ベクトルの効用                                 戻る

 無理関数の最小値の計算に、ベクトルにおける三角不等式が活躍することを最近知るこ
とができた。ただ、残念なのは、高等学校でベクトルの三角不等式をじっくり学ぶことは少
なく、多分、受験問題集を紐解いて、その種の話題に直面する機会がある生徒のみである
ことである。本当はもっと多くの人に、三角不等式の偉大な効能を経験するのみということ
である。

問 題 無理関数 F(x)=√(x2+2)+√(x2−2x+2) (0≦x≦1)の最小値およ
    びそのときのxの値を求めよ。


 おそらく多くの受験生は、問題を見た途端に、微分の問題ととらえ、次のような計算を行う
ことだろう。

(解) F’(x)=x/√(x2+2)+(x−1)/√(x2−2x+2)
        ={x√(x2−2x+2)+(x−1)√(x2+2)}/√(x2+2)√(x2−2x+2)

 そこで、F’(x)=0 とおくと、  x√(x2−2x+2)+(x−1)√(x2+2)=0

 x√(x2−2x+2)=−(x−1)√(x2+2) の両辺を2乗して、

 x2(x2−2x+2)=(x−1)2(x2+2) より、x4−2x3+2x2=x4−2x3+3x2−4x+2

すなわち、 x2−4x+2=0 となり、0≦x≦1 に注意して、 x=2−

この前後で、 F’(x)の符号が負から正に変わるので、極小かつ最小である。

最小値は、  F(2−)=√(8−4)+√(4−2

                =2√(2−)+√(2−)=(2+)√(2−

このとき、 F2(2−)=2(2+)=4+2 より、 最小値は、 √(4+2


 上記の計算で分かるように、計算がとても煩雑である。これをベクトルを用いて、スッキリ
鮮やかに解かれるのをみると、感動すら覚えてくる。


(裏技) F(x)=√(x2+2)+√(x2−2x+2)

         =√(x2+2)+√{(x−1)2+1}=√(x2+2)+√{(1−x)2+1}

    ここで、ベクトル =(x,)、=(1−x,1) とおくと、三角方程式より、

     F(x)=||+||≧|

    =(1,+1) より、 ||=√(4+2

    よって、 等号が成立するとき、F(x)の値は、最小となる。

    ところで、等号成立は、ベクトルが同じ向きに平行であるとき、すなわち、

    =k が成り立つときである。

    したがって、 x=k(1−x) 、 =k より、 x=(1−x) なので、

    (+1)x= より、 x=/(+1)=2−  (終)


(コメント) 微分による方法では、ただ闇雲に計算した感がありますが、ベクトルを用いると、
      最小になる場面が明瞭に伝わってきますね!


(参考文献: 岡本雅史 著 ベクトルの三角不等式の活用 (数研通信 No.76))


 S(H)さんからのコメントです。(平成25年6月13日付け)

 6月13日の朝、上記に遭遇。私は、裏技を持ち合わせていないので模倣し、無理関数の
最小値の問題、例えば、

   G(x)=√(x2+25)+√(x2−20x+109)

で挫折してしまいました。挫折しない人はベクトルを用いてあのように解いて下さい。

  (コメント) ベクトルを用いて解いてみました。

    G(x)=√(x2+25)+√(x2−20x+109)
        =√(x2+25)+√{(x−10)2+9}=√(x2+25)+√{(10−x)2+9}

    ここで、ベクトル =(x,5)、=(10−x,3) とおくと、三角方程式より、

      F(x)=||+||≧|
      =(10,8) より、 ||=2√41

    よって、 等号が成立するとき、F(x)の値は、最小となる。

     ところで、等号成立は、ベクトルが同じ向きに平行であるとき、すなわち、
    =k が成り立つときである。

    したがって、 x=k(10−x)、5=3k より、x=25/4  (終)


 G(x)=√{9+(x-10)2}+√(25+x2) を視た途端、高木貞治 著 「解析概論」 68p-69p
の事例:A=(0,5)、B=(10,3)、c1=c2=1 の場合で、何処で最小となるかは明らか。
(→ 「第24話 スネルの法則と最速降下線と計算地獄と」)

 高校生のように微分して最小となる処 (x0,0) を求めれば、いとも簡単に裏技を使わずと
もゲット叶うでしょう。

  min{sqrt(9+(-10+x)2)+sqrt(25+x2)} = 2sqrt(41) at x = 25/4 だと。

 これ以外にも、この問題を解く「正攻法」は数多在ります。