Well Defined                   戻る

 高校数学から大学数学へ進化していく過程で、「Well Defined」ということが、否応にも
意識され始める。私自身最初のころは、その本質を理解しないまま、見よう見まねでなんと
なく使っていた覚えがある。

 「ある概念の定義をする場合、そう決めることによって、何も矛盾なく上手くいく」ということ
が確認されているということを「Well Defined」という。今回、次の書籍:

  土基善文 著  XのX乗のはなし (日本評論社)

を読んでいたら、「Well Defined」の話があって、改めてその奥の深さを認識させられた。

 「Well Defined」という言葉に初めて接するのは、おそらく「位相空間論」の講義におい
てだろう。または、「群論」の講義かもしれない。

例  集合 S 上の同値関係を、R とする。

      直積集合 S×S の部分集合 R を関係といい、(x ,y)∈ R のとき、xRy と表す。
     関係 R が、次の3つの条件を満たすとき、同値関係という。
       (1) xRx                (反射律)
       (2) xRy ならば yRx       (対称律)
       (3) xRy 、yRz ならば xRz  (推移律)


 今、x の剰余類を Cx ={ y∈S|xRy } とし、商集合 S/R={Cx|x∈S } が定ま
る。 2つの集合 S、T に対して、写像 f :S → T を考える。

   x ,y∈S に対して、xRy のとき、f(x)=f(y)
 
が成り立つとき、 f は、同値関係 R に関して、Well Defined であるという。

 これは、商集合 S/R の各剰余類に対して、その代表元の選び方に関係なく、f(x) の値
が一定であることを意味する。

 このとき、写像 g : S/R → T が、 g(Cx)=f(x)  により、自然に定義される。

 すなわち、「Well Defined」とは、この対応が確かに写像といえることが確認されている
ということである。

この写像 g のことを、f より誘導された写像または自然な射影という。

例 2つの集合 X、Y と、その上の同値関係をそれぞれ R、S とおく。
  いま、写像 f :X → Y について、
             xRy  ならば、 f(x)Sf(y)
 が成り立つとする。

  このとき、ある写像 g : X/R → Y/S で、g・φ=ψ・f となるものが、ただ一つ存在する。

 ただし、φ : X → X/R  φ(x)=Cx 、ψ : Y→ Y/S  ψ(y)=Cy とする。

    実際に、Cx∈X/R に対して、φ(x)=Cx となる x ∈X をとり、

           g(Cx)=ψ(f(x))

   と定めればよい。この写像 g が求めるものである。


 まず、写像 g は、Well Defined である。即ち、g(Cx) の値は、代表元 x の選び方に
関係なく一意に定まる。

 なぜならば、φ(x1)=Cx 、φ(x2)=Cx のとき、 x1Rx2 なので、f(x1)Sf(x2)である。

よって、ψ(f(x1))=ψ(f(x2))が成り立つので、

    Cx=Cx1=Cx2 のとき、 g(Cx1)=g(Cx2

であることがいえる。ゆえに、写像 g は、Well Defined である。

 また、上記の性質を持つ写像が、2つ(g1、g2)あったとする。

任意の Cx に対して、φ(x)=Cx となる x ∈X をとるとき、

   g1(Cx)=g1(φ(x))=g1・φ(x)=ψ・f (x)

   g2(Cx)=g2(φ(x))=g2・φ(x)=ψ・f (x)

よって、  g1(Cx)=g2(Cx) より、 g1 = g2

したがって、条件を満たす写像は存在して、しかもただ一つに定まる。   

例  a > 0 とする。有理数 (n>0)に対して、a の有理数乗は、
             
  と定義される。 
   これもまた、Well Defined である。すなわち、
       のとき、
  が成り立つ。

 普通、上記のことは高校数学では確認されない。しかし、分数には約分ということがあり、
分数の表し方によらずに値が一つに定まるということを示さなければいけないのは当然の
ことである。

  まず、    より、 mt=ns が成り立つ。このとき、
      、  
 よって、 mt=ns により、
        
 正の数の nt 乗根は、ただ一つしかないので、
        
 となる。

(コメント) 初めて「Well Defined」に接したときは、「当たり前のことを、何でそんなに仰
      々しく述べるの?」という感じだったが、その真意が分かるにつれ、重要性も理解
      され当たり前のように「Well Defined」を確認している自分に気がつく。端から
      は、きっと、私が当初感じたように見られているのでしょうね?


(参考文献:横田一郎 著 群論入門 (現代数学社)
        土基善文 著  XのX乗のはなし (日本評論社))