固有ベクトルを求める                           戻る

 行列の対角化とか、Jordanの標準形、2次曲線(曲面)の分類など、固有値、固有ベクトル
の活躍する場は数多い。このページでは、簡単に固有ベクトルを求める裏技を紹介したい。

定義
  実数体上の線形空間をVとする。VからVへの線形変換を表す行列Aに対して、
    A=k (xは0以外)となるの要素kを、Aの固有値、Vの要素をkに属するAの
  固有ベクトルという。

  に対して、固有方程式 det(A−kE)=0 を解くと、k=1、5
このとき、(A−E)(A−5E)= =0   (但し、Eは単位行列)

    (A−E)(A−5E)=(A−E)(u v)   (ただし、v は、A−5E の列ベクトル)

  右辺を計算して、 (A−E)(A−5E)=(A−E)( v)=((A−E) (A−E))= 0

  なので、 (A−E)=0 となり、 A−5E の列ベクトル が、固有値 1 に属する
  固有ベクトルになることが分かる。固有値 5 に属する固有ベクトルの求め方も同様。

したがって、、k=1に属する固有ベクトル(の一つ)は、
         k=5に属する固有ベクトル(の一つ)は、

(注意) 固有ベクトルを求める正統的な方法は、不定な連立方程式を解かなければならな
    い。たとえば、上記の例では、k=1のとき、連立方程式
      2x+3y=x , x+4y=y   の解は、x+3y=0 を満たす全てのx,y となる。
    このことから、固有ベクトルが求められる。k=5のときも、同様。

 正統的な解法に比べて、裏技の解法は、単に行列の成分計算に帰着されているので、容
易に、固有ベクトルが求められることに驚かされる。

(参考文献:宮原 繁 著 漸化式 (科学新興社モノグラフ))

(追記) 山梨県在住のKさんという方からメールで質問を頂いた。

    上記の裏技は、行列が3次や4次、・・・の場合も使えるのでしょうか?

  もう随分昔に学んだ線形代数学の知識しかないので、確定的なことをいうだけの自信は
 ありませんが、多分、同様に裏技が使えるはずです。

  その根拠として、

 (1) 任意の n 次の正方行列 A に対して、適当な正則行列 P を選ぶことにより、
    P-1APを上三角行列に変形することができる。
    このとき、対角成分は、Aの固有値である。

 (2) 行列 A の固有多項式 F(X)=det(XE−A)  (Eは単位行列) に対して、
    F(A)=O  (O は零行列) が成り立つ。(Hamilton−Cayley の定理)

 があげられる。 (1)(2)より、行列 A の固有値を α、β、・・・、γ とすれば、

     (A−αE)(A−βE)・・・・・・(A−γE)=O

 が成り立つ。

 いくつか具体例を通して、固有値と固有ベクトルを裏技で求めてみよう。
裏技で得られたものが、本当に題意に適するかどうかは、読者の検証にまかせようと思う。

例  次の行列 A の固有値と固有ベクトルを求めよ。

         

   det(A−λE)=−λ(λ−1)(λ−2)=0 より、固有値は、 0 ,1 ,2 の3個。

  このとき、 A(A−E)(A−2E)=O が成り立ち、

     

   したがって、上記行列の列ベクトルに注目すれば、

  固有値 0 に属する固有ベクトル(の一つ)は、 ( 1 , 2 ,−2 ) である。

  同様にして、

  固有値 1 に属する固有ベクトル(の一つ)は、 ( 1 , 2 ,−1 ) である。

  固有値 2 に属する固有ベクトル(の一つ)は、 ( 0 , 1 ,−1 ) である。

例  次の行列 A の固有値と固有ベクトルを求めよ。

         

   det(A−λE)=(λ−3)(λ2−λ+1)=0 より、

  固有値は、 3 ,α ,β の3個。 

  ただし、α=(1+i)/2 、β=(1−i)/2 である。  ( i は虚数単位)

  このとき、 (A−3E)(A−αE)(A−βE)=(A−3E)(A2−A+E)=O が成り立ち、

     

   したがって、上記行列の列ベクトルに注目すれば、

  固有値 3 に属する固有ベクトル(の一つ)は、 ( −1 , 4 ,2 ) である。

  同様にして、

  (A−αE)(A−3E)(A−βE)=(A−αE)(A2−(β+3)A+3βE)=O が成り立ち、

    

   したがって、上記行列の列ベクトルに注目すれば、

  固有値 α に属する固有ベクトル(の一つ)は、

             ( 2 , −4+2i ,1−i )

である。同様にして、固有値 β に属する固有ベクトル(の一つ)は、

             ( 2 , −4−2i ,1+i )

である。

 上記で述べたことが、Kさんの質問の趣旨に合致していることを祈って筆をおく。


(追記) 平成26年6月24日付け

 この頁の冒頭で、固有ベクトルを簡便に求める方法を紹介したが、行列の対角化を用いて、
いろいろな応用に活用できることを次の書籍で学んだ。

 橋口 正 著 「行列の対角化の『簡便法』とその応用について」
                                  (数研通信 No.78 (数研出版))

 それによると、行列 
             

の固有値を、α、β(ただし、α、βは0でない相異なる実数)とすれば、

  

と置くことにより、 P-1AP=  と、行列Aを対角化することができる。

 すなわち、固有値α、βのそれぞれに属する固有ベクトルを とすると、

  P=( )  (a−α c) 、 (b d−β) (t は転置行列を表す)

と書けることを意味する。

  に対して、固有方程式 det(A−kE)=0 を解くと、k=1、5

 このとき、上記の公式によれば、

 固有値5に属する固有ベクトルは、(2−1 1)=(1 1)
 固有値1に属する固有ベクトルは、(3 4−5)=(3 −1)

であることが分かる。

 証明は、冒頭で述べたことから明らかだろう。ここで、Pは次の豊かな性質を持つ。

 2=−(detP)E (Eは単位行列) なので、 P-1AP=PAP-1 が成り立ち、

  PA

(証明) α、βは固有方程式 x2−(a+d)x+ad−bc=0 の解なので、解と係数の関係
    より、
        α+β=a+d 、 αβ=ad−bc

 よって、 Tr(P)=a−α+d−β=0 なので、ハミルトン・ケーリーの定理より、

   P2−Tr(P)P+det(P)E=0 すなわち、 P2+det(P)E=0

 したがって、 P2=−det(P)E が成り立つ。このとき、 P-1=−(1/det(P))P である。

 よって、 P-1AP=−(1/det(P))PA・(−det(P))P-1=PAP-1 が成り立つ。

 このとき、 PA  となる。  (証終)

 上記の公式が、いろいろな応用の基本となる。

例 連立型の漸化式

  x1=2 、y1=1 、xn+1=2x+3y 、yn+1=x+4y (n=1、2、・・・)

について、通常は、行列の対角化からの行列のn乗計算で求めるのが定石であろう。

 上記の公式を用いると、やや気が重い行列のn乗計算をしなくとも軽妙に一般項が求めら
れる。

(解答例) 係数行列    を用いて、漸化式は、Xn+1=AX  X(x y

 このとき、P=( )  (1 1)、(3 −1) により、

  PA P より、PXn+1 PX

が成り立つので、 xn+1+3yn+1=5(x+3y) 、xn+1−yn+1=x−y ・・・ (*) が直ちに

得られる。これより、 x+3y=5n-1(x1+3y1)=5 、x−y=x1−y1=1 なので、

  x=(5+3)/4 、 y=(5−1)/4


(コメント) この公式を用いると、要の関係式(*)が暗算で求められますね!感動しました。



  以下、工事中!