巴戦の数理                        戻る

巴戦   大相撲千秋楽で同点決勝になった場合、よく行われる試合
 形式が「巴戦」である。必ず決着をつけようという日本独特の
 文化の賜物であろう。

  サッカーJリーグでも、欧州にはない独自の「延長Vゴール方
 式」というものを編み出したし、甲子園の高校野球でも、延長
 18回で決着がつかなければ翌日再試合という、高校生にとっ
 て体力的に厳しいシステムになっている。

  私たちの記憶に残る名場面も、なぜかそういう規定外でのも
 のが多い。日本の文化にどっぷり浸かっている証しでもある。

  その点、ラグビーは、ノーサイドとともに、同点優勝がありうる。
 正規の試合の中で、決着がつかなければ、両者優勝という考え
 方は、清々しい。

 Jリーグでは来季から延長Vゴール方式がなくなるようだ。高校野球でも、将来の大器を潰
さないためにも、9回までの勝負に徹するべきだと思う。

 このページでは、「巴戦」の数理について調べ、その不平等さを記録として残しておきたい。

 3人 A、B、C による勝ち抜き戦(巴戦)は、上図のような対戦方式により行われる。初めて
2連勝する人が出現するまで、上記の対戦は続く。

 A、B、C の実力は互角とする。このとき、それぞれの優勝する確率は、実は等しくない。実
力が互角であっても、最初に対戦する2人(AとB)の方が優勝する確率は高い。これは、注目
すべき事実である。

 従って、Cに入った人は、多少不利であることを自覚しなければならない。このような不平等
な試合形式で優勝者を決めるというやり方は、是非、止めた方がよい。

 A、B、C の優勝する確率を、それぞれ P(A)、P(B)、P(C) とおく。対戦方式の特性から、

          P(A)=P(B) で、P(C)=1− P(A)−P(B)

最初の対戦で A が勝つ事象を、a とすると、

          P(A)=P(a)Pa(A)+P(a)Pa(A)=(1/2)Pa(A)+(1/2)Pa(A)

である。ただし、a は a の余事象とする。

優勝が決まるまでは毎回、対戦終了後、3人は次の3つのタイプのいずれかに分類される。

      X : 直前回の対戦で勝った人
      Y : 直前回の対戦で負けた人
      Z : 直前回の対戦で控えだった人

 今、X、Y、Zの人が優勝する事象を、それぞれ E、F、G とする。

毎回 X と Z が対戦する。X が勝つ事象を、x とする。このとき、

          P(E)=P(x)Px(E)+P(x)Px(E)=(1/2)Px(E)+(1/2)Px(E)
          P(F)=P(x)Px(F)+P(x)Px(F)=(1/2)Px(F)+(1/2)Px(F)
          P(G)=P(x)Px(G)+P(x)Px(G)=(1/2)Px(G)+(1/2)Px(G)

 ここで、Xは直前回の対戦で勝っているので、Px(E)=1、Px(F)=Px(G)=0 が成り立つ。

 他方、Xが負けたという場合(事象としては、x)において、XはYに、YはZに、ZはXに立場
が変わるので、
          Px(E)=P(F)、 Px(F)=P(G)、 Px(G)=P(E)

が成り立つ。これらを、上記の3式に代入して、

          P(E)=(1/2)+(1/2)P(F)
          P(F)=(1/2)P(G)
          P(G)=(1/2)P(E)

     よって、P(E)=4/7、P(F)=1/7、P(G)=2/7 となる。

ところで、E、F の定義から、明らかに、Pa(A)=P(E)、Pa(A)=P(F) が成り立つので、

          P(A)=(1/2)P(E)+(1/2)P(F)=5/14

 同様にして、 P(B)=5/14、 P(C)=4/14  が成り立つ。

   (別解) 今、機会があって上記解答を眺めていると、その煩雑さに気が滅入る。決して
       難しいことを述べてはいないが、一般の方向けとはいい難い。次のように解答を
       整理してみた。

       A、B、C の3人のうちの2人甲と乙が対戦し、甲が勝ったときに乙が優勝する
      確率をPとおく。まず、Aが優勝する確率は、

        BとCに勝つとき ・・・・・ 1/2×1/2=1/4
        Bに勝ってCに負けるとき ・・・・・ 1/2×1/2×P=P/4
        Bに負けるとき ・・・・・ 1/2×P=P/2

      より、 1/4+P/4+P/2=1/4+3P/4

      Bが優勝する確率は、Aと同じで、1/4+3P/4

      Cが優勝する確率は、

        AとBに勝つとき ・・・・・ 1/2×1/2=1/4
        AとBのどちらかに勝って、他方に負けるとき ・・・・・ 1/2×1/2×P=P/4

      より、 1/4+P/4

     したがって、(1/4+3P/4)+(1/4+3P/4)+(1/4+P/4)=1 より、
    7P/4=1/4 すなわち、P=1/7

    これから A、B、C が優勝する確率は、それぞれ 5/14、5/14、4/14 となる。
                                             (別解証明 終)


(追記) 平成29年9月1日付け

 直接的に次のようにも計算できる。

  P(A)=(1/22+1/25+・・・)+(1/24+1/27+・・・)=5/14

同様に、P(B)=5/14 なので、P(C)=4/14

 このように巴戦の場合、最初に取り組む2人が他の一人よりも絶対的に有利である。

 A、B、Cの強さが同じと仮定するとき、優勝が決まるまでの取組数の期待値は、

2取組で優勝が決まる確率 1/22+1/22=1/2

3取組で優勝が決まる確率 1/23+1/23=1/4

4取組で優勝が決まる確率 1/24+1/24=1/8

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

なので、 S=2×(1/2)+3×(1/4)+4×(1/8)+・・・・ とおくと、

 2S=2+3×(1/2)+4×(1/4)+・・・・ より、

 S=2+(1/2)+(1/4)+・・・・=2+(1/2)/(1−1/2)=3

 無限に取組が続きそうであるが、取組数の期待値は意外に小さく、3回である。

 初めの取組でAがBに勝ったとすると、A、B、Cの優勝する確率は、それぞれ

  4/7、1/7、2/7

となる。


 私の記憶するところによれば、この「巴戦」を題材に出題された大学入試問題は、昭和61
年度入試の神戸大学(理系)が最初ではないだろうか。次のような問題であった。

 A、B、C の3人で勝ち抜き戦を行う。3人の戦力は同等である。第1回戦で、AとBが対戦
し、その勝者が第2回戦でCと対戦する。もし、Cが負ければ、AかBが連勝したことになり、
優勝が決まるものとする。もし、Cが勝てば、第1回戦の敗者が第3回戦でCと対戦する。以
下これを繰り返し、誰かが2連勝したところで優勝が決まるものとする。このとき、次の各問
に答えよ。
(1)第1回戦でBが勝ち、第2回戦でCが勝ち、第3回戦ではAが勝った場合を、BCA のよう
  に表すことにする。このような表し方で、第1回戦から第7回戦までにAが優勝する場合を
  全て書け。
(2)第n回線までに優勝が決まらない確率を求めよ。
(3)第n回線までに、Cが優勝する確率を P とするとき、lim P の値を求めよ。

 問題の難易度レベルとしては、標準程度である。
答は、(1) AA、ACBAA、BCAA、BCABCAA の4通り
    (2) (1/2)n−1
    (3) P3k=P3k+1=P3k+2=(2/7)(1−(1/8)) より、lim P=2/7
実際の計算は、読者のための練習問題として残しておこう。

(参考文献:玉置光司 著 基本確率(牧野書店))


 この話題の関連として、当HPがいつもお世話になっているHN「GAI」さんから、「七人の侍
と選抜野球大会」と題して、ご投稿いただいた。(平成28年1月9日付け)

 七人の侍が最強を決めるため、剣道によるリーグ戦を実施した。実力伯仲のため、特定
の3人では三つ巴状態(三竦み)が起こったりもした。すべての試合では引き分けはないも
のとして、73=35(組)中、三竦みは最大いくつ起き得るか?

 また、甲子園での選抜高等学校野球大会(参加校32校)を、トーナメントからリーグ戦に
て戦った場合、引き分けが起こらないとして、323=4960(組)中、三竦みが最大いくつ起
き得るか?


らすかるさんからのコメントです。(平成28年1月10日付け)

 適当にプログラムを作って調べただけですが、「A006918」のようですね。つまり、7人なら、
最大35組中14組、32校なら、最大4960組中1360組。


 GAI さんからのコメントです。(平成28年1月10日付け)

 一般に、n人が参加するリーグ戦では「三竦み」が起こり得る最大数a(n)は、

 nが奇数のとき、 a(n)=(n-1)*n*(n+1)/24

 nが偶数のとき、 a(n)=(n-2)*n*(n+2)/24

と、微妙に奇数と偶数では異なることになるんですね。適当にプログラムを組めば、この数列
を導けるとは羨ましいです。

 私は手作業で6人の場合まで三竦みを拾い上げ(約半日を要す。)やっとこのものに辿り着
きました。しかし、Sloane氏の整数列大辞典には、どんなタイプの問題の解答も載せてあるも
のです。(いい仕事してますね。)


(コメント) 4人が参加するリーグ戦では「三竦み」が起こり得る最大数a(n)は、公式によれ
      ば、 a(4)=(4-2)*4*(4+2)/24=2 となるんですね。
       Bruno Berselli(2011)さんの結果を参考に、GAI さんの2つの場合を一つにま
      とめると、 a(n)=n(2(n-2)(n+2)-3(-1)n+3)/48 となるようです。


 at さんからのコメントです。(平成28年6月17日付け)

 興味深い問題ですね。この「七人の侍と選抜野球大会」問題は、2004年 ポーランド数学オ
リンピックのファイナルラウンドでも出題された問題のようです。参考までに。