曲線群の通過範囲
例えば、方程式 y=2x+1 は、y 切片が 1 で傾き 2 の直線を表す。座標平面上では、
ただ1つの直線が描かれる。
これに対して、方程式 y=2mx+m において、定数 m が、0<m<2 の範囲の値
をとるとき、方程式は無数の直線群を表す。この場合に、その直線群の通り得る範囲を求
めることは、入試問題の頻出分野であると同時に大変興味ある問題といえよう。
グラフ描画ソフトを用いて、左図のような範囲
となる。
通常、計算では次のようにして示すのだろう。
y=m(2x+1) より、直線群は、
定点 ( −1/2 , 0 )
を通過する。0<m<2 より、傾き 2m は、
0<2m<4 なので、左図を得る。
定点通過のテクニックは、m の 1 次式の時は有効だが、2次以上になると無力だ。
例 方程式 y=2mx+m2 において、実数 m の値が変化するとき、その直線群は、y
軸を軸とする、ある放物線に常に接しているという。この放物線の方程式を求めよ。
(解) 与式を、m に関する2次方程式 : m2+2mx−y=0 と考えて、実数解を持つ条
件を調べる。判別式を D とおくと、 D/4=x2+y≧0 より、 y ≧−x2
このとき、求める2次関数は、 y =−x2 である。
実際に、 y=2mx+m2 と連立して、 x2+2mx+m2=0
よって、 D/4=m2−m2=0 から、
直線群は常に放物線 y =−x2 に接している。 (終)
(コメント) この問題で、放物線を直接的に求めることは少し大変だろう。
参考までに、直線群の通過範囲は下図となる。
m の2次式で、m が全ての実数全体を動くときは、判別式を用いて解決される。
ところが、入試問題では m に制限を付けたり種々の規制のもとに解くことを要求される。
例 方程式 y=2mx+m において、定数 m が、0<m<2 の範囲の値をとるとき、直
線群の通り得る範囲を別な方法で求めてみよう。
x を定数とし、m の関数 F(m)=2mx+m を考え、y=F(m) (0<m<2) から、
y の値域を求めようとする方法である。
この方法の優れている点は、m の2次式に限らず、任意の場合に対応出来るところで
ある。
早速、解法を考察していこう。
F(m)=(2x+1)m (0<m<2) なので、
(イ) 2x+1>0 のとき、 y=F(m) は単調増加で、 F(0)<y<F(2)
すなわち、 x>−1/2 のとき、 0<y<4x+2
(ロ) 2x+1=0 のとき、 y=F(m)=0 で、 x=−1/2 のとき、 y=0
(ハ) 2x+1<0 のとき、 y=F(m) は単調減少で、 F(2)<y<F(0)
すなわち、 x<−1/2 のとき、 4x+2<y<0
以上から、求める範囲は、
上記の範囲に、点( −1/2 ,0 )は含まれるが、境界線上の点は含まれない。
この解法の威力は、上記の問題ではあまり認識されないかもしれないが、次の問題では、
その有難味が痛いほど分かるであろう。
例 方程式 y=2mx+m2 において、定数 m が、0<m<2 の範囲の値をとるとき、直
線群の通り得る範囲を求めてみよう。
x を定数とし、m の関数 F(m)=2mx+m2 を考え、y=F(m) (0<m<2) から、
まず、y の値域を求める。
F(m)=m2+2mx=(m+x)2−x2 (0<m<2) なので、
(イ) −x≦0 すなわち、x≧0 のとき、 0<m<2 で y=F(m)
は単調増加なので、
F(0)<y<F(2) すなわち、 0<y<4x+4
(ロ) 0<−x≦1 すなわち、 −1≦x<0 のとき、 m=−x で最小で、
F(−x)≦y<F(2) すなわち、 −x2≦y<4x+4
(ハ) 1<−x<2 すなわち、 −2<x<−1 のとき、 m=−x
で最小で、
F(−x)<y<F(0) すなわち、 −x2≦y<0
(ニ) −x≧2 すなわち、x≦−2 のとき、 0<m<2 で y=F(m)
は単調減少なので、
F(2)<y<F(0) すなわち、 4x+4<y<0
以上から、求める範囲は、
上記の範囲に、放物線 y=−x2 (−2<x<0)上の点は含まれるが、それ以外の
境界線上の点は含まれない。
上記では、y=2mx+m2 を m の関数として、その値域に注目したが、m の方程式と
見て、その解の存在に注目する次のような別解も考えられる。
ただ、上記の解法を知った後では煩雑に思えることだろう。
(別解) G(m)=m2+2mx−y=0 が、0<m<2 で少なくとも一つ解がある条件を求め
ればよい。 G(m)=m2+2mx−y=(m+x)2−y−x2 より、軸の式は、m=−x
よって、 −x≦0 すなわち、x≧0 のとき、条件を満たすためには、
G(0)・G(2)<0 すなわち、 −y・(4+4x−y)<0
ゆえに、 y・(y−4x−4)<0
0<−x≦1 すなわち、 −1≦x<0 のとき、条件を満たすためには、
判別式 D/4=x2+y≧0 で、G(2)=4+4x−y>0
ゆえに、 −x2≦y<4x+4
1<−x<2 すなわち、 −2<x<−1 のとき、条件を満たすためには、
判別式 D/4=x2+y≧0 で、G(0)=−y>0
ゆえに、 −x2≦y<0
−x≧2 すなわち、x≦−2 のとき、条件を満たすためには、
G(0)・G(2)<0 すなわち、 −y・(4+4x−y)<0
ゆえに、 y・(y−4x−4)<0
以上から、求める範囲は、
上記の範囲に、放物線 y=−x2 (−2<x<0)上の点は含まれるが、それ以外の
境界線上の点は含まれない。
さらに、次のような別解も考えられる。
これは、冒頭の例で示した「直線群 y=2mx+m2 は、放物線 y=−x2 に常に接
している」という性質を利用するものである。
(別解) 直線 y=2mx+m2 と放物線 y=−x2 は、接点P(−m,−m2)で接する。
0<m<2 より、接点Pは、放物線 y=−x2 上を、−2<x<0 の範囲で動く。
よって、下図を得る。
上記の範囲に、放物線 y=−x2 (−2<x<0)上の点は含まれるが、それ以外の
境界線上の点は含まれない。
(コメント) この別解は感動的に美しい!...ですね。でも、これを答案に書いたら、多分
採点者によって点をあげるべきかどうか意見がわかれそうな...予感。
さらに、m の次数をあげてみよう。
例 方程式 y=2mx+m3 において、定数 m が、0<m<2 の範囲の値をとるとき、直
線群の通り得る範囲を求めてみよう。
まずは、グラフ描画ソフトを用いて見当をつけよう。
x を定数とし、m の関数 F(m)=2mx+m3 を考え、y=F(m) (0<m<2) から、
まず、y の値域を求める。
F(m)=m3+2mx より、 F’(m)=3m2+2x
(イ) x≧0 のとき、 F’(m)≧0 より、 y=F(m) は単調増加なので、
F(0)<y<F(2) すなわち、 0<y<4x+8
(ロ) x<0 とする。
において、 のとき、 x=−2
また、
とおき、 α=2 のときは、 x=−6
そこで、
(@) −2≦x<0 のとき、 F(α)≦y<F(2) すなわち、−2α3≦y<4x+8
(A) −6<x<−2 のとき、 F(α)≦y<0 すなわち、−2α3≦y<0
(B) x≦−6 のとき、 F(2)<y<F(0) すなわち、 4x+8<y<0
となる。これを図示すれば下図を得る。
上記の範囲に、曲線 y=−2α3 (−6<x<0)上の点は含まれるが、それ以外の
境界線上の点は含まれない。