円の面積                             戻る

 円の面積は、「円周率×半径×半径」により与えられる。日本の小学校では、小学4年で、
面積の概念を学習して正方形や長方形の面積を求め、小学5年で、ようやく、平行四辺形
の面積を学んだあと、その延長線上で、円の面積が教えられる。

 もっとも、小学校では、「半径×半径×3.14」(実際に計算する場合は、半径×半径×3
と概数計算をして求める場合があるかもしれない)であるが、円周率として、π を用いるの
は、中学1年になってからである。

 小学校で、微分積分をやるわけにはいかないので、何となく雰囲気で説得されて、円の面
積の公式を納得しているというのが現状である。

 円の面積は、厳密には微分積分によって証明されるが、そのことを学習するのは、通常、
高校3年の秋〜冬に学習する「数学III」においてである。
(一部の受験進学校では、2年の冬〜3年春頃かもしれない。)

 したがって、円の面積の公式を小学校5年で学んで以来、高校3年の終わり近くまで中途
半端な立場に、円の面積の公式は甘んじているわけである。(何て健気なんだろう!)

 しかしながら、「数学III」を学習する高校生は、それほど多くはない。そうすると、日本の高
校生の大多数は、円の面積の公式について自己完結しないまま数学の学習を終了してし
まっているわけで、「数学は、公式を覚えて、使えればいいのさ」という流れになっている。

 私個人的には、「直感的に理解できれば、証明などなくてもいいかな〜」という立場(これ
は、もしかして、グロタンディエック流かな?)だが、人を説得したり、直感的に理解できない
場合は、やはり、内的・外的に説得する道具として、証明は必要だろうと思う。また、証明を
通して、公式の本質的な理解が得られる場合があるかもしれない。

 高校3年で学習する三角関数の微分積分が、円の面積の公式を証明する道具である。
三角関数の微分積分の基礎は、

  

という公式である。

 この公式の証明は、教科書では、三角形と扇形の面積を評価する不等式を用いてなされ
るのが通常である。

 従来から、そのような証明方法は、循環論法であるという指摘はあったが、依然として、
教科書の記述が直らないのは、高校数学の七不思議の一つである。


(追記) DD++さんからのコメントです。(平成26年7月6日付け)

 高校数学IIIは循環論法になっているという誤った主張はよく見かけますが、実際に、教科
書を見ると、高校数学の範囲内ではちゃんと整合性は取れています。つまり、「面積は積分
によって定義される」というのはあくまで現代の解析学での考え方であって、高校数学は「面
積を求める方法の1つに積分という手法がある」立場です。つまり、高校数学では「積分なん
かしなくても円の面積はπr2」が認められています。それを認めない数学をやりたい人は、
sinやπの定義も同じ現代解析学の世界での定義を使えばいいはずなのですが、なぜか高
校数学流のsinやπの定義と現代解析学での面積の定義を組み合わせ、2つの公理系の同
時採用という数学的禁忌を犯しておかしな推論をし、大発見をしたかのように"修正"案を発
表する人の多いこと...。


 このことについて、循環論法にならない形で、上記の極限の式を証明し、その結果を用い
て、円の面積の公式を証明、最終的に扇形の面積を証明するという方法をHPとしてまとめ
られた方がいられることを、最近知った。

 ほそやんのホームページ : 「三角関数の極限と円の面積」

 このページでは、上記HPを参考にさせていただきながら、円周率と円周の長さの関係か
ら始まって、円の面積の公式を導くまでを整理したいと思う。

円周率の定義

 いろいろな直径をもつ円筒を紙上で転がし、その長さを測る。そして、実験結果から、直
径と円周の長さの因果関係を考えさせる。多分、これが小学校での円周率導入の流れで
あろう。

   よって、小学校5年で、

   円周の長さ=直径×3.14
   (即ち、円周の長さ=直径×円周率)

   という公式を、体感して学習する。

 その後、円を平行四辺形の形に近似的に等積変形し、円の面積の公式を学習する。そ
の際、「円周の長さ=直径×3.14」の公式が使われ、

 円の面積=半径×半径×3.14 (即ち、円の面積=半径×半径×円周率)

であることを知る。

 中学校に入って、小学校5年で学んだ円周率という用語に対して、新しく記号「 π 」を用
いることを学習するだけで、求積問題に終始し、新しい進展は一切ない。

 円に関して劇的に変化するのは、高校に入ってからである。

円の方程式の導入

 中学校では、円の扱いは図形の話に止まっていたが、高校では、「数学 II 」において、円
を解析幾何的に取り扱うという新しい視点を学習する。

すなわち、中心の座標 ( a , b ) 、半径 r の円の方程式は、

 (X−a)2+(Y−b)2=r2

で与えられることを知る。

 その結果、今まで、「2+Y2=1」という式を問題文の中に見ても、何も感じなかったもの
が、「これは、原点中心、半径1の円周上の点(X,Y)が満たす式だね」という考えが芽生え、
数学の問題を、抽象的な代数的視点から、ある意味で具体的な幾何学的視点に置き換え
ることを可能にしてくれる。

弧度法の導入

 弧度法については、「数学 II 」(旧学習指導要領では、「数学III」)において、学習する。これは
角の大きさを表す方法で、中学校までは、45度とか、90°といった度数法(60分法)が一
般的であった。

 弧度法を用いる理由は単純明快で、三角関数の微分積分の諸公式を簡単明瞭化するた
めである。もちろん、微分積分をやる以上、角度は実数という制約も含まれる。

 私が高校生の頃、弧度法は、高校1年の「数学 I 」で学んだ覚えがある。(こんなことを書
くと、年がばれちゃうかな?)その後の学習指導要領では久しく高校2年で学んでいたが、
直近の旧学習指導要領では、「数学 III 」に追いやられていた。間違いに気づいたのか、新
学習指導要領では、元の形「数学 II 」に復活している。

 弧度法は、小学校5年で学んだ公式:「円周の長さ=直径×円周率」に大いに関係する。

   角の頂点Oを中心とする円周上で、弧ABの長さが半径の
  長さ( r )に等しいとき、中心角AOBを、1ラジアン(radian)
  という。

   通常、単位ラジアンは省略される。これを単位として測るの
  が、弧度法である。

  円周の長さ 2πr ÷ 半径 r =2π により、全円周の中心角は、

  2π (ラジアン)

 したがって、公式 : π=180°が得られる。

このことから、1ラジアンは大体、57度ぐらいである。(詳しくは、57°17’44”.806・・・)

 また、30°は、π/6 、60°は、π/3 、90°は、π/2 なども直ちに知られる。

 これらは計算によっても求められるが、それは「弧度法」の欲するところではない。
90°に対する弧の長さが、半円周の半分なので、π/2 だという感覚を身につけるべきで
あろう。60°の場合は、半円周の3分の1、30°の場合は、半円周の6分の1、・・・。

 弧度法の定義から、中心角の大きさとこれに対する弧の長さは比例し、

中心角 θ に対する弧の長さ L は、 L=rθ で与えられる。

このような公式は、度数法を用いても得られるが、公式の簡明さに関しては、こちらに軍配があがるだろう。そ
 の意味でも弧度法の優秀性が分かると思う。


三角関数の導入

 三角比については、高校1年で学ぶ「数学 I 」で扱われる。そこでは、中学校で学んだ相
似比の延長として、主に図形の解析に用いられる。関数的な扱いは、「数学 II 」において学
習する。三角関数のグラフがメインだと思うが、加法定理や単振動の合成の公式も含めて、
多様な公式が洪水のように押し寄せてくるというのが率直な感想である。

 おそらく多くの生徒が、その公式群の前に挫折を味わっているのではないかと思う。

  原点中心、半径1の単位円において、周上の点Pと円
 の中心Oを結ぶ動径OPが始線Oxと作る角(一般には、
 動径OPの表す角という。)がθであるとき、点Pの座標
 は、
   P(cosθ,sinθ)

 で与えられる。

  これが、θに対する三角関数 sinθ、cosθの定義で
 ある。
 (もちろん、この場合のθは、弧度法で与えられる。)

三角関数の極限の公式

 

 次に、上記の公式を循環論法にならないように注意して証明してみよう。
(参考:ほそやんさんのHP)

  左図のように、半径 1 の円 O に正 n 角形が内接・
 外接している。(左図は、n=6 の場合)

  AB=2sinθ、AC=tanθ なので、

  正 n 角形の周の長さと、円周の長さの関係から、

  2n・sinθ<2n・θ<2n・tanθ

  すなわち、  sinθ<θ<tanθ


(コメント) 正 n 角形の周の長さと、円周の長さの関係は、直感的に明らかとしてよいものか
   どうか、微妙ですね!左側の「<」は自明としても、右側の「<」は、弧が曲がっているの
   で、真っ直ぐにのばしてみて、θに対する弧の長さが、AC より長くならないということを
   確認しなくてもいいのだろうか? 多分、教科書で上記の不等式を示すときに、視覚的
   に分かりやすい面積を用いるのは、循環論法になるのを承知で、面倒な確認作業を避
   けるためと推察される。)


 当HP読者のHN「homare」さんからのコメントです。(平成26年1月14日付け)

 上記のコメントでいろいろ疑問を持たれているようですが、このケースでは、曲線(円弧)が
単調に曲がっているので(左右にクネクネ曲がっていないので)、直感的に明らかとしていい
のではないのでしょうか。というのも、もし弧の長さがAC+CBと等しいならば、弧はACとCBの
2線分にきれいに沿って重なるはずで、図のように中空にぶら下がったような状態にはなら
ないからです。三角形の1辺が、他の2辺の和より短いのと似ていますね。厳密な検証とは
いえませんが、直感的にはこれで十分通じると思います。


 空舟さんからのコメントです。(平成26年1月15日付け)

 直感的にはもちろんそれっぽいですが、それが厳密に明らかでないので、「確認しなくても
いいのだろうか?」と疑問を持っているわけでしょう。

 弧の長さが、AC+CBより長いかもしれないという主張を厳密に否定するのは簡単ではない
はずです。曲線の長さの定義まで戻るかそれと同等な何かを使わないと示せないはずです。

(雑感) そうすると直感で明らかで、厳密にも直ちに示せるような場合に今後出くわした時
  には、「直感的に明らか」とは言わずに単に「明らか」と言った方が良いのかなとか思い
  ました。


 GAI さんからのコメントです。(平成26年1月15日付け)

 直感が裏切られる例として、シュワルツ(Schwarz)の提灯というものがあります。サイトで検
索されて、人の直感では円柱の側面積になるはずが、そうとも言い切れないことがある。(人
間の感覚だけでは見誤る、あるいは間違いを起こす例が数学の事例の中に山ほどあるよう
な気がします。だから逆に面白い。)


 当HPでは、「正 n 角形の周の長さと、円周の長さの関係は、直感的に明らか」であるとい
う立場で次の計算に進むものとする。(上記の「homare」さんに感謝します。)

 上記の θ は、0<θ<π/2 を満たすものとしてよい。(n の値を十分大きくとればよい。)

このとき、sinθ>0、cosθ>0 なので、  cosθ<sinθ/θ<1 が成り立つ。

また、−π/2<θ<0 のとき、0<−θ<π/2 なので、

 cos(−θ)<sin(−θ)/(−θ)<1  すなわち、  cosθ<sinθ/θ<1

が成り立つ。

 したがって、θ → +0 、θ → −0 の何れに対しても、sinθ/θ → 1 となる。

 以上から、

 

の成り立つことが示された。

三角関数の微分・積分

 上記で示した極限の公式を用いて、  (sinX)’=cosX  という微分の公式が簡単に
求められる。

 実際に、sin(X+h)−sinX=2cos(X+h/2)sin(h/2) なので、h → 0 のとき、

 (sin(X+h)−sinX)/h=cos(X+h/2)・(sin(h/2))/(h/2) → cosX

から明らかである。

 微分の公式から、次の積分の公式が求められる。

  

円の面積の公式の証明

   いよいよ円の面積の公式を証明する準備が整った
  ようである。

   原点中心、半径 r の円の方程式は、

    2+Y2=r2 

   により与えられる。その四分円の面積を S とおくと、

   

したがって、 X=r・sinθ とおいて、置換積分の公式を用いると、

 

となる。 以上から、

 半径 r の円の面積の公式は、 半径×半径×円周率(=π r2

であることが示された。


(追記) 最近、当HPをご覧になった方からメールを頂戴した。(平成16年10月8日付け)

 その方によれば、「 θ → 0 のとき、(sinθ)/θ → 1 」を、円の面積を用いて証明す
る方法が循環論法となるらしいから別方法で教えるべきだと、知り合いの方から言われて
議論になったとのことである。

 上記では、円の面積を求める道具としての三角関数の微分積分が、

  

を出発点としており、その証明に高校の教科書では円の面積を用いているという事から循
環論法になるという論点でした。

 その循環論法を回避すべく、上記で述べたように、「ほそやん」さんが取り組まれているこ
とを紹介しました。

 メールを頂戴した方によれば、sin θ の積分を使わずに半径 r の円の面積が πr2 と言
う事は極限の概念を用いて、生徒に説明できるとのことである。

円の面積については古代から知られており、その証明は円に内接・外接する正多角形で近似することにより
 得られている。(アルキメデス的方法)


 以下が、頂いた証明の概略である。(一部修正して掲載)

半径 r の円の面積が πr2 となること 〜

(証明) 次の3つのステップを踏んで示す。

[1]  半径 r の円に内接する正 3×2n 多角形の周の長さを L(n)、外接する正 3×2n

角形の周の長さを L’(n) とすると、


   L(n) < L(円周の長さ) < L’(n)

が成り立ち、n を限りなく大きくしたとき、

  L(n)、L’(n) はともに L に収束する。





実際に、{L(n)}は上に有界な単調増加列で、{L’(n)} も下に有界な単調減少列である

ので、ともに収束する。このとき、△AHO ∽ △CAO であることに注意して、

 L’(n) −L(n) =((r/√(r2-l(n)2))−1)L(n)   ( ただし、l(n) = AH )

から、 n → ∞ としたときに、L’(n) −L(n) → 0 となる。

したがって、{L(n)}、{L’(n)} ともに同じ極限値を有し、挟み撃ちの原理により、

 n → ∞ としたとき、L(n) → L

となる。

(補足) 上記の不等式 L(n) < L(円周の長さ) < L’(n) で、L(n) < L(円周の長さ)
 であることは、自明としてよいだろう。
 (なぜなら、2点を結ぶ線分の長さが、その最短距離を与えるからである。)
 それに対して、 L(円周の長さ) < L’(n) を自明とするには少し抵抗がある。
 この点について、メールを頂戴した方は次のように説明してくれた。

 曲線の長さは、曲線上の点を結ぶ折れ線の長さの和の極限として与えられる。
その意味では、L(n) が L に収束するのは定義そのものである。        

  左図において、{Q}は、弧AB上の分点である。
 各分点と点Oを結ぶ直線が点Aにおける接線APと
 交わる分点が{P}である。Pk+1とQk+1
 は平行とする。このとき、
  Qk+1<Pk+1<Pk+1
 が成り立つ。
  この不等式から、弧ABの長さ < 線分APの長さ
 であることが分かり、よって、
  L(円周の長さ) < L’(n)
 である。

(コメント:分かりやすい証明ですね!これで、これまでのモヤモヤが胡散霧消した感じです。)

 ところで、直径と正多角形の周の長さは相似比の観点から比例し、かつ、この[1]の事実
により、次の[2]が明らかとなる。

[2] (円周)/(直径) は常に一定で、 ([1] の極限値)÷2 r がその値であり、この値が円
  周率 π である。

 [1]と[2]が円周からの π の解釈として周知の事実とすれば、次の[3]が本質的な部分で
ある。

[3]  (アルキメデスの方法

 半径 r の円に内接する正 3×2n 多角形の面積を S(n) とおく。

 内接する正多角形は、隣り合う頂点2個と円の中心 O を頂点とする 3×2n 個の合同な
二等辺三角形 △(n) に分割できる。一つの三角形 △(n) において、次のようにおく。

 (円の中心 O を端点にもたない辺の長さ)=2×l(n)

そのとき、正多角形の面積 S(n)と周の長さ L(n) はそれぞれ次のように表される。

 S(n)=3×2n×(△(n) の面積)=3×2n×l(n)×√(r2-l(n)2)

 L(n)=3×2n×(△(n) の辺で端点が O でない1辺の長さ)=3×2n×l(n)×2

[1]、[2] から、半径 r の円に対して、 n → ∞ としたとき、

 lim L(n) = lim { 3×2n×2×l(n) } = π×2r

すなわち、   lim { 3×2n×l(n) } = π×r  となる。

また、 n → ∞ としたとき、 l(n) → 0 となることから、これらを用いて

 lim S(n)=lim[3×2n×l(n)×√(r2-l(n)2)]
         ~~~~~~~~~~~~  ~~~~~~~~~~~~ 
            ↓        ↓
      =    π×r   ×  √(r2)    =π×r2

であることが得られる。

同様にして、半径 r の円に外接する正 3×2n 多角形の面積を S’(n) とおくと、

 S(n) : S’(n) = r2-l(n)2 : r2

なので、 S’(n)= (r2/(r2-l(n)2))S(n) が成り立つ。

 よって、この場合も、  lim S’(n)=lim S(n)=π×r2  であることが分かる。

したがって、 S(n) < S(円の面積) < S’(n) において、挟み撃ちの原理により、

 S(円の面積)=π×r2

が成り立ち、

 半径 r の円の面積の公式は、 半径×半径×円周率(=π r2

であることが示された。 (証終)

 また、上記の証明の中で、S(n)= L(n)・((1/2)√(r2-l(n)2))

という関係式が成り立つことに注意すると、次の2つの命題は同値な命題となる。

[T] (円周)/(直径)は常に一定でその値を円周率 π とする。

[U]  (円の面積)/(半径)2 は常に一定でその値を円周率 π とする。

※上の[3]で示した事柄は[T] ⇒ [U]を示したようなものであるが、[3] の S(n)、 L(n) を
用いて、逆に[U] ⇒ [T] も示せる事は明らかであろう。

 もしかしたら円積公式は、このように「円周率 π とは何ぞや?」という定義の仕方にも起
因する事柄なので、面倒な説明部分を省いて公理として高校数学では扱っているとも考え
られる。


 以上が、いただいたメールの内容である。

大変分かりやすい証明で、メールを頂戴した方に感謝したい。


 上記の証明[1]における不等式  L(n) < L(円周の長さ) < L’(n) は、高校の教科書

で学ぶ不等式  sinθ<θ<tanθ そのものである。この不等式の証明に、教科書では、

円の面積を用いているということで、循環論法になっているという論点であった。

教科書では、この不等式を拠り所として、

 

を証明し、三角関数の微積分の公式から、定積分の計算で、円の面積を求めている。

 上記の証明では、そのような方向をとらないで、単なる極限の計算の範疇で円の面積の
公式をとらえたものである。

 lim { 3×2n×l(n) } = π×r という極限の式に、巧妙に、

 

という関係が見えない形で埋め込まれている。

 教科書で、sinθ<θ<tanθ の証明に、頑なに円の面積を用いる理由は、極限論を回
避するための教育的配慮と理解すべきなのだろう。

 ただ、このような極限を使った計算は、高校数学のレベルを超えるような部分があるし、
また、大多数の高校生が習わないであろう「数学III」の話なので、日本の高校生の大多
数が円の面積について、自己完結しないまま学業を終了してしまっているという現実には
変わりがない。

(追記) 平成22年10月22日付け

 HN「或る髷すと」さんが、「sinθ<θ<tanθの証明」について、当HPの掲示板「出会い
の泉」に書き込まれました。以下は、その抜粋です。

 上記の「sinθ<θ<tanθ」の証明における、θ<tanθの部分は納得しました。そこで、
sinθ<θの証明を考えてみました。

(証明) 半径1の円  を考え、点(0,1)から点(a,)までの円弧を

 θとし、sinθ=a とする。円弧の長さは

 

で与えられる。ここで、

 

なので、

 

すなわち、 sinθ<θ が成り立つ。 (証終)

 以上の証明では、三角関数の微分 (sinθ)’=cosθは用いていないため、循環論法の
問題はさけられています。


 当HPの掲示板「出会いの泉」において、或る髷すとさんは、「2点間の最短距離はそれを
結ぶ線分である」という命題がユークリッド幾何学において公理なのかどうかを問われてい
ます。(平成22年10月18日付け)

 上記で述べられているように、曲線の長さは、曲線上の分点を結ぶ折線の和の上限とし
て定義されます。また、C1級の曲線においては、長さを定積分にて表せるため、曲線や直
線の長さの大小比較は定積分の値の比較により行うことができます。

 すると、「2点間の最短距離はそれを結ぶ線分である」とは、長さを定積分では表すことが
出来ない曲線、例えば連続であっても微分出来ない曲線等があるからこそ公理として要請
されることなのかな?という疑問です。

 三角形の2辺の和は他の1辺より長いということから、2点を結ぶ折れ線の中で直線が一
番短いということ、また、曲線の長さは、曲線上の点を結ぶ折れ線の長さの和の極限として
与えられることから、「2点を結ぶ曲線のうち最短距離を与えるのは線分」ということは、ある
条件を満たす曲線に関して示されるような...雰囲気ですかね?


 或る髷すとさんからのコメントです。(平成22年10月22日付け)

 曲線の長さの定義を手元の教科書から要約して引用します。なお、折線の長さは定義済
みとします。

〔定義〕 区画 [a,b] にて定義される曲線Cにおいて、区画の分割

 Δ: a=t0<t1<・・・<t=b

に対応して生ずるC上の点 F(t0)、F(t1)、・・・、F(t) を順番に結んで生ずる折線を、C
の近似折線と呼び、その長さ

 
のあらゆる区画の分割Δの集合の上限を、Cの長さと定義する。

 この定義において、曲線Cは連続、微分可能などの制限はなく、任意です。また連続、微
分可能の曲線に限り、平均値の定理を用いて曲線の長さLを

 

というように、定積分を用いて表せるようです。

 定積分にて表せる曲線においては、2点を結ぶ最短距離は直線であると簡単に結論(証
明)できるのですが、そうではない曲線においても「直線=最短距離」は証明可能なのでしょ
うか?ここが、分からないのです。

 ただ「三角形の二辺の和は残りの辺より大きい」は曲線の長さの定義とは無関係に証明
可能なため、曲線の長さの定義に折線を考えている時点で、既に直線<曲線を認めている
といえるとも思えます。

 となると、「2点間の最短距離はそれを結ぶ線分である」という命題は、「三角形の二辺の
和は残りの辺より大きい」に還元され、公理とはいえないということになるのでしょうか。

 しかし、数学者の安倍齊氏の著作にて気になる記述がありまして、そのまま引用致します。

 安倍 齊 著 「微積分の歩んだ道」 (森北出版) p.152、153

 変分法にて最短距離を与える曲線の問題:

 2定点 P(x1,y1)、Q(x2,y2)を結ぶ曲線 y=y(x)のうち、y(x)が連続微分可能条件を満
足しているという条件のもとに、最も短い曲線を求めよ。

  (この例題を解いて直線の方程式を導出した後)

 (注意) この証明を見れば、「2点間の最短距離はそれを結ぶ線分である」という公理は証
     明されるように思えるが、これはどこまでも「公理」であって証明は出来ない。上の場
     合は、「C1級の曲線族」に制限して、その解は線分であることを証明していることに
     注意されたい。



 視点を変えて、「最短距離=直線」が公理か、すなわち証明可能かどうかを示すには、2点を
結ぶ直線より短い曲線が「存在しない」ことを示せるか、ともいえると思います。しかし、これは
前述の通り、折線>直線のため直線<折線<曲線となり、やはり、最短距離は直線と結論で
きそうな気がしますが。

 この様に私の中で議論はかなり錯綜しております。厳密性ばかり大事にするのはあまり良
いとも思えないのですが、やはり最短距離=直線が公理かどうか気になります。


 当HPがいつもお世話になっているHN「FN」さんからのコメントです。
                                     (平成22年10月22日付け)

 「2点を結ぶ最短距離は線分(直線)」というのは、「2点を結ぶ曲線のうちで、その長さが最
小であるのは線分である」という意味ですよね。まず、「2点を結ぶ曲線」の定義と「その長さ」
の定義が必要です。「2点を結ぶ曲線」を広めに定義しても、「その長さ」が存在しないことに
なるのでほどほどな所になるでしょう。連続性ぐらいは仮定するのかな。長さは或る髷すとさ
んが書かれている形で定義すると思います。長さが存在しない曲線はたくさんあることになり
ます。だから、上の命題は、

 2点を結ぶ曲線でその長さがあるものうちでその長さが最小であるのは線分である

ということになると思います。これは長さの定義からすれば証明は難しくないでしょう。

 長さが存在しないのは、或る髷すとさんが書かれた定義で上限がない場合、即ち上に有界
でない場合ですから、そのときは長さを無限大と定義することにすれば最初の形でもいいか
もしれません。あとは「2点を結ぶ最短距離は線分(直線)」というのをもっと違う意味に解する
ことができるかどうかです。

 或る髷すとさんからのコメントです。(平成22年10月23日付け)

 FNさんの解説は、相当に決定的な議論に思えます。確かに「結ぶ」わけですから、連続性
の仮定は必要ですね。やはり、公理ではなく、「定理」ということになりそうですね。

 しかし、FNさんの指摘を受けまして、私自身、大切なことを取りこぼしていることに気付きま
した。安倍 齊 氏の注意の内容は、「2点間の最短距離は、それを結ぶ線分である」という命
題は公理であるということです。上記の安倍 齊 氏の主張の書き込みは、私の誤解による誤
植です。(訂正済み)
「2点を結ぶ最短距離は線分」は公理とは言っていなかったのでした!これは、やはり定理ですね。

 改めてまして、安倍氏の注意について検討をお願いしたいのです。まず、「C1級の曲線族
に制限して」と言及していることから、最短距離の命題は、C0級の曲線と不連続曲線も曲線
に含めた上で、「最短距離=線分」は公理であるといっているのだと解釈しました。

 連続曲線については、「最短距離=線分」は、「三角形の二辺の和は他の一辺より大きい」
から証明できるのだと思います。

 では、至るところ不連続な曲線の長さはどうなるのでしょうか。例えば、区間[a,b]におい
て、有理数にて、1、無理数にて、0の値をとる様な不連続な曲線の長さは定義されうるもの
なのでしょうか。

 長さが定義されないのであれば、長さを無限大とも定義出来ない曲線があることになり、そ
ういった事情を含めて安倍氏は、「2点間の最短距離はそれを結ぶ線分」を公理としているの
か。もしくは、そういった曲線にも長さを定義出来るが、何らかの事情にて線分より短い曲線
がないことを示すことが出来ないために公理と言っているのか。

 C1級の曲線族に制限しない場合、「2点間の最短距離はそれを結ぶ線分である」は果たし
て公理といえるのでしょうか。

 FNさんからのコメントです。(平成22年10月23日付け)

 「2点間の最短距離」という言葉に、数学の言葉としては(日常言語では普通に使います)違
和感があります。2点間の距離が一意的な意味を持つので、それに最短という修飾語をつけ
るのがよくわかりません。最短を取ってしまえば、「2点間の距離はそれを結ぶ線分(の長さ)
である」で、これは公理ではなく定義ですね。

 また、「有理数にて、1、無理数にて、0の値をとる様な不連続な曲線の長さ」について、

 区画 [a,b] の分割 Δ: a=t0<t1<・・・<t=b で、交互に有理数、無理数を取れば
L(Δ)=m ですから、上に有界ではなく長さは無限大になります。あるいは上限はないので
長さは定義できないことになります。ここまで不連続にしなくても、ある点で右極限か左極限
が存在しない位で長さは無限大になると思います。

 さらに、「C1級の曲線族に制限しない場合、「2点間の最短距離はそれを結ぶ線分である」
は果たして公理といえるのでしょうか。」について、

 2点間の最短距離を、2点を結ぶ曲線の長さの最小値と考え、曲線の長さを線分の長さと
区間の分割を使った形で定義する限り、公理ではなく定理になってしまうと思います。だから
これが公理であるためには少なくともどちらかを変えないといけないことになります。


 或る髷すとさんからのコメントです。(平成22年10月23日付け)

 やはり、ご指摘通り、「2点間の距離」に最短をつけるのは変ですね。著者は測地線の定
義のことをいっているのか...。

 C1級の曲線族に制限ということなので、至るところ不連続な関数を提案してみたのですが、
やはり、それを曲線と呼ぶには相当の違和感があり、上述の意味は謎のままです。言葉の
意味を素直に解すれば、ユークリッド平面において、C1級ではない曲線に関しては、線分よ
り短い曲線が存在しないことを他の公理からは証明できない、と言っているように思えます。
何だか定義と公理を混同しているような...。


 或る髷すとさんからのコメントです。(平成22年12月30日付け)

 「ユークリッド幾何学において、2点間の最短距離は直線である」という命題は公理か定理
かということを議論させていただきました。

 安倍齊氏の「2点間の最短距離は線分という公理は、どこまでも公理であり証明は出来な
い」という言及がやはり気になっておりましたので、その後考えたことをご紹介いたします。

 まず、2点(x1,y1)、Q(x2,y2)間の距離の定義は、

 

とします。この距離を長さとしてもつのは直線です。この時点で(ユークリッド幾何学の公理
より)、三角形の二辺の和は他の一辺より大きいは「証明されます」。

 次に、曲線の長さは、曲線上の分点を結ぶ折れ線の和の上限として定義されます。

 この定義と平均値の定理より、曲線がC級のときは、その長さを定積分を用いて表せる
ことが「証明されます」。

 そして、その際(C級の場合)は、曲線の長さを定積分で表せるという定理から、その最
小値を与える曲線は線分であることが証明されます。

 ここで注目されるのは、曲線の長さは、直線ないし折れ線の長さよりも大きいと、定義さ
れていることです。(三角形の二辺の和)>(他の一辺)は、定理ですし、曲線がC級のとき
に定積分で長さを表せるのも定理です。

 しかし、曲線自体の長さは直線ないし折れ線より大きい(上限)と定義するしか扱いようが
なく、このことは証明されていません。そもそも曲線の長さについて、操作的な定義を与え
なくては数学的に曲線の長さを扱うことはできませんので、当たり前といえば当たり前です
が...。

 このことを、安倍齊氏は、「2点間の最短距離はそれを結ぶ線分であるという公理は、ど
こまでも公理である」と表現したのかと思うのです。

 最短距離という表現に少し違和感がありますが、これはおそらく2点の最短連結線の長
さにおいて最小のものは線分である、ということなのだろうと思います。

 そして、その線分以下の長さをもつ曲線をユークリッド幾何学では定義出来ない、という
様に解釈しております。直線と折れ線の長さであれば、容易に比較出来ますし、C級であ
る曲線同士であれば、定積分を比較すれば長さの比較は可能です。

 しかし、C級ではない曲線と直線の長さの比較は、そもそも曲線を折れ線の上限として
定義してあるため、どちらが長いかという比較の議論は無意味です。ですから、2点を結ぶ
曲線の長さが、2点間の線分の長さより大きくなることは証明すべき命題ではなく、要請さ
れるべき(定義されるべき)命題だということかと思います。

 冗長になりますが、まとめです。

 「ユークリッド幾何学において、線分と折れ線、さらに、C級の曲線に限れば、2点の最
短連結線は線分であるという命題は証明できる。しかし、一般の曲線をも含めると、曲線
の長さの定義を曲線上の分点を結ぶ折れ線の和の上限として定義するほかないため、2
点を結ぶ曲線が線分より長いのは定義であり、『2点の最短連結線は線分』であるという
命題は証明の対象とはならない。よって、2点の最短連結線は線分であるという命題は
公理である。」

 以上が、その後考えてみたことです。まとめてみたものの、どうも自信がありません。ど
うしてもこの議論に決定的な答が欲しいので、どうか皆様、検証を宜しくお願いいたします。


 或る髷すとさんからメールをいただいた。(平成23年1月9日付け)

 上記で、三角関数の微分 (sinθ)’=cosθを用いないで、 sinθ≦θを証明しましたが、
同様にθ≦tanθの証明も行えます。

(証明) 原点中心で半径1の円 y=√(1−x2)を考え、2点(0,1)、(a,√(1−a2))を結ぶ

円弧の長さをθとする。 すると、 tanθ=a/√(1−a2) となる。

ここで、 

 

いま、 t=x/√(1−x2) とおくと、 x=t/√(1+t2) で、dx/dt=1/{√(1+t2)}3

なので、

    (証終)


(コメント)

 

は、円弧ということを離れて自明な式なので、証明の前半部分はいらないような...予感。


 さて、或る髷すとさんの話に戻ります。

 結局のところ、円はC級の曲線ですから、定積分で長さを計測できるため、三角関数の
微分を用いようが用いまいが、曲線の長さの定義から自ずと sinθ≦θ≦tanθ は導か
れてしまうということになります。

 その定義とは、曲線の長さをその上の分点を結ぶ折れ線の和の上限とするものです。

 また、円の場合、内接 n 角形の周囲は、n をいくら大きくとっても、必ず外接n角形の周
囲より小さくなります。

 このことより、定積分を用いず、より根本的な sinθ≦θ≦tanθの別証明を行ってみま
す。

(証明) 0≦θ<π/2 にて、 sinθ≦tanθ 、 sinθ≦θ は、曲線の長さの定義から

 自明(勿論、C級の曲線ですから証明をした方が丁寧な議論ですが)。

また、0<θのとき、θを十分小さくとれば、任意の正の実数εに対して、θ-sinθ<ε

とできる(曲線は折れ線の和の「上限」ですから)。

 ここで、tanθ<θとなる外接 n 角形があると仮定する。

 十分に n を大きくとれば、 tanθ<sinθ<θとなる n が存在する。

しかし、これは円の内接多角形の周囲が外接多角形の周囲より大きくなるため矛盾。

 ゆえに、0<θ<π/2 にて、sinθ<θ<tanθとなり、θ=0 のとき、

 sinθ=θ=tanθとなる。 (証終)


 この他に別証明として、sinθを収束する無限級数にて定義するものがあります。前述の
証明では三角関数と円弧は幾何学的な定義を与えられていましたが、解析的な定義を行
います。

(証明) sinθ=Σ{(−1)n/(2n+1)!}θ2n+1

 cosθ=Σ{(−1)n/(2n)!}θ2n   ( Σは、n=0〜∞ ) と定義する。

これらの整級数は、全てのθにおいて絶対収束する。

また、この定義から、0≦θ≦π/2において、 0≦cosθ≦1 が証明される。

そして、 0<sinθにおいて、 sinθ/θ<1 となるため、 sinθ<θ となる。

さらに、

 

であるから、任意の正の実数εに対して、 θ−sinθ<εなるθが存在する。

 また、 0<cosθ≦1 において、 sinθ≦sinθ/cosθ、

すなわち、 sinθ≦tanθ (等号は、θ=0 にて成立)

 ここで、tanθ<θなるθが存在すると仮定すると、tanθ<sinθ<θ となることになり

矛盾。ゆえに、 0≦θ<π/2 において、 sinθ≦θ≦tanθ が成立する。 (証終)


 後半の部分の議論は前述の議論とほぼ同じです。幾何学的な議論では、曲線を曲線上
の分点を結ぶ折れ線の和の上限として議論しているのに対して、解析的な議論では、絶
対収束する正級数を用いてsinθを定義しています。

 円弧の場合に限り、その長さについて、幾つかの証明をご紹介致しましたが、一般の曲
線においても、「2点の最短連結線は線分である」という命題は、曲線の長さをうまく定義
するために要請される「証明の対象とはならない命題」と考えられます。

(断言しておきながら、自信がないのため、ご相談させて頂く次第です。この主張の当否をご検討頂け
ると助かります
)

 歴史的な話しになりますが、このような曲線の長さの性質に初めて言及したのはアルキ
メデスです。勿論、彼の時代には「長さ」という自明なものを数学的に定義するという考え方
がないため、曲線の長さの大小関係を公理として要請しました。

 冒頭で取り上げられている求積法は、アルキメデスの初期のものと考えられる論文「円の
計測」にて扱われている方法です。その論文では、sinθ<θ<tanθ(勿論、三角関数による
表現ではありませんが
)は自明のこととして扱われていますが、その後書かれた論文「球と円
柱について」にて、sinθ<θ<tanθを証明するための曲線の長さの性質を公理として詳
細な説明を伴い定式化します。

 そのことを踏まえて、数学Vにおける「円の求積の循環論法」について、私の考えを申し
上げます。

 確かに高校生に厳密な証明を理解させる必要はないと思います。しかし、露骨な循環論
法を指導し続けるのも同時に問題であると考えます。問題の根源は、曲線の長さの定義を
行うための道具が揃っていないことにあるのですから、アルキメデスに倣い

 (内接多角形の周囲)<(円周)<(外接多角形の周囲)

を、ある程度の説明を伴い公理的に認めてしまうのも良いかと思うのです。

 そうすると、「長さ」とは何か、という問題意識が発生する契機にもなるのではないでしょうか。


 当HPがいつもお世話になっているHN「空舟」さんが上記話題について考察されました。
(平成24年9月9日付け)

 円周の長さ/直径=πとしたとき、私が思うには、以下の(1)〜(5)は同値だと思います。
つまりどれかを示すにはどれかを前提とする必要があります。逆に、どれかを前提と認めれ
ば他を導くことができます。

(1) 円の面積がπr2であること

(2) 円周の長さが折れ線の上限(極限)であること
   (特に内接正多角形の周の極限であること)

(3) 単位円の周の半分=πが √[1+(y’)2] の[-1,1]での定積分値であること
   (ここで、y=√(1-x2) )

(4) 円周の弧の長さが外側を通る折れ線より短いこと

(5) limx→0 sin(x)/x = 1 であること

 高校数学では(1)を前提として話を進めているように見えます。(小学校で習ったことは使
っていいという立場)そういう見方で整理されてみるとすっきりするのではないでしょうか。


(コメント) 空舟さん、ご指摘ありがとうございます。


 或る髷すとさんからのコメントです。(平成24年9月14日付け)

 円の面積を計算する際の循環論法について、空舟さんからのご指摘について検討してみ
ました。空舟さんは5つの命題を同値として、どれを出発点とするのかの問題であると考え
られています。

 面積、長さを、定積分と極限で定義する立場ですと、(1)は、∫01√(1-x2)dx=1/4である
ことを公理として、三角関数の極限や微分を定理として導く立場といえます。

 (2)については、いわゆる「厳密」といわれる教科書で採用されている、曲線の長さの定義
そのものです。

 (3)は(1)と同様に、円周の長さが、∫-11 √[1+(y’)2] =πであることを公理としています。

 (4)については、円周の長さ(以後L)が外接n角形の周囲の長さ(以後Qn)よりも短いこと
を公理とすれば、(1)〜(3)(5)を定理として導出できるという事だと思うのですが、私は少
し問題があると考えます。

 L<Qn と要請するだけでは、LはQnよりも短い何か、としかしめされておらず、内接n角形
の周囲の長さをPnとすると、L<Pn<Qnという可能性も残されますので、円の求積には使用
出来ません。ですので、(4)は、

 (4−1) L<Qn かつ 任意の実数εについて、Qn−L<ε となるnが存在する

  または

 (4−2) Pn<L<Qn

のいずれかを公理とすべきと考えます。

 (5)については、三角関数を幾何学的意味を離れて、limx→0 sinx/x=1 にて定義する立
場です。これは、ある意味、三角関数を無限級数にて定義する立場と似ています。

 以上を検討すると、(2)以外の立場では、円周の長さ、一般的には曲線の長さとは何か、
ということが定義されていません。ただし、(4−1)(4−2)については、表現は異なりますが、
(2)と同様に円周の長さを定義する命題であると考えます。

 (1)〜(5)の同値性が示されても、(2)以外は、曲線の長さの存在が直観に基づいている
ことを鑑みますと、やはり、(2)こそがシンプルさという点から議論の出発点として適切と考え
ます。

 なお、アルキメデスが円の求積に(4−2)を要請したのは、彼の時代、長さや面積は「明ら
かな存在」であるため、それらを定義するという考えがなかったことと、数学における定義の
考え方が、近代以降とは異なるためと考えられます。


 空舟さんからのコメントです。(平成24年9月14日付け)

 検討頂きありがとうございます。私は、「2点を結ぶ最短距離は線分」は前提として使って
も良いつもりで(4)を書いていました。そういう意味で

 (4−3) L<Qn 2点を結ぶ最短距離は線分

を提示しておきます。


 或る髷すとさんからのコメントです。(平成24年9月15日付け)

 1年以上前の議題ですが、どうも気になっておりましたこの循環論法にまつわる疑問を空
舟さんと議論することで再考できることをありがたく思います。

 (5)は、三角関数の極限を幾何学的直観を離れて定義する立場であり、この定義には、
問題はないと思います。ただ、このように三角関数を定義した場合、この定義から、三角関
数の性質、幾何学的な定義との一致などを確認、導出する必要があるはずです。いわゆる
「厳密派教科書」である、杉浦光夫著 「解析入門T」では、循環論法を回避するため、三
角関数を整級数にて定義し、そこから、加法定理、オイラーの公式を証明し、そして、幾何
学的定義との一致を確認しています。

 limx→0 sinx/x=1 は曲線の長さを定義すれば、循環論法を回避して、計算可能です。で
すので、limx→0 sinx/x=1 を定義として扱う場合、そこから三角関数の性質を導出しなけ
ればならないように思います。三角関数は幾何学的に定義し、その極限は幾何学的な長さ
の定義を避けて直接、1と定義するのはやはり違和感があります。

 また、(1)〜(4)ですが、円は一般的な曲線のなかの1つにすぎないため、一般的な曲線
の長さ、曲線に囲まれる面積を定義して扱う立場からすると、円周の長さや円の面積、円周、
接線、内接線分の長さとの関係を個別に定義する(1)〜(4)は少し過剰に思えます。


 空舟さんからのコメントです。(平成24年9月15日付け)

 ご指摘ありがとうございます。(5)は、私は三角関数を幾何学的に定義する立場のつもり
でした。その違和感、言われてみればその通りです。幾何学的に定義したなら極限はもう
決まっているはずだ、ということでしょうか。根源にある問題点は、πが実数として定められ
ていないことではないかと思います。そこで、(5)は次のように書くと良かったでしょうかと
思います。

(5') limx→0 xsin(180°/x)=π

 この極限は、「単位円に内接する正n角形の周長/直径」の極限です。そういう意図でした。

 なお、今回の(1)〜(5)は、まあ、多少強引なのは承知しております。ただ、私が指摘した
かったのは、

・(1)〜(5)のどれかを認めれば他が得られる

・(1)〜(5)のどれかを認めないと他は得られない(循環論法になる)

という整理をしたかった気持ちでそのように書き出してみた次第です。

 (1)〜(5)が公理として妥当だとは私も思わないです...。


 或る髷すとさんからのコメントです。(平成24年9月19日付け)

 もう少し深掘りしてみます。慎重に検討しているつもりですが、議論の飛躍があれば、空舟
さんをはじめ、ご覧のみなさまご指摘ください。

 (5')は(2)とほぼ同じ内容ということになりますが、limx→∞ x・sin(180度/x)=πとして円周
と直径との比という幾何学的量に対して、πという実数を対応させています。ここで
limx→∞ x・sin(180度/x)が発散せず、極限値を持つことが幾何学的には「明らか」なのは曲
線の長さの定義を、「既に認めている」からだと考えられます(多分)。

 幾何学的直観を離れて、つまり実数論にて極限値を持つことを証明しようとすれば、区間
縮小法の原理にて証明するように思いますが、その際、正弦関数を級数展開する必要があ
るはずです(多分…)。しかし三角関数の級数展開には、sinθ/θの極限を使いますので、
循環を避けるため、やはり三角関数を整級数にて定義するのは適切といえます。すると、
cosα=0となる実数が0<α<2にて存在することが、中間値の定理を用いて証明できま
すので、それをもって、2α=πと実数πを定義すれば、limx→∞ x・sin(180度/x)=πも定
理となります。そして、それらを幾何学に利用する際、πが円周と直径の長さとの比である
としても矛盾なく議論が行えることが確認できるということだと思います。

 幾何学的に三角関数の極限を扱うと、そこには曲線の長さの定義が前提されており、本
題であります、円の求積の循環の輪を断ち切るには、「曲線の長さ」さえ定義されれば十分
であるというのが私の考えです。


 空舟さんからのコメントです。(平成24年9月20日付け)

 「幾何学的に三角関数の極限を扱うと、そこには曲線の長さの定義が前提されており」に
は賛成できないです。ラジアンを持ちだす時に曲線の長さが現れるのは確かですが、度数
法での三角関数では曲線の長さはまったく現れていないです。ラジアンを持ちだしても、単
純に、「π/xラジアン=180/x度」という定義なら、曲線の長さの定義を前提としなくても、扱
うことができると思います。

 また、「limx→∞ x・sin(180度/x)が発散せず、極限値を持つことが幾何学的には『明らか』
なのは曲線の長さの定義を、『既に認めている』からだと考えられます(多分)」にも私は賛
成できないです。ここで曲線の長さの定義がでしゃばる理由は無いと思います。

 例えば、高校の方法にならって(円の面積が有限値Sで存在することを前提としますが)

(1) 単位円で中心角(360度/x)の弦が張る面積=sin(180度/x)

(2) 単位円で中心角(360度/x)の扇形の面積=S/x

(3) 角A=(180度/x)、AB=1、Bが直角の三角形の面積*2=tan(180度/x)

 (2)≦(3)、(1)≦(2)を使えば、S・cos(180度/x)≦x・sin(180度/x)≦S を得るので、は
さみうちで極限(=S)が存在する、とするのはどうでしょうか。


 或る髷すとさんからのコメントです。(平成24年9月21日付け)

 ご検討ありがとうございます。この問題を考えることはとても有意義な時間です。後少し、
掘り下げてみます。

 度数法を用いれば、θを円弧の長さと解釈せずとも、つまり、曲線の長さの定義なしでも、
十分に幾何学的に扱えるというのは賛成です。単位円O上にて定義された、sin∠AOBは
弦ABの長さとして解釈でき、∠AOBは円弧の長さとは無関係に角AOBの「開き具合」を表
す量として解釈出来ます。しかし、 sinθ/θは、どういった幾何学意味を持つのか。θを円
弧の長さと解釈する場合は、弦と円弧の長さの比として解釈でき、円弧と弦は極限に向か
うと等しい長さに近づくと解釈出来ます。この場合は、直観的に明らかなこの性質に、実は
曲線の長さの定義が横たわっているということが前回の主張でした。
 では、θを長さではなく、角度として解釈する場合、sinθ/θはどういった意味を持つのか。
もちろん、ギリシャ数学ではありませんので、幾何学的な意味を与えず、実数の比として扱
うのも可能です。sinθ/θを幾何学的意味に解釈する場合、それが有限確定値を持つこと
は、曲線の長さの定義に支えられていますので、証明可能かつ、直観的にも理解できます。
しかし、実数sinθ/θが極限値を持つことは、やはり証明したくなるのです。実数の存在証
明に関わる議論ですが、数列、関数の極限は天下り的に定めず、証明すべきことのように
思えます。
 また、単位円の面積S=πですが、前提として、円の面積が有限値Sとして存在することを
要請して、挟み撃ちの原理で、極限値Sが存在するというのは循環のような(多分)。誤解
でしたら申し訳ないです。
 実数の公理、デーデキントの切断や区間縮小法の原理などは、完全に同値な内容であ
り、どれを公理とするかは、ある意味自由です。しかし、公理としてのふさわしさは、より多
くの命題を定理として証明できることにあると思うのです。


 空舟さんからのコメントです。(平成24年9月22日付け)

 円の面積は、S=∫-11 2√(1-x2)dx で、非積分関数は連続有界なので、この定積分は有
限値であるというのは曲線の長さ等とは関係ないので循環してないと思いました。


 或る髷すとさんからのコメントです。(平成24年9月22日付け)

 三角関数の極限が有限確定値を持つことは、円の面積が定積分により定義されることに
支えられていて、その極限値は「1」であると定義するということですね。そうすれば、循環論
法に陥らない。多分、私は議論の論点を把握していなかったのかもしれません。

 面積は積分で定義するのが普通です。曲線の長さも曲線上の分点を結ぶ折れ線の長さ
の和の上限で定義するのが良いでしょう。そこから、三角関数の極限、外接多角形の周囲
の長さの和が円周の長さよりも大きいこと、円周の長さが2πrであることなどが証明できる
ため、公理や定義はより多くの定理を収穫できる方が優れているという意味で、曲線の長
さの定義の導入にこだわったわけです。しかし、「円の求積」という主題のなかの循環論法
の輪を断ち切るということに関しては、空舟さんの議論、そのとおりであると思います。あり
がとうございました。アルキメデスが円の求積のために、曲線の長さの定義なしに、曲線と
線分の長さの比較の公理を提示したのと同様に、三角関数の極限を公理としても、円の求
積という目的の範囲内では十分であると考えるに至りました。


(追記) 平成25年3月6日付け

 平成25年度の大阪大学理系 前期入試で、次のような素朴な問題が出題された。

 三角関数の極限に関する公式

 

を示すことにより、sinx の導関数がcosx であることを証明せよ。



 教科書にあるような基本問題だが、一番受験生が苦手とする問題だと思われる。多分出
来はそれほどよくないだろう。

 文系 前期入試でも、xy平面において、点(x0,y0)と直線 ax+by+c=0 の距離の公式
を証明させる問題が出題された。教科書に書かれていることをしっかり学んできなさいという
大阪大学の意思表示と思われる。


(追記) 令和6年10月9日付け

 三角関数の極限に関する公式

 

を用いる問題は、大学入試でも頻出である。

 次の東北大学 理系(1982)の問題も基本的と言えるだろう。

問題3  k を正の定数とする。曲線 y=coskx と3直線

  x=−θ、x=0、x=θ (0<θ<2π/k)

との交点を通る円の中心をPとする。θが0に近づくとき、Pはどのような点に近づくか。

(解) P(0,t) とおける。Pと(0,1)との距離は、 1−t

 Pと(θ,coskθ)との距離は、 √(θ2+(coskθ−t)2

題意より、 θ2+(coskθ−t)2=(1−t)2 なので、

 t=(1+coskθ−θ2/(1−coskθ))/2

θ → 0 のとき、coskθ → 1

 θ2/(1−coskθ)=(kθ)2/sin2kθ・(1+coskθ)/k2 → 2/k2 なので、

 t → 1−1/k2

よって、点(0,1−1/k2)に近づく。  (終)



   以下、工事中