A02n−1

=(A01×A02n−1)×(A02×A02n−2)×・・・×(A0n−1×A0n+1)×A0

=2(1−cos(π/n))・2(1−cos(2π/n))・・・2(1−cos((n−1)π/n))・(1−cos(nπ/n))

となる。すなわち、

   (1−cos(π/n))(1−cos(2π/n))・・・(1−cos(nπ/n))=2n/2n−1=n/2n−2

 よって、
       

なので、



となる。 したがって、区分求積法により、

     

ここで、
      
なので、
      

が成り立つ。

(コメント) なるほど!17世紀における円周の等分点の性質から18世紀のオイラーの定
      積分が導けるわけで、数学の歴史が連綿と続いているという一つの証左ですか
      ね?こんな経験をさせていただいたzk43さんに感謝いたします。

 円周の等分点の性質として、次の性質も興味深い。

 単位円周上の任意の点Pに対して、PA(1)2+PA(2)2+・・・+PA(n)2=2n

(証明) 複素平面で考えて、x=1 の解を、A(1)、A(2)、・・・、A(n−1)、A(n)=1 とする。

  すなわち、 A(k)=e2πki/n (k=1、2、・・・、n)

 単位円周上の任意の点P(z) ( |z|=1 )に対して、

  PA(1)2+PA(2)2+・・・+PA(n)2

 =|z−A(1)|2+|z−A(2)|2+・・・+|z−A(n)|2

 =n|z|2−(A(1)+A(2)+・・・+A(n))z’−(A(1)’+A(2)’+・・・+A(n)’)z

                          +(|A(1)|2+|A(2)|2+・・・+|A(n)|2

 ここで、A(1)、A(2)、・・・、A(n−1)、A(n) は、x=1 の解なので、

      A(1)+A(2)+・・・+A(n)=0

 また、 |A(1)|2=|A(2)|2=・・・=|A(n)|2=1 なので、

  PA(1)2+PA(2)2+・・・+PA(n)2=2n となる。 (証終)

(コメント) この定理は、次のページ「正7角形のある性質」で活躍する。


 当HP読者のHN「らい」さんからの質問です。(平成23年11月19日付け)

 友達から前にもらった問題で、

 半径1の円に内接する正n角形の1頂点から他の各頂点に引いた線分の長さの積
がnになることを証明せよ


という問題なのですが、複素数を使う以外の証明はできますか?

 当HPがいつもお世話になっているHN「FN」さんからのコメントです。
                                     (平成23年11月19日付け)

 上記のAnonymous さんの証明のように、複素数を使うのが自然でかなりきれいに証明
できますから、それ以外の方法は、あまり考える気がしないですね。三角関数で解くのは可
能でしょうが、複素数よりうまくいくとは思えません。初等幾何でできれば面白いですが、難
しそうです。初等幾何ならトレミーの定理が主役でしょうが...。

 らいさんからのコメントです。(平成23年11月19日付け)

 何か美しい幾何学的な解き方があれば、面白いかと思ったのですが...。


(追記) HN「moonlight」さんからご投稿いただきました。(平成28年12月29日付け)

 昨夜、Twitter(そこでは、sin2 の逆数の和でした)で、

  Σk=1〜n-1 cot2(kπ/n)=(n−2)(n−1)/3

という美しい式を見かけました。少し考えてはみたのですが、例によって、どうしてなのか分
かりませんでした。助けて下さい。有名な等式なのでしょうか...。


 HN「ますた〜」さんからのコメントです。(平成28年12月29日付け)

 Webサイト:「高校数学の美しい物語」の「バーゼル問題の初等的な証明」や「東京工業
大学 後期(1990年)
」が参考になるんじゃないかと...。


(コメント) x=kπ/n とおくと、 nx=kπ なので、 tan(nx)=0

 正接の加法定理より、 1tanx−3tan3x+・・・=0

 両辺に cotx を掛けて、 1cotn-1x−3cotn-3x+・・・=0

 x=kπ/n (k=1、2、・・・、n−1) は、上記方程式のn−1個の解で、

 Σk=1〜n-1 cot2(kπ/n)

=(Σk=1〜n-1 cot(kπ/n))2−2Σk≠j cot(kπ/n)cot(jπ/n)

=0−2(−3/1) (← 解と係数の関係)

=(n−2)(n−1)/3

と証明するらしいです...。


 Seiichi Manyama さんからのコメントです。(平成29年1月2日付け)

 (参考) 「東京工業大学 後期(1990年)」と同値ですが、オイラー探検 黒川信重著
       (手持ちはシュプリンガー・ジャパンですが、今は丸善でしょうか…)
 の第1部∞10∞の最初の定理として、 Σk=1〜n 1/sin2(kπ/2n)=(2n2+1)/3
 が載っています。



      以下、工事中