1点代入法
「数学U」で学ぶ図形と方程式の項目の中に「領域」の計算がある。これは、ある意味で
「お絵描きの時間」で、難解な数式とその計算が怒濤のように押し寄せる中で一種のオア
シス的存在になっている。
そうは言ってみたものの、「領域」は、算数以来「数と式分野」「図形分野」と別個に学ん
できたものが融合する一つのターニングポイント的意味合いも併せ持つ。
正方形とか三角形、円、・・・ などが、ここでは数式として語られ、この学習以降、生徒
達の図形に対する取り扱いが飛躍的に進歩する。
単に「お絵描きの時間」で終わってはいけない重要な側面があるのである。また、領域
の概念は、命題の真理集合の表現にも活用され、数学の論理に深く関わってくる重要な
分野と言える。
この大事な「領域」の学習で、「1点代入法」という方法があるが、この方法は、教科書
で触れられることはない。しかし、おそらく多くの受験校では、当然指導されているはずの
方法だろう。
「1点代入法」で検索ソフトに問いかけてみても、ヒット件数は、0 である。方法は、よく知
られているが、あまり認知されていない私だけの命名かもしれない...。
1点代入法
平面において、閉じられた曲線(放物線、双曲線も含む) F( x , y )=0
が与えら
れているとする。
ある1点 ( x0 , y0 ) で、 F( x0, y0 )<0 を満たすとき、
( x0, y0 ) と連続で、かつ、 F( x , y )=0 と交わらない曲線で結ばれる点
( x , y ) は、 F( x , y )<0 を満たす。
(略証) もし、 F( x , y )>0 と仮定すると、F( x , y )が連続であることにより、
F( x1 , y1 )=0 となる点 ( x1 , y1 ) が存在する。すなわち、点 ( x1 , y1 ) が
曲線上の点であることから、仮定に矛盾する。よって、 F( x ,
y )<0 (証終)
例 不等式 y > x+1 が表す領域は、直線 y = x+1 の上側である。
この問題に、1点代入法を適用してみよう。
F( x , y ) = y−x−1 とおく。
F( x , y )>0 となる点を見つければよい。
試しに、 F( 0 , 2 ) = 2−0−1 = 1 >0
よって、点( 0 , 2 )を含む領域が求める領域であ
る。(左図)
例 不等式 x < 1 が表す領域は、直線 x = 1 の左側である。
この問題に、1点代入法を適用してみよう。
F( x , y ) = x−1 とおく。
F( x , y )<0 となる点を見つければよい。
試しに、 F( 0 , 2 ) = 0−1 = −1 <0
よって、点( 0 , 2 )を含む領域が求める領域であ
る。(左図)
例 不等式 x2+y2 > 1 が表す領域は、円 x2+y2 = 1 の外部である。
この問題に、1点代入法を適用してみよう。
F( x , y ) = x2+y2−1 とおく。
F( x , y )>0 となる点を見つければよい。
試しに、 F( 0 , 2 ) = 0+4−1 = 3 >0
よって、点( 0 , 2 )を含む領域が求める領域であ
る。(左図)
このように、
境界線 y = F(x) の 上側 、 下側
境界線 x = a の 右側 、 左側
境界線 x2+y2 = r2 の 内部 、 外部
という領域の計算が、単なる多項式の符号の計算に統一される。
また、1点代入法を用いると、平面上の点の位置関係の把握にも有効である。
例 平面上において、直線 x+2y−4=0 に関して、2点 A( −2 ,
2 )、B( 3 , −2 )
は同じ側にある点であることを示せ。
(解) F( x , y ) = x+2y−4 とおくと、
F( −2 , 2 ) = −2+4−4 = −2 < 0
F( 3 , −2 ) = 3−4−4 = −5 < 0
なので、
2点A( −2 , 2 )、B( 3 , −2 )は、直線に関して同じ側にある点である。 (終)
図示すると、下図のようである。
この考え方は、次のような問題に応用される。
例 直線 x+2y−4=0 上を動く点 P がある。平面上において、2点 A(
−2 , 2 )、
B( 3 , −2 ) とする。このとき、 AP+BP が最小となる点 P
の座標を求めよ。
(解) 2点A( −2 , 2 )、B( 3 , −2 )は、直線に関して同じ側にある点にあるので、
直線に関する点 B の対称点 C を求めると、直線 AC と直線 x+2y−4=0 の
交点 D が求める点となる。
直線 BC の方程式は y=2x−8 なので、点 H の座標は、(
4 , 0 )となる。
線分BCの中点がHとなるので、点 C の座標は、( 5 , 2 )となる。
したがって、求める点 D の座標は、( 0 , 2 )となる。 (終)
1点代入法は、領域が複雑であればあるほど、その効果は絶大である。
F( x , y )>0 となる点( x , y )の集合は、正領域
F( x , y )<0 となる点( x , y )の集合は、負領域
と言われる。
F( x , y )が連続である限り、境界線を越えるごとに正領域と負領域は交互に出現する。
したがって、どこか一部分の領域の符号が分かれば、後は芋づる式にすべての領域の符
号が分かる。
例 次の領域を、不等式を用いて表せ。
この問題を教科書的な解答で考えると、おそらく多くの方は収拾がつかない解答に苛立
ちを覚えるに違いない。
こういうタイプの問題こそ、1点代入法の独壇場だろう。
(解) 境界線は、次の4種類である。
x=0 、 y=0 、 x2+y2=4 、 y=x2
そこで、多項式 F( x , y ) = xy(x2+y2−4)(y−x2) において、
領域内の点( −1 , −1 )における符号を調べる。
F( −1 , −1 ) = (−1)(−1)(1+1−4)(−1−1)
= 4 > 0
なので、求める不等式は、 xy(x2+y2−4)(y−x2)>0 となる。 (終)
以下、工事中